「折本──」さて、この後に続く言葉は──   作:時間の無駄使い

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 * * *

 

 

 

「あ、来た!おーい!お兄ちゃーん!」

 

「何故だ……」

 

 俺の心休まる休息所・ベストプレイスには我が愛する妹である小町が既にいた。

 

 そしてもう一人。

 

「先輩来ましたか?……もう、遅いですよ」

 

 

 俺の後輩で劣化版タイプ別小町な一色いろはまでもが、この日、この場所にいた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

「何故だ……」

 

 本日二回目のこの言葉。

 

 しかしそれを言ったのには理由があった。

 

『何?今そっちそんな事になってるの?』

 

「お前のお陰でな……」

 

 電話の相手は折本。……この状況が出来上がるのに一役買ってしまった関係者の一人だったらしい。

 

 大元の原因は一色で、こいつが俺の現状を知りたい、と思ったのが始まりだとか。

 

 そこから、まず津久井に聞き俺と話せる場所を聞き出そうとして失敗。小町へ助けを求めに行き、その小町のアドバイスで折本に連絡を掛け、現在に至るんだそうだ。

 

 

 …確かに小町にはここの事は言ってなかったし、折本とは何度か話したけど、小町に話さなかったのは機会が無かったというより俺みたいな残念な兄がいる事を周りに知らせない為であって、現状の様に集まってしまっては意味がないのだった。

 

『いいなぁ、一色ちゃん』

 

「羨んでねぇでどうにかしてくれ……」

 

『あはは……。……っと、千佳から呼ばれちゃったから、切るね。放課後部活終わったら連絡して!』

 

「えっ?ちょっ、おい!」

 

 プーッ、プーッ、プーッ……

 

 

 言いたい事だけを言い残し、折本は電話を切ってしまった。

 

「……どうすんだこの状況……」

 

 だが、現実とは非常なもので──

 

 

「──それで、いつから仕事に戻れそうですか?」

 

「いや、そもそも俺は生徒会じゃないんだが……」

 

 こいつが俺を心配していたと言うのはどうやら仕事が理由らしい。とっとと復活してさっさと手伝ってくれ、という事だろう。

 

「……確かにそうですけど、でももう先輩って準会員みたいな感じじゃないですかー」

 

「そうさせたのはお前だがな……」

 

 俺の年明け前の生徒会での立ち位置は、一色の言う通り本当に準会員みたいな感じになっていた。

 

 例えば俺が生徒会に用が無い日だと翌日副会長に会えば「昨日は休んだのか?」と訊かれ、書記に会えば生徒会の話を持ちかけられる。…それを話すべき相手は一色なんじゃないかと思ってはいたが、どうやら副会長曰く、俺の生徒会での位置付けは『生徒会の頼れる味方』らしく、一色やその他役員の内情を知っている俺としては微妙に否定しかねるところがあったので、反応に困った。

 

「……まあいいです。取り敢えずご飯食べちゃいましょう」

 

「え?何?お前、ここで食べるつもりなの?」

 

 一色はてっきり話だけして帰るものだと思い込んでいた俺は少し面食らう。こいつだったらクラスの奴らとつるんで教室でワイワイやってた方がお似合いな気もするのだが…。

 

「はい。小町ちゃんと一緒にここで食べるつもりですよ?」

 

「……ふん。小町を引き合いに出したところで──」

「……お兄ちゃん、ダメかな?」

 

「よし、食べようぜ」

 

 チョロかった。めちゃくちゃチョロかった。小林さん家のドラゴン並みにチョロかった。

 

 

 と言う訳で、どう言う訳か小町と一色と一緒にご飯を食べる事になってしまった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──一色いろはサイド──

 

 朝。

 

「ねーねー、この間の女子助けて入院した先輩今日から復帰だって!」

 

 そういながら教室に入って来たその女子は、他のクラスメイトのところへ行きその話を盛り上げる。

 

「やっぱりカッコ良いのかな?」

「行ってみる?」

「でもカッコ良くなくてもいいかも!」

「まあ、守ってもらえそうだよね!」

 

 …………。

 

 あの先輩、容姿に関しては全くカッコ良くない…と言うか目が腐ってるし、そもそもあの文化祭でやらかした張本人じゃなかったっけ?

 

「ねー、いろはも見に行かない?」

 

 そしてその女子は私にも話を振って来る。

 

「うーん……」

 

 正直、迷う。

 

 先輩には(私の所為ではあるけど)生徒会全体がお世話になってるし、それに私は入院中にお見舞いに行ってるから別に年明け初めて会うわけでもなければ、別段会いたい訳でも無い。

 

 なら──

 

「……私はいいかな」

 

 行かない事にしよう。

 

「そっか。そうだよね、いろはは葉山先輩狙ってんだったよね」

 

 ──と、そこで会話を終わらせるチャイムの音。HRが始まる音だ。少し遅れて先生も入って来る。

 

 ……しかし、──そうか。先輩、復帰したんだ……。

 

 事故って聞いた時は本当に驚いた。

 

 あの事故の翌々日。私は事故の事など知らずに、学校で先輩を探していた。クリスマス会の最終調整を生徒会全員と一緒に話しておきたかったから、そこに関係者である先輩も呼ぼうとしたのだ。

 

 そんな時だった──

 

 私と行き違いをしてもう生徒会室に行ったか、はたまた帰ってしまったのかと思い、念の為に生徒会室に引き返した私は、生徒会室に居た平塚先生に連れ出され、そして事故の事を知った。

 

 

 ────

 ──

 

 年明け前・十二月──。

 

「ようやく来たか一色。……ちょっとこっちに」

 

 平塚先生はそう言いながら生徒会室を出て行く。

 

 生徒会室に着いたばかりの私は、訳もわからないまま、平塚先生の後に着いて行った。

 

 ──生徒指導室。

 

 そう書かれた札がある部屋へと入って行く平塚を追い、私も入る。

 

 座りたまえ、と言う先生の言葉に従って、近くにあった椅子に腰掛けた少し後の事だった。

 

「……比企谷だがな、しばらく休みだ」

 

「えっ?」

 

 それまでの静寂を打ち破った第一声は、その言葉だった。

 

「何か、あったんですか?」

 

「あー、まあ、家の事情と言う奴だよ。……必要だから伝えたが、言いふらすなよ?」

 

「は、はぁ……」

 

 私は呆気に取られながら、何も理解出来ないままに頷く。すると平塚先生は仕事に戻っていいと言って、職員室の方へと立ち去って行った。

 

 

 ──だけど、違和感には直ぐに気付いた。

 

 平塚先生が、私に先輩の休みの件を伝えてから十数日後。

 

 イベントも終わり、しつこくつきまとって来るあっち(海浜総合)の会長を捨て、新年を迎えた後には、その違和感は確信に変わっていた。

 

 ──何かが隠されている、と。

 

 

 そして私は、平塚先生を問い質した。すると──

 

「……やはり気付いてしまったか。…ああ。本当は家の事情じゃない。事故に遭って入院していたんだよ、比企谷は」

 

「──この話も、比企谷に許可を取ってからしか出来ない話だから、誰にも話すなよ?……必要のある奴には私からおいおい、そのタイミングをみて伝える」

 

 

 ──こうして私は、事件の全貌を知った。

 

 

 ──

 ────

 

 

 それからは病院へ行き、先輩と顔を合わせていた。

 

 その先輩が、今日復帰した──。

 

(まあ、行かないけどね。……休み中に病院に何回行ったことか…)

 

 そんな事を考えながらHRを聞き流し、そしてチャイムが鳴る。

 

「起立、気を付け」

 

「解散──」

 

 先生が、それを口にした直後だった。

 

 解散の『ん』と同時に教室を出る。

 

 ──気付けば私は、全速力で先輩のいるクラスへと向かっていた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──比企谷八幡サイド──

 

 今朝の一色が全力ダッシュをしていたなんて事はいざ知らず、そして話は再び戻って昼休み。

 

 パコーン、パコーン……

 

 向こうの方からテニスの音が聴こえるが、珍しくそこに戸塚の姿はない。

 

「あ、そう言えばお兄ちゃん」

 

 一色の仕事に早く復帰しろ宣言の後、小町が口を開く。

 

「雪乃さんが呼んでたよ?……放課後部室で、って」

 

「……………」

 

「…先輩、雪ノ下先輩を怒らせたんですか?」

 

「……俺は何もしてない」

 

「自覚してないだけ、とかないんですかー?」

 

「いや、ないんですかー、ってな…。大体、自覚してねぇのに分かるかよ」

 

「…そこは開き直らないでよ、お兄ちゃん……」

 

 ──こうして、賑やかな昼休みは過ぎて行った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──折本かおりサイド──

 

「かおりー、ご飯行こう?」

 

「あはは……。……っと、千佳から呼ばれちゃったから、切るね。放課後部活終わったら連絡して!」

 

 私はそう言いながら通話を切ると、千佳へと向き直る。

 

「んじゃ、行こっか」

 

「うん」

 

 という事で学食を目指して教室を出た。

 

 

 移動中…

 

「しっかしねぇ……」

 

 教室を出て直ぐに、私は口を開いていた。

 

「どうしたの?」

 

「いや、一色ちゃんに比企谷の居場所訊かれたから『○○じゃない?』って答えたんだけどね?」

 

「どうやら小町ちゃん…比企谷の妹ね?……その小町ちゃんと一緒に比企谷とご飯食べてるらしくて……」

 

 私は言いながら肩を落とす。まさか一色ちゃんも比企谷の事が好きだったりするのだろうか…。

 

「一色さんが羨ましい?」

 

「羨まし──って!何言わせるの!……恥ずかしい…っ」

 

「かおりは本当に比企谷君が好きなんだね……。いいなぁ、そうやって好きになれる人がいて」

 

「ち、千佳だってモテるじゃん…」

 

 高校に入ってからの友達である千佳は、割りと人気が高い方で、実は高校に入ってから、私も千佳も何度か告白されている。

 

「うーん…、モテるモテないって言うより、好きになれる人がいるのが羨ましい…のかな。女の子として」

 

「羨ましい?……どういう事?」

 

「ほら、かおりは比企谷君と再会?してから明るくなったって言うか……もともと明るいけど」

 

「やかましい」

 

 私はそう言いながら軽いチョップを千佳に食らわす。

 

「あぅっ。…もー、叩かないでよ。……まあ、話を戻すけど、何かこう…キラキラしてる感じ?」

 

 つまりリア充と言いたいのかな?

 

「…でもまさか比企谷君の為に休むとは思ってなかったけどね」

 

 あのクリスマスの件は、私はずっと秘密にして来たから、休んだ本当の理由を知っているのは先生方だけになるけど、どうやら千佳の頭の中では比企谷が怪我したから私が面倒を見に行った、という事になっているらしい。……ある程度はその通りだけど。

 

 こうして、私と千佳は学食へと向かって行った。




ちょっと文字数を二百文字位オーバーした…。

次回予告!

候補としてはこのまま折本&仲町さんの会話・八幡目線の放課後のどちらかになるかと。

木曜日までで投票とります。無ければ私が適当に。

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