「折本──」さて、この後に続く言葉は──   作:時間の無駄使い

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 * * *

 

 

 

 ──平塚先生サイド──

 

 月日は少し遡り、【文理選択の最終決定用紙】提出最終日。

 

「全員、用紙は提出したな!」

 

 クラスの生徒に声をかけると、やる気のない返事が返って来る。

 

 全員分を受け取ると、それを持って私は職員室へと向かった。

 

 

 職員室に着き、用紙を机に置くとそのまま奥へ行き、コーヒーを淹れて戻って来る。

 

「──ふむ。面白い具合に分かれたな」

 

 現在入院中の比企谷からも用紙を預かっているので私の担当生徒の分は全部揃っているわけなのだが──。

 

 

【文系】

 

 比企谷

 由比ヶ浜

 葉山

 相模

 その他……。

 

 

【理系】

 

 三浦

 川崎

 戸塚

 戸部

 海老名

 その他……。

 

 

 という具合に分かれていた。

 

「三浦と葉山が分かれたのは意外だな……」

 

 恐らくは三浦が会心した訳ではないのだろうが。…が、まぁ、こう言うのも勉強にはなるだろう。

 

「平塚先生、そっちはどうなりました?特に葉山の進路」

 

 全員分の集計を終え、二回目の再確認を済ませたところで隣のクラスの秦野先生が私に訊いて来る。

 

「葉山ですか?……文系ですね」

 

 葉山の進路は、実は気にする先生が多い。

 

 そもそも雪ノ下並ではないが期待が集まっている生徒だ。

 

 そして葉山自身が進路を頑なに隠した為結果として注目が集まった、というのがその真相だが。

 

 

 因みに、雪ノ下はと言うと──

 

「雪ノ下は理系です」

 

 まぁ、予想通り理系だった。

 

 陽乃が通った道で、陽乃曰く後を付いて来る様に進路を進めて来たから今回もそうなるのでは、という事だった。

 

 

 

 ──こうして、文理選択が完了した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──比企谷八幡サイド──

 

 俺が登校を開始した時には既に新しいクラスは出来ており、またしても一年の時の様に後からポツンと入る事になってしまった訳なのだが、まぁ、そうなればボッチは確定だ。残り一年間の安寧が約束された。

 

 ──が、

 

「ヒッキー!」

「比企谷君!」

 

 教室に入るなり二人の女子生徒──由比ヶ浜と津久井に話しかけられる。

 

「……おう。今年は津久井も一緒なのか」

 

 去年同様に由比ヶ浜と同じクラスで、そして津久井とも再び同じクラスになった。

 

 ──ここまではまだいい。

 

「……あー、えー、えーとね、ヒッキー……」

 

 急に由比ヶ浜がよそよそしくなり、次の瞬間、俺に水爆級の衝撃波を叩きつけた。

 

「──彩ちゃん、理系行ったよ」

 

 ──ドサッ。

 

 

 俺はいとも簡単に気絶した。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 気絶し(かけ)た後、泣き叫びたくなる様な気持ちを必死に抑え、HRに臨む。

 

「今日は初めてクラス全員が揃ったな。……という事で改めて言おう。担任の平塚だ。まぁ、何かあったら訊いてくれればいい」

 

 そう前置きした後、連絡事項を話し始める。

 

「──今日はこれと言って特に無いが、連絡事項はさっき言った通りだ。以上、解散」

 

 案外あっさりと終わった事に安心しつつ、どうするべきか悩む。

 

 ──と、そこへ。

 

「先輩っ!」

 

 教室の扉を音が鳴る勢いで開けてこっちへ来る奴が一人。

 

 着崩した制服。

 

 セミロングの髪。

 

 誰がどう見ても、そこにいるのは一色いろはだった。

 

「…やっと、復活したんですね。おめでとうございます」

 

「お、おう……。……どうした?」

 

 俺の反応が気に食わなかったのか予想外だったのか。見事に肩を落としながらこっちへ来る。

 

「……どうした…って心配したに決まってるじゃないですか。病院に顔出そうにも年末は海浜総合の人達と後片付けがあって、年明けのあの一月末から二月始めしか空いてなかったんですよ。マラソン大会ありましたし」

 

 確かに、一色の言う通りこいつが病室に顔を出したのは一月末から二月始め辺りに集中していた。

 

 そもそも、津久井や折本と比べてこそ頻度は下がるが、思いの外心配性らしく、由比ヶ浜と同等──もしかしたらそれ以上に顔を出していて、それこそ『顔を出そうにも』なんて数ではなく『もう十分に』の域だった。

 

「……(わり)ぃ。仕事押し付けちまったみたいで」

 

「そんな……。寧ろ私が手伝ってもらってたんですし……」

 

 

「「「……………………」」」

 

 

 予想外の受け答え──と言うかいつものあざとさが無くなっている事に違和感しか感じられず、返答をする事すら忘れる。

 

 そして気付けば、クラス中が静まり返っていた。

 

 

 それにしても、マジでこいつ気が狂ったのだろうか?それともあざとさを出す事を忘れる程に心配してくれていたのだろうか?

 

「……だいたい、先輩はいつもそうやって人を助けるのに、いつだって自分を放って置いて。……先輩、聞いてます?」

 

「あ、ああ。……心配かけて悪かったよ」

 

 取り敢えず素直に謝っておく。

 

 心配をかけたのは事実だし、何だろうか、謝っておかないと気に障ると言うか……。……というかこいつからも小田原先生と同じ事を言われるとは思ってなかった。俺の行動って、そんなに分かりやすかったんだろうか?

 

「べっ、別にそんな本気で心配してたとかじゃないですし……」

 

「何だって……?聞こえなかったんだが……」

 

「な、何でもないです!先輩には関係無いですから!……ハッ!さてはそうやって何度も私との会話を重ねて『良く聞き取れないから耳の近くで話してくれ』とか言って物理的に私との距離を近付けるつもりですかごめんなさい私そういう攻めは嫌いじゃないですけど先輩にそれをやられるとちょっと耐え切れずに落ちちゃう自信があるので遠慮しときますごめんなさい!!」

 

 急にボソボソと小さい声で一色が喋り出したので聞き取る事が出来ずに訊き返したのだが、いつもの早口で返されてしまった。……よく聞き取れなかったがとんでもない事言ってなかったか?今。

 

「と、とにかく!女の子助けてヒーロー気取りも良いですけど!自分の身体にも気を使って下さいね!……あと、放課後に奉仕部行くのでよろしくです!」

 

 そう言い残して、誰の返事も聞かずに一色いろはは風の様に教室を出て行った。……取り敢えず、心配しててくれた…のか?

 

「……あはは。いろはちゃん、凄いね」

 

「……一方的にまくし立てた挙句颯爽と帰って行きやがって……。結局何がしたかったんだ?」

 

「一色さんって、比企谷君にはあんな風に接するんだ……」

 

 一色が去った後の教室で、由比ヶ浜が呆れ、俺は何がしたかったのか分からず、そして津久井は新しいものを見た、と言った感じにそれぞれリアクションをとっていた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 一時間目の授業がスタートし、クラスが静まりかえる。

 

 換気の為に空いている窓からは冷たい風が吹き下ろし、それが高潮の如く次から次へと吹き付けて来る。

 

 その中には微かに花の匂いが混じり、あと少しで春が来る事を告げていた。

 

 とは言え未だ寒い事は変わらず、朝の寝ぼけた頭を冷やすのに一役買っている。

 

 心配していた勉強の方も、津久井と折本(時々平塚先生)による熱心な指導の成果か、何とかついていける位にはなっていた。

 

 

 そして午前中の授業を終え、昼休み──。

 

 

「行くか…」

 

 小町が用意してくれていた弁当を手に、教室を出る。

 

 快晴の今日なら、“あの場所”はベストコンディションの筈だ。

 

 

 期待に胸を膨らませ、実に新年最初となるあの場所へと向かう。

 

 階段を降り、更に降り、一階へ。

 

 そして外へと──

 

「八幡っ!」

 

(こっ、このエンジェルボイスはっっ!!)

 

「戸塚!!」

 

 

 ──振り向けばそこには、大天使戸塚がいた。

 

 

 それから少し経ち、近くの壁際──。

 

「八幡、大丈夫だったの?」

 

「おう。もう完治したぜ」

 

 俺は、久しぶりのこの邂逅に、叫びたくなるような気持ちを必死に抑え、努めて普通に会話していた。──そうしなければ今頃『お外走って来る!』って言ったあと『はーちゃん大勝利ー!』とか叫びながら敷地周辺を三周していたかもしれない。……ただの変人だったわ。

 

 ──閑話休題。

 

 

「……八幡は、文系なんだね」

 

 そこで戸塚は急に話の方向を変える。

 

「……数学が分からん。俺と数学の関係はまさに水と油だからな。諦めた」

 

 そう。諦めたのだ。諦めてしまったのだ。

 

 数学を諦め、付属する理科をも捨て去ろうとしている。

 

 ──そんな輩が、理系に進める筈が無かった。

 

 恐らく、もうこれ以上悔やむことは無いだろう。戸塚と行けないのなら、俺は引き篭もっても構わない。いやむしろ率先して引き篭もりたい。

 

 

「……八幡には、悪いと思ったんだけどね」

 

「えっ?」

 

 そこで更に戸塚が急に語り出す。

 

「八幡には沢山助けられたし、僕も八幡みたいに恰好良くなれたらって思ってたから、進路の事も八幡に相談しようかなって思ってたんだけど」

 

「何か、僕の進路が八幡の進路選びに変な影響与えないかなって思って。……それで、結局言わなかったんだ」

 

「戸塚……」

 

 戸塚の、俺を思うその気持ちに、不覚にも目頭が熱くなってしまった。

 

「僕もう、そろそろ行くね。八幡、勉強頑張って!」

 

 

 戸塚は、最後まで天使の笑顔だった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 戸塚と別れた後、本来の目的地であるところのベストプレイスへと向かう。

 

 と言っても、さっきの場所から目の前の昇降口を出て左に向かって直ぐだが。

 

 ──だが、今日のあの場所には陰謀の影がちらついていた。




今回から新しいスタート(八幡が退院したので)を切るので、雰囲気を変えようと頑張ったら失敗しました……。一緒に書き方にまで影響が出てしまった…。


話を変えて。

既に何件か感想にも寄せられているので、私のSSの書き方について。

メインヒロインを誰にするか決めて話を書いていくわけですが、だからと言ってそのヒロインばかりがスポットを浴びる訳ではありません。分かりやすく言うと、【最終的に二人の話になる】ですね。
私の考えは、例えそのヒロインと主人公が仲良くてもそれ以外の人との関わりが無くなるわけじゃない、というものでして。
ですから、最近折本さんが脚光を浴びていないのも、他のキャラが脚光を浴びているのも、全部ひっくるめて一つの話として読んで頂けると嬉しいです。……と言っても、連載中の今ではそんな事を言っても意味は無いんですが。


もう一回閑話休題。

小町が総武高校へ進学したので、それを記念して学校のクラスメイトAと協力して小町を描いてきました。

中学ver.と総武高ver.です。

元の絵は俺ガイルの漫画(妄言録)の三巻表紙です。(総武高校ver.は中学ver.を元に更に改造)

中学ver.はAが小町を描き写し、私が髪や目の色と服のシワの影、背景を付けました。背景が適当なのは、頭に浮かんだものを何となくで描いたからで、目を瞑って見て下さいね。

総武高ver.は私が一から描きましたが、背景はありません。

尚、光量を最大まで上げてから見る事をオススメします。
全体像(中学ver.)

【挿絵表示】

顔アップ(中学ver.)

【挿絵表示】


全体像(総武高ver.)

【挿絵表示】

顔アップ(総武高ver.)

【挿絵表示】


最後に二枚重ねて

【挿絵表示】

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