「折本──」さて、この後に続く言葉は──   作:時間の無駄使い

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風邪引きました…。

インフルではないんですが、38.9度ありました。

今はもう治ってますが、熱にうなされながら書いたので変な事を書いてるかもしれません。


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 * * *

 

 

 

「忘れ物は無いな?八幡」

 

「ああ……」

 

 

 四月のとある木曜日。俺は退院当日を迎えていた。

 

 最後に残った左脚も無事完治し、その後のリハビリも終えてようやく長かった入院生活に幕が降りる。

 

 現在病室には親父が来ていて、俺も少ない荷物を纏めて行くのを手伝う。

 

 小町もこっちに来たかったらしいのだが、親父が学校に行けと言ったらしく、それに従った形で学校に行っている。

 

 小町は既に総武高へ入学し、まだ日は浅いが通い始めていた。──そして今日も学校に行っている為、ここにはいない。

 

 ──が、折本と津久井は学校を休んでこっちに来ていた。

 

「こっちは全部終わりました」

 

 折本の口調が少しおかしいのは恐らくは親父が居るからだろう。

 

 

「んじゃ行くか……」

 

 俺はそう言いながら戸を引くと、扉を開けた目の前には主治医──小田原先生がいた。

 

「お、もう用意は出来たのかな?」

 

「はい。……お世話になりました」

 

「プリンス君も大変だねぇ。……因みにプリンス君は入院中にウチのナースのメアドを幾つゲットしたんだい?」

 

 ……………。

 

 

 ──実は、俺が入院してから半月後くらいから、俺は仇名をつけられていた。

 

 それが“プリンス”なのだが、小田原先生だけじゃなく他のナースからもプリンスと呼ばれた時は流石に恥ずかしくなった。

 

「……四つです」

 

 しかもあろう事かそのナースさん達が明るくノリが良い為、『メアド教えてー?』だの『これ登録よろしくねっ!』だの言って紙を置いていったり直接言って来たりとあって、

 

 三崎(みさき)陽子(ようこ)

 逗子(ずし)小春(こはる)

 二宮(にのみや)涼子(りょうこ)

 (たちばな)湖優理(こゆり)

 

 という名前が新しく追加されていたりする。……まぁ、使う機会は無いと思うが。

 

「モテモテだねぇ。君達がしっかり捕まえておかないとね」

 

 小田原先生は折本と津久井の方を見ながらそう言うと、入口まで行こうか、と言って歩き出す。

 

 折本と津久井は耳まで赤くなっていたが、気にしない事にした。

 

 

 入口まで途中ですれ違ったナース(三崎さん)からは「あ、プリンス君!…メールよろしくねっ!」と言われたがどうすればいいのやら…。さっぱり分からん。

 

 そして俺がナースから話しかけられると折本が少しムッとして、津久井はツンツンと背中──と言うか脇腹を人差し指でつついてくるのだが、ちょっと萌えるから止めて欲しい。

 

 

「……………」

 

 俺の病室は三階。そこからナースステーションの前を通り、エレベーターを使って一階まで降りる。

 

「……しかし君は……」

 

 エレベーターのボタンを押し、他の階からエレベーターが到着するのを待つ間、先生が唐突に口を開ける。

 

「──いや、君だからこそなのかもしれんな。……ウチのナース達は君の事をプリンスと呼んで気兼ねなく明るく接してはいるけどね」

 

 その仇名を広めた──というか俺に付けたのは先生ですがね。

 

「君のあの時のその行動は、正直良いものでは無い」

 

「……確か、平塚と言ったかな?……あの先生が言うには、君はリスク・リターンについてはなかなかの感性の持ち主だそうじゃないか」

 

「それがどうして、明らかにハイリスクローリターン……というかほぼリターンは無いね。……まぁ、とにかくなんでそんな事をする結果になったのかは、僕は君じゃないから分からないけど」

 

「……君がリスク・リターンだけで物事を考える人間じゃないのは今回の行動で意図せずして示された。と言っても、恐らくその事に気付くのは一握りの限られた人だけだろうがね。大半は女子を守った事自体に目を向ける筈だ」

 

「まぁ、そもそもリスク・リターンだけで動く人間なんていないと思うけどね。……というか既にそれは人間じゃない。感情を捨てているに近いからね。──でも君はそうじゃない」

 

「君は平塚さんの話によれば自分以外には基本興味を示さないみたいだね。その“興味を示す示さない”の境界線がどこにあるのかは知らないけど。──ここで一つ質問だ」

 

「君の事は平塚さんやあの茶髪のお団子ちゃんにいろいろ訊いて今回の件に繋がりそうなところ以外にもある程度は情報を持っている。そして僕は職業柄、他人を理解する事が得意なんだけど──と、そんな事はいい。……質問に戻ろうか」

 

「君が今までそうやって自分を圧し殺して助けて来た人達の中に、君が興味を示さない人間は何人いるのかな?」

 

 

「……………」

 

 

「……答えられないのか、答えないのか。……まぁ、それはどっちでもいいよ。とにかく、君は答えなかった。これが結果だ。──他人を助けるくせに、自分を助ける事に関しては目をつむっている。……これが、結果だよ」

 

「……まぁそんな訳で、君がハイリスクローリターンな事をしたのが悪い事だ、とは言わないけどこれから言うのは似たような事だ」

 

 そう前置きした先生は、俺に背を向けたままで話し始める。

 

「君は彼女達を守るために行動した。……そうしなければ彼女達が君の様になっていたかもしれないし、ぶつかる覚悟が出来ていた君とは違ってもっとひどかったかもしれない」

 

「そして僕は、その行動自体にはケチをつける気はない。と言うかむしろ褒めても良いくらいだ。……僕が言いたいのはその後さ」

 

「君からこの事件の話を聞いた時、ふと引っかかる事があった」

 

「──君は、彼女達を助けたくせに、自分を助けるのを諦めたんじゃないか、とね」

 

「入院中に何度か君に訊いたね」

 

 ──“君は、あの時どうしたかったんだい?”

 

「だけど、君の答えはいつだって『“二人に”助かって欲しかった』だった。……確かに、普通ならこう答えるのが普通なんだけどね。──君の場合はニュアンスが少し違う」

 

「……君は、まるでその後ろに『俺がどうなってもいいから』って言葉が付くような感じだった。しかもそれだって自分の事を後回しにしてるんじゃなく、そもそも考えてすらいないレベルで」

 

「今回は助かったけど、次こんな事があった時、君みたいな人間は人助けを優先しちゃいけない。……自分がどうなってもいいなんて考えてる奴が、他人を助ける資格なんて持ってる訳がない」

 

「理由は君なら分かるね?……そう。言い換えてしまえばそれは、すり替えるだけなんだよ。受ける筈だった被害を自分に。……もっと分かりやすく言おうか」

 

「あんまり良い例えじゃないけど、その人が何らかの外的要因で死ぬとする。それを、直前で君が助けたとしよう。すると、その外的要因は君が受ける事になるね。結果、君は死んでしまう」

 

「つまり君がやっているのはこういう事だよ。しかもこれはまだ良い方だ。──最悪は、助けた君まで巻き込んで二人とも死ぬ、だからね」

 

「君のその行動は悲しむ人を変えるだけなんだよ。……いや、寧ろ増やしている」

 

「……だからもしも、これからも人を助けると言うのなら、それ以前に自分を助けてからだね」

 

 

 “──俺は、間違った人間だと自覚している。

 

 だから、正しく在ろうとする。

 

 それの何が悪いと言うのだろうか”。

 

 

 そう。

 

 俺にとっては人助けは正しい行為で。

 

 だからこそ俺は人助けを(おこな)って来た。

 

 ──正しく在る為に。

 

 だけど、それはあくまで他人が助かる事だけが目的で。

 

 そこには──助けるターゲットの中には、自分など入っている筈もなかった。

 

 

 “誤解なんてのは、道を間違って進んだだけだ”。

 

 “戻ってもそこにあるのはただの道”。

 

 “なぜなら戻るのも間違った選択だから”。

 

 

 ──そして、間違った人間である俺は、正しく在ろうとする為に俺が正しいと思った事をして来た。

 

 誤解を解く事もせず。振り返らず。──つまりは、周りの事など気にせず。

 

 

 なら、何故周りを気にしない奴が、人助けなどと抜かすのだ。あまつさえ、自分すら助けられない(やから)が。

 

「……そこまで悩む事でもないだろう。君が自分を助け、誤解を解けばいい。……正義に力が要る様に、正しいだけじゃ“正しさ”じゃないよ。……あくまで僕の意見だがね」

 

「──じゃあ、ここで二つ目の質問だ。……今度は必ず答えてもらうよ」

 

「今の話を聞いて、それでもまだ人を助けるかい?」

 

 

「………────はい」

 

「……やっぱり、僕の目に狂いは無かったね。……君の中にはちゃんとした“正しさ”がもうあるみたいだ」

 

 そして、到着したエレベーターに乗り、一階のボタンを押す。

 

「……まぁ、何か分からない事があれば大人に相談しなさい。……君より遥かに経験豊富で、何より頼れる大人にね。……僕に相談を持って来てもいい。空いてる日を見て話そう」

 

「……ありがとう、ございます」

 

「お礼は良いさ。君は僕の患者だ。……それにまた入院されてもね」

 

 苦笑いをしながら、小田原先生はそう言った。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──とにかく、そんなこんなで病院の入口に着く。

 

「先生、今までお世話になりました」

 

 親父がそう言い、俺も追いかける様に「ありがとうございました」と言う。

 

「いえいえ、まぁこちらはそれが仕事ですしね。……君も、これからは気を付ける事だね」

 

「もう何回目か覚えちゃいないけど、もう一回言おう。……自分の事も助けるんだ。…あとね──」

 

「人を助ける時は、人に心配を掛けないのがベストだよ──」

 

 

 ──こうして、俺の長かった入院生活は遂に幕を降ろした。




近況報告。

最近ニセコイの二期を見まして、あまりの俺ガイル好きにびっくりしました。
ニセコイでは、メインヒロインの千棘。声優さんが由比ヶ浜でして。それと小野寺小咲ちゃんの妹、春。声優さんはなんと一色です。
そして私は物語もほんの少しかじっているんですが、小咲ちゃんは、千石撫子と同じ声優なんですね。
つまり何が言いたいかと言えば、

ニセコイがそのまま楽しめない。

という事です。
千棘と由比ヶ浜ならまだキャラが似てるので良いんですが、春ちゃんの登場シーンでは一色がちらついてあざとく見えてしまい、小咲ちゃんの登場シーンでは千石撫子がちらつき、明るい千石さんかな?なんて思ってました。

ニセコイ二期のedの『曖昧ヘルツ』を目を閉じて聴いている時の登場キャラが、
由比ヶ浜、千石、マリー、鶫という。……しかも千棘の声優さんが強いので、
由比ヶ浜が聴こえる→つまりは雪ノ下もい居る。
という謎の方程式により雪ノ下の声も聴こえてきて、最終的には俺ガイル2人とニセコイ2人に物語1人という。……あれ、何の歌でしたっけ?

そんな近況報告です。


津久井さんが【東方】の妖夢に似てると言う事を言われたので、新しくカチューシャ付け足したらそれっぽくなりました。

【挿絵表示】

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