「折本──」さて、この後に続く言葉は──   作:時間の無駄使い

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今年最後の日に今年最後の投稿です。
今回は大晦日スペシャル版という事で、通常の二倍の長さです。
※ただどこで切るべきか迷った挙句書き続けてたらたまたま二倍の長さになったところで切りが良くなっただけです。

はたして雪ノ下のお説教タイムはあるんでしょうか!?


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 * * *

 

 

 

 ──奉仕部サイド(雪ノ下雪乃)──

 

 その報告を受けたのは、私達の学校で事件が噂になり始めた頃だった。──誰が、という情報はあまりなかった。何人かの名前が上がっていたので、正確な特定は出来ていないのかもしれない。

 

 そして、噂になり始めた頃ということはつまり、事件の後だ。更に言うなら、冬休みに入る時期が近かった事もあって、噂になっていたのは年明けだったから、恐らく事件の二、三週間後だろう。

 

 

 最近来なくなっていた彼は、ここ数週間──丁度噂が流れ始める直前辺りから、生徒会にも顔を出していないらしい。

 

 どこで何をやっているのか分からず、一度クリスマスイベントの会場であるコミュニティセンターにも行ったが、その中にはいなかったし、一色さんを問い質してもはぐらかされるだけで、頑なに口を割ろうとはしなかった。小町さんにも聞いてみたが何も答えずに電話を切られた。

 

 

 そんなある日の事だ。

 

 

 いつものように──最近は特に冷えが厳しくなって、雪も降る回数が増えてきていた。そんな、窓の外を見れば銀世界が広がる平日の放課後──部室の鍵を取りに行った私は、そこで平塚先生から妙なことを言われた。

 

「──雪ノ下、今日はいつもより早めに切り上げて職員室に由比ヶ浜と来るように」

 

 平塚先生はそう言って私に鍵を渡すと煙草に火をつけながら職員室を出て行った。

 

 

 なぜ、今話さないのだろうか。

 

 

 そんな事を考えつつ、残された私も職員室を後にして奉仕部へと向かった。

 

 

 そして、カツカツと鳴る靴音を耳に聞きながら、一人で廊下を歩き、いつもの場所へ着く。

 

 するとそこには、意外なことに由比ヶ浜さんが既にいた。

 

「やっはろー、ゆきのん」

 

「もう来ていたのね。……三浦さんはどうしたの?」

 

「あー、うん、ちょっとね……」

 

 明らかに表情が鈍る。何かあったのは明白だが、それを問うべきではないのだろう。恐らくは、その時に彼女から話してくれる筈だ。

 

 取り敢えず鍵を開けて部室に入らない事にはどうしようもない。私もこんな冷え切った廊下にいつまでも立っているつもりはないので、預かった鍵を取り出してそれを鍵穴に差し込み、回す。──彼がいる事を願って。

 

 

 

 だが、当然のようにそこには何もない。私が鍵を持っているのだから当たり前だが、それでも黙らざるをえなかった。

 

 見えない程度に肩を落とし溜め息をつく。

 

 自分でも何でこんな事をしているのか分からない。

 

 

 ──その問いに答えは出ず、ただ静かに、時間だけが確実な(とう)をもって過ぎていった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 奉仕部部室に入り、少し前にこの部屋に置かれたストーブの電源を入れる。

 

「やー、寒いね」

 

 由比ヶ浜さんはそんな事を言いながら私と自分の分の椅子を出して来てテーブルのところに置く。

 

 私はそれに「そうね……」とだけ返すと、お湯をポットから出して紅茶を淹れた。

 

 

 ──その時だった。

 

 

「ねぇ……ゆきのん」

 

 不意に、由比ヶ浜さんが私の名前を呼ぶ。何かと思って淹れていたポットとカップから手を離して振り返ると、由比ヶ浜さんは暗い顔をしている。

 

 そのまま、数刻。

 

 

「──なにか、あるんじゃなかったの?」

 

 

 なかなか話し始めない由比ヶ浜さんを催促するように私は問いかける。

 

 由比ヶ浜さんはそれを受けてか顔を一瞬上げたが、また元に戻す。その顔は暗く下を向いている。まるで彼女らしくなかった。

 

 そして──言葉を紡ぎ出した。

 

 

 しかし、それはあまりにも──あまりにも、無警戒だった、無防備だった──予測していなかった私には、衝撃が大き過ぎた。

 

 

 

「ヒッキー、車に撥ねられたかも、って。優美子が」

 

 

 

 * * *

 

 

 

「────────────────」

 

 声が、出なかった。

 

 声の無い叫び声だった。

 

 たった一言で、冷静だった今までの全てが崩れ去っていった。

 

 

 ──それはあまりにも大き過ぎる衝撃で。

 

 

 ──それを受け入れる程の器なんかなく。

 

 

 ──そして、あまりにもいきなりだった。

 

 

 

 最初に分かったのは、足が震えている事だった。

 

 次いで、いろいろなものが込み上げてくる。

 

 

 怒り、悲しみ、疎外感、絶望。──そして僅かに、その言葉が嘘であるようにと願う、希望。

 

 

 込み上げてくるものを冷静に判断出来る筈もなく、それらになされるがままになる。自分を堪えるので精一杯だった。

 

 

「………それはつまり、あの噂の事を言っているのかしら?」

 

 やっとのことで微かに希望のある可能性に掛けられる道筋を攻める。

 

「……そうだと思う」

 

 それに対して、由比ヶ浜さんは静かに暗く肯定する。

 

「………それが三浦さんの勘違い……もしくは、適当なことを言っている、というのは?」

 

「分かんない…けど、優美子はそんな事は、しないと思う」

 

「ッ…………!」

 

 その瞬間、再び衝撃が奔る。

 

 恐れていた事が現実になってしまった時の痛み。

 

 

 そして──

 

「…………平塚先生のところへ行きましょう」

 

「え?…ぶ、部活は?」

 

「そんなのしてる場合じゃないでしょう!!?…………ぁ」

 

 ついカッとなってしまった。私らしくもない。どうやら相当参っているらしい。

 

「……とにかく、行きましょう。先ずはそれからよ」

 

「うん……」

 

 そして私は、私にとって地獄への道のりを開くことになる。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 平塚先生のところに行くため職員室に向かったのだが、そこには居なかったため、現在は居そうなところに目星をつけて捜している。

 

「平塚先生、居ないね」

 

 由比ヶ浜さんが声を上げる。私も、これは少しキツかった。

 

 ただでさえ寒い廊下なのに、冬で日が落ちるのが早まっていて、既に日は無い。それが拍車をかけてより冷やしている。

 

 ふと、数時間前を思い出した。

 

 平塚先生は、少し前に切り上げて来い、と言っていなかったか。

 

 

「ふふっ……」

 

 この場にはそぐわない嗤い声が漏れてしまう。由比ヶ浜さんが私を見て怪訝な表情を浮かべるが、私も私で溜め息をつきたくなってしまう。

 

 “こんな簡単なことすら頭から抜け落ちる程、私は焦っていたのか”──と。

 

 

 そして、私は由比ヶ浜さんに職員室に行くように言って、私もそれについて行った。

 

 

 

 職員室に着くと、平塚先生は電話をしている最中だった。

 

 邪魔するわけにもいかず、他の先生の邪魔にならないところに二人で立って先生を待つ。この時間が、私には途轍もなく焦れったく感じられた。

 

 そして、電話の終わった平塚先生がこっちに来て、間髪入れずに、

 

「ここじゃなんだ。生徒指導室で話した方がいいだろう」

 

 と言って、私と由比ヶ浜さんを連れて生徒指導室に向かう。

 

「その様子だと、もう既に知っているんだろう?どこから聞いたんだ?」

 

 移動中のその質問に、私は由比ヶ浜さんを見ると、由比ヶ浜さんが小さい声で、

 

「……優美子から」

 

 と答える。

 

 それを受けると、平塚先生も小声で「三浦か……」と言った。それ以降、会話は無かった。

 

 

 生徒指導室に着きそれぞれが座ると、由比ヶ浜さんが早速切り出す。

 

「あ、あの、ヒッキーが撥ねられたって……」

 

 後に向かってだんだんと小さくなって勢いのなくなっていくその声に、平塚先生は短く、はっきりと答える。

 

「本当だ」

 

「ッ…………!」

 

 また、胸に痛みが奔る。

 

 だが、聞かなくてはならないことが、二つあった。

 

「……私達への、伝達が遅れていたのは…」

 

「それは君なら分かるだろう、雪ノ下。──君たちは部外者だからな。……この件に全く関係は無い。それでも、一応本人と、家族から了解を得られたから話している。つまり、これは秘密だ」

 

 

 ──部外者。

 

 

 この言葉に、これ以上苦しめられたことはないだろう。

 

 由比ヶ浜さんが反論しようとするのを片手で制して、もう一つ、私は質問した。

 

「事故に遭った、理由は何ですか……」

 

 ──だが、この質問に対する平塚先生の答えは意外なものであり、また到底受け入れられそうにないものだった。

 

「言えないな。比企谷本人から止められている」

 

 ──!!

 

 

「……つまり、私達に知られるとまずいことがある、と?」

 

「それもノーコメントだ」

 

「ッ…………!」

 

 平塚先生は決して表情を変えなかったが、その奥にはどんなものが潜んでいたのか。だが、今の表情から何も読み取れない。

 

「病院と病室だけは教えても問題無いらしいから、一応伝えておく。……雪ノ下、それから由比ヶ浜も、辛いだろうが、これを乗り越えなければ、意味はないぞ」

 

 平塚先生はそう言うと、私達をおいて先に生徒指導室を出た。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──比企谷八幡サイド──

 

 病室に入って来たのは、意外な奴らだった。

 

「──雪ノ下に、……由比ヶ浜、か」

 

「いつまでそこで寝ているのかしら?」

 

 その視線には明らかな怒り。なぜ、なんてものは考えなくても分かる。

 

「………ふん。入院して寝ているだけじゃなく、女子に世話までさせているとは、いい度胸ねクズ谷君」

 

 毒舌をばらまき続ける雪ノ下に、俺が反論しようとした、その時だった。

 

「──黙って」

 

 俺の横から、ものすごく低く、そして寒い声が聞こえる。

 

 驚きつつ見ると、そこには折本が。

 

 雪ノ下は一瞬驚いたように折本に目線を向けると、

 

「あら、あなたこそ黙ったらどうかしら。あなたがそこのクズとどういう関係なのかは知らないけれど、奉仕部に支障をきたしていた以上、奉仕部部長である私には彼にそのことを質問する権利くらいあるわ。むしろあなたこそなんなの?」

 

「黙って。誰だか知らないけど──あなたが比企谷とどういう関係なのか知らないけど、“あなたはこの件に関係ないでしょ”?『部外者』なんだから、知ったような口してこの件の事を言わないで」

 

 折本のその反論に、雪ノ下が喉をつまらせる。

 

 それを見たからか、それとも口を挟む隙が無かっただけなのか、由比ヶ浜が声を上げた。

 

「ヒッキーは、大丈夫なの?」

 

「ん?……あぁ、結構あちこち骨折してるが、後遺症とかはないらしいから、治れば復帰出来るぞ」

 

「そうなんだ。よかった……」

 

 普通に俺の心配をしてくれていたらしい由比ヶ浜に、俺も対応する。

 

 コンコン──

 

 と、そのタイミングで、更に人が来たようだ。

 

「──比企谷君、入りますよ」

 

 そして俺の返事を聞いてから入ってきたのは、津久井だった。

 

「えっ?」

 

 由比ヶ浜が驚いたような声を上げる。

 

 どうやら由比ヶ浜には、何で津久井がいるのか分からないらしい。折本の場合は互いに面識がないからそうならなくても、由比ヶ浜と津久井は互いに面識があるから、こうなったのだろう。

 

「何で、津久井さんがここにいるの?」

 

 由比ヶ浜が言う。

 

 だが、それは実に答え辛い質問だった。

 

 

 ふと、あれ?と思った。

 

(確か、由比ヶ浜は俺が授業で気絶した時、俺を含め津久井達と一緒に班を組んだ筈だ。由比ヶ浜ならその時気づきそうなもんだが……)

 

 と思ってから、自分で納得してしまった。津久井がテニス部だったからだ。

 

(由比ヶ浜の中では、あのメンバーだと俺と津久井より戸塚と津久井の方が繋がりとして自然なのか)

 

 そう。

 

 戸塚は男子テニス部。津久井は女子テニス部で、それぞれ面識があり、しかもそれを目の前で見ていた(ダブルスのチーム編成の時)由比ヶ浜にとって、俺と繋げて考えることは難しかったのかもしれない。

 

 

 ──話を戻してつなげれば、

 

 ここに津久井がいる理由を、由比ヶ浜は知らないし、俺と津久井の関係も由比ヶ浜は知らないのだ。

 

 

「えっと……」

 

 津久井がどう説明したらいいものかと迷っていると、折本がとんでもないことを言い出した。

 

「私と津久井さんは比企谷の未来の嫁候補だから」

 

 

 ──その瞬間、この部屋にいる全員。……発言者である折本すら固まった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 その後、なんだか分からない間に雪ノ下達は帰って行き、また三人の空間が出来上がる。

 

 病院の人にお願いしたらしく、車椅子が手配されて一応動けるようになった俺は、最近は特に昼ごはんが楽しみになっている。

 

 別に身体内部の臓器が壊れたわけではなく、ただ単に骨折しただけの俺は、折本と津久井が交互に作ってくる弁当を木陰で食べるのが、唯一の楽しみになっていた。

 

 今日も今日とて来てくれたナースさんに車椅子に乗せられ、折本と津久井に運ばれて外までやって来た俺は、風が少し吹く中、いつもの場所を陣取った。

 

「寒いねー」

「比企谷君は寒くはないですか?」

「俺は大丈夫だ」

「津久井さん、そっち広げて」

「分かりました」

 

 そんな会話が横行する。

 

 俺はそんな中何もせずにただ座っているだけなのだが、彼女達はレジャーシートをせっせと広げていた。

 

「はい、用意終わり。比企谷君、折本さん、少し待ってて下さい。今お弁当出しますから」

 

 そう言いながらもどんどん手を動かし、三人分のお弁当をそこに広げていく津久井。まだ蓋は閉じてあるものの、いい匂いが既に鼻腔をついていた。

 

 ──しかしまあ、する事がないというのも考えもので、モルモットってこんな気分なんだろうかと考えたりもする。

 

 俺がそんなモルモット気分になっていると、横から箸とともにお弁当の定番・卵焼きが差し出される。

 

「はい、比企谷君どうぞ」

 

「ん…………」

 

 差し出された卵焼きを食べる。最近になってようやく慣れてきて、二人から出されるものの殆んどを躊躇なしに食べられるようになった。

 

 味も二人とも文句なく上手い。

 

 なので、俺は差し出されるおかずやご飯をひたすらに食べ続けた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 話は変わるが、俺が事故に遭ってから目を覚ますまで、二日かかっていて、事故に遭って病院に運ばれた当日から数えて三日目に目が覚めたのだが、その時現場には最初、小町、折本、津久井の三人がいた。そして、よくは覚えていないのだが、その三人の誰かがナースコールをして、三人とも医者と入れ替えで出て行ったのだが、その時部屋の外から聞こえてきた小町達の会話が今も頭に残っている。

 

 

 その会話は、小町が謝るところからスタートした。

 

 

 

『この間は二人に失礼なこと言ってすみません』

 

 恐らくこんな感じだった気がする。

 

『き、気にしなくていいですよ』

 

 津久井の声が聞こえ、そこでしばらくの沈黙。

 

 だが、この沈黙を破ったのも、小町だった。

 

『自分の事ばっかり考えてて、お二人の事を考えてませんでした。……それに──』

 

 そこで小町は一度切って、言い直した。

 

『それに、お兄ちゃんが選んだんだ、って事も頭から抜けてて……。不束者の兄ですが、これからもよろしくお願いします』

 

 ──なぜか、妹に不束者呼ばわりされてしまった。

 

 

 

 

 という事が、目覚めて直ぐにあったのだ。折本に聞いてみたのだがはぐらかされてしまったので、それ以降特に聞いてはいない。

 

 そして、それ以来(というか俺が目覚めたからだが)、津久井と折本には世話を焼かれている。

 

 

 そんな入院生活の中で、今日、奉仕部メンバーが初めて来た。相変わらずの雪ノ下と、珍しくなんだか状況が呑み込めていない由比ヶ浜。

 

 特に変わりはないみたいだ。

 

 

「──ところで、折本」

 

 ここで更に話題を変えさせて頂こう。

 

「どうしたの?」

 

「あ、いや、さっきの話なんだが……」

 

「さっき?何かあったっけ?」

 

「私に話を振られたって……。何かあったの?」

 

 俺が折本に話を振ると、折本が津久井に振り、更に津久井が俺に返してきた。

 

「──えっと、……いや、病室で折本が『嫁候補』が云々って言ってたのを──「コホン。ところで比企谷」……」

 

 言い途中だった俺に被せるように折本が言う。それでも誤魔化しきれていなかったらしく、津久井も折本本人も顔が赤い。

 

 そして、話題を変えるように邪魔してしまった以上どうにかしないといけなくなってしまった折本は、バックから黄色い缶を出して車椅子の俺の膝の上に置いた。

 

「こ、これ、比企谷しゅきだったよね?」

 

「……………」

 

「忘れて……っ」

 

 動揺して下を噛んだらしい。顔が更に赤くなっていき、ついには耳まで赤くなる。そして、恥ずかしかったのか両手で顔を覆って下を向いてしまった。

 

 だがまあ、マッ缶を買ってきてくれたのは素直に嬉しい。そろそろ飲みたくなってくる頃ではあったのだ。ある程度周りも自分も落ち着いたから、一息つく意味も兼ねて。

 

「サンキュな、折本」

 

 お礼だけでも言っておく。今は両手が使えないから飲めないが、その時はまた迷惑をかけてしまう。

 

 そんな訳で、俺の入院生活も一ヶ月近くなり、お世話され続ける生活が続いていた。平和で、何もない、でも満足できる生活が。

 

 

 ──しかし、それは俺の意思によって終わりを告げる。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 入院生活が長いと殆んどの事に飽きるもので、大抵の事は直ぐにやってしまい、新しくやる事がなくなる。

 そんな時に、一番最初にある程度治った左腕のギプスがとれたので、そこそこの事が出来るようになり出来る事の選択幅が増えてしばらくは飽きないかな?なんて思い始めた入院生活一ヶ月と半月。

 

 俺は、もう一つ別の思いに囚われていた。

 

 

 年越し前、津久井に対して俺と折本が別れた事を言わない、と決めた事に対してだ。

 

 津久井も折本も俺の事をずッと世話してくれていて、流石に申し訳ないので少し前からそれぞれ学校に通いだしている。

 

 折本は俺と付き合っていた頃──正確には中学の頃の様に色々と助けてくれている。津久井と比べて『一緒にいる時間』というアドバンテージを持っている折本は、ある程度俺の言動を知っているところがあって、俺が言おうとする前に目的のものを用意してくれたりとなかなかに気が合う。

 

 一方、津久井もこの一ヶ月である程度は俺を理解出来たらしく、折本ほどとはいかないまでもだんだん俺とのシンクロ率が増えてきた。

 

 かくいう俺も、この一ヶ月間何もしていなかった訳じゃない。

 

 必死に、津久井を、折本の事を理解しようと努めていた。

 

 何もする事がない上、時間が有り余っているためその位しかやることがなかった。

 

 その結果二人のいろんな面が見えたのだ。

 

 

 津久井の優しいところ。友達を大切にしている事が分かるその言動。明るいけど決して目立ちはしない、いい意味で普通な性格。少しおっちょこちょいなところ。

 

 折本の正義感。物事を正確に見抜く事の出来る力。周りを巻き込む明るい笑顔。見かけや言動によらず案外真面目なところ。

 

 

 そして何より、二人とも俺を好きでいてくれる、その気持ち。

 

 

 そんな二人の多彩な面を捉える事ができた。

 

 

 でも、だからこそ俺は津久井に別れた事を告げようと思った。

 

 ちゃんと話して、そしてその上で、という事だ。……今の津久井なら、というのが一番の理由ではあるが。

 

 

 だから──

 

「津久井、話があるんだが、いいか?」

 

 二月に入り、寒さが一層増してくる。ここ最近は雪が降り続き、窓から見える家々の全ての屋根は白くなっていた。

 

「なんですか?比企谷君」

 

「折本も、聞いてくれ」

 

「どうしたの?」

 

 二人がそれぞれ俺のベットの両側に集まる。

 

「津久井、俺は──いや、俺と折本は────」




今年も今日でおしまいです。
この投稿が18:00、つまり午後6:00ですから、その六時間後には日付が変わって新年になっている訳です。

今年の十一月八日に最初の投稿をしてもう一ヶ月。そろそろ二ヶ月目です。

そんな短期間でも読者の皆様からは沢山の応援コメントや意見コメント、評価、更には沢山のお気に入りを貰いました。それを励みにして今までずっと頑張ってきました。

今年はここで終わりますが、来年も私の身に何か起こったりしなければ今までと同じく同じ曜日、同じ時間帯に投稿していく予定です。この後は予定通りいけばあと一山、もしかしたら二山ある予定ですが、明日以降の新年度もよろしくお願いします。


尚、一月の第一週、及び第二週は休みを取らせて頂きます。お正月で色々忙しいので、勝手ですがすみません。


なので、少し早いですがこの場で

『あけましておめでとうございます』

と言わせて頂きます。まだ明けてませんが。



これからも寒い日が続くと思うので、体調管理にはお気をつけてお過ごし下さい。
短い間ありがとうございました。来年度もよろしくお願いします。

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