「折本──」さて、この後に続く言葉は──   作:時間の無駄使い

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今回、始めて八幡以外の視点を採用しました。慣れてないですので甘く見て下さい。


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「比企谷!?」

「比企谷君っ!!?」

 

 起こりうる事態を想定し、咄嗟に動き出した俺は、急な動きでついてこられていない足を無理矢理動かしながら同時に、並んで立つ彼女達の腕をそれぞれ取り、たまたま自動ドアが空いていた店に向かって思いっきり引っ張る。

 

 気を配っている暇すらなかった。

 

 折本達が向いていた方向とは違う方向から、反対車線を突っ込んでくるダンプカーが見えたのだ。

 

 ──ダンプカーを確認してから動いた時には、既に交差点に進入を開始していた。

 

 そんな状況で、気を使っている暇などある筈もなく、下手したら怪我をさせてしまうかもしれないが、命を落とすよりはマシと考え──

 

 

 ──気付けば俺を軸に振り回すようにして二人を引っ張り、近くの店に無理矢理入れようとしていた。

 

 どこでもいいから引こうとして、一瞬もない時間で考えながら動く。

 

(くそったれ!一番近いのはひじか手だ。どっちのがいい!?……いやダメだ!驚いて手を握られたりしたら放す時に遅れかねない!つまり、手を絶対に掴まれない場所!手首か!!)

 

 当然、二人は状況が飲み込めていない。

 

 だが構わずに俺は実行した。

 

 

 閉まりかけの自動ドアの方に振り回したあと、流れるように突き飛ばす。

 

 

 ──その直後だった。

 

 

 歩道を掠めるように走って来たダンプカーは、歩道に建っていた信号をなぎ倒しながらこっちに来て、俺にぶつかった。

 

 

 大きな衝撃の後、斜めに弧を描くように吹き飛ばされる。

 

 視界は赤く、何もかもが判別出来なかった。

 

 

 その次に、再び衝撃が来る。どうやら地面にぶつかったようだ。腕が振り回されて叩きつけられたような格好になったことで一瞬だが腕に激痛が奔る。

 

 ──そして、身体を焼き切るような痛みの中で、俺の耳は叫び声と一緒に、二人の声も聞いていた。判別出来た。

 

「ぁ…………ぁ……ぁっ……ぁぁっ…ああ………あああああっ……あああああああああっっっっっっつつつっ!!!????」

 

「ひ………き…がや……君………?……比企谷君!!!?比企谷君!!比企谷君!!!??」

 

 ──折本の叫び声と津久井の俺を呼ぶ声。

 

 

 なぜかこの二つの声だけは、沢山の声の中で判別出来た。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──折本かおりサイド──

 

 一瞬の出来事だった。

 

 映画が終わり、次にどこに行くかを隣を歩く津久井さんと話してした時だった。

 

 ──比企谷と別れた事で頭がいっぱいになってしまって、少し上の空になってしまっていたのもあるだろう。

 

 

 信号待ちをしていた私達に、危機がすぐそこまで迫っているなど、考えもしなかった。

 

 

 そして──

 

 

 ──グンッ!

 

 

 急に腕を引かれ、バランスを崩しそうになる。

 

 それをなんとか堪えていると、次は突き飛ばされた。

 

 

 その、直後だった──

 

 

 ──ガンッ!ドッ!

 

 鉄が折れるような音が聴こえ、次いで前の音と比べると小さい音で何かにぶつかる音。

 

 態勢が崩れていたが気にせずに振り返ると──

 

 

 ──比企谷が空中にいた。

 

 

 

 そして、私の頭はこれ以上考える事をやめ、私は叫び出した。

 

 あまりにも非現実的過ぎた。

 

 

 背中から着地し、バウンドした比企谷に駆け寄るのが精一杯だった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 その後、警察や消防が来てその場は慌ただしい空気に包まれていた。

 

 比企谷は救急車に乗せられて病院に搬送された。救急隊員の人の話を聞いた限りでは学校から担任の先生も同時で同じ病院に向かっているらしい。

 

 

 一方私と津久井さんは、事情聴取を受けた。

 

 ただ、私は勿論話せる状態じゃないし、津久井さんもそれは変わらなかった。しかも、話せる事はほとんどない。

 

『比企谷が私達を庇って事故にあった』

 

 それだけだ。

 

 ダンプカーの軌道も、比企谷の行動も見ていなかった。

 

 これ程に自分を恨んだ事は恐らく自分史上初のことだ。

 

 でも、自傷とかは絶対にしない。比企谷の行動から意味すらとったらそれは無駄なものになってしまう。だから、自暴自棄にだけはならないように自分を保った。それこそ全力で。

 

 

 それでも悪い考えは振り払えなくて──

 

 

 

 どうしてこうなっちゃったの?私がいたから?それとも私達が周りに注意を向けてなかったから?比企谷が助けてくれなかったら?なんで比企谷はこんな事したの?また、自分を犠牲にしたの?どうして?身体はって命まで危険に晒して───どうして?

 

 

 

 グルグル回り続ける終わりのない自問自答。

 

 答えが出ていたものも混ざっているのにそれすら思い出せない。

 

 混乱──。

 

 

 自分の事を消したい。自分さえいなければ。……あのダンプカーさえいなければ。

 

 

 

 結局なにも整理出来ないまま、私は津久井さんと一緒に警察の方が用意してくれた椅子に黙って座り続けていた。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──総武高校サイド(平塚先生)──

 

 クリスマスもいよいよ近づき、リア充どもを締め上げたくなる季節になった事でイラつき始めていた普段通りの私は、一色が持って来たクリスマスイベントの内容を書いた紙に目を通していた。

 

 クリスマスまでの日程と今までの生徒会の仕事の頻度を考えて、イベント前にコミュニティセンターへ行くのはあと二、三回程度だろう。ただ、もしかしたらもう行かないのかもしれない。一色からの報告を聞いた感じでは、既に仕事のほぼ全部が終わっているらしいので、あとは最終調整的なことがある、くらいなのだそうだ。

 

 十二月で十分に寒いが、それでも学校への勤務を怠るわけにはいかないので今日も今日で学校に来ている訳だが──

 

 

 ──いつものように静かで、カタカタとキーボードを叩く音の響いていた職員室に掛かって来た一本の電話で、その空気は消滅する事になる。

 

 

 プルルルルルッ、プルルルルルッ

 

 職員室備え付けの電話数台の内の一台が着信アピールをする。

 

 それを近くにいた女の先生がとったあと、変化は起こった。

 

「生徒が事故に遭いました!!現在病院に向かってるそうです!!!」

 

 怒鳴る──というより悲鳴混じりの声で職員室全体に知らせる。

 

 突然の事に電話をとった本人含め、ざわつき、慌てふためいた。

 

 そして、その生徒の名前に再び驚く事になった。

 

 

「──2年F組、29番、比企谷八幡」

 

 

 

 * * *

 

 

 

 その後、私は大急ぎで比企谷家に連絡をいれた。他の人もざわついていたがそれの比ではない。

 

 そして電話が終わり次第、現在救急車が向かってるという病院へ向けて直行する。担任が私で、生活指導も兼ねている為、私が行くことに反対した先生はいなかったが、校長がついて来た。

 

 焦る心を抑え込み、アクセルを踏む足に入った力を抜く。

 

(状況が全くわからない。比企谷の傷の具合も。……とにかく今は安全に向かうことを優先して──)

 

 救急隊員は具体的な事は話してくれなかった。恐らくは情報の拡散を恐れたのだろうか。なにせ電話を受け取ったのはなんの関係もない教師だった。しかもそこで通話を切ってしまったのだ。だからいまいち状況が把握出来ずにいた。

 

 

 そんな中でも出来るだけ早く動き出せたとは思うが、

 

 

 目的地に近づくにつれて大きくなる不安に、気付かずにはいられなかった。

 

 

 

 * * *

 

 

 

 ──比企谷家サイド(比企谷小町)──

 

「んじゃあ、ちょっくら行ってくるわ」

 

「お兄ちゃん、それってデート?デート?」

 

「大事な事だから二回言ったのか?でも残念だったな、違うぞ」

 

 今朝、お兄ちゃんはそう言って玄関の扉を開けて出て行った。

 

 いつもと変わらない捻くれた性格を全面に押し出し、アホ毛をぴょんぴょんさせながら、我が兄であるところの比企谷八幡は出て行った。

 

 ──だが当然、この時の小町はあんな事になるなんて、想像すらしていなかった。

 

 

 お兄ちゃんが朝出て行ってから、小町はダラダラと午前中を過ごしていた。テレビを見たり、カマクラと遊んだり、勉強も少しした。お兄ちゃんの部屋に入ってお兄ちゃんのベッドに寝転んでお兄ちゃんの本を読んだり。

 

 

 ──そして、そんな時に一本の電話が掛かってきた。

 

 

 その電話には小町は出なかった。お兄ちゃんの部屋で寝転んでいたし、小町が行こうとする前に着信音が切れたことから下のリビングにいたママが取ったんだろう。──その程度にしか考えてなかった。

 

 

 そして──

 

「………こま…ち……こまち……小町!!!!」

 

 ママが私の名前を何度も呼ぶ。その声には絶望の色が滲み出ている。

 

 

 “何かあったのだろうか”。

 

 

 それしか──その程度しか、小町は考えていなかった。それでも急いで()りる。

 

 

 

 

 

 

 そこで最初に目に飛び込んできたのは、受話器を持って電話の前で泣き崩れている自分の母親だった。

 

 




このSSに全く関係のない事なんですが、読者の皆さんは【あの夏で待ってる】っていうアニメ、知ってますか?この間久しぶりに見たんですが、そのアニメのSSがほとんどなくてビックリしました。結構マイナーなんですかね?いい話なので、是非見て下さい。

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