ガラガラ、と窓が開く音がした。
窓の下にある俺のベッドに『何か』の加重がかかり、ギシギシと音を立てる。
冷気が部屋中を蹂躙して回るのを、目は開けず顔だけ出して布団の中で体を丸めながらも、感覚的に理解する。
ーー瞬間、カーテンがレールを滑る気持ち良い音。
しかし外はあいにくの曇りで、網膜への刺激は薄い。
ガラガラ、と再び窓を動かした音が響く。
外気はシャットアウトされたものの、未だにその名残はある。
目を閉じたままの視界が少し暗くなり、何かが耳元で囁いている。
「…く〜ん、朝ですよー。翼く〜ん?」
ーーこうかは ばつぐんだ !
冬とは気色が違う初春の寒さを肌で感じつつ、ゆっくりと布団を除けて体を起こす。
ぼーっとした頭を必死に回転させて、セーラー服に身を包み、何食わぬ顔で足元に正座している彼女に問いかける。
「…え?いや、なんでいんの?」
目を細め、お上品に笑って一言。
「昨日も、一昨日もその前も、高校入ってからずっと起こしてあげてるじゃないですか。忘れちゃったんですか?」
何が面白いのかニコニコと笑みを浮かべ、コテンと首を傾げる彼女。
天性のあざとさ、幼さには、我が幼馴染ながら感服である。
「いや、それは事実なんだけどさ…」
俺の記憶が確かなら、
「ーー今日、日曜日。」
枕元にあったスマホのロック画面を見せる。
ちらっと見えた数字は七時三十分。
平日ですら八時起き。休日はいつも昼過ぎまで寝ている俺にとっては、そうそうお目にかかれない時間だ。
一瞬目を見開いた彼女は、スマホの画面を穴が空くほど見つめてから口に手を添えて、また上品な笑いを零した。
「………
「明らかに『ちょっと』じゃねーよ目ぇ覚めちまったじゃねーかちくしょー」
あーあと呟いてベッドから降りる。
「取り敢えずソレ、着替えてこいよ。
休日にわざわざ着る意味もねーし。堅っ苦しいだろ?」
はーい。と返して、窓枠に足をかける彼女。
構図だけ見たら
スカートがイイ感じに揺れる。見えそうで見えないチラリズム。
こんな時に限って何故春一番は仕事しないのか。(失望)
…さて、くだらないこと考えてないで、俺もいい加減着替えねば。
「…あ、翼くん」
「ん?」
「ーーおはようございます♪」
鶯色の、ふわふわとしたボブカット。
きめ細やかな白磁の肌。
左目の泣きぼくろ。
しなやかな指に、瑞々しい太腿。
そして何より彼女を象徴する、蒼と翠のオッドアイ。
「…ああ、おはよう、楓」
ーーどこからともなく、怨嗟の声が聞こえた気がした。
大学まで一気に飛びます