アスナ「私のお兄ちゃんが小さくて可愛い」 作:アルティメットサンダー信雄
しばらく待ってると、青い髪の男が噴水の淵に跳ね上がった。
「はーい、それじゃ、五分遅れだけどそろそろ始めさせてもらいます!」
と、その声でキリトとアスナは前を向き、BFはアスナの肩に頭を置いて寝ていた。
「ホント、どっちが兄だか姉だか分からないな……」
「かわいいでしょー」
「いや、まぁ、うん」
そんな事を話してるうちに話は進む。
「今日は俺の呼びかけに応じてくれてありがとう!知ってる人もいると思うけど、改めて自己紹介しとくな!俺はディアベル、職業は気持ち的に『ナイト』やってます!」
直後、周りのプレイヤーはどっと沸き、口笛や拍手が飛んだ。それにディアベルは軽く手を振って返すと、話を続けた。
「さて、こうして最前線で活動してる、言わばトッププレイヤーのみんなに集まってもらった理由は、もう言わずもがなだと思うけど今日、俺たちのパーティがあの塔の最上階へ続く階段を発見した。つまり、明日か、遅くとも明後日には、ついに辿り着くってことだ。第一層のボス部屋に!」
「ちょっとそーちゃん、会議はじまったよ。起きて」
「………ブラックコーヒーなんて飲めるかよ……」
「ああもうっ!可愛いから早く起きてよ……!」
何悶えてんだこの女……と、キリトは思いながら、人一人分、アスナと距離を開けた。
「一ヶ月、ここまで一ヶ月もかかったけど、それでも俺たちは示さなきゃならない。ボスを倒し、第二層に到達して、このデスゲームもいつかクリアできるんだってことを、はじまりの街で待ってるみんなに伝えなきゃならない。そうだろ、みんな!」
再び、喝采。ディアベルの仲間以外にも手を叩いている者が増えた。
その音が耳障りだったのか、ようやくBFは目を覚ました。コシコシと目を擦りながら大きく欠伸をすると、そのBFの頭をアスナが撫でた。
「起きた?」
「………むー」
「まだ寝惚けてるみたいね」
ズルッとBFの頭は揺れ、アスナの胸前まで倒れ、そこでアスナは片腕で受け止めた。ずーっとぼんやりしてるBFの頭をずっと撫でてあげてる様子をキリトはまったく無視して前を向いていた。
「ちょお待ってんか、ナイトはん」
そこで別の声が割り込んだ。小柄ながらにがっちりとした体格の男だ。サボテンのようなヘアスタイルがキリトの目に入った。
「そん前に、こいつだけは言わしてもらわんと仲間ごっこはでけへんな」
その声が聞こえた時、ようやくBFは完全に目が覚めたようだ。んーっ、と軽く伸びをした。
「始まっちゃった?」
「始まってるわよ。ほら、前」
アスナの指差す先では、ディアベルがサボテンに名前を聞いていた。サボテンは鼻をフンッと鳴らすと名乗った。
「わいはキバオウってもんや」
直後、ブッハ、とBFから笑いが漏れた。その場にいた全員が振り向き、キリトはフッと目線を逸らして他人のフリをした。
「ブハハハハ!何その髪型、何その厳つい名前!頭から牙生やさせてどうすんだ‼︎ブハハハハハハ‼︎」
「な、なんや自分!」
「や、ごめっ……寝起きでいきなり変なのが目に入ったから、ついっ……プークスクスwww」
「ごめんなさい、この子ちょっと頭おかしい子なので私達だけこの辺で失礼します。明日からの会議までにはキチンと教育しておきますので」
アスナはペコペコ謝りながらその場を去り、BFは笑い転げながら引き摺られた。
この後、2人でメチャクチャ爆笑した。
1
翌日、再び会議。二人はなるべくキバオウを見ないようにして参加した。幸い、昨日の会議は実務的な議論は行われなかったそうで、二人揃って安心した。
会議にいるメンバーは全員、アルゴの攻略本を手にしている。その裏面には【情報はSAOベータテスト時のものです。現行版では変更されている可能性があります】の文字が書かれていた。
アスナから受け取ったその攻略本を眺めながら、BFは呟いた。
「………アルゴって誰だっけ?」
この時の呟きは全員に無視された。
やがて、ディアベルが声を張り上げた。
「みんな、今はこの情報に感謝しよう!出所はともかく、このガイドのお陰で二、三日はかかるはずだった偵察戦を省略できるんだ。正直、すっげー有難いって俺は思ってる。だって、いちばん死人が出る可能性があるのが偵察戦だったからさ」
その声のお陰で、周りのメンバーはうんうんと頷いた。
「こいつが正しければ、ボスの数値的なステータスはそこまでヤバイ感じじゃない。きっちりタクを練って、ポットをいっぱい持って挑めば、死人なしで倒すのも不可能じゃない。や、悪い、違うな。死人ゼロにしよう!」
それによって全員から盛大な拍手が上がった。
「………こいつが完全に正しければ、な」
真面目な顔で呟いたBFの声は、隣のアスナ以外には届かなかった。
「それじゃ、早速だけどこれから実際の攻略作戦会議を始めたいと思う!何はともあれ、レイドの形を作らないと役割分担も出来ないからね。みんな、まずは仲間や近くの人とパーティを組んでみてくれ!」
この場にいる人数は45人、SAOの1パーティは6人。つまり、3人余る。キリトが必死に計算してる中、BFは真面目な顔で本を眺めていて、その様子をまじまじアスナは眺めていた。
よって、仲良く3人あぶれました。キリトは大きくため息をついた。
2
会議が終わった。3人は取り巻き処理班の溢した取り巻きを処理するという大変残念なおまけ役となった。会議の帰り道、アスナがキリトに声を掛けた。
「ねぇ、さっきの会議で気になったんだけど」
「何?」
「あのスイッチだのポットだの言ってるのは何なの?どういう意味?」
「えっ………?」
「私もそーちゃんも、オンラインゲームは初めてなの」
「なるほど……なら、その辺全部引っくるめてこれから説明しようか?」
「そうしてくれると助かるわ。そーちゃんも良いでしょ?」
「や、俺はパス。先帰って寝るわ」
「はぁ?」
「説明は後からアスナに聞く。じゃ」
そう言うと、BFはさっさとその場から走り去って行った。