アスナ「私のお兄ちゃんが小さくて可愛い」   作:アルティメットサンダー信雄

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オーバーキル

それから一ヶ月。二千人のプレイヤーが死んだ。それなのに、一層もクリア出来ていない。

キリトはそれでも攻略を進めていた。迷宮区の奥、そこで、鬼気迫るようにモンスターを倒し続けている影を見かけた。フードを深く被ったそのプレイヤーはぶっ通しでモンスターを狩り続けていた。

コボルドの斧を三連続で避けた後、レイピアの先端が見えないほどの高速でソードスキルを叩き込む、という戦闘を続けていた。

辺りのモンスターを狩り終えると、そのままずるりと座り込んだ。随分と荒い呼吸を繰り返している。

キリトは少し悩んだものの、声をかけることにした。近付くと、気付いたのかピクッと肩を震わせたが、キリトの顔に気付き、ホッとする。

 

「……さっきのは、オーバーキル過ぎるよ」

 

「…………?」

 

若干、首を傾けるプレイヤー。意味がわからなかったのかな?と、解釈したキリトは、説明を加えた。

 

「オーバーキルっていうのは、モンスターの残りのHPに対して、与えるダメージが過剰だって意味だ。さっきのコボルドのとどめは、ソードスキルじゃなくても、軽い通常技で十分だったはずだ」

 

「………過剰で、何か問題あるの?」

 

言い返された。

 

「システム的なデメリットはないけど、効率が悪いよ。連発し過ぎると精神的な消耗が早くなる。帰り道だってあるんだし、なるべく疲れない戦い方をしたほうがいい」

 

「………それなら大丈夫、私帰らないから」

 

「は?か、帰らないって、街に……?」

 

キリトがそう聞いた直後、ガサッと何処かから別の男が現れた。自分より6〜7cmほど身長の低い男、顔立ちがなんとなくフードの女に似ていた。

 

「うぃーっす」

 

「あっ!まだ早いわよ時間!」

 

「で、レベルいくつ?」

 

「だから早いって!」

 

「その様子だとお前、全然レベリングしてなかったろ」

 

「う、うるさい!その分、もう3日はここで粘ってるんだから‼︎」

 

「はい、あと1分な」

 

「あ、ズルいわよあんた!」

 

なんだなんだ?と、キリトがポカンとしてる間に、フードの女性は慌ててコボルドを狩り始めた。

1分たった。「しゅーりょー」という気の抜けた声で、フードのプレイヤーは大人しくなった。キリトが帰って良いのかダメなのか悩んでると、フードとチビはお互いに声をかけた。

 

「じゃ、何レベ上がったか」

 

「せーのっ」

 

「9」

「8」

 

「はい俺の勝ちィイイイイ‼︎」

 

「ああああ!また負けたあああああ‼︎」

 

その台詞にキリトは少なからず驚いた。この目の前のアホカップル(?)は少なくとも3日でレベルを10近くあげたと言うのだ。

すると、キリトにようやく気付いたチビが声を掛けた。

 

「あれ、誰だお前」

 

「んー、なんか私にアドバイスくれた人。オーバーキルは効率が悪いんだって」

 

「へー」

 

「あ、どうも。俺はキリト」

 

「私はアスナ、こっちは弟の……」

 

「弟じゃねぇっつってんだろオイ」

 

「びーえふ、でいいの?読み方」

 

「ブラックフェザーじゃねぇぞ」

 

「分かってるわよ。そーちゃん」

 

「そーちゃんって呼ぶなって言ってんだろコラ殺すぞオイ本当に」

 

「え、えーっと、なんか大丈夫そうだし俺行くな」

 

キリトは軽く会釈して去ろうとした。が、その前に足を止めて二人の方を見た。

 

「あ、でもその前に」

 

「「?」」

 

「今日の夕方から、トールバーナの街で第一層攻略会議があるんだ。二人とも、良かったら顔を出してくれ」

 

それだけ言って、キリトは立ち去った。

 

「だとよ」

 

「どうする?」

 

「行こうか、暇だし」

 

「そーちゃんは私が守るからね」

 

「せめて俺よりレベル上げてから言え」

 

 

1

 

 

二人は街に帰った。夕方まで時間がある。それまでアイテムの補充をすることにした。ポーションだのなんだのを買い揃えた後、のんきに歩いてると、BFが急に立ち止まった。

 

「? どうしたの?」

 

「…………」

 

アスナに聞かれるのを無視して、後ろを向いて路地裏に向かって歩く。そして、その路地裏に手を突っ込んだ。

 

「ぎにゃっ⁉︎」

 

BFの手にはアルゴが掴まれていた。

 

「あ、あら?アルゴさん?」

 

「テメェ、今までずっと俺のことつけてやがったな」

 

「ま、待った待った!謝るからタンマ!」

 

慌てて両手を振り回すアルゴ。BFはパッと手を離した。

 

「っ痛て……乱暴な奴だナ」

 

「うるせぇ。アスナ、こいつ知ってんの?」

 

「うん。情報屋さんだよ。割となんでも知ってるんだから」

 

「ふぅん。で、俺のことを尾行して弱みを握ろうとしてたわけか」

 

「オイラは興味あるプレイヤーしか尾行しないンダ!尾行されるだけ光栄と思うんだナ!」

 

「それ、可愛い子しかストーキングしないとほざくストーカーと同じだからな」

 

「別に弱味を握ろうとしてたわけじゃないゾ。ただ、面白い事ないカナーって」

 

「それ弱味だよね。とりあえず、もう歩けなくなるようにお前の脚切断するわ」

 

「ま、待て待て待て!分かった、もうついて行かないから‼︎」

 

「じゃあ、次ついて来たら?」

 

「………千コルで許して下さい」

 

「二千コルな」

 

「はぁ⁉︎」

 

「足ちぎるぞ」

 

「………わかったヨ。まったく、オイラの隠蔽が見破られるなんて……」

 

「そいつは残念だったな」

 

そう言うと、BFはアスナを連れて噴水広場へ向かった。

 

 

2

 

 

第一層攻略会議には、すでに40人以上の人数が集まっていた。

 

「こんなに、たくさん……」

 

アスナが声を漏らした。

 

「え、これ多いの?」

 

「さぁ?けど、死ぬかもしれないのにこの人数は多いんじゃないかしら?」

 

「あー、なるほど。そーいう意味か。いや、でも八千人いてこれしかいないのは少ないだろ」

 

「うーん……確かに」

 

「せめて100人はいるもんだと思ってたけどな」

 

「えー、それは多過ぎじゃない?」

 

「あー確かに、1つのゲームに100人はないか」

 

二人ともゲームなんてポケモンかスマブラかモンハンくらいしかやった事なかった。

ゲームが始まって一ヶ月過ぎているからか、プレイヤー達の中では、既にパーティも組まれていた。一方、アスナもBFもほとんど二人が一人で組んでいるので、アスナはこの時点で少し帰りたくなっていた。

一方のBFはそんなの全く気にした様子なく、広場の真ん中に陣取って座った。自分もそこに行くべきか迷ってると、後ろから声がした。

 

「あ、」

 

キリトが今来たようだ。アスナは軽く会釈して返す。

 

「今来たんだ」

 

「お、おう。弟は?」

 

そうキリトが質問した直後、広場の中央から石が飛んで来て、キリトの顔面に直撃した。

 

「弟じゃねぇ、兄だ」

 

「な、何しやがんだテメェ……」

 

「どっからどう見ても俺の方が兄だろうが」

 

「…………」

 

「…………」

 

「おい、アスナ。何、テメェまで黙ってんだコラ」

 

「さ、会議始まるよ」

 

「そうだな」

 

「おい、待て。話し聞け、答えろやオイ。オーイ」

 

二人は無視して座った。

 

 


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