アスナ「私のお兄ちゃんが小さくて可愛い」 作:アルティメットサンダー信雄
茅場晶彦から告げられたクリアするまでログアウト不可。それを聞いた直後、アスナは手に口を押さえて汗を大量にかいていた。ゲームで死んだら死ぬ。しかもそれは自分だけではない。隣の兄もだ。予想外の展開に、思わず涙目になった。
ふと隣の兄を見ると、膝と両手を地面について、絶望していた。あの母親に反抗して公立の中学にいったこの人にも恐れるものがあるのか、と思いながらマジマジとBFを眺めてると、ボソッと声が聞こえて来た。
「……………身長が元に戻った」
ブハッ、と笑った方じゃなくて吹き出した。直後、ギロリとBFはアスナを睨む。
「おい、テメェ今笑ったか?」
「笑ってないわよ!ていうか、状況考えなさいよ!なんでこの事態の時にそんな呑気な事考えてるわけ⁉︎」
「呑気じゃねぇよ‼︎テメェに俺の気持ちがわかるか⁉︎高身長になった夢が覚めたみたいな感じだぞ今の俺!」
「知らないわよ‼︎この世界じゃ殺されたら死ぬの!分かってるの⁉︎」
「わーってるよ!だから何だよ」
「はぁ?」
アスナは心底バカにしたような顔でBFを見た。
「そんなの誰だっていつだって同じだろうが。俺たちは死なないように慎重にゲームをクリアすれば良いだけだろ」
「でも、慎重になり過ぎると私達がクリアする前に体が持たないわよ⁉︎」
「だから慎重にって言ってもある程度迅速にだ。それに、ここはゲームの世界、モンスターといってもちゃんと攻撃パターンはある。その辺をちゃんと見極めてれば死にはしない」
「……………」
「………なんだよ」
「意外と冷静だなぁって。そーちゃんなら『殺す!茅場ブッ殺す!』とか言い出すと思ってたのに」
「お前が俺のことをどう思ってるのかよくわかった。とりあえずあとで殴る。あとそーちゃん言うな」
「いつも口が悪い方が悪いのよ」
「………チッ、まぁいい。俺、早速外で狩りして来るから」
「はぁ?もう?慎重にって言ったのそーちゃんじゃん」
「どうせやるなら俺は一番強いプレイヤーになる。その為にスタートダッシュは重要だ」
「……………ガキ」
「なんか言ったか?」
「何でもない。なら、私も付いて行く」
「あっそ。勝手にしろ」
二人はフィールドに出た。
1
外に出ると、既に何人かのプレイヤーは戦闘していた。BFも早速、イノシシと向かい合った。
「これ、モンスターだよな」
「うん」
突進して来るイノシシ。BFは片手剣を構えた。剣道の中段構えだ。リアルでは剣道をやっていたのだ。
突進を横に避けると、イノシシの横に軽く体当たりしながら引き面を放った。
「ちょっとー、何やってんの?剣道じゃないんだよ?」
「うるせぇ、癖だ」
返事しながら後ろからイノシシを追い、突きを放った。イノシシは前に転がり、ダウンする。
「………なんか、あれだな」
「どしたの?」
「剣道って、剣道同士の戦闘だとやりにくいな」
「そりゃそうだよ。特に、そーちゃんは打ち込みに行くっていうより、手の内だけ効かせて音が出るように当ててるだけだもん」
アスナは昔から良く蒼炎の剣道を見ていたため、詳しくなってしまった。
「なるほど、完全に剣道用の剣道をしてたわけか」
「何ならさ、アニメみたいにメチャクチャしてみれば?」
「と言うと?」
「片手で剣持ったり」
「………なるほど、その発想は無かった」
言われてBFは剣を片手で持った。イノシシは再び起き上がり、突進して来る。それを横に避けながら、剣を正面から振り抜いた。
見事にイノシシの顔からケツまでに赤い線が入る。
「なるほど、片手の方がいいな」
「いや、ただの片手の抜胴じゃない今の」
「良いんだよ、この方がやりやすい」
イノシシの突進を避けて攻撃した。そのまま斬ること6回、ようやくイノシシは倒れた。
「………ふぅ、疲れた」
「ていうか、攻撃パターンも何も全部突進だったね」
「この辺のイノシシはそうなのかもな。よし、とりあえずこの辺で今日はレベル5〜8くらいまで上げとくか」
「……うん。じゃ、私も戦う」
「勝手にしろ。気を付けろよ」
「分かってるわよ」
そのまま二人はイノシシ狩りを始めた。
2
狩り続けること数分、気が付けば次の街まで来ていた、途中、イノシシ以外も出て来て殺していたのだが、それらの行動パターンも読んで、覚えておいた。
で、今は宿。
「で、なんでテメェは俺と同じ部屋にいんだ?」
「え?」
「え?じゃねぇよ!なんで同じ部屋にいるんだって聞いてんの」
「何、お姉ちゃんと同じ部屋だと緊張して眠れないの?」
「殺すよホント。お前に欲情するくらいなら犬に欲情するわ。あと誰がお姉ちゃんだ愚妹」
「いいからほら、寝ましょう?」
「ベッド一つしかないんだけど」
「いいから!」
「………チッ、詰めろよお前」
「はーい」
同じベッドに入る二人。
直後、BFは速攻で寝た。すぐに小さな寝息を立てていた。
ベッドの端にいたアスナは、もぞもぞと布団の中を移動すると、後ろからBFにギュッと抱き着いた。
「………そーちゃん」
アスナの手は震えていた。