魔法少女育成計画 -Suicide Side-   作:∈(・ω・)∋

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*** 第五章 スーサイド・サイド ***

◆ ユミコエル ◆

 

 高橋病舞子のハーブを持った(、、、、、、、、、、、、、)ルール(、、、)シールを封印して敵陣に投げ込む(、、、、、、、、、、、、、、、)

 

 大雑把にジェノサイダー冬子が提案した作戦はそんなところだった。ユミコエルがルール・プリズムを投げ込み、そのあとは遠距離攻撃で敵を……煌輝スターを引き付ける。

 その隙を見て、ジェノサイダー冬子が、敵のこもっている土産物屋に接近し、窓の中からルール・シールを解放する。

 

 その直後、煙に紛れてルール・シールはチックタックを、あわよくばメイククイーンを封印する――勿論、全部うまくいくかは大いに賭けだ。何よりルール・シールを敵陣に放り込むという無謀さがありえない。この戦いは究極的にはルール・シールの争奪戦なのだ。

 

「反対でござる! それで敵に捕縛されたらどうするのでござるか!?」

 

 案の定、ティンクル・ベルが声を荒げた。彼女はそもそもルール・シールを守るためにここにいるのだから無理はないが。

 

「リスクを背負わずに勝てる相手なら安全策でもいいけど」

 

 ジェノサイダー冬子の目は常に正気だ、冷静なまま、頭のおかしいことを平気で言うのだ。ユミコエルはよく知っている。

 

「現状不利だから、どっかで勝負をかけたいんだよね、連中が補給を終えて、建物から出てきたらもうこの作戦は使えない、チックタックを封印できない」

「それにしてもルール・シール殿にリスクを背負わせる必要はあるまい! 高橋にやらせればよいでござろう!」

「おいてめえふざけんなコラ」

 

 高橋病舞子が真に迫った抗議の声を上げた。

 

「いや、ルル子ちゃんじゃないとダメ、高橋さんじゃないと煌輝スターに勝てないし、ティンクルさんじゃないとまきゅらさまに勝てない」

「あたしも戦力換算かよ!?」

「……どういう意味でござるか」

「説明はあとで。ユミコエルはプリズムを投げ込んで、相手を威嚇・牽制しないといけない、私は封印を解除しないといけない、だからルル子ちゃんしかいない」

 

 肝心のルール・シールは俯いていた。無理もないと思う。一番リスクに晒されて、一番危険な目に合うのは彼女だ、その上で、成功する保証はない。

 

「……冬子さん、その作戦、成功率ってどんなものだと思いますか?」

「んー、四割」

 

 あっさりと言い切った。

 

「だらだらしてて相手が攻勢に出てきたらアウト、ユミコエルがうまくルール・プリズムを投げ込めなかったらアウト、敵が狙撃で動揺してくれなかったらアウト、私が近づけなかったらアウト、封印状態のルル子ちゃんが解放直後にうまく動けなかったらアウト、敵が籠城戦を挑んできたらアウト、煙に紛れてルル子ちゃんが逃げ切れなかったらアウト」

 

 淡々と失敗条件を述べていくジェノサイダー冬子、話にならない、とティンクル・ベルが吐き捨てた。

 

「……やりましょう」

 

 その空気を、ルール・シールの一言が変えた。

 

「ルール・シール殿!?」

「だって! 私がリスクを犯さないようにするって、皆がその分、危なくなるってことじゃないですかぁ!」

 

 ぼろぼろと涙があふれていた。怖いのだろうし、なんでこんな目に、と思っているのだろう。それでもルール・シールは叫んだ。

 

「もう嫌ですよぉ! 私、他人の都合で振り回されるの、真っ平です! いい加減にしてくださいよぉ! なんでこんな目に合わなきゃいけないんですか! 希望も夢もないですよぉ! 帰りたいってそれだけなのにぃ!」

「ルール・シール殿……」

「私だって一矢報いたいですよぉ! 口が裂けても守られてばっかりで心苦しいとか言えませんしずっと守って欲しいし危険な目になんてあいたくないですけど!」

「私ルル子ちゃんの隠し事できないとこすげー好き」

「でも! ここで一発かまさなきゃ! 私、ずっと舐められっぱなしですよぉ……私の魔法なんです、誰より私がうまく使ってみせますぅ! だからやりましょう! あのメイドぶっ殺してやりますぅ!」

 

 目が据わっている、理不尽に対する怒りか、あるいは運命にもてあそばれ続けた人間の憤怒か。

 なんにせよ、一番危険な立場であるルール・シールが、自分からやると言って、反対する魔法少女はいなかった。

 

「……ユミコエル殿は、なにかないのでござるか」

 

 諦めたようにため息をつくティンクル・ベルが、せめてとの抵抗にと言わんばかりに、訪ねた。

 

「この人が無茶言うの、いつもの事なので」

 

 もとよりユミコエルは反対するつもりはない、ジェノサイダー冬子が無茶を言うなら、文句を垂れながら従うのが役目だ。

 

「ちなみにユミコエル、初っ端外したらそれでもう終わりだけど、自信のほどは?」

 

 ユミコエルは、胸を張って言った。

 

「私、ストラックアウト、パーフェクトでしたけど?」

 

 何かを投げて攻撃するのが、ユミコエルにとって最良の手段であることは、とうに自覚している。野球ボールもコンクリ片もルール・プリズムも、大して変わりはしない。

 

「オッケー、頼むよ。 あ、そだ、ルル子ちゃん、もう一個お願いがあるんだけど」

「はい! 槍でも銃でも何でもきやがれですぅ!」

 

 こそこそと、ジェノサイダー冬子がルール・シールに耳打ちした。

 きっと、ろくでもない悪巧みに違いない。

 

 

 

 

 

 

 

◆ ジェノサイダー冬子 ◆

 

 もくもくと上がる煙の本来の運用法は、室内の害虫退治用だ、要するにバルサンみたいなものらしい、魔法少女といえど警戒していなければさぞかし目に染みるだろう。

 

「怖かったです怖かったです怖かったです怖かったですぅうううっ!」

 

 窓から飛び出してきたルール・シールを抱きとめる。目をこすっているのは、単に恐怖だけではないはずだ。予め解毒用のハーブも飲ませていたが、それでも目と鼻を刺激する痛みが零になるわけじゃない。

 

「おつかれルル子ちゃん、頑張った頑張った」

 

 そのまま、手を引いて走る、すぐに追いかけてくるだろうが、煙によって状況確認が出来ない状態だ、多少時間稼ぎにはなるだろう。

 そう思った瞬間、ジャラララ、と金属が擦れる音がした。

 

「っ」

 

 まだ煙で充満する土産物屋の窓から、細い鎖が一本飛び出して、ジェノサイダー冬子の腕に巻き付いた。

 

「ひゃああっ!」

 

 ルール・シールが悲鳴を上げた。勿論、まきゅらさまのペンデュラムだ、こればかりは、視界が効かなくても使える。敵の居場所を探り当てることも出来る。

 

 きぃんっ、と甲高い音がした。

 

「お勤めご苦労、撤退でござる!」

 

 小刀を構えたティンクル・ベルが、そのチェーンを両断していた。自由になった腕を振って、ジェノサイダー冬子は駈け出した。

 

「貴様らぁああああああああああっ!」

 

 煙の中から怒声が響いて、更に一本、ペンデュラムが飛び出してきた。

 

「ぐぐっ」

 

 回避しようとして、間に合わなかった。ティンクル・ベルの喉を狙った一撃は、少し横にそれて、太い血管を削るように引きちぎっていった。

 頸動脈が切断されて、大量の出血が――――――

 

「ガチャンッ」

 

 ――――流れだすその前に、傷口が『閉じ』られた。ティンクル・ベルの首に、白い光の粒子で出来た錠前が浮かび上がった。

 

「……失敬、九死に一生でござるな」

 

 なおも暴れようとする鎖を打ち払い、駆ける。

 ようやくまきゅらさま達が表に出てきた時は、もうジェノサイダー冬子達の、影も形も無くなっていた。

 

 

 

 

 

◆ メイククイーン ◆

 

 ようやく煙が晴れた頃、既に敵の姿は無かった。煌輝スター、バブルリブル、まきゅらさまの三人は、結局、メイククイーンの指示に従い敵を追うか、それとも部屋に戻って彼女を守るべきかを迷い、そして後者を選択した、その忠誠心はありがたいが、今は逆効果にしか働かない。

 

「…………」

 

 チックタックの姿は無かった、代わりに、彼女が居た場所に、虹色の光を収めたルール・プリズムが転がっていた。

 

「そうですか、チックタックを封じてきましたかぁ、へえ」

 

 プリズムを拾い上げて、撫でる。つるつるとした水晶の手触り、暖かく柔らかいチックタックの肌と比べたら、何と無機質なことか。

 メイククイーンにとっては右腕、どころか心臓にも親しい側近だ。彼女が居る限り、絶命以外の負傷を恐れずにすみ、また、ルール・プリズムとルール・シールを使いこなす上で、絶対に無くてはならない人材だった。

 

「…………なるほどぉ、つまり、こういうことですかあ」

 

 彼女たちが選んだのは、どこまでも徹底抗戦だ。

 

「全員ぶち殺されたいってぇ、そういうことなのですよねえぇっ!」

 

 メイククイーンの、メイククイーンによる、メイククイーンの為の、魔法少女育成計画を、徹頭徹尾邪魔したいのだ。

 

「……場所を調べるか? メイククイーン」

「ええ、今度はこっちから攻めるのですよぉ、ああ、ルール・シールちゃんは勿論ですけど、あと一人だけ、殺さないで引きずり出してきて欲しいのです、あのジェノサイダー冬子を」

「了解、さて、連中は……」

 

 ルール・シールたちを探すため、地図にペンデュラムを再度垂らすまきゅらさま。

 その様子を見ながら、メイククイーンは小さく笑った。

 絶対に許さない、後悔させてやる。

 部屋のすみで咳き込んで、肩を丸めて怯えているアップリラを見て、メイククイーンは嗜虐的な笑みを浮かべた。

 苛立ちが消えない、解消したい、そうだ、ちょうどいい玩具がいる。

 

「ねえ、アップリラ、お願いがあるのですけど」

 

 メイククイーンに、アップリラは逆らえない。

 どんなお願いも聞いてくれる、どんなお願いも。

 

 

 

 

◆ ルール・シール ◆

 

「多分すぐに追いかけてくる」

 

 と、ジェノサイダー冬子は言った。

 

「作戦はさっき伝えた通り、行き当たりばったりなのと、出来れば頑張って! って具合で、本当に悪いけど」

「それはいつもどおりなので気にしないでください」

「いや、あたしは気にするんだが」

 

 諦めたようなユミコエルと、呆れたような高橋病舞子。ティンクル・ベルはもう何も言わなかった。

 

「それじゃ、ルル子ちゃん預けるから、宜しくねユミコエル」

「了解です、で――冬子さんはどうするんです?」

「大将首を取りに行く」

 

 きっぱりと言い切った。

 

「さっきも言ったけど、まきゅらさまはティンクルさんじゃないと倒せない、煌輝スターは、高橋さんじゃないと倒せない。バブルリブルのシャボン玉は、ルル子ちゃんを盾にすれば防げる」

「やっぱり私は生きたシールド扱いなんですねぇ……」

 

 もはや諦めたように、ルール・シールは呟いた。

 

「ってことで、メイククイーンとは私がやる、ま、対策も一応してあると思うよ」

「思うってなんですか、思うって」

 

 ユミコエルがジト目で睨むと、まあいいじゃん、と気楽に言ってのけた。

 

「ジェノ子さんって、すごいですねえ……なんだか、全部お見通し、みたいな感じでぇ」

 

 ルール・シールはぽつりと漏らした、ジェノサイダー冬子は、苦笑して首を横に振った。

 

「自慢じゃないけど、ルル子ちゃん、私の作戦通りに事が運んだ結果、結構な人数死んじゃった事あるよ」

「うぇ!?」

「堂々と自信たっぷりにしてるのと、それがうまくいくかって、あんまり関係ないしさ。どれだけ考えて考えても、結局切り捨てないといけない要素もあるし、諦めないと行けない事もあるし、可能性の話だけで言うなら、私はルル子ちゃんが、実は全てひっくるめたボス説だって考えたは考えた」

「えええええええええええ!?」

「だから、可能性の話ね」

 

 ジェノサイダー冬子は、今度は笑った。歳相応の少女らしい笑みだった。

 

「ルル子ちゃんがもし全部の黒幕だったら、もうどうにもならないから、すっぱり諦めます、取捨選択ってそういうこと」

「ジェノ子さんはすごいんじゃないんですねぇ……ただ変な人なんですねえ……」

「そうです、だから発言をあまり真に受けてるとえらい目にあいますよ」

 

 ユミコエルがフォローした、フォローにはなってなかったが。

 

「だからさ、まあみんな、死なないでね、私の夢見が悪いから」

「もうちょっとマシな言葉は言えんのでござるか……」

 

 呆れるティンクル・ベルに、高橋病舞子はケケケ、と笑った。

 

「あたしはこいつみたいなすっとぼけたタイプ、嫌いじゃねえけどな、お前よりマシだよティンクル」

「黙れ高橋、爆弾抱えて自爆特攻するか」

「お前なんでだからそんなあたしにだけあたりが強えんだよ!」

 

 ちゃりり……

 

「っ!」

「?」

 

 あれ、今何か、変な音した? ルール・シールは気楽にのんきにそう思った。

 

「ルル子ちゃ」

 

 ジェノサイダー冬子が慌てた様な顔をした、全て言い切るより早く、気づいた時にはもう遅く、ルール・シールの眼前に赤いペンデュラムが迫っていた。

 カィンッ、と金属質な音を立てて、それが打ち払われた、誰よりも早く、ティンクル・ベルが割り込んでいた。

 

「ち、耳がいいね」

 

 ちゃりちゃりと、今度はもう全員の耳に聞こえた、鎖が縮んで戻っていく。

 

「静かにしたつもりだったんだが」

 

 まきゅらさまだった、背後に煌輝スター、バブルリブルを伴っている。臨戦態勢、と言わんばかりだ。

 

「何、ルール・シール殿と同じ様に聞いていただけでござるよ」

 

 言うや否や、誰よりも早く斬りかかるティンクル・ベルだった。

 

「お主には、拙者の相手をしてもらうでござる!

「ティンクルさんっ!」

「ここは拙者が引き受けた、行け皆の衆!」

 

 右手に小刀、左手にクナイ、息もつかせぬ連撃で、その動きを縫い止める。

 

「まきゅらさま!」

「構わない、ルール・シールを追え、君たちなら負けない!」

 

 そう言い切り、戦闘に没頭する。まきゅらさまが集中しないといけないほど、ティンクル・ベルは手練なのだろう。

 

「スターっ、早く行こう!」

「ええ、まきゅらさま、ご無事で!」

 

 駆け出すバブルリブルと煌輝スター、二人の魔法少女が、斬り結ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆ バブルリブル ◆

 

「ここで間違いないの? スター」 

「ええ」

 

 まきゅらさまから借りたペンデュラムを一つ、煌輝スターは右手の人差指につけていた。あの悪の眼鏡に引っ張られても、煌輝スターなら大丈夫という判断だった。敵が逃げこんだと思わしき建物の看板には、水鉄砲サバイバル『アクア・ガンナー』と書かれている。

 

「よっし、じゃあ建物ごと泡にして、全員押しつぶしちゃおうよ!」

 

 まさに正義の必殺技といった感じだ、小細工も一網打尽にできる。

 そう思っていたら、ぺちんと煌輝スターにはたかれた。

 

「いったぁ!」

「いいですか、ルール・シールは生きて手に入れないと意味が無いんですよ」

「あ、そうだった」

「そうなんです」

「むむむ、室内だと、私の魔法あんまりなー」

「ワタクシが前にでますので、ご心配なく」

 

 堂々という煌輝スター、その姿を、バブルリブルは頼もしく思う。メイククイーンは大事な親友だ、魔法少女として力になってあげたい、彼女のためなら何だってしたいと思う。

 まきゅらさまは素敵な仲間だ、メイククイーンの側近の一人でもある、彼女の指示で動くことに不満はないし、信頼している。

 しかし、それらと煌輝スターへの思いは、やはり一線を画す。煌輝スターが前に出るというのなら、バブルリブルはそれを信じるだけだ。

 

「ワタクシが良いと言うまで、不用意に泡を出さないこと。恐らく、密室空間でハーブを使った毒ガスを主流にしてくると思いますわ」

「げ、相性不利じゃん、どうすんの?」

「作戦はあります。閉所空間での戦闘は、ワタクシ達こそ得意とするものなのですから」

 

 さすが煌輝スターだ、自信たっぷりだ。煌輝スターには根拠がある。バブルリブルも自信たっぷりだが、常に根拠はない。

 

 

 中に踏み込んだ、当たり前だが無人で、天井は赤い非常灯が付いている。カウンターには水鉄砲と雨合羽が並んでいた。

 

「スター! これほしい!」

 

 水鉄砲は両手でがっしり掴まないともてないほど大きく、ポンプでがしょんがしょんと空気を圧縮するタイプのやつだ。かっちょいい。

 

「あとになさい明日にしなさいやめなさい」

「えー、結局ジェットコースターも乗れてないじゃーん」

「また連れて行ってあげますわ、今度は別の遊園地に」

「ルミナスランドじゃないと意味ないじゃーん」

「どうせもう閉園ですわよ、この遊園地は」

 

 何せ人死にが出すぎているし、フリーフォールがへし折れるなんて前代未聞の大不祥事だ、まさか人力でそれがなされたとは、誰も思わないだろうし。

 

「ぶーぶー、いいもーんだ、おらー、でてこーい」

「待ちなさい、ペンデュラムは……こっちですね」

 

 ルール・シールのいる方向を指し示す。他の魔法少女の道具は(、、、、、、、、、、)、他人も使うことができるが、本来の持ち主《、、、、、》よりうまくは使えない、メイククイーンにその辺りを調整してもらえれば、まきゅらさまのように鎖を伸ばしたり、武器として使ったり出来るのだろうが、煌輝スターにはこれが限度のようだ。

 動いていないベルドコンベア沿いに、部屋を移動していく、アトラクションで使われていたのだろう、恐竜や、モンスターといった形状の人形が、動きを止めて並んでいる。

 

「わー、すっごーい、これ動くのかなー」

「バブル……よそ見せず、と。真面目に行きますよ、小さな泡をこちらに」

 

 奥に奥に進んで、辿り着いた扉の前は「魔王の居城』と書かれている。

 壁を指し示す煌輝スター、はーい、と親指を本当に小さく穴の形にして、ぷっ、と息を吹き入れる、数ミリサイズのシャボン玉が、壁にぶつかってぱちんと弾け、塗料とコンクリートを纏めて液体にする、小さな穴が空いた。

 

「…………中に、いますわね、誰か」

「敵じゃん、やっつけよう!」

 

 煌輝スターを押しのけるようにして、バブルリブルも穴を覗く。あの悪の眼鏡と、悪の麦わら帽子が、ちらりと見えた。ルール・シールは見当たらない。

 

「ルール・シールだけ奥に逃がして、ここでワタクシたちを迎え打とうというのですか? なら話は簡単です、バブル」

「はいはーい」

「大穴を一つ、ここで決着をつけましょう」

 

 

 

 

 

 

 

◆ 高橋病舞子 ◆

 

 極めて面倒事に巻き込まれている、高橋病舞子はそう思う。免罪のためにティンクル・ベルに従うのはいいが、命がけの労働までする義理はない、かと言って逃げ出した先に未来はなく、つまり戦うしか無い。

 

「ホント勘弁して欲しいんだけどよぉ……アンタも大変だなあ」

 

 横に並ぶユミコエルとは、今日顔を合わせたばかりの関係だ、信頼も友情も何もない、それでも、死の危険に晒されながらこうして一緒に戦うのだから、多少なりとも交流はすべきかと声をかけた。

 

「私にはもう、これは私の戦いですから」

 

 ユミコエルは苦笑した、高橋病舞子も、釣られて苦笑した。

 

「自分の戦いかあ、いいねえ、そういうの、あたしにゃねえもんだ」

「そうなんですか?」

「そうなんだよ、魔法少女になって、一番感じたのはあれだね、ズルすりゃ楽に生きられるってこった。そうだろ?」

「まあ、便利ですからね、色々と」

「したらヘマこいて犯罪者扱いよ、本当は今すぐ逃げてぇ、やってらんねー」

「ごめんなさい、冬子さんの無茶に付きあわせてごめんなさい……」

「あんたも、あれが相方だと大変だなあ」

 

 今度はケラケラと笑う、半分は本音だ。いっつも振り回されているのだろうと思う。

 

「ま、とはいえ、実はあたしは、ちっと楽しい」

「楽しい、ですか?」

「ああ、だってよ、今あたしらがやってるのって、結構すげえことだと思うんだよな。敵はいい顔して他人を洗脳するクソカスで、人を人とも思ってないんだろ? 情け容赦なくぶん殴っても許されて、ぶち殺したらほめられるレベルだ。倒しきれるなら得しかねえし、初めて他人のために魔法少女の力を使ってる気がする」

「……高橋さん」

「柄じゃねえけどよ、あのルール・シールは可哀想すぎんだろ。あたしらが相手にすんのは雑魚でいいんだし、まあそんぐらいはな?」

「……あの、急に良い人ぶるともうすごいその、あれが……」

「やめろ馬鹿あえて言ってんだよあえて――――――」

 

 ぱちん。

 

「っ!」

 

 二人が軽口をやめて、扉を見る。アトラクションの進行に従って開くはずの鉄扉に、大穴が開いていた。じゃばっと、元々その部位を形成していた部分が、溶けて無くなっていた。

 

「ごきげんよう、ルール・シール様は何処へ?」

「どこだー!」

 

 煌輝スター、バブルリブル、現れた。

 

「さあな、知りたかったらあたしらを倒していったらどうだ?」

「そのつもりですわ」

 

 部屋の中央に歩み寄る煌輝スター、アトラクションの一ステージだ、縦に細長く、部屋の長さは二十メートルもない。半ばまで寄ったところで、高橋病舞子が動いた。

 背中に吊るすように抱えていた、水鉄砲を取り出して、勢い良く中身を射出した。

 

「!」

 

 だが、中身は入っていない。いや、目に見えない。

 詰め込んだのは、高橋病舞子のハーブを燃して貯めこんだ、毒ガスだ。

 圧縮された空気が、細く長く、煌輝スターの顔面目掛けて吹きかけられた。

 

「どうだ――――」

 

 少しでも吸えば、体がしびれて動かなくなる麻痺毒だ、それを鼻と口から叩き込んだ。

 

「――――馬鹿ですわねえ」

 

 煌輝スターは、微動だにしなかった。

 

「|毒ガス耐性がつくように育成してもらいましたのよ《、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、、》、ガスが専門というならまだしも、ハーブを育てるついでの魔法ごときでは」

 

 平然と微笑んだまま、煌輝スターは手を上げた。これが策だというのなら笑わせる、と言わんばかりに。

 

 

 

 

 

◆ バブルリブル ◆

 

 合図が出た。部屋一面を、バブルリブルの泡で埋めて良い、ということだ。煌輝スターを中心に、泡は室内を縦横無尽に駆けまわって、全てを溶かすだろう、手で輪を作って、とびっきり大きく息を吸い込んで、ふぅーっ、と吐き出した。

 大きい物は五十センチ、小さいものは無数、肺活量を限界まで育成されたバブルリブルの全力が、余すことなく、穴越しの室内を埋め尽くす。

 

「――――――――え」

 

 おかしい、何でだろう。

 吐き出したはずの泡が、なんでバブルリブルに向かってきている……?

 

 

 

 

 

 

◆ 煌輝スター ◆

 

 ユミコエルも、高橋病舞子と同じく、水鉄砲を構えていた。ただし、こちらはしっかりと中身が入っている。ぎっしりと詰まっている。

 

「………喰らええええええええええええっ!」

 

 引き金を引く、水が飛び出す。それらはシャボン玉にあたって……そのまま泡を押し返した(、、、、、)

 

「な…………!?」

 

 煌輝スターは『反射』を調整し、泡をユミコエル達に向けて送り込む、しかし泡は水鉄砲の勢いに弾かれ、どんどんどんどんと後退していく。

 バブルリブルの魔法は、『何でも溶かすシャボン玉』だ、もっと言うのならば、個体に触れた時にはじけて、それを液体に変えてしまうシャボン玉を吹き出す魔法だ。

 一方で、水はそのまま液体(、、、、、、、、)だ。

 だからシャボン玉に触れても溶けない、溶けることが出来ない。

 

 

 

 

 

(最初にバブルリブルと戦った時の事、覚えてる?)

 

 よくもまあ、そこまで見ていたものだと関心する。ジェノサイダー冬子は、指折り数えながら言った。

 

(壁を溶かして入ってきた。扉も溶かした。でも床のシャボン玉はバウンドして、こっちに来た……つまり床は液体にならなかった)

 

 何故か、理由は一つしか無い。

 

(ユミコエルが頭から水をかぶって……びしょ濡れだったから。あのシャボン玉は『割れた時に(、、、、、)、周りのものを液体にするんじゃなくて、周りのものを液体にできる時に割れる(、、、、、、、、、、、、、、、、、)……って言う性質なんだと思う)

 

 

 

 

 結果として起こった現象は、『液体に変えることが出来ないので、シャボン玉も割れない』というイレギュラーだった。それは、思わぬ方向に転がった。吐き出したバブルリブルに向かって、シャボン玉が押し返されていく。

 天井や壁にぶつかって、それらを溶かしていく最中、勢い良く噴き出る水に背をおされ、生まれた速度以上で、跳ね返っていく。

 バブルリブルのシャボン玉は(、、、、、、、、、、、、、)本体ですら防げない(、、、、、、、、、)、それを防御できるのは、煌輝スターただ一人だけだ。

 

「バブル!」

 

 煌輝スターが、バブルリブルに抱きついた、泡を手で押しのけ、割らずにやり過ごし、体全体でかばう。体に触れたシャボン玉を、全て反射で天井へと押し上げる。

 

「ルール・シールさんっ!」

 

 ユミコエルが叫んだ、ばちん、と点灯していた非常照明が、通常の物へ切り替わった。ガッハッハッハ、と濁った笑い声が、部屋内に響いた。

 

「!?」

 

『我は魔王なり! 汝らはここで死すのだ!』

 

 アトラクションが、作動した。アクア・ガンナーのラストステージ、魔王の部屋。

 ざああああああああああああああ、と敵の攻撃の演出の一つとして、天井のスプリンクラーが起動した。

 泡は、水に触れても消えない。

 上から流れてくる大量のシャワーが、上へ向かうシャボンを、垂直に押し流す。

 いくら反射しても、下に向かい続ける。どころか。

 

「……っ!」

 

 横に反射したら、水鉄砲で再び襲い来る、そう判断して、シャボン玉を上にやったのが、完全に裏目に出た。『反射』では、もうこのシャボン玉に対処できない。

 

「バブル」

 

 ならば、煌輝スターのやることは一つしか無い。当たり前だ、親なのだから。

 

「貴女なら大丈夫」

 

 ぱちぱちぱち、と、反射を解除した煌輝スターに当たって、泡が弾けた。

 

「……スター?」

 

 ぱしゃりと溶けた煌輝スターは、スプリンクラーに洗われて、すぐに排水口へと流れ散った。

 

 

 

◆ バブルリブル ◆

 

 スターがいない、どこにもいない。

 自分に覆いかぶさって、そのまま泡と一緒に消えてしまった。

 なんで反射しなかったの? と思った。何が起こっていたのか、バブルリブルはわかっていなかった。

 

「……ママ(、、)?」

 

 バブルリブル、日昌晶(ひしょうあきら)は、母親が、自分の泡で消えた事を理解した。

 

「……あは、あはははは」

 

 育成されたバブルリブルは、命令に忠実だ。

 育成されてもなお、母親を失ったと理解した晶の心は壊れていた。

 輪っかを作って、ふう、と息を吐く、空気を注ぐ度に膨らんでいく。大きな大きなシャボン玉。

 中々割れない、なんでだろう。敵がなにか言っている、もういい、何も聞こえない。

ごめんなさい、いい子じゃなくてごめんなさい。

 そのたった一つのシャボン玉が、部屋を埋め尽くすぐらい大きくなったところで、泡に自ら飛び込んで、ぱちんと弾けて、バブルリブルは消滅した。

 

 

 

 

◆ 高橋病舞子 ◆

 

「何考えてやがる、あのガキ…………!」

 

 バブルリブルが創りだした泡は、際限なく膨らんでいった。スプリンクラーで割れない、水を押し返し続け、それでも濡れきった室内では、水の膜を壁につくり、シャボン玉は、まだ液体と接している。

 

「あのサイズが割れたら、建物がどうなるかわかんねえぞ!」

「逃げましょう、速く!」

 

 ユミコエルが駆け出す、高橋病舞子もあとに続こうとした。そこで見えた、割れないシャボン玉に業をにやし、自らその中に飛び込む、バブルリブルを。

 

「っち!」

 

 高橋病舞子は、ユミコエルの背中を蹴り飛ばした、次の部屋に向かって。

 

「がっ、高橋さ」

「……あー、くそ、損な役食っちまった」

 

 ため息を吐いて、部屋の入口を塞ぐように、立った。

 その背後でぱちんと泡が弾け、部屋全部と、触れていた全てが、溶けて消えた。

 高橋病舞子が居た証拠は、どこにも残らなかった。

 

 

 

◆ まきゅらさま ◆

 

「――――――――――!」

 

 まきゅらさまは歴戦の魔法少女だ。恵まれた身体能力、経験に裏付けされた戦闘判断、安全地帯と必殺を割り出す魔法、それらすべてを複合し使いこなす技術を持つ。

 

 記憶がないとはいえ、ユミコエルなどというパワー一辺倒の魔法少女に不覚を取った事自体が信じられない、それだけの自負がある。

 

 ペンデュラムを操作し、敵の攻撃が当たらない地点を探りだす、移動の方向をそちらに変えつつ、攻撃を仕掛ければ、それだけで必勝となる、それがまきゅらさまの戦い方だ。

 だというのに――――

 

「くっ!」

 

 小刀が、安全地帯に引いたはずのまきゅらさまの頸動脈目掛けて斬りこんでくる。その度に別の指のペンデュラムを操作しガードして急場をしのいでいる。

 

 だが、本来はありえない、あってはならない、まきゅらさまの防御は絶対だ、そもそも攻撃が接触すること自体がおかしい。

 

「策士策に溺れる、以前でござるな、魔法に依存し過ぎでござるよ」

 

 ティンクル・ベル。忍者モチーフの魔法少女らしく、距離を取れば手裏剣やクナイ、近づけば小刀と戦術を分けてくる、常に距離を一定に保ち、チェーンを伸ばしてペンデュラムで串刺しにする攻撃が使えない。

 

 しかし、それ以上に、まきゅらさまの攻撃が当たらない、現在装着している三本の指輪(、、、、、)は、それぞれ。一つを『安全地帯』の割り出しに、一つを防御手段に、一つを攻撃に使っている。攻防一体の完成された攻撃が、通じない。その理由が、まきゅらさまにはわからない。

 

「私が――――この私が負けるものかよ!」

 

 まきゅらさまには、二つ禁じられていることがある。メイククイーンに逆らうこと、そしてメイククイーンの指示がない限り、使ってはいけない能力があること。

 それらは絶対破ってはならない戒律だ。メイククイーンの指示は全てに優先し、己の信条を捧げねばならないよう育成されている。

 

 だが、ここまで虚仮にされ続けてきたまきゅらさまのプライドが、どうしてもそれ(、、)を使わせてしまった。メイククイーンを裏切るわけではない、いや、ここで敗北することこそが、メイククイーンに対する裏切りになってしまう。

 

「私に敗北は許されない…………私は、まきゅらさまだ!」

 

 二つの優先事項がぶつかり合い、メイククイーンという存在そのものを立てるために、まきゅらさまは禁じられた――――本来の魔法(、、、、、)を使った。

 

 

 

 

◆ ティンクル・ベル ◆

 

 ティンクル・ベルの魔法は、他人の感覚を自分と共有出来る、というものだ。半径百メートル以内の、一人の視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚の、任意の感覚を得ることが出来る。それは、敵が何を見ているかが理解でき、どう動こうとしているかがわかる、ということだ。

 

 ティンクル・ベルは右目の視界を、まきゅらさまの視界へと切り替えた。まきゅらさまが一瞬、ペンデュラムの指し示す『安全地帯』を確認する。

 

 つまり、安全地帯に移動するのがわかるのだから、その場所目掛けて攻撃すれば良い(、、、、、、、、、、、、、、、)

 まきゅらさまの魔法は、使ったその瞬間の安全地帯を探し出せても、そのコンマ数秒後の未来を保証しているわけではないのだ。

 経験豊富はお互い様だ、ティンクル・ベルが何年魔法少女をやって、何度、不届きな魔法少女たちを倒してきたと思っているのか。

 

「策士策に溺れる、以前でござるな、魔法に依存し過ぎでござるよ」

 

 斬りかかり、ペンデュラムが動き出す前に一歩下がり、相手の攻撃地点を『盗み見』る攻撃される地点がわかっていれば、回避は容易い。この魔法で多くの敵を仕留めてきたのだろう、だからこそ、『必殺の位置』を疑わない。

 しかし、種が割れていれば、それはあまりに素直すぎる攻撃だ。

 

(次の交錯で――――仕留める)

 

 再度斬りかかり、防がれる、再び距離を取る、ヒット&アウェイを繰り返す。

 

「――――!?」

 

 違和感は、その過程の二度目で生じた。足が止まった、後ろに下がれない(、、、、、、、、)

 

「私の前では、逃亡出来ない」

 

 にたり、と歪んだ笑みを、まきゅらさまは浮かべた。

 

誰も逃げられない(、、、、、、、、)、遊園地からも、私からもね!」

 

「――――お主!」

 

 まきゅらさまの魔法は、このペンデュラムを使った『探しもの(、、、、、)ではない(、、、、)、あくまで、これはペンデュラムそのものが持っている魔法だ。

 

 魔法の力を持つアイテムは、他人も使う(、、、、、)ことが出来る。

 

 もっと早く、その可能性に気づくべきだった、なにせ、自分達がそれをやって、メイククイーンたちに奇襲をかけたのだから。

 

 ルミナスランド全域に展開していた、誰も外に出ることが出来ない結界――――メイククイーンによって範囲と性能を底上げされきった『誰も逃さない魔法』こそが、まきゅらさま本来の魔法なのだと。

 

「止まったな」

 

 三つのペンデュラム、全てがティンクル・ベルに向いた。

 

「っ!」

 

 無論、何処を攻撃しようとしているかも、ティンクル・ベルにはわかる。何処を見ているかが、余すことなく伝わってくる。

 それが指し示す答えは、回避出来ないという結論だった。『必殺の位置』は、後退という選択肢を奪って成立した。ペンデュラムは、ティンクル・ベルを確実に貫く、それを理解した。

 

「――――御免ッ!」

 

 ならば、攻めるしか無い。ユミコエルがそうしたように、ティンクル・ベルもまた。

 

「!?」

 

 まきゅらさまが最期まで認識を誤っていたのは、今まで彼女が屠ってきた相手は全て、命がけで、犠牲を覚悟で突っ込んでくる様な真似をしなかったということだ。

 

 必殺は問題なく必殺であり、安全は問題なく安全だった。

 

 ユミコエルもティンクル・ベルも、そうではなかった。棒立ちしていても助からないなら、攻めこむ。それこそが、ペンデュラム、唯一の攻略法なのだ。

 

 小刀を振りぬくのと、ペンデュラムが突き刺さるのは同時だった。その攻撃は、まきゅらさまの喉を正確無比に貫き、ペンデュラムは、肩をえぐり、脇腹を裂き、そして喉の血管を引きちぎろうとして、弾かれた。

 

 偶然ではない、まきゅらさまは、ほんの少し前も、ティンクル・ベルに対して『必殺の位置』を割り出して攻撃を仕掛けてきた、それと同じ軌道が、重なったのだ。

 

「――――ついてるでござるなあ、拙者」

 

 ジェノサイダー冬子の魔法で『閉め』られた傷は、同じ魔法で解除されないかぎり、絶対に開かない。

 鍵がかかっている証明の、粒子の錠前が、ペンデュラムを弾き飛ばした。あとに残ったのは、目を見開いたままの、まきゅらさまだった死体。

 

「……すまんな、拙者もまだ、死ぬわけには行かぬ故」

 

 どこかの学校の制服に、健康的なポニーテールがよく似合う――――喉から刃を生やしていて、絶命していることを除けば、どこにでも居る、普通の女の子だった。

 

 

 

 

 

◆ メイククイーン ◆

 

 この状況に追い込まれた事が、一つの恥だ。メイククイーンはそう思う。

 理想の女王を育て上げてこそのメイククイーンであり、己は育成にすべてを注ぎ、目的は指先ひとつ動かさずに達成する、それが最良のあり方だ。

 

 いわんや、一対一で敵と対峙する、といったシチュエーションは最悪だ。理想と思考に真っ向から反する。そういう意味で、ジェノサイダー冬子という相手を、舐めていたように思う。

 所詮パーツの一欠片で、すでに役割を終えた者がはた迷惑にあがいている、そんな認識を、ここにきて改めなければならない。

 

「……まあ、よいのです。第二次紅竜戦争の時もそうでしたが、あなたは他の魔法少女を使うのが上手い、ということなのですね。それを専門とする私よりもあるいは。それは認めるのです」

 

 事実から目を背けた者は大抵ろくな目に合わない。大事なのは許容し、自覚し、分析し、次に活かすことだ。

 

「別に。私はただ、考えてるだけ」

 

 相対するジェノサイダー冬子は、つまらなそうに言った。

 

「ある日突然、当たり前だと思ってた日常が無くなるかもしれない。いて当然だと思ってた家族が死んじゃうかもしれない。隣にいる人がいなくなって、守ってくれる人がいなくなるかもしれない。私に優しくしてくれるのは遺産目当てで寄ってきた汚い人間かもしれない。友達が私と仲良くしてくれたのは私を利用するためかもしれない。」

 

 そして。

 

「ゲームをやってたら、魔法少女になるかもしれない。どんな可能性もありうるってことを私は知ったし、じゃあ何が起きてもなるべく対応できるように、考えないと、私はこの世界で生き残れない」

 

「心配性もそこまでくれば大したものなのです。はっきり言って、こんな大事になるとは思ってなかったのですよ、あそこで全員育成して、終わりのはずだったのです」

 

「それはご愁傷様、欲をかいたからじゃない?」

 

「言ってくれるのですね……それで、まさかとは思うのですが」

 

 メイククイーンは、スカートの中、裏地に仕込んでいた武器を取り出した。使いたくはなかったが、事ここに及んで出し惜しみはしない。

 

 黒い皮張りの鞭、だが、これもメイククイーンが「育成」した魔法少女から譲り受けた固有のアイテムだ。自由自在に操れて、長さも変化させられる。

 調教するには、うってつけだ。

 

お一人で(、、、、)私を倒すつもりなのです(、、、、、、、、、、、)?」

 

 それを戦闘開始の合図と受け取ったのか、ジェノサイダー冬子が、魔法の鍵を向けてきた。

 舐められたものだ、本当に舐められたものだ。メイククイーンは戦いたくないだけで、戦えないわけではない。

 

 魔法の鍵の対策法も心得ている、瞬きするか、口を閉じるかすれば、その体の部位を閉じられて、視力や呼吸を奪われる、トリッキーな一発技だが、要するに目も口も閉じなければいいのだ。

 

「ふっ」

 

 鞭を勢い良く振るう、先端速度は音速を超え、ぱちぃんと空気を裂く音がした。

 

「うげっ!?」

 

 足元で炸裂した鞭にたたらを踏む、そんな露骨な隙を見逃すわけもない。念じるだけで、鞭は容易に伸びて、ジェノサイダー冬子の足に絡みついた。

 

「さんざん好き放題、してくれたのですねぇっ!」

 

 鞭の長さを縮める、その動きにつられて、ジェノサイダー冬子が引っ張られる。

 

「そぉ、れっ!」

「ぎゃうっ!」

 

 両手で柄を握りしめて、ハンマー投げの容量でフルスイングした。壁に直接叩きつける。魔法少女の体は頑丈だ、この程度では死なない。

 もっともっとぶちまけなければ、気が済まない。

 

「大口叩いておいて、その程度なのですかぁ!?」

「う、ごっ!」

 

 地面に、床に、天井に、鞭の長さを自在に変えて叩きつける。

 

「あらゆる可能性を想定してるのですよねぇ? だったら、なんとかしてみたらいかがなのですかぁ!」

 

 足の拘束を解き、今度は全身に巻きつけた、指一本動かせない、完全な束縛だ。

 

「私が戦闘能力で劣るだろうから、一人でもなんとかできると思ったのですかぁ? 残念でしたぁ、私が真っ先に育成したのは自分なのですよぉ!」

 

 身体能力強化、魔法の範囲拡張、反射神経の鋭敏化、その他諸々。

 

 自分のスペックこそを、最大限に引き上げている。もちろん素体によって限界はあるし、まきゅらさまやあの二人(、、、、)ほどの素養が己に備わっているわけではない。それでも、そんじょそこらの魔法少女など、苦にならない。

 

 もう一度、ジェノサイダー冬子を地面に叩きつけて、ようやく少し溜飲が下がった。

 

「一言、コメントどうぞなのですよ、面白かったら、ちょっと猶予を上げます」 

 

 全身をすりむき、血と埃にまみれた魔法少女を見下ろす、最初に鞭が巻き付いた足はネジ曲がって折れているが、これでも加減はしている、死なれたら困るからだ。

 

「……これだけ、気になってる、事が、あるんだけど」

 

 ぺっ、と血の塊を吐き出して、ジェノサイダー冬子が言った。

 

「はい? なんなのです?」

「……不思議だった、ずっと不思議だったけど、そういうものだと思ってた、そうやって、変わる人間もいるんだろう、って、思ってた」

 

 睨みつけていた。メイククイーンを。この期に及んで、まだ。

 

「だってさ……魔法少女だって、元々は、普通の人間なんだよ? どんだけ力を手に入れたって、そんなにすぐに変わるかな、って、思ってた……どうしても、不思議だった……」

「あのぉ、一体何の話なのです?」

 

プリンセス(、、、、、)ルージュ(、、、、)()ドラゴンハート(、、、、、、、)

 

 ジェノサイダー冬子の口から出てきたのは、災厄の魔法少女と、最悪の魔法少女の名前だった。

 

「あの二人は、異常だった。魔法もそうだけど、考え方も、身体能力も」

 

 メイククイーンは驚いた。

 

「気に食わなければ簡単に人を殺す、暴君。邪魔をするなら簡単に人を殺す、悪魔。だけどさ、だけど、魔法少女になっただけで、そんなにあっさり、出来ることかなあ」

 

 まさか。

 

「例えば、そういう風になるように仕向けた奴がいるんじゃないの……メイク、クイーン」 

 

 そこまでたどり着くなどと、思っても見なかった。

 

「くく、ふふ、あはははは」

 

 メイククイーンの中で、まだまだジェノサイダー冬子の評価が甘かった。真実に、どこまでもにじり寄ってくる。

 

「ええ、はい、私が(、、)育成(、、)してあげた(、、、、、)のです、くっふふ、白状するとですねえ、私の魔法で、考え方まで『育成』できるんじゃないかって気づいたのが、ちょうど二人を含んだ試験の時だったのですよぉ」

 

 今でも思い出せる。

 

 龍宮心(たつみやこころ)、行きつけの美容院のお姉さんだった。のんびりとしていて穏やかで、とても争いごとを好むタイプじゃなかった。

 

 赤緋朱姫(あかひしゅき)、偶発的に魔法少女になり、あらゆるものを退ける力を手に入れながら、母親を断罪する力を手にしながら、なお心優しかった少女。

 

「想像もしてなかったのですよぉ、あれほどの仕上がりなるなんて、誰が思うのですか?」

 

 自分の魔法の可能性を試してみたくて、真逆の思考を与えたのだ。例えば育成の結果、躊躇いなく、情け容赦なく、殺人を犯し、それを全く悔いない様に出来るとしたら。

 個人の価値観や倫理観を、一方的に塗りつぶせるとしたら。

 メイククイーンの魔法は女王を生み出し、その女王を支配できる……最強の魔法になる。

 

「まさかまさかまさか、未来永劫語り継がれるような化物が生まれると誰が想像するのです! ましてそれが私に、最高の素体を提供してくれるなんて!」

 

 手間暇かけて育成を施した。考え方を真逆に、闘争心を表に。

 道徳を倫理を常識を無茶苦茶にした。

 最悪(プリンセス・ルージュ)災厄(ドラゴンハート)を作り出し、暴れさせた。

 白黒有無が乗り出してきて、ルール・シールの存在を知った。

 どうにか横取りできないかと、二人の暴君を解放してみせた。

 全部が全部、思い通りに行った。

 

「もちろん、このあとはプリンセス・ルージュも回収するのですよ? 私には逆らえないようにしてありますからねぇ」

「…………」

「怒ってるのです? 駄目なのですよ、私はこれから、あなたのご主人様なのですから、そんな目で見ては」

 

 拘束したジェノサイダー冬子の額に、指を押し当てる。

 

「恐ろしいまでに鋭い思考、便利な魔法、全部、私が有効活用してあげるのです、敵を味方に出来る、っていうのは、やっぱり最強だと思いませんかぁ?」

「お前は」

 

 『育成』を開始する。細部まで強化し尽くすには時間がかかる、とりあえず、メイククイーンを主として考えるようにしてやる。憎悪と嫌悪と憤怒をかかえながら、メイククイーンに仕えるのだ、そのさまを見るのも、また一興だろう。

 

「お前だけは許さない」

「では、『育成』を終えたあなたが話す第一声で、許してもらうとするのです」

 

 

 

 

 

 

 かくん、とジェノサイダー冬子の頭が揺れて、すぐに目の焦点が合う。

 にっこり微笑んで、メイククイーンは問いかけた。

 

「おはようなのです、私が誰かわかるのですか?」

「えー……あ、メイク……ちゃん」

「はいなのです、あなたの友達、メイククイーンちゃんなのですよ」

「あー……うん、頭痛い」

「すぐ良くなるのですよ、それより、冬子ちゃん」

 

 媚びた声で、答えを確信して、メイククイーンは言う。

 

「私の事、許してくれるのです?」

 

 ジェノサイダー冬子は、うん、と頷いた。 

 

 

 

 

「そりゃ許すよ、友達じゃん」

 

 

 

 

 なんの疑いもなく、そう言った。仕方ないなあ、またやっちゃったの? そんな気軽な風に、自然に、言った。

 

「えへへ、ありがとうなのですよぉ、あ、冬子ちゃん、お願いがあるのですけどぉ」

 

 少しだけ鞭の拘束を緩める、腕だけが、少し動くようにした。

 

「ん? 何?」

 

人差し指(、、、、、)自分で折ってくれませんかぁ(、、、、、、、、、、、、、)?」 

 

 メイククイーンが『育成』のあと、必ず確認するのがこれだ。主たるメイククイーンのお願いを、躊躇いなく疑いなく聞いてもらう。

 

「えー……ヤダなあ、もう、しょうがないなあ……」

 

 右手の人差し指を立てて、地面につけて、無造作に体重をかけた。

 バキッと小気味よい音と、ジェノサイダー冬子の噛み締めるような悲鳴が響いた。

 

「っ、だぁー……あっぐ、メイクちゃん、ひっでえ……」

「あはは、ごめんごめんなのですよ」

 

 新しい仲間の誕生だった、憎たらしい相手ではあるが、こうなってしまえば頼もしい味方となる。不愉快だった顔が、自分のものになった瞬間、なんだか可愛らしく見えてきた。

 数々の無礼もこれまでのことも、全部許してあげよう、なにせこれからメイククイーンの為にたくさん働いてもらうのだから。

 拘束を解き、自由にしてやる。それでも全身打ち据えられたのだ、すぐには起き上がれないだろうが。

 

「さて冬子ちゃん? 取り急ぎ、チックタックを出して上げて欲しいのですよ」

 

 スカートのポケットから、ルール・プリズムを取り出す。よくまああんな不意打ちを思いついたものだと、振り返ってみれば関心さえする。

 その発想力と行動力も、今となっては己のものだと思えば、当時抱いた怒りも収まろうというものだ。

 

「はいはい、ちょっと待ってね……指痛くて」

「すぐに治してもらえるのですよ、打撲の方は時間に解決してもらうですが」

 

 まかり間違って『育成』前まで巻き戻してしまってはまぬけすぎる。

 ジェノサイダー冬子が魔法の鍵を、倒れたまま、メイククイーンの手にあるルール・プリズ厶に向けた。

 

「ガチャリ」

 

 封印が開く。チックタックが帰ってくる。まずは抱きしめてあげよう、そう思った。

 

 ぱちんぱちん(、、、、、、)

 

「え」

 

 泡が弾けて、メイククイーンの、まず腕が溶けた。

 

「あ、え?」

 

 連鎖は止まらない、ルール・プリズムの中に入っていたシャボン玉は、ぶわ、と上向きに……メイククイーンの上半身を包み込むように広がった。

 これはバブルリブルのシャボン玉だ、すべてを溶かす、魔法の泡だ。

 

「な、は、え?」

 

 何が起こっているのか、理解できない。溶け残った身体の断面から、血液がぶしゅっと溢れて落ちた。

 

「え、ジェノ、あな、た」

 

 ジェノサイダー冬子は、無表情で、溶けゆくメイククイーンを見つめていた。

 まさかまさかまさかまさか。

 そんなまさか。

 メイククイーンはその可能性に思い至った。思い至って、すぐに否定した。そんなこと、ありえない、そんなこと出来るわけがない。

 

 自分が洗脳されることを前提(、、、、、、、、、、、、、)にした作戦なんて、立てられるわけがない。

 

 ルール・シールがプリズムをあの場に残していったのは、回収する暇がないからじゃなかった。

 チックタックが封印されたプリズムだと思い込ませるためだった。

 しかし実際は、最初の戦闘で、バブルリブルの攻撃を防ぐために使ったプリズムと入れ替えていた。

 そして、ジェノサイダー冬子はメイククイーンに挑んできた。圧倒的に蹂躙されて、手も足も出なかった。

 それでよかったのだ、それこそが目的だったのだ。

 メイククイーンに敗北しても、殺されないとわかっていた、自身を『育成』し、味方にすることを予測していた。

 そうすれば、メイククイーンが次に行うのは、当然、チックタックの解放に決まっている。

 そこに罠を仕込んだ。手元で弾ける泡を防ぐ術は、メイククイーンには無い。

 誰にもない。

 体が溶けてゆく、美しい魔法少女の肉体が、タンパク質のスープへ変わってゆく。

 

「い、いや、嫌、嫌ぁああ!?」

 

 こんなところで終わるわけがない。

 ここはただの通過点だ、未来に飛躍するための道具をひとつ、とりに来ただけなのだ。

 こんなの違う、間違ってる。

 

「こんな所で、死にたくな」 

 

 誰もがそう思っていた。

 メイククイーンが踏みにじってきた人々もみんな、そう思っていた。

 

 ぱちぱちぱちぱちぱち。

 

 上半身がなくなった、少女の死体が、ぐらりと倒れて転がった。

 メイククイーンは、死んだ。

 

 

 

 

◆ 笹井七琴 ◆

 

 内臓をべったりこぼす、若い女性の下半身を見て、流石に鬱屈したものが湧いてくる。

 

「…………」

 

 メイククイーンの『育成』は、時間をかけなければ元の人格や思考を損なう程の加工はできない。倫理観や道徳観は更に、だ。

 

 だからこそ、少なくとも七琴に対しては、メイククイーンに対して友好的になるように、命令に従うように、という調整しかしなかった。

 

 それならば笹井七琴はこう考える。

 

『私はこの人の言うことを聞かないといけない、裏切るなんてもってのほか。そう考える自分がおかしい可能性はないだろうか』

 

 それは、短期間で植え付けられた思考を浄化するには十分な疑念だった、もとより、スペック面の強化こそが魔法の本質であり、洗脳はあくまで応用であり、本来の使い方ではないというのも大きいのだろう。

 

 なにより、 七琴にとってメイククイーンに従う事(、、、、、、、、、、、、、、、、、)ほど自身の倫理に背くことはないのだから。

 

 笹井七琴は、勝ち残った。生き残った。状況次第では、七琴もまたバブルリブルの泡に巻き込まれて、メイククイーンと運命を共にしたかも知れないし、メイククイーンが警戒して、プリズムを体から離した状態で解放したかもしれない、完璧な作戦とは程遠い、自殺志願のようなものだ。

 

 笹井七琴は魔法少女だ。邪悪に立ち向かい正義を成す、愛と勇気の象徴だ。

 笹井七琴は普通の少女だ。理不尽に家族を奪われ、友達を奪われ、自由を奪われ、それでも現実に負けないように生きてきた、ただの女の子だ。

 

「ぅ……ぁ……」

 

 家族の仇を討った。先輩の仇を討った。全ての犠牲に対する決着をつけた。

 

「うぅ……あ、あぁ……あぁあ……」

 

 ちゃりんと、手から鍵が滑り落ちた。

 なんでだか、涙が溢れてきて、止まらなかった。

 抑えきれない声を、それでも手で抑えて。

 笹井七琴は、しばらくの間、泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

◆ ユミコエル ◆

 

「冬子さんっ!」

 

 ユミコエル達が駆けつけた時、決着は既についていた。恐らく、メイククイーンだったはずの死体と、全身傷だらけで、ボコボコになったジェノサイダー冬子が居た。

 

「……どんな戦い方すれば、こんなになるんですか、全く」

「……へへ、頑張った」

 

 ユミコエルの顔を見て、ジェノサイダー冬子は、にへ、と笑う。

 

「そっちは……どう?」

「えと、その、高橋さん……は」

 

 ルール・シールが目を伏せた、戦いの末に、いなくなってしまった人が居る。

 

「そっか……」

 

 戦いの采配を立てたのは、ジェノサイダー冬子だ。だからといって、彼女が殺した、というのは横暴だが。

 もしかしたら、その犠牲はユミコエルであったかもしれないし、ルール・シールであったかもしれない。運命は、誰にもわからない。

 

「げ、元気出しましょうよぅ! 色々あったけど、私達、これでやっと、帰れますよぅ……」

「……そう、ですね。まずは、ここからでましょう、冬子さんも手当しないと」

「そだね、ユミコエル、肩貸して、足と指折れてんの……」

「はいはい、いくらでも。しばらくは入院ですね」

「ついでにおっぱい触らせて」

「指もうちょっと折っときます?」

「ごめんやめて冗談」

 

 軽口を叩きながら、ユミコエルはジェノサイダー冬子に手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 二人の手が触れ合うより、一瞬早く、ドツッ、と杭を撃ちこむような音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 え? と思った、何の音だろう、ユミコエルは、すぐにはわからなかった。

 

「あ」

 

 それだけ言って、ジェノサイダー冬子は、背後に倒れた。伸ばした手は空を切って、転がった。

 

「え……?」

 

 そこにはもう、ジェノサイダー冬子は居なかった。

 魔法少女ではなくなった、笹井七琴が、喉から黒い何かを生やして、転がっていた。

 

「なこ、と、さん?」

「危ないっ!」

 

 ルール・シールが飛びついた、ユミコエルごと地面に倒れこむ。そのわずか一瞬後に、ひゅ、と何かが通過した。

 とくとくと、七琴の首から、血液が流れだした。

 


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