魔法少女育成計画 -Suicide Side-   作:∈(・ω・)∋

5 / 10
◇ 幕間 真紅の女王 ◇

「余が、プリンセス・ルージュである!」

 

 燃え盛る様な真紅のドレス、稲妻よりも眩い金髪、風を封じ込めたようなエメラルドの瞳、何処からどう見てもまごうことなくお姫様、それがプリンセス・ルージュだった。

 

「はい、では、貴女はどんな魔法少女になりたいですか?」

 

 試験官としての自分の役目は、その真価を見定めること。どんな魔法少女が、どんな考えを持ち、どんなことをしたいのか、知らねばならない。

 元より、プリンセス・ルージュの変身前は、幼い子供、しかも虐待児だ。

 灰皿で頭を殴りつけられそうになった瞬間、直前までスマートフォンを弄っていたその子が魔法少女として選ばれて、窮地を脱した。魔法少女の身体能力で、母親を気絶(、、、、、)させ、右往左往していたところを、魔法の国が発見し、マスコットの導きでこうして自分の所までやってきた。

 そういった、嫌な言い方をすれば、あまり良くない過去を持つ、闇を抱えた少女が、こんなことを言うのは極めて珍しい、大半は、手に入れた大きな力によって、その歪みを表に発露しようとし、自分のような、内心に探りを入れてくるような相手には、無難な答えしか返さないものだ、それがこうまで堂々としている所は、非情に珍しい。

 資料によれば彼女の魔法は『思うままに振る舞える』というものだ、だから彼女の態度や行為に嘘はない。「こうしたい」と望むママの言葉を、「そうしたい」と思うままに発言できる。

 

「あなたはお母さんに……殺されそうになりましたよね」

「む……」

「憎くはありませんか? 復讐したいと思いませんか? その力なら――あなたはなんだってできる」

「――スマヌ、よくわからぬ」

「……」

 

 そうだった、中身は幼い子供で、殆ど教育を受けていないのだ。

 

「だが、余が母上に対して望むことは、傷つけたいのではなく、余を見てほしい、愛してほしい、のだ」

 

 それは、この魔法少女の本音だ。嘘偽りない、それでも口に出せない思いを、魔法の力を借りて語っている。このプリンセス・ルージュという姿そのものが、彼女の理想なのだろう、それを体現している姫は、何事にも揺るがず、己の正道を口にする。

 普通なら言えない、難しい言い回しも、魔法の力が翻訳して、意図通りに、語るのだろう。

 

「余の読んだ絵本のお姫様は、とても我儘であった、皆がそれを受け入れていた。だが、母上は余にいつも、我儘を言ってはいけないと怒っていた。だから、余は絵本を最期まで読んでいないが、きっとお姫様は最期は叱られてしまうのだろうと思う」

「……それで?」

「母上の言うことはきっと正しいのだ、だが、お姫様が我儘をいうのも、きっと行き過ぎなければよいのだと思うのだ。今の余は、もっとちゃんと、母上と話がしたい、そうすれば、余はもっと、違う余になれる気がするのだ」

 

 魔法少女として、あるいは人間として、それは百点満点の答だった。

 持ちうる魔法も、それを得た人格も、余すところ無く完璧だ、素晴らしい。

 

「……わかりました、あなたを魔法少女の試験に参加することを認めます」

「うむっ、任せよ、余は一番になるぞ!」

 

 だが、その前に。

 

「もうすこし――私とお話してもらっても、いいですか?」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。