魔法少女育成計画 -Suicide Side- 作:∈(・ω・)∋
◆ 弦矢弓子 ◆
ルミナスランドの事件は、結局、整備不良による爆破事故、という形に収まった。誰がどう事件を隠蔽したのか、弓子は聞いていない。調べようとも思わなかった。
SDカード内に、遺書の保管場所と遺産の扱いについてもしっかりと書いてあるのだから、笹井七琴という人間が、日頃どれだけのことを考えて生きていたかがわかろうというものだ。
同居人である弓子にすべての遺産を相続させる、ただ相続税でめっちゃ持っていかれるはずだから、一生左うちわとは行かないかもしれないけど、まあ頑張って、とか。
そんなメッセージを遺されて、どうすればよいのだろうか。
二人でも広かったマンションの部屋に、一人残されて、弓子は思う。
自分が生き残った事に、何の意味があるのだろう。
結局、誰も残らなかった。
全員、弓子を置いて行ってしまった。どうして? と誰に聞いたところで、答えもあるわけがない。
ルール・シールは、魔法少女を無事に辞めることが出来た。その際、魔法に関わる記憶は全て失うということで、彼女はもう、弓子や七琴のことを覚えて居ない。弓子の知らない場所で、平和に暮らしていればいいと思う、日常を、取り戻せていたらいいと、心から思う。
『ごめんなさい、って謝ったら、ジェノ子ちゃん、怒ると思いますかぁ……?』
別れ際にそう言われて、弓子は考えて、答えた。
『多分、胸を触らせてくれたら許すよ、って言うと思いますよ』
一泊置いて、二人でぷ、と吹き出して、別れた。それが、彼女とかわした最後の言葉だった。
生き延びたことに意味があるとするならば、皆が弓子を置いて行ったのではなく、弓子にまだやるべきことが有るのだとしたら。
七琴のように、色々なことを考えられるほど、弓子の頭はよくはない。ずっとずっと時間をかけて、考えていかなければならない。
「……ユミコエルせんせー?」
不安げな声が耳に届いて、弓子……魔法少女ユミコエルは、我に返った。
「あ、ごめんごめん、ちょっとぼーっとしてた」
三人の――――きらびやかで、愛らしい顔立ちをした、華やかな衣装に身を包んだ、魔法少女達が、顔を見合わせてひそひそと話し始めた。
「やっぱり歳かな……」
「魔法少女だと年齢わかんないからねー」
「そっとしといてあげよっかあ」
「私はまだ花の女子大学生だけど?」
ガシっとそのうちの一人の頭を掴んで、ギチギチと締めあげる。頭蓋骨が割れないレベルに全力で、そんな力の調整も、だいぶうまくなってしまった。
「ごめんなさああああああああああああああああああああああやばこれしぬ」
「ピスタールぅーっ!? せんせー! やめたげて! やめたげてよぉ!」
「他人事みたいに言ってるけど、プリマステラ、貴女も後で同じ目に会うんだけど?」
「さらばピスタール、私のために柘榴と散れ」
「ぶっ殺すぞお前いっだあああああああああああ!」
「私、私二人の会話に社交的に合わせてただけなので推定無罪でお願いしまーす!」
「リカァァァお前えええええ!」
ピスタール、プリマステラ、烈風のリカ。
ユミコエルが今担当している、三人の魔法少女は、どうやって育っていくのだろう。夢と希望を胸に抱いたまま、魔法少女を続けられるのか。
あるいは、予期せぬ事件に巻き込まれて、己の矜持をかけて戦うのだろうか。
どんなことがあっても、大丈夫なように。
せめて、理不尽に抗えるだけの力を持っていてほしい。
「全員平等に処刑したら、今日のレクチャーを始めるからね」
「「「ごめんなさいユミコエルせんせー!」」」
少女たちの物語は、続いて、終わった。
遺された者達の人生だけが、まだまだ、続いていく。