仮面ライダーウィザード ~Magic Girl Showtime~ 作:マルス主任
結末はいかに…
住宅街から離れ、工場へと戦いの場所へ変わっていた。
ラ・ピュセルが剣を抜く。クラムベリーが拳を握って戦闘態勢を作る。
秋の冷たい夜風が二人の下を通り抜けて、クラムベリーの装飾の花が揺れる。
スノーホワイトを連想させる花飾りだが、スノーホワイトの花飾りよりも鮮やかで、生々しい花。
沈黙がしばらく続いた。ラ・ピュセルもクラムベリーも、構えたまま動かない。
ふと、風が止んだ。
その瞬間、クラムベリーはラ・ピュセルに襲いかかった。
一つ動きが遅れたラ・ピュセルだったが、剣を縮小し、短刀のようにしてクラムベリーの猛攻を防ぐ。
クラムベリーの攻撃は一つ一つが大きい。一発でも当たれば直ぐにクラムベリーのペースに持っていかれる。
短刀で防いでいるため、クラムベリーの手は傷つき、血が滲み出ていた。
ダメージは少しずつ与えているはずなのだが、クラムベリーは痛がるどころか、寧ろ笑みを浮かべている。まるで戦いを楽しんでいるかのように。
このままでは押し切られる。
危機を感じたラ・ピュセルは剣を巨大化させ、クラムベリーを切りつけるように剣を振り回した。
クラムベリーはなんとか避けたものの、右腕を切り裂かれた。
右腕から出血しているにも関わらず、気にもしない様子でラ・ピュセルに話しかける。
「さすがはルーラ達に勝利した腕前ですね」
「あんなものは、勝利とは到底言えないものだ」
「謙遜も卑下も必要ありません。私にはその事実さえあれば十分です。だからこそ私はあなたと戦いたい」
「そして…完膚なきまでに叩きのめしたい!」
「クラムベリー…お前…!」
クラムベリーは他の魔法少女とは違う。というよりもネジが外れているというのか。
こいつを野放しにしてはならない。ラ・ピュセルはそう直感した。
「だが、ここでやられるわけにはいかない。クラムベリー、お前を止める」
「ふふっ、それでこそです…だからこそ倒しがいがある!」
そう言ったクラムベリーは、再びラ・ピュセルに殴りかかった。
ラ・ピュセルは攻撃を避けながら、クラムベリーの顔面に蹴りを入れる。
クラムベリーが怯んだ隙に、ラ・ピュセルはクラムベリーの視界から消えた。
「ほう…どこから来るか…」
クラムベリーは周囲を警戒し始める。
しかし、突如クラムベリーを巨大な剣が襲う。
その剣の正体は、ラ・ピュセルの剣。
ラ・ピュセルは遠くまで離れて、剣を遠距離からクラムベリーに向けて放ったのだ。
突然の襲撃ではあったが、クラムベリーは避けきったが、その直後…
「はぁぁぁぁぁぁ!」
「何…!」
上空から、ラ・ピュセルが剣をクラムベリーに向けて突き刺すように飛び降りてきた。
しかし、クラムベリーも避けているだけではない。
剣を避けた後、隙を見せたラ・ピュセルを殴り飛ばした。
クラムベリーの一発を受けたラ・ピュセルは、吹き飛ばされてしまった。
なかなか立ち上がれないラ・ピュセルの前にクラムベリーは容赦なく襲いかかる。
一撃、また一撃とダメージを受けるラ・ピュセル。
クラムベリーはラ・ピュセルを蹴り飛ばした。
「ぐっ…うぅ…」
「さすがの攻撃でした…ですが、ここまでです」
「くそっ…でも…」
ラ・ピュセルは首を絞められ、投げ飛ばされる。
「ぐぁぁぁぁ!」
このままでは殺されてしまう。死にたくない。こんなことで死ぬわけにはいかない。
ラ・ピュセルの心に、少しずつ恐怖心が生まれて始めていた。
今すぐにでも逃げたい、怖い、戦いたくない。
だが逃げようにも体が動かない。しかしクラムベリーはどんどん近づいてくる。
ラ・ピュセルはもうどうすれば良いのかすら分からなくなった。
「さようなら、ラ・ピュセル…」
ラ・ピュセルは死を覚悟した。怖かった。今の恐怖が終わるなら死んだっていいとすら思えた。
《「そうちゃん、これからも宜しくね!」》
ふと、そんな声が聞こえてきた。
そうだ、彼女を守る為に戦うんだ。これ以上こいつの好き勝手にさせはしない。
自分はスノーホワイトの騎士だ。彼女を守る剣だ。
ラ・ピュセル、岸辺颯太は、スノーホワイトこと姫河小雪の幼なじみだ。
昔から小雪とよく遊んでいた時に、魔法少女のアニメや本をよく見ていた。
そのせいか、中学生になった今でも魔法少女のアニメを借りる為に、隣街のレンタルビデオ店へ行ったりと、彼にとっては魔法少女が大切な存在になっていた。
そんな時だ。魔法少女育成計画を見つけたのは。
すぐにハマった颯太は、毎日欠かさずプレイしていた。
そんな時、ファヴが現れて、自分を魔法少女にした。
最初は戸惑った。自分が性別が変わって女になっているのだ。
勿論思春期男子である颯太は、ラ・ピュセル状態の自分が気になって仕方がなかった。
一度鎧を脱いでラ・ピュセル状態で風呂に入ったこともあった。
なんとか自身の体に慣れてきたものの、他の魔法少女達の体も魅力的で、今でも目を反らしてしまう。
そしてスノーホワイト、小雪が魔法少女として現れた時はとびきり驚いた。
スノーホワイトと共に活動し始めてから、いろいろ楽しいことがあった。悲しいこともあった。でもそんな日々が幸せだった。
それに、晴人との出会いを通して、特別な力を持つことの重大さを知った。
だからこそ、この力を正しく使おうと考えた。
平和や、人々を守る為に。
そして、スノーホワイトを守る為に。
そう誓ったから。彼女の剣となることを。
こんなところで死んでたまるか。やるべきことがまだある。
こんな奴はここで倒さなければいけない。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
ラ・ピュセルは立ち上がり、剣を持ってクラムベリーに走りかかる。
剣をクラムベリーに向けて切りつける。かと思いきや、剣を上空に投げ、クラムベリーの注意を引き付けた。
そしてクラムベリーを蹴り飛ばし、上空の剣を持ってクラムベリーを一気に切り裂いた。
しっかりとクラムベリーの肉が引きちぎれる音を聞いた。
返り血を浴びるラ・ピュセル。完全に倒したと油断していた。
「ふふっ…これがあなたの力でしたか…ですが、油断しましたね」
「……何?」
確かにクラムベリーを切り裂いたはずだ。何故クラムベリーは生きている。
そんな事を思っている間に、首を掴まれ、身動きが取れなくなった。
「な…んで…確かに…お前を…倒したはずだ…」
「残念でしたね…私の魔法は音を操れる…肉が引きちぎれる音なんていくらでも出せるのですよ」
「く…そ…お前…なんか…を…野放し…にしたら…スノー…ホワイトがぁ…小雪がぁ…」
「なかなか楽しめました…ありがとうございました。ラ・ピュセル」
そう言ったクラムベリーは、ラ・ピュセルを思い切り殴り飛ばした…
気が付くと、颯太は変身が解けていた。
ここがどこか、何でここにいるのか分からない。
今、颯太はどこかの山道を歩いている。
何かをしようとも思わない。逃げようとも思わない。
ふと、後ろから車の音が聞こえてきた。
このままでは轢かれて死んでしまう。
逃げようと思っても体が動こうとしない。
颯太の近くに大型トラックが、もう目前に迫っていた。
どうすることも出来ない。ただ颯太はトラックを見つめることしか出来なかった。
「ごめ…ん…小雪…」
そう思った瞬間、颯太は自分の体が飛んでいるような感覚を感じた。
いや、本当に飛んでいるのかもしれない。
だが、多分トラックに吹き飛ばされたのだろう。
何か声が聞こえる。それは男の声である。トラックの運転手だろうか。
でも、どこかで聞いたことがある気がしたが、そんなことはもはやどうでも良かった。
もう少し生きたかった。小雪と魔法少女をしたかった。他にも何かあった気がするが、もう何も考えられない。
そんな後悔だけが、颯太の心に錘として残り、颯太の意識は闇に消えていった…
以上、13話でした。
僕はこのまま終わらせるつもりはありません。それだけです。
ヒントはライオンです。
そういえば、ここ最近あいつ出番少ないような…?