仮面ライダーウィザード ~Magic Girl Showtime~ 作:マルス主任
…あれ?神様はどこだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
木王早苗は自身の生活に不満を抱いていた。
難関とされた小学校、中学校、高校、大学に入学し、そして大企業へと就職した。
学校の試験で満点なんていうのは当たり前だった。
周囲の人間は最初は興味深々で早苗に話しかけていたりしたものの、すぐに離れていった。
それは早苗自身が周囲の人間を馬鹿と見下していたからだ。
早苗は自分の価値も分からない人間と何故付き合わなければならないと思っており、自分から人間が離れて行くのは構わなかったし、むしろ邪魔者が消えて良かったと思っていた。
そんな性格もあってか、学校や会社ではいつも一人だった。
そんな社会でのストレスを発散させるためになんとなく始めたスマートフォンアプリ、「魔法少女育成計画」。
その中でファヴが現れ、自分を本当に魔法少女した。
魔法少女・ルーラとなった早苗はようやく自身の答えを見つけ出し、すぐに会社を退職した。
自分の魔法少女の姿が本当に誇らしく、これ程までに喜びを感じたことは無かった。
そんな早苗の気持ちは、カラミティ・メアリによって粉々に打ち砕かれた。
カラミティ・メアリはルーラの教育係だった。だが、魔法少女としてのいろはを教える気など無さそうに、酒瓶を何本も飲み干し、本当に魔法少女なのかとルーラは思っていた。
何か言ってやろうかと近づいていった瞬間、銃声が響き、振り返ると後方のビルに大きな穴が空いていた。
そしてカラミティ・メアリから告げられたのは、こんな言葉だった。
「カラミティ・メアリに逆らうな、煩わせるな、ムカつかせるな。オーケイ?」
「これが、あなたの魔法…?」
「質問してんのはこっちだよ、お嬢さん。答えろ。黙って頷けばいい。オーケイ?」
逆らえば撃たれる…。ルーラはただ頷くしか出来なかった。
ルーラにとって、これが最大の屈辱だった。そしてルーラは、いつか必ず奴に復讐してやる。そう誓ったのだ。
それからルーラは、新しく加入する魔法少女の教育係に立候補し、たま、ピーキーエンジェルズ、スイムスイムの4人を従え、派閥を作った。
自身の所にいれば、皆有意義な活動を行える。そんな思いだった。
それからは特に状況の変化は無かったが、つい最近のことだ。
仮面ライダーウィザード・操真晴人が現れたのは。
ウィザードは自分たち魔法少女とは違い、幾つもの魔法を操り、こちらも最近現れたというファントムという怪物をあっさり倒したのだとか。
そしてウィザードは、ルーラ自身でも従うしかなかったカラミティ・メアリを呆気なく返り討ちにした。
ルーラはそんなウィザードを見て、人生で初めて自分よりも価値のある人間なのではないかと思った。
そしてウィザードは、自分がファントムに襲われそうになった時も、颯爽と現れ、自分を救ってくれた。
こんな人間の力を借りたい。そう思ったルーラはウィザードに自身の計画に協力してくれないかと誘ったが、断られた。
誰かから奪うなんてできない。そんなことを言うウィザード。
こんなことを言うのだから、必ず計画を阻止しに来る。だからルーラはウィザードを騙すことにした。
いつもなら見下した態度をとるルーラだが、ウィザードにはこの件に関わってほしくない。
そんな気持ちだった。
その後計画を終えて、完全に成功したと思っていた。
しかし、そんな考えはすぐに消え去った。
今のルーラの周りには敵しかいない。
ミナエルが変身した剣を持つスイムスイム。突如現れ自分の魔力を喰らう等と言い出したファントム・オーガ。
更には自分の派閥のメンバー全員に裏切られ、キャンディー所持数最下位になってしまい、
魔法少女の資格を失ってしまう。しかも下手をすれば魔力を吸いとられ死んでしまう。
ファヴの想定外の事態らしいが、このままでは間違いなく自分は死ぬ。
自分の魔法である相手を従わせる力。使えるものの隙が大きすぎる。
更には、こんな状況では使う時の隙で一斉攻撃を受けて確実に持たない。
今やルーラの思考は完全に混乱している。
今までこんなことは無かった。こんな筈じゃなかった。
そんな思いばかりが頭を巡り、肝心の答えが浮かばない。
「じゃあ、魔力喰わせて貰うぜ。」
不意にそんな声が聞こえてくる。気付けばオーガがこちらへ向かってくる。
このままではマズイ。本当に死んでしまう。
しかしそう言う時に限って体すら動かない。嫌だ、死にたくない。
だが無情にもオーガはどんどんこちらへ近づいてくる。
諦めの感情が生まれた刹那、予想外の事態が起こった。
「うおっ、何だァ!」
オーガが突然発生した巨大な穴に落ちていった。
端から見ればシュールな光景ではあるが、ルーラにとっては一安心である。
しかし、穴に落ちていったオーガ。つまり穴を作ったのは…
「ル、ルーラ大丈夫!?」
「…た、たま!?あなた何で…」
たまが自分を助けてくれた。たまも自分を裏切るための計画に加担していたのでは無いのか。
「た、確かにそうだけど…でも、ルーラが死んじゃうのは耐えられないよ!」
「何でルーラを助けたのさ!」
「たまも嫌だったんでしょ!ルーラにいつも馬鹿にされるのが!」
剣への変身を解除したピーキーエンジェルズがそんなことを言う。完全にルーラを殺す気だったようだ。
「確かにルーラは厳しくて怖いけど、でも何でルーラがキャンディーを盗むなんて言ったか、それがやっと分かったよ」
「何それー?」
「こんなことやらなくても、ルーラのキャンディーは結構あったんだよ。でも、ルーラは私達を脱落させないためにこうやってくれたんだよ!」
たまの思わぬ言葉にルーラは驚いた。今までは小心者でろくな意見も言わない馬鹿だと思っていたが、意外にも仲間思いなのかもしれない。
「ルーラを裏切っちゃった私なんかが言えることじゃないかもしれないのは分かってる」
「でも、ルーラは考えややり方が強引すぎるかもしれない。酷いことも言うけど…!」
「本当は私達のことを考えてくれてるんだと思うんだ!」
「たま…」
そんな言葉にピーキーエンジェルズは黙りこんでしまった。スイムスイムもずっと黙っている。
そしてルーラはここまでたまが自分のことを思ってくれているのに驚きだった。
しかし、そんなことを思っている間に…
「魔法少女め!よくもやってくれたな!」
「えっ!あの穴から出て来たの!?」
オーガが穴から抜け出した。かなり深い穴であったが、倒すどころか時間稼ぎにしかならなかった。
「もうお前の戦法は効かんぞ…」
「”ウロボロス”…」
オーガは巨大ファントム・ウロボロスの力を引き出した。
オーガは自身で喰ったファントムの能力を扱える。それは巨大ファントムでもだ。
ウロボロスは高速で空中を飛行できる能力を持っており、オーガもその能力を使い、高速で飛行してたまへ襲いかかった。
「うわぁ!」
「た、たま!」
たまは腕を足を切り裂かれた。かなりの出血である。
更にオーガは攻撃を仕掛けてくる。
「お前も俺が喰ってやるよ!」
「危ない!たま!」
ピーキーエンジェルズとルーラが叫ぶが、たまは足の負傷で動けない。
このままではたまも死んでしまう…
ディフェンド!プリーズ!
たまの前に壁が作られ、オーガの攻撃を防いだ。
「な、何だ!」
「…よく頑張ったな。たま」
「あ、あなたは…」
「お、お前は…!」
「操真晴人ォ!」
オーガの攻撃を防いだのは、ウィザード・ランドドラゴンだった。
「オーガ、お前が何で甦ってるのかは知らないが、この娘達はやらせない」
「フン、だったらやってみろ!」
そう言うとオーガは無防備だったルーラに突っ込んでいく。
「”レギオン”…」
オーガはファントム・レギオンの力でルーラのアンダーワールドに強制侵入した。
ルーラはその場に崩れ落ちる。
「しまった!ルーラ!」
ウィザードはルーラに駆け寄る。たまやピーキーエンジェルズ、スイムスイムもゆっくりとルーラの下にやってきた。
「ルーラはどうなったんですか!?」
「変な裂け目みたいなのに入ってったけど、あいつ」
「奴の能力はマズイ。最悪ルーラもファントムになっちまう」
ウィザード自身もレギオンの能力は何度も経験しており、危険なのも把握している。
急いでルーラの右手に指輪を付ける。
「みんなはもう戻れ。ここは俺がなんとかする」
「ウィザードさん。ここはお願いします!」
「なんか、色々ごめんなさい!」
「ごめんなさいー」
「私も帰る。後はお願いします…」
たま達はウィザードに任せて寺を離れた。
「絶対助ける!俺が最後の希望だ」
エンゲージ、プリーズ!
そうしてウィザードもルーラのアンダーワールドに入っていった。
「ここがルーラのアンダーワールドか。急いでオーガを見つけないと…」
奥へ進むと、アンダーワールドに発生した巨大ファントムを従えたオーガが待ち構えていた。
「オーガ!お前の思い通りにはさせない!」
「面白い!以前お前に倒された屈辱、ここで返させてもらおう!」
「さぁ、ショータイムだ!」
フレイム、プリーズ!
ドラゴライズ、プリーズ!
ウィザードはフレイムスタイルに戻り、ドラゴンを召喚してオーガへ突撃する。
ウィザードはソードガン、オーガも自身の剣で応戦する。
ドラゴンに乗ったウィザードはオーガ目掛けてソードガンを切り付ける。
ソードガンはオーガの胸部へ直撃したが、オーガもウィザードへ攻撃を直撃させた。
直撃を受けた二人は、地面に落とされた。
「やるじゃねえか!」
「この程度じゃない!」
ウィザードはソードガン、ガンモードで隙を見せたオーガに銃撃を撃ち込む。
オーガもさすがに回避出来ず、直撃した。
「今だ!」
スラッシュストライク!ヒーヒーヒー!
ウィザードはソードガンの必殺技、スラッシュストライクを放ち、一気に畳み掛ける。
「はぁぁぁぁぁぁ!」
「ま、マズイ!」
ウィザードの一撃はオーガに当たったものの、直撃はしなかった。
そして、オーガは消えていた。隙を突いてアンダーワールドから離脱したのだろう。
しかし、まだ巨大ファントムが残っている。
ドラゴンが足止めをしてくれていたおかげでアンダーワールドに被害は出ていない。
「ドラゴン、来い!」
フレイム…ドラゴン!
フレイムドラゴンに変化したウィザードはファントムに乗り、背部から攻撃を加える。
ファントムの両腕、両足を切り裂き、ファントムを達磨状態にして動きを止めた。
そのままウィザードはファントムにゼロ距離で必殺技を放つ。
チョーイイネ!スペシャル!サイコー!
「フィナーレだ!」
ウィザードの胸部にドラゴンの顔が合体し、炎を直撃させた。
ファントムは跡形もなく爆発した。
「…ふぃー」
アンダーワールドから離脱したウィザード。
寺に戻ると、ルーラは変身解除されており、早苗の姿に戻っていた。
「やっぱり魔法少女のまま助けるのは無理か…すまない、ルーラ」
「…私は、助かったの?」
「まぁな。ただルーラとしての力は失ったみたいだ…」
「そう…私はもう魔法少女じゃないのね」
「もう少し早く俺がここに来れていれば…ルーラ、本当にすまない」
「…早苗でいいわ。ウィザード」
「…え?」
「もう私はルーラじゃない。私は木王早苗」
「でも、感謝してるわ。本当は死んでたかもしれなかったのに…」
「そうか…早苗、あんたの希望は守れたのかな」
「えぇ。ありがとう。これからは、私ももう少し考え方を変えてみるわ」
「あんたも今まで色々あったのかもしれないけど、周りをもっと信じてみてもいいと思う」
「確かにあんたの思い通りに行かない事もあると思う。でもきっと悪いことだけじゃないさ」
「そうよね。ウィザード、あなたには本当に世話になったわ。ありがとう」
「俺も晴人でいいよ。操真晴人。これからも頑張れよ」
「分かったわ、晴人。ありがとう」
この時の早苗の笑顔を見て、晴人はまた一つ大切な命を守れたのだと実感した。
~数日後~
「ルーラが魔法少女やめてから、しばらく経つね…」
「何だかんだでルーラは結局居なくなっちゃったし、計画通りじゃね?」
「やっぱお姉ちゃんマジクール!その通りだね」
「ちょ、ちょっと二人とも…」
「ルーラが死ななくて、良かった…」
「スイムちゃん…」
「でも、ルーラがいないなら、私がルーラになる…」
「え…?」
「ルーラの意思や教えは、私が受け継ぐ…」
というわけで10話でした。
皆さんのご期待に沿えたかは分かりませんが、ルーラ編は取り敢えず終了であります。
来週からは、いよいよ皆さん大好きあのキャラ編に突入します。
そして16人目も登場します(出番が多いとは言ってない)