魔法少女育成計画 -Genocide Side- 作:∈(・ω・)∋
一年前、商店街が吹き飛び、多数の死者が出た。当時から数えて四年前の災害の再来だ、と騒ぎ立てる者もいた。
加えて猟奇的な死に方をした少女の死体が、一日で七つも八つも見つかったのら、それは大きな事件にもなる。マスコミが熱烈な報道は半年にも及び、C市は不吉にも不幸にも、災厄都市等というあだ名を冠されることになった。
マスコットも管理役だった魔法少女も居らず、また魔法の国からやってきた連中は、保身の為に誰にも何も伝えていなかった為、誰も隠蔽などという小賢しい事をしてくれなかったのが一番の問題だろう。時間が経つにつれて、少しずつ過去になっていく。
「で、お墓参りは今日だっけ?」
目玉焼きの乗ったトーストを、ザクザクとかじりながら、七琴は同居人に尋ねた。
「うん、七琴さんは?」
キッチンで、自分の分の皿にも同じ物を乗せながら――――弦矢弓子が答えた。
児童養護施設を出て、仮住まいを探していた彼女に、『部屋空いてるしおいでよ、家賃安くするよ』と誘ったのは、七琴だった。ついでに家事もやってもらうことにした。
「しんみりするの嫌いなんだよねー、ていうか、真里ちゃんお姉さんパパママ兄さんで回るとこ多すぎ、一箇所に固まってくれ」
「それはいくらなんでも……」
横暴が過ぎる事を言いつつ、香ばしく焼けたパンを詰め込んでいく。そもそも施設では、独り立ちをしやすくするため、家事はひと通り仕込まれたというが、以前の七琴の散らかしたら散らかしたままで、週二でホームヘルパーを呼ぶような自堕落な生活と比べたら、格段の進歩である。
「ま、しんみりしたのは嫌いだし、気が向いたら行くよ。お仕事もあるしね」
笹井七琴こと、ジェノサイダー冬子。弦矢弓子こと、ユミコエル。
この街の魔法少女は、たった二人しか居ない。たった二人で、守っている。
「……あの、七琴さん」
「ん?」
「なんで……魔法少女を続けようと思ったんですか?」
弓子は、何も出来なかった自分が悔しかったから。今度は誰かを助けたいと思ったから。そんな感傷が、今の彼女の動力源だ。
それでも、弓子が知る七琴という少女は、合理的で、損得勘定が上手く、打算で動く。まるで、彼女の親友だった少女、阿多田香奈子のように。
「損得で言ったら、その……損、ですよね」
「ま、そうだよね、別になにか貰えるわけじゃないし」
「なら、なんで……」
弓子の問に、七琴は笑って答えた。
「まだ終わってないから」
「……え?」
「ドラゴンハートを解放したのは、真里ちゃんだった。動機は、それが自分が心酔した魔法少女だったから。もう一度支配してもらうために、私を利用した、それはいいんだ。終わったことだし、わかってたことだから」
しかし。
「じゃあプリンセス・ルージュは誰が解放したの? そもそも真里ちゃんはどうやって魔法の国からドラゴンハートの封印珠を持ち出せたの?」
誰かが居て、何かをした。何かを企んで、悲劇が起きた。その責任は、まだ誰も取っていない。
終わってなんて、居ない。なんてことはなかった。笹井七琴は、合理的で、損得勘定で、打算で動いていた。
ただ、その原動力は、意志だ。
必ず責任を取らせてやるという、果てしないまでの怒りと決意。
「まだ終わってないから――終わるまでは、魔法少女で居るよ」
弓子の背筋に、冷たいものが走った。
ジェノサイダー冬子は、笹井七琴は、一年前のあの日、何をどこから、どこまで考えていたのだろう、彼女の視界には何が見えていて、彼女の頭は何を想っていたのだろう。
彼女は知らない。阿多田香奈子をして、絶対に対処できないと言わせた魔法少女、ドラゴンハート、その無敵の魔法の弱点を、七琴は、親友と引き換えに的確に突いて仕留めた事を。
「そんなに、怖がらなくていいよ」
そんな内心を見透かしたように、七琴は笑った。
「少なくとも、先輩に――ゆめのんに対して恥ずかしいことは、絶対にしないから」
悲劇も、惨劇も、喜劇も、絶望も、絶叫も、慟哭も、嗚咽も。
全てを飲み下し、全てを終わらせ、失い、傷つき、手に入れたはずのものをまた失った魔法少女、ジェノサイダー冬子が、生まれ、育ち、完成した物語はここで幕を閉じる。
「まだ、終わってない」
少女の物語だけが、続いていく。
魔法少女育成計画 -Genocide Side- 終
魔法少女育成計画 -Suicide Side- へ続く