武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

98 / 109
98 覇王獅咬拳

魏軍は赤壁から撤退し、江陵をも放棄して新野を目指して落ちて行った。

 

蜀と呉は、すぐさま追撃を開始。

ここぞとばかり、奇襲伏兵何でもござれと削りに削る。

 

白蓮も大いに活躍していることだろう。

間に合うなら俺も行きたかったんだが、ちょっと無理だった。

 

「現在、魏の軍勢はおよそ五十万。もう少しで、我が軍と拮抗します」

 

「うむ。だが向こうも、まだまだ立て直せない数じゃないな」

 

呉蜀の王と、軍師たちが顔を突き合わせて軍議なう。

将兵の大部分は出払っているのに、俺たちは何故だか留め置かれていた。

 

「……隊の再編を終えれば、儂らも出るのか?」

 

「祭!……もう大丈夫なの?」

 

そして無事だった黄蓋。

トイレに放置される、何て不条理なこともなく手厚く看護されていた。

 

「ああ、もう大丈夫じゃ。堅殿と顔を合わせるのは、もう少し先のようじゃなぁ」

 

笑みを浮かべつつ、冗談を言える程度にまで回復したようだ。

もう大丈夫だな。

 

ん?

その黄蓋が、ゆっくりと近寄りながら囁いてきた。

 

「呂羽。おぬしに儂の真名を預ける。…よもや、拒否などするまいな?」

 

「え?ああ、はい。…でも何で?」

 

「ふっ…死に瀕し、儂の感覚も鋭敏になっていたようでなぁ」

 

小声で答える黄蓋、もとい祭。

 

おおっと、ばれていたのか。

まあ交換するのは吝かじゃない。

変にごねて、藪を突いて蛇たちを放り出す訳にもいかんからな。

大人しく交換に応じよう。

 

 

「でも雪蓮さん、大勝利でしたね!」

 

「そうね、桃香。まだ油断は出来ないけど、かなり削ってやったわ」

 

魏と呉蜀はようやく同じくらいの規模になり、同じステージ、交渉テーブルに引きずり出せる。

そのための最終決戦が、新野になるのかな。

 

概ね思惑通りに事が運び、一部を除いて皆の顔も明るい。

そんな中、雪連が真剣な表情で俺を見据える。

 

「さてリョウ。貴方には聞きたいことがあるの」

 

「…何だ?」

 

和やかな雰囲気だった本陣。

それが、雪蓮のピリッとした声で一気に緊張した。

 

「祭を助けた人物。真に火計を成した人物。…幾多の目撃情報から、どちらも同じ人物よ」

 

え、まさかの尋問タイム?

黙って先を促す。

 

「あの仮面…、貴方でしょ?」

 

瞬間、言葉にならないざわめきが起こった。

周囲から突き刺さる視線が、質量を伴ってるかのように痛い!

俺に味方は居ないのか?

 

シャオは明後日の方を向いて知らん顔。

由莉は無表情で、助けてはくれそうにはない。

 

「…さて、何のことやら」

 

でもせっかく変装したんだから、シラを切り通すしかないよね。

 

「あら、とぼけるつもり?」

 

この場に関羽と星が居なくて良かった。

雪蓮の言葉に激昂して、あるいは乗っかって来るのは目に見えてる。

 

「おい雪蓮、その辺にしておけ」

 

尋問が続くかと思えば、冥琳が制してくれた。

おお、貴方が女神か。

 

「それは、全てが終わってからでいいだろう」

 

「むぅ、分かったわよぉ」

 

単に逃げ道を塞がれただけだった。

うん…まあ、そんなもんだろうね。

 

「それよりも、お前との約束はまだ有効だ。期待しているぞ?」

 

「お、おう…」

 

そうだった。

魏との戦いが終わるまでは、呉に属して動くって約束。

別に破るつもりはないけど、正直忘れかけてたぜ。

 

「曹操は城に籠るような真似はすまい。決戦は野戦となる。それに沿った陣立てを、孔明?」

 

「あ、はい!…それではですね──」

 

やがて新野に集結した魏の軍勢。

ここで立て直し、呉蜀同盟へ決戦を仕掛けて来る。

城に五十万もの大軍は収納出来ない。

 

それに、正々堂々を旨とする曹操様。

此処に至っても尚、その姿勢を崩すことはないだろう。

 

兵数はほぼ同じ。

後は策を練り、機を計り、武をと知を持って、戦うのみ。

まさに雌雄を決する戦いが始まろうとしていた。

 

 

* * *

 

 

まもなく決戦が始まる。

俺は呂羽隊を率い、相変わらず遊撃隊としての役割を担う。

 

だけど、そんな緊張感が漲る空間に、酷く邪な罅が入る気配を感じ取っていた。

此処に来て初めて感じる気配で、どうにも嫌な予感が付随している。

 

「…副長、来い!」

 

「隊長、どちらへ?」

 

由莉の答えを聞かず、持ち場を離れて白蓮たちが布陣する場所へ急ぐ。

深い考えなんてない。

ただ、極限流的本能…極限センサーの赴くままに!

 

「白蓮!」

 

「リョウ?どうした、そんなに慌てて…」

 

「馬超は居るか?」

 

「…今、桃香たちのところに行ってるが」

 

「そうか…。よし、本陣に急ぐぞ。白蓮も来い!」

 

驚く白蓮を気にせず、本陣へ全力疾走。

 

気のせいじゃないなぁ、これは。

決戦どころじゃない、何かが起こる。

間違いない!

 

 

「雪蓮!!」

 

呉と蜀の王及び軍師らが連なる本陣へ、飛燕疾風脚で飛び込んだ。

礼儀や作法なんて、全て無視!

あ。馬超がめっちゃ槍構えとる。

すまんね、驚かせて。

 

「リョウ!?」

 

「呂羽さん?」

 

「何か無かったか!?」

 

驚きつつも迎え入れてくれる雪蓮と劉備ちゃんに対し、抽象的な質問を投げ掛ける。

 

「何かって…何?」

 

…いやまあ、訳分からんよね。

冷静に指摘されてちょっと落ち着いた。

でも、近いんだ。

 

「あ、あの呂羽さん…。何か、あるんですか?」

 

「……もうすぐ来る!……気がする」

 

「気がするって…」

 

「報告します!!」

 

孔明ちゃんの言葉を遮り、俺以上に息の上がった使者が報告に入る。

来たか!?

 

「馬休様より至急の連絡です!五胡の軍勢が、突然大挙して侵攻を開始!!」

 

「五胡だと!?」

 

「はっ!規模が大き過ぎ、国境の兵は壊滅!」

 

「な…、何だってーー!!」

 

「余りの多さに守備隊では対処出来ず、馬休様は人命最優先で撤退しています。しかし、そう長くは…」

 

「く、まさかこんな時に…。おい!目算で良い、敵の数は!?」

 

「はっ、およそ……三百万です!!」

 

 

* * *

 

 

五胡の突然の進撃に、三国は緊急休戦。

共同して迎え撃つこととなった。

 

三百万かぁ。

そりゃ嫌な気配も漂ってくるよねぇ。

 

俺は白蓮の白馬義従と共に、竜巻を駆って先遣隊を率いている。

追従するのは馬超に馬岱、張遼と姉さん、それに凪。

 

やや遅れて孫権と紫苑に夏侯淵、それからシャオと由莉率いる呂羽隊。

軍勢を再編した三国の本隊がこれに続く手筈になっている。

 

 

軍の再編には時間がかかる。

よって騎馬隊で先行、状況を確認し、弓隊で可能な限り被害を食い止める。

その隊長に孫権、馬超と夏侯淵が副隊長と言うことで軍を整え次第出発することに決していた。

 

でも、俺は言ってやったよ。

 

「相手は魏じゃないし、約束の範囲外だ。だから俺は、これから好きにさせて貰う」

 

これを言った時の怒気と殺気、そして広がる失望感は凄かった。

 

何人かは静かにこちらを窺っていたが。

その中の一人、華雄姉さんに聞かれたから答えた。

 

「ふむ。ならば、お前はどうするんだ?」

 

「軍の編成など待ってられない。先行する」

 

ってね!

その時の、皆が驚愕する様は中々に面白かった。

 

「そうか。では私も行くとしよう」

 

全く気負わず、さも当たり前のように言う姉さん。

 

「わ、私もお供させて下さい!」

 

そして、どこか焦って言う凪も一緒に。

 

まあ結局は騎馬隊がメインの馬超や張遼、白蓮も一緒になったけどな。

 

 

 

戦場予定地に向かい、駆けに駆け抜ける。

途中、操馬法に慣れず脱落しかけた凪を回収するハプニングもあったが、何とか無事に辿り着いた。

 

恐縮する凪を宥めつつ、戦地に立つ。

 

眼前に広がるのは、蠢く五胡の群れ。

恐らくまだ結構な距離があろうと言うのに、とてもよく分かる。

 

後続の弓隊、そして三国の本隊は合計しても百万を割る。

地方の警備隊や守備兵をかき集めたところで、まだ満たない。

 

三百万対百万。

 

燃えるね!

 

とは言え、野戦で三倍の数を打ち払うのは大変だ。

一騎当千の呂布ちんが居たとしても、体力や精神力が続かないことは目に見えている。

だったらどうするのか。

 

「さて呂羽。合図は任せていいか?」

 

「え?…華雄殿、それは一体どういう…」

 

流石姉さん、分かってるねぇ。

 

話は簡単。

呉蜀が魏を引きずり降ろしたのと同じ。

削ればいいんだ。

 

「突入するのか?いくら騎馬隊とは言え、囲い込まれたら…」

 

凪の疑問や馬超の心配も分かるが、敢えて放置。

 

「了解した。ところで姉さん」

 

「なんだ?」

 

「合図は良いとして……別に倒してしまっても構わんのだろう?」

 

「…ふっ…ふふふッ!ああ、構わん。存分にやれ!」

 

人類ポカン計画が発動した。

俺と姉さん以外はポカーン状態。

おいおい、ちゃんと括目しろよ?

 

「凪」

 

「っ!は、はい!?」

 

「良く見ておけ。我が極限流の神髄を!」

 

覇王翔吼拳を会得したのは素晴らしい。

しかし頂は果てしないのだよ。

覇王至高拳、超覇王至高拳、そして更に上がある。

 

ふぅーーーー……。

精神統一、心頭滅却、無我夢中!

 

腕を交差して両掌を左脇に溜め、ぐんぐん、ぐんぐん気を高めた結果。

俺の正面に、巨大な獅子の姿が顕現する。

 

「覇王獅咬拳!!!」

 

胴着の上着が肌蹴るほどに勢いよく、思い切り打ち放つ。

青いビーム状の獅子が駆けていき、蠢く五胡の群れを薙ぎ払っていった。

 

 




・覇王獅咬拳
KOFタクマのMAX2で、元々はゼロキャノンを吹っ飛ばす演出より。
要はビームですからね、強くて楽しく最高の使用感でした。

・進撃の五胡
唐突にクライマックス。
このままヌルッとエンディングへ突入して行きます。たぶん。

97話誤字報告適用しました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。