武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
江陵での悪戯を終え、一旦本隊に戻って来た。
「おかえりなさいませ」
「ああ、ただいま」
由莉が出迎えてくれる。
何だか奥さんみたいだな。
まあ、もうしばらくしたらまた離れるんだけどな。
少しの時間だが、最終確認も兼ねて色々やらねばならないことがある。
仮にも部隊長だし、何人かには顔見せもせんといかん。
ちなみに合流したのは俺とシャオのみ。
他の隠密精鋭部隊は某所に待機中だ。
「食事にします?沐浴します?それとも…」
「ちょっと由莉!ふざけ過ぎだよっ」
「チッ!……では隊長、小蓮様。簡素ながらお食事の準備がありますので」
「あ、うん。頂こう」
何時の間にか由莉とシャオが真名を交換してた。
聞けば、白蓮とも交換済みらしい。
まあ仲が良くて何よりだ。
「すみません!呂羽さんは居ますか?」
「これは周泰様。隊長なら、小蓮様ともどもお食事中ですが」
「あ、では言伝を」
「それには及ばない。不作法で悪いが、何かあったか?」
もぐもぐしながら周泰の前に姿を現す。
シャオもむしゃむしゃしてて無言だが、ちゃんと隣に居るよ。
「あ、はい。最終確認をするので、雪蓮様の陣へお出で下さい。小蓮様も」
「ふぇー、へんふぉくふぁいふぁ~」
ちゃんと飲み込んでから喋れ。
はしたないぞ、孫呉の末姫ともあろう者が。
ほら、周泰も引き攣った笑みを浮かべてるじゃないか。
「了解した。すぐに片づけて向かうとするよ」
「はい、お願いします!」
そう言うと、シュバッと一瞬で立ち去る周泰。
最近ますます忍者っぷりに磨きがかかってる気がする。
時々捉えきれんこともあるし、全く恐れ入るぜ。
* * *
「孫策さん!今回は宜しくお願いしますねっ」
「はぁ~い劉備。すっかり逞しくなったみたいで、お姉さん嬉しいわぁ」
呉と蜀の軍勢が一堂に会した。
や、一部別働隊などは此処には居ないが。
赤壁の現地では、孫権と甘寧、陸遜が既に乗り込んで色々準備をしているらしい。
「──なので、私のことは桃香と呼んでください!」
「そうね、これからは一緒に戦う仲間だもの。私は雪蓮。頼みにしてるわ」
真名を交換し、握手をする雪蓮と劉備ちゃん。
周囲では呉蜀の面々が挨拶を交わし、首脳陣による最終確認が行われている。
陣形やどの船に何人、誰が将となるか、水上戦への対応は云々。
冥琳と孔明ちゃんとで次々に決まって行く。
鳳統が居ないのは、何か別の策で動いてるのかな?
この決戦。
呉は呉で、蜀は蜀でそれぞれの策がある。
さらに呉蜀の同一の思惑もある、複雑に絡み合った策となっている。
魏も含め、どの軍師にも全容を把握出来ている者は居ないだろう。
俺?
由莉が分からん時点で分かる訳ないだろう。
まあこの事実も、未来を知って無ければ、という但し書きがつく。
北郷君はこれに当てはまるのか?
八割方、当てはまるだろう。
まあ北郷君は軍師じゃないから、未来を知ってるだけじゃ全容の把握は不可能だけどな。
それに今のケースはきっと、どの時間軸でも有り得ない。
だから八割方。
まあ些細な数字の話だ。
あまり気にする必要もない。
アレコレ考えていると、俺の下にも見知った顔がちらほらと。
「…呂羽」
「おお、呂布ちん。元気だったか?」
コクリと頷き、ジッと見詰めてくる呂布ちん。
なんぞ?
「…仮面、まだ?」
「…っ!す、すまない。もうちょっと待ってくれないか」
ぬぅ、覚えて居やがったか!
ともあれ、世が平和になれば天狗面の出番も無くなるはず。
何とかそれまで待ってもらおう。
「…分かった。…ちょっと前、星にコレ貰った。あとは、呂羽の…」
そう言って見せてくれたのは、華蝶の仮面だった。
何と言う事でしょう。
恋華蝶は既に誕生していたらしい。
とりあえず関羽がしているであろう、気苦労にはお祈りを捧げておく。
俺には何も出来ないし、むしろ掛る火の粉は払いたい。
「さて、リョウ。貴方にも大いに期待してるわよ?」
ある程度落ち着いたのか、雪連に声を掛けられた。
「ああ、任せておけ!全力全壊を見せてやる」
「…なんか変な感じに聞こえたけど、まあいいわ。シャオのことも、宜しくね?」
あいよー。
雪蓮の期待には言葉通り、全力で応える所存だ。
「では、それぞれの戦場でな。健闘を祈る!」
* * *
雪蓮や冥琳、劉備ちゃんたちに挨拶して持ち場に戻ってきた。
魏の軍勢が決戦の場に集結するまで、あと一週間前後。
呂羽隊の役割は遊撃。
開戦前に首脳陣と顔を合わせるのは、これが最後になるだろう。
呂羽隊の本隊を率いていることになっている俺。
居ないことが露見したらヤバいが、どうしようかと考えていたから渡りに船だった。
……これで、アリバイ作りはばっちりだ!
「さて、シャオはどうする?」
「もっちろん、リョウについていくよー!」
そうか。
じゃあ、全力で全壊しに行こう。
「じゃあ由莉、此処は任せる。基本は前に話した通りだが、無理はするな?」
「承知しております。隊長も、ご武運を」
うん。
じゃあシャオ?
「なぁに?…きゃ!」
ひょいっとお姫様抱っこ。
小娘一人くらい、抱えて行くことに造作もない。
瞬間、ぶわっと由莉の辺りから黒い霧が舫った気がしたので慌てて飛び立つ。
「か、帰ったらしてやるから!」
変なことを口走りながら。
いかんいかん。
由莉は結構、嫉妬深いんだった。
最近シャオとも仲良くしてたから、油断してたぜ。
本物のお姫様を抱えて、ぴょんぴょんぴょーんと所定の位置まで飛んで行く。
気を足先と踵に集中させ、二段跳びを連続して行うことで疑似的な飛行が可能なのだ。
疲れるから多用は出来んが。
「すごいすごい!リョウ、もっとやってっ」
可愛らしくはしゃぐシャオ。
だが俺はアトラクションじゃないんだぞ。
「ハァ!」
最後の一蹴りは多目に気を充填。
ボンッという爆発音と共に更に上昇した。
「きゃあっ!すっご~い、あはははは!」
所定の位置に着地してからも、シャオは上機嫌にクルクル回っている。
まあ滅多に体験出来ないことだろうし、楽しんでくれたなら何よりだ。
酔われるよりずっといい。
シャオは軽いから問題ないが、由莉が相手だとちょっとキツイかも知れんなぁ。
ほら、お胸さんとかがさ……。
おっと、あまり変なことを考えると俺の首が危ない。
スパーンと、超ビール瓶斬りが飛んでくること間違いなし。
誰からとは言わんが。
さて、此処に駒は揃った。
あとは状況を見て、考えた策を投下して行くだけだ。
スッと懐からユニークアイテムを取り出す。
「あれ?それって…」
そう、空手天狗の面だ。
シャオには見せてないと思うが、成都で見たのかな?
まあどっちでもいい。
「他の奴には内緒だぜ」
・超ビール瓶斬り
KOFMI2などでユリが使用。
踏み込みながら水平の手刀を浴びせる技で、リョウと違い溜め可能。
使い道は煽りくらいかな。
・脅威の胸囲査定
大)紫苑>冥琳>由莉>雪蓮
中)星>凪>白蓮
小)詠>月>小蓮