武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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90 飛龍跳襲脚

成都に戻って来た。

聞くところによると、南蛮も無事に収まったらしい。

呂布ちん大活躍とか。

 

今後しばらくは、背広組…もとい頭脳労働がメインとなるようだ。

一緒に戻って来た詠っちが言ってた。

 

そして遠征組には、しばらく休養するようにとの通達が為された。

 

と言う訳で、諸々を認めた報告を呉に送った。

蜀である程度の成果を上げたことだし、ひょっとすると何か別の指示があるかもと思ってな。

報告を作って送るのは由莉だけど、ちゃんと署名したぞ。

シャオと連名で。

 

さて、今日の仕事は終わった。

休暇だし、久しぶりに成都の街をぶらぶらしてみようかね。

 

 

* * *

 

 

「呂羽、待て!」

 

「断る!」

 

「……逃がさない」

 

「ぬぉーっ?」

 

絶賛追い詰められ中。

これが孔明ちゃんの罠か!?

 

いや、別に悪いことはしてないんだ。

ただちょっと酒に酔って暴れてる奴が居たんで、趙雲と一緒に鎮めただけでな。

 

その際、趙雲は例の仮面だったんで俺も合わせて空手仮面になったんだ。

もちろん周囲に関羽や由莉の気配がないのを確認してからな?

 

暴徒鎮圧は上手く行った。

華蝶仮面との、飛龍跳襲脚を使ってのミラクル挟撃も良い感じに打ち上げることが出来たし。

 

そしたらこの様だよ。

今回も趙雲の囮として利用された気がする。

 

前回同様警備隊を率いる関羽と、何故か呂布ちんにも追い回された。

いや前回と違って、由莉や白蓮は居ない。

それが救いと言えば救いか。

 

「いい加減、お縄についたらどうだ!」

 

関羽が怒鳴りながら距離を詰めてくる。

いやいや、諦めたらそこで試合終了だよ!?

 

よって俺は諦めない。

とうっ!

大ジャンプで近くの屋根に飛び乗る。

 

「待ってた」

 

そしてガシッと強い力で掴まれた。

逃げた先には、何時の間にか呂布ちんが!

 

「え゛っ?」

 

「恋、でかした!」

 

残念、俺の冒険は此処で終わってしまった。

 

此処まで必死に逃げていたのには訳がある。

追手が関羽と呂布ちんだったからなんだが…。

 

関羽については、前科一犯として扱われるのが目に見えてた。

呂布ちんからも、そこはかとない圧力を感じて怖かったしな。

あの夢の影響もあるね。

 

そして案の定関羽からは超怒られ、平謝りした上に由莉に伝わるのを防ぐための賄賂も奮発。

関羽も女の子だし、スイーツは好きなんだよねぇ。

パクパク食ってたよ。

 

ちなみに呂布ちんはずっと横に居た。

スイーツも当たり前の様に食べてたけど、関羽から解放されても未だ離れない。

何の御用でせう?

 

「……呂羽、あの仮面」

 

「お、おう?」

 

普段ぽそぽそ喋る呂布ちんが、そこはかとなくハキハキ喋ってる。

そこにも驚きだが、何よりも。

 

「だめ?」

 

「えっ……ああ、……え?」

 

コテンと首を傾げる様はとても可愛らしいのだが、何を求めているのか分からん。

じぃっと見詰められるが、やはり分からん。

まあ、実際には予想出来ないでもないのだが…。

 

「えっと、欲しいのか?」

 

コクリと頷く。

マジか……。

 

『それを手放すなんて、とんでもない!!』

 

しかしあの幻聴が、頭から離れない。

幻聴だから問題はないはずなんだが…。

逡巡していると、呂布ちんが発するには珍しい言葉ががが。

 

「……勝負」

 

「……なんで?」

 

「勝ったら貰う」

 

呂布ちんらしからぬジャイアニズムが炸裂ぅ!

そんなに欲しいのかーい。

 

しかし何かよく分からんが渡してはならない気がする。

だったら勝てばいい?

なに言ってんだ、本気の呂布ちんに勝てる訳ないだろ!

 

となると、逃げるしか無い訳だが…。

 

「……呂羽、逃げちゃダメ」

 

見透かされとる!?

 

「逃げるなら、本気で…」

 

「待て!その…、そう!これは俺の大切なものなんだ。どうにかして別のを用意するから、しばらく待ってくれないか」

 

空手仮面としては別に良いが、定軍山で空手天狗を仕出かしてしまった以上、どこでまた使う場面に出会うとも限らない。

世の中が平和になるまでは手元に置いておく必要がある、気がする。

 

「……とりあえず、戦う」

 

ええっ!?

 

シュラーン!ガキィーン!!ドゴーンッ……ヤムチャしやがって……。

 

「うぐぅ」

 

「……待ってる。約束、絶対」

 

え?

ああ、別のを用意するってやつね。

了解した。

 

呂布ちんはそれだけ言うと、スタスタと去って…行こうとして戻って来た。

何だ。

 

「……お腹すいた」

 

…たかりか!

 

だが俺は敗者、勝者に従うのみ。

財布が空になった。

くぅ、あとで由莉に前借り頼まないと……。

 

 

* * *

 

 

後日、呉から返事がきた。

 

「帰って来いだってさ。ぶー、もうちょっと居たかったなぁ」

 

「蜀での功績も上げ、状況としては良いところですね」

 

シャオは不満を隠そうともしないが、結構居心地良かったもんな。

しかし由莉の分析通り、そろそろ色々動くだろうから戻るべきと俺も思う。

 

「じゃあ桃香たちに戻るって伝えて来るぞ」

 

「ああ、頼む」

 

白蓮に伝言を頼み、今後のことを考える。

 

呉に戻ったら決戦の準備をしなければならないだろう。

どんな準備をしたらいいんだ?

 

……何も思いつかない。

今まで通りでいいか。

 

 

その後しばらくグダグダしていると、白蓮が戻って来た。

 

「リョウ。明朝、会見するらしいから登城してくれってさ」

 

「ん、了解。シャオもいいか?」

 

「わかったー」

 

シャオよ、返事しながら俺の寝台で足をばたつかせるのは止めなさい。

 

いつからか、俺の寝室が溜まり場の様になっている。

執務室も借りてるんだから、そっちじゃダメなんだろうか。

別にいいんだけどさ。

 

 

さて、俺たちが定軍山で曹操様を追い返したことで事態はどう動くのだろうか。

 

蜀は南蛮を降し、五胡の動きも掣肘している。

富国策を進めており、兵力の拡充も順当に進んでいるように見受けられる。

何より定軍山で魏を追い返したと言う噂が広まり、良い風評を得ているようだ。

 

華雄姉さんの武名がうなぎ上りだぜ。

 

一方追い返された魏。

こちらも曹操様を始め、北郷君も色々考えているだろう。

将兵の流失は避けられたが、一敗地に塗れた事実は消えない。

 

謎の空手天狗についても調査は進められることだろう。

…はて。

それって蜀の情報と摺合せが為ったら俺、ヤバくね?

……まあその時考えよう。

 

そして呉。

こちらは孫権が中心となり、南部の平定を成功させたらしい。

慰撫に努めて、徴兵も順調とか。

 

孫権や呂蒙の成長が著しく、シャオが若干不機嫌になってた。

どうも、自分だけ活躍してないと思ったようだ。

一緒に定軍山行って、魏を追い返したじゃないか。

弓矢の扱いが凄く上手かったって紫苑も褒めてたぞ。

 

馬岱との可憐な連携技とやらは終ぞ発揮出来なかったが、まあいずれ、な。

 

 

* * *

 

 

翌朝、正式に呉へ帰還する旨を伝達。

了承を得て、お別れ会が開催された。

 

そこでは孫呉からの正使で当主の実妹であるシャオと、蜀の主要な人物たちの間で真名の交換が為された。

今後の同盟に際して、信頼の証を立てるのに有効だって言ってた。

由莉と孔明ちゃんたちが。

 

そんなところに俺はと言うと。

 

「では呂羽殿。最後に、手合せと行きましょうか」

 

「あ!星ずるいぞ、わたしだって…」

 

「呂羽。次会う時が待ち遠しいが、まずは此処で…」

 

「……呂羽」

 

カオス。

まあ要は、最後だからガッツリ手合せ願おうか!

なんて武闘派な面々がやって来ただけだ。

 

趙雲を筆頭に、ばっちょん、姉さん、呂布ちん、関羽、張飛、厳顔、魏延などなど。

呂布ちんはちょっと違うか。

 

求められるなら、応じざるを得ない。

 

上記から呂布ちんを除き、白蓮を加えた奴ら全員と仕合してやったさ。

なんで白蓮?

よく分からんが、求められたから応えたまでだ。

 

大体勝ったが、一人だけ勝てなかった。

 

負けた要因は精神面。

ちょっと最近怒られてばっかだったからって、切り替え出来ないなんてたるんでる。

もっと磨きを掛けなければっ!

 

 

最後に、趙雲と真名を交換した。

 

「華蝶は正義の代行。今後は真の同志となりましょうぞ」

 

なんて言ってた。

趙雲、もとい星は全くぶれないなぁ。

 

 

こうして蜀での生活は幕を閉じる。

いやはや、なかなか良い日々だった。

押忍!

 

 




・飛龍跳襲脚
KOF2003ロバのリーダー超必殺技のもう一つ。
空中ふっとばし攻撃風で、斜め上に浮きながら突進距離の長い跳び蹴りを出す。
「ストライク!」

これにて同盟編は終了。
次回からは決戦編となります。
あと少しですね。

ついでに、仮面同志としてひっそり趙雲と真名交換。

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