武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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88 鳳翼

「凪、流琉!無事?」

 

覇王様の登場やでぇ。

 

「華琳様!?……そう言えば凪さんも、何故此処に?」

 

「一刀のお陰よ。帰ったら礼を言いなさい」

 

「兄様が……。はい、分かりました」

 

やはり北郷君の差し金か。

後ろに居るのは張遼と許緒、そして夏候惇。

兵数自体は少ないが、結構本気で出て来たんだな。

 

「それで秋蘭はどこ?…あと、珍妙なソレは何者かしら?」

 

珍妙なソレって言うな。

別に格好良いと思って欲しい訳じゃないが、立派な天狗面なんだぞ。

 

「ふむ、新手か」

 

極限タイムは終了したが、天狗タイムは終わっちゃいないぜ!

 

後方やや遠く、由莉と白蓮の気配をキャッチ。

どうやら伝言に従い、ちょいと手前に布陣してくれたようだ。

紫苑たちの弓なら届くだろう。

 

その位置を探りつつ、目視で俺が見えにくい場所に移動。

気が張って感覚が鋭敏になっている今、枝葉の位置すら手に取るように分かる。

 

スススッと動く俺を、凪が警戒して構えをとる。

もう立てるくらいに回復したのか。

やるじゃなーい。

 

「華琳様……秋蘭様は……っ」

 

「……そう」

 

曹操様の周囲に炎立つ。

おぅふ、このままでは俺の命がストレスでマッハ。

 

「ぬぅぅん、はあぁぁっ!」

 

ぐぐっと溜めて真上にドーン。

極限虎咆の気だけバージョンで、姉さんに合図を送る。

 

「貴様、秋蘭をどこへやった!?」

 

弾かれたように武器を振り被って襲い来る夏候惇。

咄嗟にガードを試みるが、その必要はなかった。

 

ガキン!と火花を散らして相殺せしめるのは、金剛爆斧。

姉さん素早く登場。

 

「大丈夫か?」

 

「うむ。問題ない」

 

軽く見回すが夏侯淵の姿が無い。

小声で確認したところ、少し後ろに置いてきたとか。

 

「貴様は華雄か…。何故此処に…まさか、そこな赤鼻と一味か!?」

 

ちょっとだけ冷静になった気がした夏候惇。

でもすぐ激昂するから元通り。

と言うか赤鼻って……。

 

そんな夏候惇に対し、姉さんは何も答えず微笑するだけ。

やだ、カッコいい…。

 

「春蘭、小物に構ってる暇はないわ。さっさと倒して、秋蘭を探すわよ」

 

「なぁに、その必要はない」

 

姉さんを小物扱いとか、許るさーん!

お怒りモードの覇王様に声を掛けるのは恐ろしいものがあるが、今の俺は空手天狗。

傲岸不遜に自信満々、恐れるものは何もない!

 

一瞬だけ姉さんに全員の意識が逸れたその隙に、シュバッと夏侯淵の包みを取って来た。

ちなみに全身すっぽりと包まれているので、一見して何かは分からない仕様。

 

「…なんですって?」

 

ギロリンと睨まれる。

その凄味に、思わず気圧されるがおくびにも出さない。

 

「まず、お主らではワシは倒せぬ。次に、探し物は此処にある。最後に、此処から先は一歩も通さぬ」

 

一言目で全員が殺気立ち、二言目で色めき立ち、三言目で一歩下がった。

カカカカカッと大量の矢が降って来たからな。

 

チラリと後方を確認すると、まあまあの数の弓隊が居る。

目視では姉さんしか見えない筈だが、由莉なら気配で俺を感知してるだろう。

冴え渡る一斉射撃はその差配とみて間違いない。

 

「クッ、こんなもので!」

 

「待ちなさい!」

 

夏候惇と張遼が動こうとしたが、曹操様に制止された。

今は関係ないんだが、張遼の目が興味に彩られているのがとても気になる。

他の奴らは敵意や驚愕なのに。

 

「一つ目も気になるけど……。二つ目は、どういう意味かしら?」

 

激情を宿しつつも冷静に事を進めることが出来る。

やはり時代の英雄は違うのう。

 

「言葉通りだ。探し物は、これであろう?」

 

そう言って、小脇に抱えた包みを見せる。

少しだけ捲って、青い髪が見えるように……。

 

「秋蘭!!」

 

「この娘を返して欲しくば、大人しく立ち去ることを誓え」

 

カーッハッハッ!

どうだ、この悪役っぷり。

曹操様がギリッと奥歯を噛み締めた音が聞こえた。

 

「……いいでしょう」

 

「華琳様!?」

 

持つべき物は良い上司。

良かったね!

直で目を合せずに済む、天狗面に感謝せざるを得ない。

 

「そこの娘」

 

さて、凪に視線を移して話しかける。

 

「ッ!な、何だ?」

 

会話に入らず大人しくしていたところ、突如話を振られて慌てる凪マジ可愛い。

いつの間にか俺に対する警戒も薄れていたし、何かあったか?

 

「ほれ、返してやるから取りに来い」

 

「……分かった」

 

チラッと曹操様を見て彼女が頷いたのを確認すると、緊張しながらやって来た。

 

「気絶しておるだけだ。念のため縛ってあるが、得物はそのまま。あと周囲の安全が完全に確認出来るまで、決して包みは取らぬように」

 

手渡しながら諸注意を与える。

念を押すように言ったことに戸惑ったのか、曖昧に頷く凪。

 

彼女が背を向けたのを確認したところで、曹操様たちに向かって放言する。

 

「我が名は空手天狗!此処はワシの領域、通ること罷りならぬ。しかと伝えたぞ!」

 

その後一言二言話して、曹操様たちは退いて行った。

 

これで良し。

魏軍の皆さまには、空手天狗の存在が強く印象付けられたことだろう。

夏侯淵さんの服を台無しにしたのは空手天狗。

おのれ、許すまじ!

 

定軍山が拠点っぽいことも伝えて、蜀への防衛策もばっちりだ。

一石二鳥とはこのことよ。

 

あとは由莉たちが駆け付ける前に姿をくらまし、何食わぬ顔をして出てくれば良いだけ。

ふふふ。完璧……、完璧じゃないか!

 

周囲に人気がないことを確認し、姉さんに声を掛ける。

 

「危機は去ったな。助かったよ、合わせてくれて」

 

「問題ない。しかしまさか、あれほど将が出て来るとはな。追い返せたのは僥倖だった。呂羽の策に乗って良かった」

 

どう致しまして。

 

「それと、この姿のことは皆には内緒で頼む」

 

「ふっ…。二人だけの秘密だな、了解だ」

 

実際には隊員も数名居るんだが、彼らは空気を読んで黙っていた。

うむ、良い心がけだ。

せっかく姉さんが楽しそうなのに、ブチ壊したら埋めるところだ。

 

さて、後方の友軍と合流せねば。

変装を解いたら、辻褄合わせのために話を擦り合わせよう。

 

 

* * *

 

 

魏への対応と、蜀への説明はそれぞれ異なるものになる。

基本的に俺は姉さんと一緒に行動した訳で、そうしないと話が繋がらないからね。

 

ま、平和になるまでばれることもあるまい。

だから問題ないと、そう思ってたんだ。

 

けどねぇ。

大問題です。

 

 

「それで?何がどうなったのか、詳細に教えてくれ」

 

何時になく険しい顔で迫って来るのは白蓮。

由莉もシャオも、紫苑すら怖い顔だ。

唯一、馬岱だけは我関せずと姉さんの隣に座ってる。

 

「いや、だから。さっきも言ったが──」

 

「私も改めて言うぞ?……詳細に、話せ」

 

あ、白蓮が怖い。

こんな一面もあったんだね。

 

助けを求めて姉さんを見るも、あっちはあっちで馬岱に色々聞かれてる。

元々姉さんは多弁な方じゃないせいか、ぽつぽつと何食わぬ顔して返せば問題ないようだ。

 

つまり、助けは期待できない。

止むを得ん。

 

「…鳳翼!」

 

ちょいんと小さく跳ねて、囲いの突破を試みる。

戦略的撤退。

この場面、何をどう考えても悪手である逃げを打ってみた。

 

さっきまで空手天狗でハイテンションだった反動なのか、何が何だか分からなくなっている。

頭が沸騰しそうだぜ!

 

 

もちろんすぐに捕まった。

逃亡は罪であり、慈悲はない。

 

 

駐屯地に連行され、どうしても言えない箇所以外は俺の所業として全部話した。

 

もちろん、空手天狗なんて格闘家は存在しない。

夏侯淵の脱衣KOなどは口が裂けても言えぬ。

 

そうそう、あの場に立ち会った隊員は口封じに溺死させておいた。酒で。

名目は頑張ったで賞。

本人が浴びるようにと望んだのだから、何も問題はない。

むしろ本望だろう。

幸せそうな顔で沈没していた。

 

ところで、どうしても言えない箇所が黒塗りとなって表面化。

姉さんもずっと側に居た訳じゃないし、秘密も守ってくれたので証言にはならず。

 

なるほど、これが自業自得って奴か。

完璧だと思ったんだけどなぁ…。

 

今、俺は正座しながら冷たい目をした女性陣に囲まれて反省している。

後悔はしてないが。

 

 

 




・鳳翼
某豪鬼の百鬼襲パロディ技と言うことで、使用者はKOFユリ。
単体では小さく跳ねるだけで、派生技が色々あります。

パロディ自体は色々あるけれど、一目瞭然なのはユリが多いですね。
他社も自社もやりたい放題。
だがそれがいい。

・許るさーん
名言?
初代餓狼ギース様のデモより。恐らく誤植でしょう。
ギース様に関しては極限流とも絡みがあるけど、余り触れられない気がします。

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