武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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87 超龍虎乱舞

夏侯淵を横に置き、監視を姉さんに任せる。

合図したら連れて来るよう頼んで。

 

ついでに、遥か後方に置き去りにしてしまった友軍にも通知を送っとこう。

あ、此処よりちょっと手前に布陣するよう伝えてね。

 

さあ、終局へ向かおうか!

 

 

* * *

 

 

「…典韋様…」

 

「まだ、もうちょっとだけ……。必ず、必ず来ますから…っ」

 

部下と思われる兵士と話す、涙目の典韋が見えた。

 

何やらこの仮面を付けてると、視力や聴力がやたら良くなってる気がする。

まあ実際の所、気を全身に纏わせることで身体能力が著しく向上してるだけだろうけど。

 

ともあれ、さっさと行って士気を挫くとしよう。

 

「残念だが、その望みは叶えられん」

 

「誰ですか!?」

 

「ふむ。よもや、ワシの顔を忘れたとは言うまい?」

 

仮面だけどね!

 

「貴方……っ!しゅ、秋蘭様はどうしたのですか?」

 

「ワシが此処に居る。それが答えだ」

 

おっとー、弾かれた様にヨーヨーが降って来たぞー。

涙目で思い切り武器を振り回す典韋。

 

精神状態が悪いな。

そんな状態で、ワシに敵うと思うてか!

 

「虎煌拳!」

 

「きゃあっ」

 

ズバァン!と響く鈍い音。

ギリギリでガードが間に合ったのは、培った経験と力量のお陰か。

それでも心がついて来ておらず、吹っ飛んだ。

 

「…うぅっ…」

 

心身共に疲労し、よろけながらも涙目でこちらを睨みつける典韋の姿。

これ、傍から見れば完全にイジメだよな。

イジメ、カッコワルイ。

 

さて、これ以上こっちが精神的打撃を被らない為にも確保に移るとしよう。

 

夏侯淵と典韋を確保し、穏便にお引き取り願う。

それが俺の策であり方針だ。

穏便?穏便。

 

「一旦、眠るがいい」

 

覇王至高拳だと服が破ける危険があるので、強めの虎煌拳にしておこう。

そう思い、腕に気弾を溜めていると…。

 

「ぬっ!」

 

ズガンッと何処からともなく飛来した何かが着弾。

咄嗟にバックステップで避けたが、典韋の前に誰かが降り立った。

 

まあ、見えてるんだけどね。

 

飛来した何かは気弾。

多分、闘気弾。

典韋を守るように立つのは凪だ。

 

そっか、凪が来たのか。

間に合っちゃったのかー。

 

「コホッ…、凪さん!?」

 

「無事か、流琉」

 

キャー、凪ちゃんカッコいいー!

傍から見れば、完全にヒーローですわな。

 

警戒しながら睨みつける凪。

その目は敵意に満ちており、対峙するのが俺だとはばれてなさそうだ。

 

そこで閃いた。

此処は一つ、悪役っぽく振る舞おうではないか。

インパクトが大きければ大きいほど、虚像は膨れ上がるってもんよ。

 

「ふふ、中々骨がありそうだな。良かろう、少し遊んでやる」

 

「貴様…ッ」

 

ギリッと奥歯を噛み締める凪さん。

 

「凪さん!実は秋蘭様が、この人に……」

 

ちょっと典韋さんや。

そこで切ったら俺が夏侯淵を轢いたみたいじゃね?

誤解を誘ったのはこっちだが。

 

「……分かった。こいつを倒して、全て吐かせてやる」

 

お?…凪の纏う空気が変わった。

その名の如く、まるで凪いだ大海のよう。

 

激情が一周して冷静になったのか。

気の高まりが素晴らしい。

 

「いつでも来い!」

 

問答は終わり、ただ全力でぶつかるのみ。

どれだけ成長したものか、実に楽しみだぜ。

 

「ハァッ!」

 

「ちぇすとぉー!」

 

ガキーンと横捻り足刀同士が絡み合い、まずは相殺。

激しい戦いが始まった。

 

 

 

しかし激しい戦いは、すぐに終了してしまった。

何故か?

凪の表情に驚愕と迷いが見え始めたから。

 

ああ、見た目は違っても中の人は同じだしね。

扱う技も実質同様だし、疑問を感じるのも仕方がない。

 

でも、それじゃダメだぜ。

 

「…敵を前に何を悩む。戦いの最中に迷うは、死あるのみぞ!」

 

翔乱脚!!

 

一足飛びに駆け寄り、腕を手繰って頭を掴み、膝蹴りを乱打する。

防御は間に合ったようだが、反撃にキレがない。

まだ迷うか。

 

「飛燕疾風脚!」

 

これは避けられた。

その表情には焦りが見える。

 

でもそんなの関係ねえ!

 

「虎煌拳」

 

「そ、それはっ!?……グっ」

 

続けて技を掛け続けていると、大回し蹴りで反撃。

ひょいと避けて間を開けたところで、焦ったような凪の呟き。

 

「貴様、何故その技を使えるっ?…しかもその錬度、まさか…っ」

 

「ハッハッハー!我が名はミs…空手天狗。この程度、造作もないわ!」

 

話が噛み合ってないが、自己紹介してなかったのを思い出したんでね。

謎の極限流使いでも良いけど面倒だし。

ついでに勢いでミスター・カラテって言いかけて、慌てて言い直したら空手天狗って言っちゃった!

仮面の要素が消えちゃったよ?

まあいいか。

 

「てんぐ…?いや、それより貴様。まさかリョウ殿の関係者か?」

 

「ふっふっふ。お前のその拳で聞くが良い!」

 

あ、天狗が通じない?

まあ問題はない。

だってまともな問答をするつもりはないのだから。

間違いなく、ぼろが出ちゃうからな。

 

遭遇戦であろうと此処は戦場。

敵対する奴が相手なら、全力で打ち掛からねばならない。

それを思い出させるために、こちらが大人気なく全力疾走してやろう。

 

「奥儀!」

 

両腕を眼前で交差させ、腰元に引き絞る。

そのまま翔乱脚よりもハイスピードで一気に距離を詰め、間合いに入った。

 

「クッ」

 

凪による苦し紛れの左フックを避けつつ、乱舞に移行。

 

左正拳突き、右正拳突き、右回し蹴り、左正拳突き、右正拳突き、足掛け蹴り、ボディーブロー、起き上がりアッパーから続けてヒジ打ち、左右正拳突き、ボディーブローから瓦割り、無頼岩、飛車落とし、横蹴り、回し蹴りへと繋げて…。

最後に振り上げアッパーを当てて、一歩後ろへ。

連打を浴びてふらふらしている目標目掛け、止めの一手。

 

「せりゃ、せりゃぁ、せりゃぁぁーーーっっ!!」

 

存分に練り込んだ覇王至高拳を三連続で打ち出した。

この一連の乱舞こそ、ミスター・カラテの奥儀・超龍虎乱舞である!

 

ところで、無防備な相手に覇王至高拳がクリーンヒットすればどうなるのか。

割と最近学んだことがあったよね。

そう、服が破ける。

状況にも左右されるのだろうが、危険を冒すのは避けるべきだ。

 

なので、微妙に角度を変えて直撃しないように配慮した。

一発はギリギリ掠めて森へ消え、一発は足元やや手前に着弾。

最後の一発だけは、彼女の防御態勢が辛うじて間に合うのが見えたので正面からぶつけてみた。

 

破砕音と共に土埃が派手に舞い、周囲には衝撃波が広がる。

 

「…な、凪さん…?」

 

典韋の心細そうな声が響く。

 

ちゃんとガードが間に合ったようには見えたから、大丈夫だとは思うけど…。

やがて視界が開けて来ると、状況が把握出来た。

 

「凪さん!」

 

そこには両腕を交差してガードした体勢のまま、片膝を地につけて肩を大きく上下させる凪の姿が。

うむ、見事耐えきったな。

……よし、服も破れてない。ほとんど。

 

 

おっし、では仕上げだ。

 

「覇王翔吼拳を会得せん限り、お前がワシを倒す事など出来ぬわ!」

 

いやあ、ミスター・カラテと言えばこれだろう。

今の俺は空手天狗で、放ったのも覇王至高拳だが。

 

気持ちよく言い放った俺を、とても鋭い眼差しで睨みつけてくる凪。

視界の端には緊張の面持ちで凪に駆け寄る典韋の姿。

 

そして後ろを遠望すると、猛スピードで近付いて来る曹の旗印が見えた。

 

あー、ちょっと時間を掛け過ぎたか。

今から二人を確保する余裕はなさそうだなぁ。

なんてこったい。

 

ハイパー極限タイムは此処に終わりを迎えた。

 

 




・超龍虎乱舞
CVS本気カラテのエクシード技。
KOFタクマのMAX版龍虎乱舞の発展形。
初代龍虎を意識してか、ガード不能だけど性能がとても良いと言う程ではない。

・その拳で聞くがよい
記念すべき龍虎1の1stステージ、藤堂竜白が対戦前デモで言い放つ言葉。
但し、彼に勝っても情報は得られない。
知らん癖に何故勝負を吹っかけてくるのか、謎である。
初っ端から虎煌拳を拳で打ち消して来るなど、インパクトは大きかったですね。

・覇王翔吼拳を会得せん限り、お前がワシを倒す事など出来ぬわ!
名言。
ただ、本気カラテの勝利台詞にぶっ込んだのはどうかと思う。
見ての通り長いので、早口になってしまうんですもの。

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