武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
昨夜、部屋の前で何かしらの出来事があったらしい。
でも翌朝、誰も何も言わないので流すことにした。
夜討ちが云々と頭を過ったが、藪蛇は御免だしねー。
それと結局、黄忠のことは真名で呼ぶことになった。
何故ならそう呼ばないと反応しないんだ。
さらには呼び捨てを強要されると言う、謎の事態に!
「ところで紫苑さん。次の遠征は」
「呂羽さん、私のことは紫苑とお呼び下さい」
「っと、そうは言ってもな」
「紫苑、と」
「いやでも」
「紫苑」
「えっと…」
「紫苑」
「……分かった。じゃあ、紫苑」
「はい、何でしょう?」
「……とりあえず、俺のことはリョウと呼んでくれ」
こんな感じ。
ずっと笑顔なんだが、言葉を発するたびに高まっていく圧が中々に凄かった。
一方通行は余り宜しくない気がしたので、相互通行にしておいたのだが。
「これで両想いですわね」
なんて意味不明なことを仰り、近くに居た仲間たちが激おこ状態になったのには参ったぜ。
偶々呂布ちんも近くに居て、何やら興味深そうに見ていたのが印象に残っている。
あれから仮面については何も言って来てないが、まだ少し警戒してるのは仕方がないと自己弁護。
ほとぼとりが冷めるのを待つしかないだろうなぁ。
* * *
嫌な事件から数日後、俺は呂羽隊を率いて北の国境警備隊のもとへ向かった。
随行するのは黄忠、もとい紫苑と馬岱。
まずは長らく警備の任に当たっていた華雄隊と、詠っちに合流する。
細かいことはそこで決める予定だ。
ちなみに他の蜀軍は、南蛮を警戒して南下。
呂布ちんや馬超が主力として軍を率いている。
五胡に動きが無くて助かったと孔明ちゃんが言ってた気がする。
ただ、それはそれで不気味なので、馬休を主将に兵も多めに配置してるらしい。
騎馬隊を持つ馬一族は重宝するようで、各方面に配置されてる。
それはいいのだが、みんな揃って眉が濃いよな。
今思えば馬騰もそうだったような気がするし、血筋なのか。
そう言えば、風の便りで袁紹御一行が蜀に居ると聞いたのだが…。
まあ無理に会うこともないな。
俺は気袁斬らしいし。
「おお呂羽、久しぶりだな!」
ぼんやりとあれこれ考えていると、華雄姉さんが出迎えてくれた。
宿営地までもうちょっとあるんだけど、わざわざ済まないな。
「なに、此処は至って平和でな。対戦相手に飢えていたところだ」
手合せ希望ですね分かります。
俺としても、姉さんとの対戦は楽しいから望むところだが。
「よう大将!こっちも手合せして欲しいんだけどさ、まずは軍師殿に会って下さいよ」
「お、牛輔。元気そうで何よりだ」
「そうよ華雄。リョウさんが恋しいのは分かったけど、私事は後にしなさい」
「む、黄忠。…それに馬岱か。韓忠たちも良く来たな。では案内しよう」
紫苑の言葉に若干引っ掛かりを覚えたが、姉さんは何も言わなかった。
そして何事も無かったかのように案内してくれる。
何だ?
普段通りの姉さんだが、どこか違和感がある。
具体的に何がどうとはないので、大人しく付いて行くのだが。
「あらリョウ、いらっしゃい。紫苑に蒲公英も、お疲れ様」
宿営地に着くと、詠っちが迎えてくれた。
思ったより安穏としているな。
まだ何も起こって無いのか。
「詠さんもお疲れ様です」
「やっほー、久しぶりーっ」
馬岱はシャオと通じるところがあるな。
主に言動が。
「あ、リョウ!今何か変なこと考えたでしょっ?」
「ちょっとシャオのことをな…」
「え?…やだもーっ、リョウったらぁー!」
微妙に勘が良いシャオだが、すぐに自分の世界に入ってしまうのが困りものだな。
ばしばしと腕を叩いてくるシャオを往なしつつ、詠っちに確認。
「で。これからどう動けばいいんだ?」
「ん…。リョウたちは、好きにしてて頂戴。紫苑と蒲公英には近々、定軍山に行ってもらう」
「あら、呂羽さんたちとは別行動ですの?」
「うん。リョウには華雄と一緒に動いてもらうわ」
そう言って詠っちはチラッと姉さんを見た。
つられて見てみると……あ、姉さんの目が輝いてる。
「華雄の鬱憤を解消させつつ、交代で定軍山の見張りに立ってもらうから」
姉さんのストレスを解消させる役目ってどういうことなの。
いや、否はないが。
それと、定軍山っていうとイベントが起こるポイントだよな。
時期が不明確だが、どうにか上手く参加したいところだ。
まあ、どうにかなるだろう。
「それで、たんぽぽたちは何を見張りに行くの?」
「ああ、伝えてなかったわね。成都には既に伝えてあるんだけど、少し前に斥候が戻って来てね…」
詠っちが話すところによると、魏が蜀に向けて偵察部隊を出すらしい。
それも間者などではなく、少数ながらも将が率いる精鋭部隊とか。
そして、経路は恐らく定軍山を通るはず。
だから待ち伏せして、奇襲・殲滅を計るというのだ。
立地条件から考えて、弓持ちや局地戦闘に慣れた者が良いと考えれらた。
「そこで白羽の矢が立ったのが、紫苑とリョウよ」
紫苑が弓で、俺は気弾ってことか。
あとは馬術を良くする馬岱と、白蓮がそれぞれセットになる。
華雄姉さんは抱き合わせ商法かな。
「とりあえず、明後日くらいに出立して頂戴。それから一週間後を目途に、交代要員を送るわ」
時期なども大体の予測は立てているそうだが、不確定要素が多いので早めに送り出すとのこと。
基本は待ち伏せになるから、仕方ないのか。
まあその辺りは、優秀な軍師に戻った詠っちに任せておけば大丈夫だろう。
「それにしても……」
話が一段落したところで、詠っちがチラリとこちらを見る。
「紫苑と随分仲良くなったようね」
「あー、まあそうかもな」
俺が真名で呼び合う奴は多くない。
特に蜀では、月ちゃんと詠っちを除けばこれまで居なかったのだが。
「リョウさんは恩人ですから」
まあ、不幸な事故の結果って奴だね。
璃々ちゃんを助けられたのは良かったけど、まさかそこから身バレするなんてなぁ。
「へえ…。またリョウがやらかしたわけね」
詠っちは俺をどんな目で見ているのか。
しかし俺の背後、白蓮たちが深く頷いているので何も言えない。
一度、風評含めて省みる必要が有るかも知れないな。
由莉に聞けば教えてくれるかな?
「さて、話は終わったな?」
「ん。ええそうね、あとは自由にして頂戴」
姉さんが確認し、詠っちが応える。
時折頷く以外、反応が無かった姉さんが動き始めた。
その目は爛々と輝いている。
「よし呂羽、手合せするぞ!」
「あー、はいよ。副長、隊の手配りを頼む」
「承知しました」
さてさて、行軍の疲労も何のその。
久々の姉さんとの手合せは、どのようなものになるだろうか。
楽しみだ。
* * *
「では呂羽、行くぞっ」
「いつでも来い!」
そうやって始まった姉さんとの組手。
いくらか打ち合ってようやく、違和感の正体に気付いた。
気。
これまで姉さんが扱う気は、ほぼ内側にあるものだった。
大体の人がそうであるように、あまり意識しないで使っている。
それが今は、若干だが外側に滲み出ている。
しかもどうやら、意識して使っているようなんだ。
だから聞いてみたんだが…。
「姉さん、その気功術は?」
「少し前にな、武力向上について考えていたんだ。そこでちょっと真似してみたらな、出来た」
「出来たって…」
俺が由莉はじめ、隊員たちに指導している時は姉さんも傍らに居ることが多かった。
だからやり方とかはある程度覚えていたのだろう。
「だがこうして打ち合ってみて分かった。やはりお前には全く及ばない。今後も精進あるのみだ」
「……驚いたな」
マジで。
いくらやり方を知っていたとしても、そう簡単に出来るものじゃないはずだ。
かなりの時間、研究に費やしたんだろうなぁ。
「ふむ。そう考えると、私も呂羽の弟子と言う事になるのかな?」
「え、そうなる……のか?」
「師匠とか呼んだ方がいいか?」
「止めてくれ」
笑いながら言ってくるが、マジで止めて欲しい。
流石に冗談だろうけど。
しかしそうか、姉さんが気を意識して使える人材に。
さらに若干ながら、外気功も…。
「じゃあ姉さん、どれだけ出来てるか試してみよう」
「ふっ、いいだろう。来い!」
冗談を飛ばす余裕もありながら、やはり戦いこそが至上。
そんな思いが透けて見える。
やっぱ、直接打ち合ってみないた方が分かることも多ししな。
「はああぁぁぁーーーっっ」
構えを取って気を高める姉さん。
立ち昇るそれが見える程で、これは中々。
ならば、まずは小手調べ。
「ふんっ」
力強く踏み込み、鳩尾目掛けて気で固めた拳を打ち込む。
鉄拳・風林火山。
一見ただの拳だが、何も対策をしないと吹き飛される程の勢いを持った打ち込みだ。
しかし…
「ふっ」
カキャッと軽い音を立てて耐えられる。
斧で防いだ訳でなく、肘でガードをしただけだ。
さらにノックバックもない。
これは、本物かっ
「どうだ!次はこちらから行くぞっ」
思わず笑みがこぼれる。
俄然、楽しくなってきたぜ!
・鉄拳 風林火山
KOF96でお目見えした、リョウの地上吹っ飛ばし攻撃。
ネーミングセンスはともかく、特に96では積極的に使っていました。
バグ的小技のお陰で強かった記憶があります。
78話誤字報告適用しました。
さて、そろそろ物語を動かしませんとね。
次は誰を脱がすのか、それが問題です。