武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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他者視点詰め合わせ


81 龍翻蹴

「それでね、お兄ちゃんがこう…。えい、やあって!」

 

璃々が興奮して捲し立てる。

その姿は愛らしいものだが、話の内容は良くないものだった。

 

我々が城で宴を催している時、璃々は街で遊んでいたらしい。

勿論一人ではない。

一緒に遊ぶ子らもいたし、護衛とて数名が陰日向に付いていた。

 

しかし一緒に居た子らとはぐれてしまい、偶々居た広場で騒動が起こってしまう。

 

益州は豊かな国だが、あぶれ者はどうしても出る。

特に、桃香様が進める善政により、私腹を肥やし圧政を旨とする官たちは職を追われた。

彼らと繋がっていた狼藉者。

そいつらが、群れて暴れていたのだ。

 

偶々警備隊が近くにおらず、将の多くが城の宴に参加していた。

報告を受けた時、すぐさま手透きの者に声をかけて急行したが……。

 

到着して目にしたのは、時折出没する、変な仮面を被った女が暴れている光景だった。

さらには、はじめて見るこれまた珍妙な仮面を被った男も暴れていたのだ。

 

思わず頭を抱えてしまい、初動が遅れたのは失敗だったが…。

結果的に仮面の女は逃がしてしまい、仮面の男も追い詰めたはいいが、恋の爆弾発言により場が凍った後、韓忠らが連れ去ってしまった。

詳細は後日報告するとの事だったので引き下がったが、呂羽の関係者だったのだろうか。

 

まあそれはいい。

いや良くはないが、ひとまず置いておく。

 

問題なのは、璃々が紫苑や桔梗に向かって話している内容。

璃々は、騒動の最中に暴漢どもの人質になってしまったのだ。

 

暴漢どもは、璃々を仮面の女に対しての手札とした。

だが仮面の女が動けなくなった時、突如として仮面の男が現れて、見事鮮やかに助けていったのだと言う。

そして、その仮面の男のことを…

 

「あのね、お母さん。璃々を助けてくれた男の人…。見たことある気がするの」

 

「そうなの?…誰かしら。会ったらちゃんと、お礼を言わなくちゃね」

 

「うん!…えっとね、あの旅のかくとうかって言ってるお兄ちゃんだよ」

 

「え?……まさか、呂羽さん」

 

呂羽、だと?

言われてみれば、確かに動きは似ていた気もする。

逃亡中に繰り出した蹴りなど、確か龍翻蹴とか言う奴の技に良く似ていた。

 

しかし、髪の色や胴着などが違っ……まてよ。

韓忠や公孫賛が連れ去ったのは、そう言うことか?

 

それに、よくよく思い出してみれば、恋も呂羽とか言っていたような…。

しかし恋の趣味も分からんな。

あんな珍妙な仮面を、格好良いだなんて。

 

まあそれはいい。

しかし、そうか。

あの仮面の男が呂羽だとすると、辻褄が合うこともある。

 

公孫賛たちが連れ去ったのは、呉からの客将と言う立場故だろう。

此処で妙な動きをしたと知れたら、互いの関係が悪くなる可能性がある。

そう考えたからこそ、自分たちで回収して事の次第を明らかにする、と。

 

うむ、なるほど。

ならば、ここは報告を待つとしよう。

 

そう言えば、あの変な仮面の女と共闘したと言う事は、その情報も持ってるかも知れんな。

 

あの女、自分を正義などと言って適当に暴れまわっている。

その行為自体、無為に治安を乱していると何故気付かんのだ。

せっかくの力も、使い所を間違えては何の意味がないと言うのに。

 

そんなことをする奴には、それ相応の報いを受けて貰わねばならん。

例えそれが見知った奴だったとしてもだ。

 

 

「でねでね。呂羽お兄ちゃんが、こう…がぁーってしたらどっかーんって…」

 

「ふむ。呂羽の奴め、ワシを伸しておきながらそんな事まで…」

 

紫苑と桔梗がニコニコしながら話を聞いている。

璃々はあれで人を見る目、というか直感に優れており、母親たちが信じたと言うことは恐らく…。

 

呂羽め、図らずも二人の心を掴んだな。

まあ桔梗に関しては、対戦の後、既に大笑いしながら気に入ったとか言ってたが。

 

璃々を助けてくれたことは礼を言おう。

だが、治安を乱す一助を成したのは事実。

 

ふふっ

呂羽め、どうしてくれようか。

 

 

「愛紗、ここに居たか」

 

む、星か。

 

「おや、何やら難しい顔をして。それに、璃々が随分と興奮しておるな。如何した?」

 

ふむ、星になら言っても良かろう。

 

「先日起こった街での騒動に出没した、例の仮面の男だがな。その正体が呂羽のようなのだ」

 

「なんと!?」

 

ふふ、流石の星でも驚く情報だったようだな。

 

「奴を追及して、妙な仮面の女についても糺そうと思っていたところだ」

 

「なっ!妙なとは失敬な、あれはっ」

 

「ん?」

 

「…んんっ、ゴホン。いや、何でもない」

(後で呂羽殿に確認しておかねばな…)

 

何やら星がぶつぶつ言ってるが、それよりもだ。

 

「何か用があったのではないか?」

 

「おっとそうだった。何やら新たな動きがあったようでな、明朝軍議が行われるそうだ」

 

 

 

* * * *

 

 

「以上で、涼州の報告を終わります」

 

ふぅむ。

やはり、完全な統治に至るには時間がかかるようだな。

それにしても馬騰、惜しい人物であった…。

 

馬一族の大半は逃がしてしまったが、涼州は我らの手に落ちた。

これでまた国力の増加が見込める。

そう遠くない未来、決戦のために準備を進めねばならない。

 

「風、呉の様子はどう?」

 

「はい~。呉は南方へ進出、順当に制圧しているようです~」

 

「蜀はどうかしら?」

 

「こちらも南方を制圧。また、五胡への対応も概ね完了したと思われます」

 

華琳様が風に呉の様子を、稟に蜀の状況をそれぞれ報告させている。

二人ともすっかり我が軍に馴染んだな。

優秀な軍師が増えたお陰で桂花の負担も減り、より多方面に手を広げることが出来るようになったのは有難い。

 

「それと、捨て置けない情報が…」

 

ふと、神妙な面持ちで稟が言う。

 

「ふむ、同盟ね」

 

「はい。いずれは、と思いましたが……。想定以上に早い動きです」

 

呉への侵攻が失敗に終わった時から、それほど経たないうちに奴らは接触したようだ。

こちらの態勢が整う前に、我々に対抗できるように動き始めたと見るべきだろう。

 

流石は孫策、そして劉備か。

機を見るに敏。

華琳様が仰る、英雄の資格を十分に備えているようだ。

 

「その同盟にあたって、呉から蜀へ将が派遣されたようです~」

 

「ほう。して、それは?」

 

「正使に孫尚香。副使が…」

 

何故か口ごもる。

まさか…。

いや、そう言えば涼州からも気になる報告が上がって来ていた。

 

「呂羽、か?」

 

「ええ。知ってたの?」

 

「いや、予測しただけだ」

 

「そう。…副使とは言え、呂羽の動きは無視出来ません。今後も要注意すべきかと」

 

そうだな。

全くあの男は、じっとしてられんのか。

 

「その情報は確か?」

 

「いえ……ほぼ、としか。なにぶん、人手が…」

 

確かに、今は人手不足が深刻だ。

先の戦いに反乱の鎮圧、今回の涼州制圧もあった。

 

警備隊からも駆り出して動かさざるを得ない状況。

特に凪は何かと重宝している。

呂羽が鍛えてくれたお陰と言うのが若干癪だが…。

 

「そうね。でもこの先を考えると、情報不足はちょっと痛いわね」

 

現在一刀が一人で切り盛りする警備隊。

大変だろうとは思うが、それが出来るほどに成長したことは喜ぶべきだろうな。

 

「呉の方は協力者が居るからまだいいとして……。ふむ、秋蘭?」

 

「はっ」

 

「人手は多く出せないけど、流琉を連れて益州に偵察に行ってちょうだい」

 

「御意!」

 

華琳様より命が下る。

確かに最近、国境付近を警戒している蜀の将に動きがあった様子だった。

それらも含めて確認せねばなるまいな。

 

「しかし華琳様。呉の方は、あまり信用なさらない方が…」

 

桂花が進言する。

確かにそうだ。

協力者とは言え、こちらに降っている訳でもない。

理由は私怨だと言っていたが、計略である可能性もあるだろう。

 

「ええ。今は情報の流れだけで問題はない。でも、その内確認した方が良いわね?」

 

「はい」

 

詳細はこれから、桂花が主導して確認することになるだろう。

まあ、こちらは任せて問題ないな。

 

さて。と華琳様は姉者たちを見回し、総括。

 

「春蘭は新兵の調練。風と稟は配分や区分を。それと、領内に入り込んでるネズミの始末も適当にお願いね」

 

「「「御意」」」

 

一通り終わり、解散となった。

ふむ、益州か。

すぐには出立できないが、兵の選抜と進路などは前もって確認しておかねばな。

 

とりあえず、定軍山を通って南に出ることになるか……。

周辺の地理を頭に思い描きつつ部屋を出た。

 

ひょっとすると、あの男…呂羽と鉢合わせする可能性もある。

あいつは何かと普通じゃない。

どれだけ備えはしていても、し過ぎることはあるまい。

 

さて、まずは一刀のところに顔を出してみよう。

久々に流琉と一緒に食事でもして、労ってやるか。

 

 




・龍翻蹴
KOFロバの特殊技。
前方に蹴り出す感じで、連携連続技として重宝します。
本当は前回入れたかったのですが、忘れてたので今回挿入してみました。

80話の誤字報告箇所、言い回しの結果でしたので適用しておりません。
すみません。ありがとうございました。

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