武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

80 / 109
第八十話記念作品


80 超必殺・天狗至高拳

俺は今、石敷きの小部屋に正座して猛省を促されている。

正面には壁。

そして瞑想禁止。

 

別に正座は苦にならないが、この状況が辛い。

 

「反省してますか?」

 

背後から響く冷たい声が、決して広くない部屋に響き渡る。

どこか懐かしい気持ちになるが、全く嬉しくはない。

 

何でこんなことになったかと言うと、話は数日前に遡る。

 

 

* * *

 

 

大乱闘スマッシュ蜀シスターズを潜り抜けた俺は、ハイテンションのまま一躍街へと繰り出した。

赤い面を持って。

 

何故と言われても、何となくとしか言えない。

別に何かしようと思った訳じゃないし。

ただちょっと、浮つくような気持ちになってふわふわと歩いていたんだ。

 

まあ厳顔との激戦を制し、続けざまに蜀の武将たちと戦ったことでテンションが可笑しくなってたんだよ。

間違いない。

 

しばらくフラフラしていると、街の広場の方から悲鳴が上がった。

 

周囲の人間たちがそちらへと向かって行く。

俺もその波に逆らわず、流されるままに到着した先でちょっとした事件が。

 

 

騒動の現場。

そこにはガラの悪い有象無象と、仮面をつけた少女が一人。

 

おおっ!?

どこからどう見てもあの人だとか、さっきまで城に居たよなとか。

そんな疑問はさて置き、何やら名場面の予感。

 

「変な仮面被った姉ちゃん。怪我しないうちに、とっとと帰んな!」

 

「ふっ、美を理解できぬ愚か者どもめ…。正義の鉄槌を食らうが良い」

 

「ざっけんな!おい野郎ども、さっさと片付けるぞっ」

 

ガラの悪い有象無象は、そう言って刃物を取りだす。

しかしただ一人対峙する仮面の少女は、全く揺るがない。

 

「刃を持ったということは、それ相応の覚悟があるのだな?」

 

どこか諭すように、穏やかな口調で語りかける仮面の少女。

だが有象無象たちは口汚く罵り、戦闘が始まった。

 

とは言え、有象無象たちの攻撃はお粗末なもの。

刃物を構え振るう有象無象たちだったが、その刃先は全く少女に届かず。

仮面少女はひらりひらりと避けて、当て身や柄打ちで次々と気絶させていく。

数人倒したところで、タンッと地面を蹴って建物の屋根に降り立った。

 

おおー、かっけぇ…!

まるでアクションヒーローのようだ。

 

「くっ、てめえ。何モンだ!?」

 

瞬く間に数人の仲間を倒された有象無象の一人は、遂にその問いを発した。

 

「ふふふ。悪を討つ正義の化身、我が名は華蝶仮面!」

 

そして、待ってましたとばかりに応える華蝶仮面。

 

趙雲とは世を忍ぶ姿。

その真の姿はこの世に蔓延る悪を倒す、正義のヒーローなのだぁっ!!

 

いいねぇ、羨ましいぜ。

 

「きゃ!」

 

バッタバッタと有象無象どもが薙ぎ倒されていく様を眺めていると、小さな悲鳴が上がる。

声がした方を見ると、何と…いたいけな少女を人質に取っているではないか!

 

「き、貴様!」

 

「へへっ、動くなよ。さ、武器を捨てて地面に這い蹲って貰おうか」

 

な、なんて下劣な。

どうするんだ華蝶仮面!?

 

有象無象は人質の前で鉈のようなものを振り回し、聞くに堪えない言葉を発している。

む…、由莉の得物と似たようなものが有象無象に使われるとは…。

良く分からない激情が湧いてきた。

 

ぬぅー……。

 

「へっへっへ。さあ、どうしてやろうかねぇ」

 

「くっ」

 

有象無象と華蝶仮面の遣り取りを眺めていると、あっさり我慢の限界が訪れた。

何時になく沸点が低いが、きっとテンションがおかしいせいだろう。

 

しかし、せっかくのヒーローショーに一般人が立ち入るのもどうかと思う。

どうするのか。

良いものがあるじゃないか、手元に。

 

いざ、鼻高赤面……装着!

 

瞬間的に気を手繰り、全身に高濃度循環させる。

そして髪を灰色のオーラで覆い、胴着も濃い色を纏わせた。

後から思えば、随分と無駄に器用なことをしたもんだが。

 

何はともあれMr.カラテ、ここに爆誕☆

 

 

 

「!!!」

 

槍を傍らに置き、跪いた華蝶仮面に対して何事かを喚き続ける有象無象に背後からススッと忍び寄る。

気を良く扱う極限流に掛かれば、有象無象に気付かれない程度に気配を消すことなど容易い。

 

汚らわしい腕に捕われた少女に、万が一にも被害が及ばぬよう、そこだけは万全の注意を払う。

全く不快なことに、鉈のようなものを振り回す有象無象。

その鉈が上段に掲げられた瞬間を見計らい、シュバッと動く。

 

「ぬぅうん」

 

メギョンっと虎咆で抉り打ち、素早く人質の少女を回収。

掲げられた鉈も華蝶仮面の方へ蹴り放つ。

 

「な!?て、てめ…ぐぎゃっ」

 

超至近距離からの飛燕疾風脚。

横回し蹴りに繋がなくとも、容易く沈む。

 

「ワシはMr.カラテ……いや、空手仮面!そこな華蝶仮面よ、助太刀致す!」

 

流石に天狗仮面は自重した。

ナチュラルハイの不思議なテンションでも、自重って出来るんだな。

 

「っ!助太刀感謝する。…はあっ」

 

人質さえ居なければ、ヒーローに敵はない。

むしろ、大逆転劇に拍手喝采となるだろう。

 

むむ、有象無象どもが逃れようとしている。

華蝶仮面とは別の方角か。

 

良かろう。

この空手仮面の前で背中を見せるとどうなるか、その身で味わうがいい。

 

有象無象程度には惜しい技だが、呉れてやろう。

 

「ぬうぅぅーーん……超ぉ必さぁーっつ」

 

腕の交差から素早く腰溜め。

 

「せいやぁーっ」

 

超必殺・天狗至高拳!!

 

でっかい気弾が有象無象を飲み込む。

数人まとめて弾き飛ばしてやったわ。

 

「いぃりゃぁ!」

 

力瘤を作って決めポーズ。

 

「すまない、そこな御仁。お陰で助かった」

 

そんなところに話しかけて来たのは華蝶仮面。

どうやら場は無事に終息したらしい。

 

「なに。出過ぎた真似とも思ったが、悪漢どもに灸を据えようと思うたまでよ」

 

「ふっ、そうか」

 

そう言うと華蝶仮面は微笑み、大きく跳躍して再び屋根の上に降り立った。

 

「また会うこともあろう。では、さらばだ!」

 

そして、身を翻し去って行った。

ふむ。

我が身も退くとしようか。

 

「止まれ!」

 

なんて思っていると、騒ぎを聞きつけたのか警備隊がやって来た。

って関羽じゃん。

城の方は良いのかい。

 

「訳の分からぬ仮面をした女に加え、貴様まで仮面か。なんだその高鼻は!」

 

「ワシは空手仮面。悪漢どもに灸を据えたまでよ」

 

「…まあいい。話は後でゆっくり聞こう。詰所まで来て貰おうか」

 

あ、これを察して逃げたのか。

趙雲もとい華蝶仮面。

俺も捕まる訳にはいかないな。

ここは逃げさせて貰おう。

 

「断る!」

 

そう言うや、後ろに向かって全力疾走。

 

ふはははは、この速さに付いてこれ……なにぃ!?

チラッと後ろを見やると、凄い勢いで迫り来る姿。

な、なんで呂布ちんが…っ

 

くっ、だが捕まる訳には行かん!

 

右に左に路地を走り、時には縦横無尽。

しかし何時の間にやら白蓮と由莉までもが追って来ており、関羽の姿もちらほらと視界の端に。

 

ひょっとして、城の騒動に掛からなかった奴らが来てるのか?

 

くそっ

趙雲め、俺を囮にして逃げやがったな!?

 

ええいっ、こうなれば意地でも逃げ切ってやるわっ

 

 

 

「此処から先は通行止めだ。観念するがいい」

 

無理でした。

前方に関羽、左右に白蓮と由莉。

後ろには呂布ちんと、いつの間にか陳宮まで。

 

「はっはっはー!恋殿にかかれば不審者を追いつめるなど、容易いことなのですぞ!」

 

本気を出せばそうだろう。

俺も結構本気で逃げたんだけどな、何が呂布ちんをそうさせたのか。

それと、陳宮はどこから現れたのかと聞いてみたい。

 

「さあ、その珍妙な仮面を外して素顔を晒して貰おうか」

 

珍妙って言うな。

だが、正体が露見してはいないようだ。

 

「……見ないと思ったら、こんなところで一体何をしているのですか……(ギリッ」

 

何か由莉が凄く怒ってる。

ひょっとして、俺だとばれてる?

一体何故…。

まさか、姿形が違っても分かると言うのか!?

 

……そう言えば、気の流れとか掴むの得意だったよなぁ。

はっはっは、なるほどね!

 

「何だか知らんが、大人しく捕まることをお勧めするぞ」

 

白蓮、妙に疲れてるな。

ばれてるかどうかは分からんが、気苦労を掛けてしまったようだ。

すまない。

 

そして背後の呂布ちん。

ばれちゃいないと思うが、こんなことに付き合わせて御免よ。

 

「呂…」

 

「呂羽……、カッコいい……」

 

「えっ?」

 

「「「!?」」」

 

「れ、恋殿ぉぉーーーっっ!?」

 

 

* * *

 

 

呂布ちんの爆弾発言に凍りつく皆。

その隙に由莉に引っ張られて逃走に成功した。

 

と思ったんだけど、そのままこの石敷きの小部屋に連れて来られたのだ。

正確には成功してないよね、うん。

 

何かが由莉の逆鱗に触れたんだろうけど、良く分からん。

分からんと言えば、何故呂布ちんにばれたんだ?

あれか、野生の勘的な…。

 

「…反省、してますか?」

 

はい、すみません。

 

表情は見えない筈なのに、何故かばれる逸れた思考。

気流の動きとか、そんなんで分かるのかねぇ。

 

あ、別に監禁されてるとかじゃないから。

ただ宿舎に在った、野菜とかの貯蔵庫に入ってるだけだから。

断じて監禁されてる訳じゃないから。な!

 

それよか、呂布ちんに初めて名前を呼ばれた気がする。

状況は意味不明だが、思わずときめいてしまった。

遂に仲良くなれる可能性がっ

 

「反省してないようですね。ふぅ、仕方がありません。こうなったら…」

 

あ、由莉からのプレッシャーが凄いことに。

ごめ、ちゃんと反省してるから!

具体的に、何に対して反省すればいいかは分からないけどっ

 

「隊長が悪いのですよ。ええ、本当に心苦しいのですが」

 

恐ろしげな由莉の声は、ドンドン!と戸を叩く音に遮られた。

あれー、そんな分厚い扉だったんだ、この小部屋。

 

「おーい、そろそろ出てこい。軍議が始まるらしいぞ」

 

入って来たのは白蓮。

良かった、白蓮はいつも通りだ。

 

「チッ……。では隊長、行きましょう」

 

今舌打ちしたよな。

…いや、何でもない。

さ、早く行こうぜ!

 

「ほら由莉、そんなふくれるな。続きは帰ってから、な」

 

「えっ?」

 

 




ちょっと長くなってしまい、尚且つ話は進んでません。
でも書いてて楽しかったので反省はしてません。

・超必殺 天狗至高拳
KOFタクマのストライカー動作専用の技。
これを使うためだけに仮面を用意したと言っても過言ではない。
尚、一見すると覇王至高拳ですが、通常飛び道具で相殺されます。
用途は動く壁ですが、使い勝手は微妙…でした。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。