武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
曹操様の下で働くことになった俺。
一時的な予定とは言え、ちゃんと働くよ。
気になる扱いは、夏侯淵の配下となった。
客将なのか一兵士なのか判断付かなかったが、敢えて聞いてない。
しかし夏侯淵さん、えらく買ってくれたもんだね。
そうそう、ここに来た理由の一つである路銀稼ぎのことなんだけどね。
あの村での活躍の報酬として渡された分だけで、結構な額になった。
さらに支度金として、少なくない金銭を渡された。
もう、このまま旅立っても路銀的には問題ないくらいだ。
不義理が過ぎるからしないけどさ。
ちなみに、楽進たちは北郷君が率いる警備隊に入隊したようだ。
原作通りだね。
彼女たち経由で、北郷君とも喋る機会が増えることになった。
そして今日、改めてちゃんと話をするために警備隊の詰所を訪れた。
「呂羽殿!」
詰所には、このたび目出度く小隊長に就任した楽進が。
今は居ないようだが、李典と于禁も小隊長になり、それぞれの特性を生かした方向で頑張ることになったらしい。
于禁の特性ってなんだ?
「ああ呂羽さん、ようこそ」
そして隊長の北郷君。
キラキラしたイケメンであり、早くも李典と于禁に隊長として慕われているようだ。
爆発しろ。
「やあ楽進。それに北郷君、わざわざ時間を空けて貰ってすまないな」
「問題ないですよ。俺も、呂羽さんに色々聞いてみたかったですし」
そっか、それなら良かった。
じゃあ早速会談と行こうか。
* * *
北郷君との話は多方面に及んだ。
特に、警備隊の現状とそれについての改善点などを幾つか聞かれた。
そんなん、正式に仕官してる訳じゃない俺に聞いていいのか。
あの村での防衛術を俺が策定したと李典から聞いて、参考にしたいと思ったらしいけど。
防衛術と言う程のもんじゃなかったよね?
楽進……ダメだ、思い出してキラキラしてる。
ともあれ、聞かれたからにはちゃんと真面目に考えて返したよ。
近現代の警察機構とか想像しながら。
そのせいか、臨席した楽進にとっては馴染みのない発想になってしまったようだ。
逆に北郷君は、我が意を得たりと笑顔であったのが印象的だった。
まあ、俺が色々言わんでも北郷君なら自力で気付けただろうけどな。
多少なりとも参考になったのなら良かったよ。
しかし、北郷君まじイケメン。
顔が、とかじゃなくて性格というか雰囲気が。
まだ少し話しただけだが、良い奴すぎる。
いや、曹操様に拾って貰えて良かったね。
場合によっては、柔弱な神輿でしかない未来もあったように思えるし。
あと、天の御使い云々の話も軽く振ってみたけど、あまり気にしてなかった。
魏ルートだと、純粋に一人の武将といった扱いになってるんだね。
階級的には警備隊長か。
街の人たちからは御使い様とか呼ばれてるみたいだ。
警備隊のこともあり、すっかり馴染んでて結構なことだ。
「さて北郷君、そろそろ…」
「そうですね。じゃあ、凪?」
「あ、はい!」
楽進たちは曹操軍の皆様と真名を交換済みだ。
一方で俺はと言うと、暫定客将(仮称)という身分故に遠慮してみた。
若干不満そうなのが三名ほど居たが、敢えてスルー。
ま、もうちょい落ち着いて様子見しましょうや。
北郷君との話し合いも一区切り。
次の案件は楽進メインだ。
北郷君から促された楽進が、姿勢を正してこちらを向いた。
相変わらず真面目だなぁ。
「呂羽殿。ほ、本日は宜しくお願いします!」
「あー、うん。そんな緊張しないで?」
今日、北郷君と話した後に楽進と組手をすることになってる。
前に村を守った際、南門で少しだけ一緒に戦ったけど、詳細は知らないだろうからな。
いや、夏候惇と軽く仕合ったのは見せたけど。
あと俺も楽進の戦闘をちゃんと見たい。
「覇王翔吼拳……、とても楽しみです」
楽進が呟く。
彼女は話でしか知らないはずの覇王翔吼拳に、多大な関心を寄せているらしい。
名前も一発で覚えてくれた。
それは嬉しいのだが、組手でぶっぱは厳しいぞ。
修行を重ねてはいるが、まだまだ気を溜めるのに時間がかかるからな。
ちなみに李典は覚える気が無いらしく、未だに覇王なんちゃらとしか言わない。
いや、別に覚えなくてもいいんだけどさ。
ちょっと、なんか、ねぇ?
「そういえば呂羽さん。すごい気弾を撃てるそうですね」
北郷君が食いついた。
「はい隊長。呂羽殿の気弾は、練度が高いので威力も私と比べ物になりません!」
楽進の前で見せた気弾は虎煌撃だけだよな。
虎煌拳ですらない、土を掘り返す虎煌撃。
ああ、南門の防衛でも少し使ったか。
いずれにしろ、楽進の気弾みたいにドッカンドッカン言ってなかったと思うんだが。
「気弾はともかく、互いの実力を確認するための組手だ。さ、移動しようか」
「はい!」
気弾だけが極限流ではない。
派手な分、そっちに目が行くのは仕方がないとは思うが、それだけじゃないと思い知らさねば!
何に対する対抗心か分らないものを燃やしながら、楽進と北郷君を伴い練兵場へ向かった。
* * *
事前に練兵場を使うことは申請していた。
だからある程度、興味を持った人が観戦に来ることも予想はしていた。
だがしかし。
「お、なんだ華琳に秋蘭。それに流琉まで」
「あら一刀、ようやく来たわね」
「我が配下の力量、改めて確認出来る機会と聞いたからな」
「兄様、皆さんの分も、お弁当を作ってきました!」
北郷君が声をかけるのは曹操様と夏侯淵さん。
あと典韋。
典韋は、村の防衛戦に援軍として来ていた許緒の親友。
でっかいヨーヨーのような武器を扱う、頭のリボンがオシャレな娘さんだ。
そして夏侯淵に憧れ、北郷君を兄様と慕っている。
北郷君はあとで爆発しておきなさい。
しかし曹操様たちまで来るとは思ってなかった。
最近何かと忙しいみたいだし。
「ちょっとした息抜きよ」
心を読まんで下さい。
「それでは呂羽殿。宜しいでしょうか?」
おっと、いかんな。
楽進から気が逸れてしまってた。
「よし、じゃあ始めようか」
「あ。じゃあ俺、合図しますね」
北郷君に合図をお願いし、俺と楽進は距離を取って向かい合う。
互いに一礼。
「……はじめ!」
「はぁぁぁっっ!」
北郷君の合図と同時に、楽進は俺に向けて走り出す。
腰の高さから考えて、初手は回し蹴りかな。
俺は少し前傾姿勢になりながら、左手に気を纏わせる。
狙うはカウンター。
もうちょっと気を練り込めば、更に一段上のものに昇華出来そうだ。
が、今の組手でそこまでは必要ないだろう。
「シッ」
楽進の体幹と浮きつつある足の軌道を予測するに、ほぼ間違いなく回し蹴りだな。
蹴りの出始めに合わせ、息を吸って半歩前へ進む。
そして気を纏わせ、握り込んだ左手を腰から持ち上げる形で当て込む。
「虎咆!」
そのまま左アッパーを振るい、俺は軽く宙へ跳ね上がった。
手応えあり、だ。
・虎咆
初代や一部の作品ではビルトアッパー。
普通に対空技だが、作品によっては対空性能はゼロに近くなる。
牽制潰しにはもってこいで、今回も似たような使い方をさせてみました。
2016/11/21 脱字修正(隊長「と」して)