武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

78 / 109
78 覇王雷煌拳

「悪いが私たちは急いでいてね。大人しく退いてくれると助かるんだが」

 

立派な馬に跨る、太い眉をした緑の少女が険しい表情で佇んでいた。

どう見ても馬超だな。

後ろに居るのは馬岱か。

 

「こちらに敵対の意思はない。少し話を聞きたい」

 

「…何についてだ?」

 

警戒したままだが、一応は話を聞いてくれる冷静さは持ってるようで良かった。

 

「ひとまず自己紹介と行こう。俺の名は呂羽」

 

言った瞬間ざわっと場が蠢いた。

緑色の集団、良く見たら馬の旗もあるから馬軍だな。

彼ら彼女らも一様に目を見開いている。

何に対する驚きだ?

 

「そうか、あんたが…。私の名は馬超。西涼の長・馬騰の娘だ」

 

おや、俺を知っているのか。

まあ反董卓連合には馬騰も来てたし、知っててもおかしくはない。

 

「手短に言おう。俺たちと一緒に益州に来てくれ」

 

訝しむ一行に対し、預かった手紙を渡しながら簡潔に説明する。

蜀の方から来ました。

呉と蜀は同盟してるよ。

俺たちは客将だけど、手紙には蜀の将軍が署名入れてるよーってね!

 

「最終的に、魏と戦うってことか?」

 

「そうなるだろうな」

 

「…分かった。ひとまずあんたを信用しよう。だが、おかしな真似をしたら」

 

その槍でぶすり、ですね分かります。

 

軽いやり取りの中で、馬騰が鬼籍に入ってまもないと聞いた。

魏に対しては、少なからず恨みがあるのだとも。

 

「白蓮、先導してくれ」

 

「分かった」

 

白蓮と白馬義従の精鋭に先導され、馬超軍が続く。

俺と由莉は殿に付くとしよう。

 

「…誰かと思ったら公孫賛じゃないか。あんたも蜀に?」

 

「ん、まあな。正確にはそこのリョウに属してるんだが…」

 

「えっ」

 

そんな会話を聞きながら、駆け出す馬たちを眺めていた。

 

「!…隊長。四里先、追手が迫っています。急ぎましょう」

 

「お?おお」

 

すると、由莉から警告が。

てか、斥候も出してないのに何故分かる。

 

「気脈の流れを見ました。隊長から教わった探り方を応用して、運用しています」

 

マジか、凄いな。

俺が教えたのは、あくまでも対戦相手の動きに関することなんだが。

意外な方向に才能が開花したようだ。

 

うはー。

元々優秀だった副長だが、益々有用で手放せなくなってしまったな。

 

っとと、ぐだってないで早く移動しよう。

言われて集中したら、俺でも分かる。

追手であろう、将兵と思われる存在が近付いてきているな。

 

ふむ、そうだな。

ここは一つ、敵さんを撒くためにも一発お見舞いしておくか。

置き土産に、若干でかめの奴を。

 

ひとまず竜巻は由莉に預けて、気と呼吸を整える。

それからぐっと屈んで、気を通した足のバネを使って真上に跳躍。

 

頭上に掲げた両手に気を集めて…

 

「覇王…雷煌拳!」

 

一気に打ち下ろす!

 

木々の狭間に打ち込まれた気弾。

地面に着弾するや、大きくバウンドして爆発。

まるで火柱が立ったかのような有様に、追手の動きは止まった。

 

よし!

一瞥確認して、一気に駆け出す。

離れて見てた由莉から竜巻を受け取り、疾駆する。

 

「派手過ぎです」

 

「す、すまない」

 

並走しながら怒られた。

由莉が見てる前だったので、つい張り切ってしまったんだ。

まあお陰で、追手を振り切ることには成功するだろう。

 

ちなみに気弾はピンクにしてみたので、余計火柱に見えたんじゃないかな。

 

しばらく進むと白蓮たちに追いつき、そのまま何事もなく蜀まで戻って来ることが出来た。

 

野営した時とかに、皆から色々責められたが後悔はしていない。

少し反省はした。

由莉に怒られた時にね。

 

 

* * *

 

 

「と、言う訳だったのさ」

 

「ずーるーいー!やっぱり、シャオも行きたかった!」

 

国境警備隊でシャオと合流。

せがまれた話をしてやるとこの反応。

やっぱりシャオは連れて行かなくて正解だったと思う。

 

馬超に率いられた西涼からの落人たちは、白蓮と趙雲に連れられて成都へ向かって行った。

ある程度落ち着いたら一度集まって、お披露目会とかするらしい。

 

俺は呂羽隊を率いて、華雄隊と一緒に国境警備だ。

シャオが居る点が異なるが、昔日のことが思い起こされる。

そして呂羽隊と華雄隊が一緒にあれば、どうなるか。

稽古漬けの毎日さ!

 

 

「ふむ。是非試合ってみたいものだな。その、きゃんとぅとやら」

 

「韓当な」

 

極限流の弟子となった韓当に、大いに興味を示した姉さん。

二人が試合をすれば、きっと良い勝負が見られることだろう。

 

弟子と言えば、当初から指導していた牛輔はどうだ?

由莉との組手を見たのだが、烈風脚が綺麗に決まり負けていた。

華雄隊副長として情けないぞ。

よし、久しぶりにじっくり稽古をつけてやろう!

 

 

国境警備をしながら稽古に明け暮れる日々。

 

結局、シャオにも護身術程度だが指導することになってしまった。

勢いって怖いね。

 

「帰ったらお姉ちゃんに自慢しちゃおっと!」

 

ああ、また孫権から睨まれそうな事案が……。

勢いって、怖いねぇ。

 

 

 

「アンタ、ちょっと顔貸しなさい」

 

「ファッ!?」

 

にゅっと現れた少女にカツアゲ!?

誰かと思えば詠っちだった。

 

いや、何で此処に?

 

「いいから来なさい!」

 

 

そして連れてこられた詰所の一室。

月ちゃんが居るということもなく、ただ詠っちと二人きり。

 

「ええっと。…久しぶりだな?」

 

「ええ、久しぶり。元気そうで何よりだわ」

 

前の時は侍女っぽい姿だったが、今は洛陽の頃のような姿。

軍師に戻ったのか?

 

「いつこっちへ?」

 

「今しがたよ。馬超たちを迎え入れて、今後の方針を伝えるためにね」

 

なるほど。

ばっちょんたちは無事に着いたのか。

あれ、それじゃ白蓮は?

 

「公孫賛は成都で待ってる。リョウも一旦戻って来なさい」

 

「それはいいが、此処の警備はいいのか?」

 

「一時的に華雄に任せるわ。涼州が落ちて、魏としてもすぐに攻めては来ないでしょうから」

 

「孫呉の部隊は丸ごとでいいのか?」

 

「もちろんよ。それに南方も粗方片付いた。五胡についても、今は落ち着いているわ」

 

だからこの機会に皆一度集まり、諸々確認しようと言う事らしい。

 

あとは俺たち呉からの客将と、馬超たちが合流したことで全体としての面会わせも兼ねる、と。

姉さんは俺たちは勿論、馬超たちとも一度挨拶してるから警備に残ると言う人選か。

 

「あと、華雄の補助としてボクも此処に残るから」

 

「む…。月ちゃんは良いのか?」

 

「うん。桃香の庇護下で安全だし、恋たちも戻ってくるから。……アンタもね」

 

ふむ。

まあ蜀の軍師が判断したなら従おう。

 

局面は次のステージへ、と言う事だろうな。

 

 

* * *

 

 

「今回は成都でゆっくりできるかしら?」

 

「どうだろうな」

 

シャオと俺、由莉は成都に戻り、白蓮と合流して準備された宿舎で寛いでいた。

 

どうやらシャオ。

最初着いてから、すぐ北に向かったから街中見物をしたいようだ。

まあ、前回ほど時間が無いことはないと思うけどな。

 

それよか、俺の寝台でゴロゴロするのは止めてくれませんかねぇ?

 

由莉と白蓮が闇落ちしそう。

見た目は何も変わらないのに、何故かそんな気がしてしまう。

 

 

──コンコンッ

 

戸がノックされ、妙な空気が一時的に霧散する。

助かった!

 

「どうぞ!」

 

思わずテンション高めな返事になってしまい、横目で睨まれた。

 

「失礼する」

 

入って来たのは趙雲だった。

良かった、白蓮との関係も良好だし問題ない。

 

「どうしたんだ星。こんな刻限に」

 

「おや白蓮殿。お主らこそ、呂羽殿の部屋に屯って、一体ナニを…」

 

「あ、趙雲!明日って、何するの?時間は取れるかなぁ?」

 

「ん…コホン。それをお伝えしに参りました」

 

余計に妙な空気が覆いかけたところ、シャオの多分何も考えてない機転によって救われた。

シャオが居てくれてよかった…っ

元々は誰のせいでこんな空気になったとか、そんなのは考えない。

 

「──と言う訳で、明朝。城内の大広間に来て頂きたい」

 

「承知した」

 

途中あまり聞いてなかったけど、まあ大丈夫だろう。

行けば分かるさ。

詠っちからも大体のことは聞いてるし、何なら由莉たちも聞いてるだろう。

 

「ふむ。呂羽殿は、どなたと添い寝されるのですかな?それとも……おっと、これは野暮なことを」

 

趙雲ーーっっ

妙なこと言い捨てて去って行くんじゃねえ!?

 

「んー、リョウ。一緒に寝る?」

 

「駄目です」

 

「ダメだ」

 

流石に駄目だろう。

ダメなんだが、由莉と白蓮がまた闇落ちしそうな雰囲気ががが。

 

「よし、じゃあ明日も早い。おやすみ!」

 

止むを得ない。

実力行使で三人を追い出し、瞑想して就寝した。

最近ちょっと、色々、なぁ…。

 

 




・覇王雷煌拳
KOF13ユリのNEOMAX超必殺技。
結構汎用性高いと思います。


今月こそ、完結させます。
目標は百話未満ですが、ちょっと怪しいかも?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。