武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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77 地龍背穿脚

「この度はご多忙の折、お目通り叶えて頂き誠に感謝致しますわ」

 

 

誰だコイツ。

心の中で思わず呟いた俺は悪くない。

 

劉備ちゃんに対し、孫策の名代としてシャオが述べた口上。

普段が普段だから意外に過ぎるが、伊達に孫呉の王族じゃないんだな。

勉強嫌いな印象があったが、教養もちゃんとしてるじゃないか。

 

「わざわざの御足労、痛み入ります」

 

それは劉備ちゃんにも言えることだった。

彼女も今や蜀と言う、一国の王。

対応もそれなりの、尊厳を身に着けたと言う事らしく。

ちょっと残念に思う。

 

「我らが主・孫策から手紙を預かっております」

 

シャオに促され、孫策から預かった手紙を劉備ちゃんに渡す。

ついでに周瑜からのも、諸葛孔明……孔明ちゃんへ手渡した。

 

「は、はわわっ」

 

その際、何故か慌てられる。

瞬間、関羽から睨まれた。

何故だ。

 

「拝見します」

 

おお劉備よ、何時もの天然さはどこへ行った。

これがお仕事モードってやつか。

 

劉備ちゃんと孔明ちゃんがそれぞれ手紙に目を通す。

そして関羽と黄忠、鳳統にも回していった。

黄忠が華雄姉さんにも渡そうとしたが、断られ苦笑。

相変わらずな姉さんに安心する。

 

「孫策さんの意志は分かりました」

 

「呂羽。貴様、何を企んでいる!?」

 

劉備ちゃんが穏やかに答えるのに、関羽さんから睨まれる俺。

だから、なんで俺を睨むんだ関羽さん。

孔明ちゃんと鳳統もコクコクと頷いている。

 

「手紙にある、孫策と周瑜の申し出が全てですわ」

 

おお、シャオが凄く頼りになる。

裏を勘繰る関羽と軍師たち、裏はないとアピールする俺たちの図だ。

俺は何もしてないけど。

 

「我が国の状況から鑑みて、孫策さんの提案は悪くないものです。ですが、少々こちらに有利過ぎる気がします」

 

孔明ちゃんが懸念を説明してくれた。

そうなのか。

孫呉から提案する、その詳細までは知らんからなぁ。

 

「あ、それは大丈夫よ。リョウの伝手を頼って、恩を売っておきたいってだけだからねー」

 

シャオの真面目モードは早くも終了した模様。

口調がいつも通りになってる。

 

それを聞いた関羽の眉間に皺が寄る。

美人が台無しだゾ☆

 

やがて何か言うべく口を開きかけたが、軍師たちに遮られた。

 

「成程。周瑜さんの申し出と合わせて、初めて分かりました」

 

「桃香様の大望と、呉の目的が一致。だから是非とも同盟に結び付けたい、と言う訳ですね」

 

孔明ちゃんと鳳統が超軍師モードで話を進める。

やっぱ、身形はあれでも中身は立派な軍師さんなのだなぁ。

 

「桃香様。私たちは同盟に賛成します」

 

そして、奏上した。

 

 

「孫策さんには連合の時もお世話になったし、信頼できると思う。うん、私も賛成かな」

 

劉備ちゃんが断を下し、ならばと関羽や黄忠もそれに従う。

姉さんは終ぞ我関せずのままだった。

 

「孫尚香ちゃん、呂羽さん。私たちは貴方たちを歓迎します!」

 

よかった。

何やかんやあったが、無事に目的を達せられそうだな。

あといつの間にか、劉備ちゃんも国主モードを解除していた。

シャオにつられたか。

 

俺たちは蜀に客将として迎え入れられ、宿舎も準備してもらった。

その際、現状について簡単に説明を受けた。

 

西では異民族との小競り合い。

南は今も少しずつ併呑を進めているところだが、先には南蛮があり、その動きが少し気になっているとか。

そして、現在最も危険度が高いとされるのは北。

 

北では魏と領土を接しており、その先の涼州では馬騰率いる馬一族が曹操様に対抗している。

それも制圧されるのは時間の問題と見られており、今後、魏からの圧力が強まる恐れがあった。

 

蜀としては魏への対抗上、馬一族を助けたい。

それには勢力圏を抜けて行かねばならないが、多大な危険が生じる。

今は国境沿いに軍勢を張り付けているが、何か妙手がないかを考えているところだとか。

 

「そこで、呂羽さんたちにはひとまず北への援軍をお願いしたいのです」

 

「承知した」

 

受け入れて貰えたなら、頼みは聞かないといかんだろ。

深くは考えずに即断してみた。

後からシャオと由莉に小言を言われたが、まあ些細なことだな。

 

 

* * *

 

 

やってきたのは北の国境警備隊。

 

「おや、呂羽殿ではないですか。それに白蓮殿も」

 

「大将!久しぶりだなー」

 

そこには趙雲と牛輔が居た。

ああ、華雄隊の副長だったはずの牛輔が居ないと思ったら、そういうことか。

 

華雄姉さんも元々此処にいたが、俺たちを迎えるために同行していたのだと言う。

その間の代将として、華雄隊の半分を率いていたのだとか。

偉くなったもんだ。

 

「趙雲に牛輔。元気そうで何よりだ」

 

「久しぶりだな、星」

 

おや、白蓮と趙雲は真名を交換済か。

元は趙雲が白蓮のとこで客将をしてたんだったっけ。

奇縁ですなぁ。

 

まあ旧交を温めるのもいいが、俺たちには、というより俺には目的がある。

それは、西涼の馬一族を支援すること。

 

今のところ、劉備軍としては曹操軍に備える以外の手がない。

真っ当に涼州へ向かうためには魏の勢力圏を通るしかなく、そうすると侵略と見做されてしまう。

相手に口実を与えるのは不味い、と言うのが首脳部の判断でね。

 

よって、少数精鋭で敵地へ侵入。

そのまま涼州まで突っ切り、陰ながら支援して、凌げそうになければ落ち延びるのを助けようというもの。

 

色々と突っ込み所満載なのは百も承知。

でも呉蜀同盟を結んだからには、先々でぶつかるのは確定してる訳で。

更に言うと、身内には周泰がやってることの延長上だと言い張ることも出来ると思うんだ。

ちょっと武闘派に偏ってるけどね。

 

それでも、純然たる蜀の軍勢で行くと見付かった時に不味い。

よって俺が行く。

 

どうだ?

この移動中にぼんやり考えた作戦は。

そこかしこに開いてる穴は、気力で充当すれば何とかなるさー。

 

 

「面白い。私も行くぞ!」

 

「いやいや、ここは素早さに定評がある私めがお供致しましょう」

 

「将軍たちじゃ目立ってしょうがない。ここは地味な自分が…」

 

以上、北の国境警備隊からの発言でした。

無茶無謀と諌められるかと思ったら、まさかの全力推進。

正規軍が動いちゃダメだって話、実は聞いてなかっただろ君ら。

 

「リョウなら良いって訳でもないだろ」

 

「隊長の言う通り、我が隊が適任ではあります」

 

「何か楽しそう。シャオも行く!」

 

ダメだこいつら、早く何とかしないと…。

 

「お前が言うな」

 

ですよね。

白蓮だけが冷静な気がする。

 

だがやはり、やはり正規軍の将兵は動かせない。

手紙くらいは預かるけどね。

 

むしろ呂羽隊だけでも多すぎるくらい。

シャオにも残ってもらおう。

 

「なんでよ!?」

 

「孫呉の王族が居るのは甚だ不味い。蜀軍と同じ理由ですね」

 

その通り。

よって、主に白馬義従から快速さを優先して選抜。

由莉と白蓮を含めて、十名ばかりの文字通り少数精鋭とした。

 

同行者は全員騎乗。

俺も竜巻と命名した駿馬を駆ることに。

 

「じゃあ、軽く行って来るぜ!」

 

「お土産よろしくね?」

 

ばっちょんでいいかな。

 

 

* * *

 

 

「地龍背穿脚!!」

 

進路を防ぐような奴らは、俺の力で倒してやる!

 

「隠密裏に動くんじゃなかったのか?」

 

そんなことは言ってない。

 

「しかし、周泰様のようにとか仰ってましたが」

 

延長上にあると思ってるよ。

武闘側に偏ってるとも最初から思ってたし。

 

涼州に入るまで素早く駆け抜けようとするが、邪魔者は居るものだ。

そんな奴らは、最初からクライマックスで薙ぎ払うのみ。

 

見敵必殺。

 

馬の背を蹴って跳躍し、龍神脚の要領で急降直下。

蹴り穿ち、構えを取って残心しながら相手のKOを確認。

すぐさま馬に跨りなおし、先を急ぐのだ。

 

さあ、涼州はすぐそこだ。

雑魚に構わず、このまま突入するぞ!

 

 

なんて思っていたが、どうやら少し遅かったようだ。

俺の眼前には、殺気立った騎馬隊がズラリ。

 

おおう…。

 

 




・地龍背穿脚
KOF2003ロバのリーダー超必殺技の一つ。
使い勝手は良い物の、派手さはない。


どれだけ書きたくても、時間が無ければ無理なものは無理。
方向性は確定しているのですが、中々詰められません。
今月も不定期更新で、ぼちぼち完結を目指します。

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