武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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76 極限崩撃

雇い元から派遣先へ出向する途中。

とある軍勢と邂逅する。

 

その軍が誇らしげに、堂々と掲げるその旗は「華」

紛うことなく、懐かしき華雄隊のものだった。

 

 

「孫呉より参った。以後、宜しく頼む」

 

「承った。当方は貴殿らを歓迎する」

 

最初は真面目に。

いくら懐かしい顔触れであっても、様式美…もとい最低限の礼儀は大事。

 

一行の副使である俺が、出迎えの将である華雄姉さんと挨拶を交わす。

別にいいんだが、なんで俺?

正使のシャオがするのが筋だろうに。

 

当のシャオは俺の背後にあって、興味なさげに佇むのみ。

やれやれだ。

 

ともあれ形式ばった挨拶は終わらせた。

勝手知ったる他国の将。

やっとリラックスできるな。

 

「さて、呂羽。久しぶりだな」

 

「ああ、姉さんも元気そうで何よりだ」

 

「では早速、手合せといこうか!」

 

「お待ちください華雄将軍。まずは、手筈をお教え願います」

 

何時ものノリと勢いで試合に持ち込もうと言う姉さんの企みは、由莉による冷静なツッコミに遮られた。

いや、そうだよな。

俺も久々に組手も良いなって思っちゃったけど、実務の方が大事だよな!

 

「おお、韓忠。貴様も達者なようで……うむ?うむ。何よりだな、うむ!」

 

「…むっ」

 

なんだ?

姉さんが由莉に声を掛けたと思ったら、じっくり全身を回し見て何度も頷いてる。

由莉も居心地が悪そうだ。

 

ややあって何か得心がいったのか、大きく頷いて言った。

 

「まあいい。今日はこの陣屋で休むがいい。明朝、成都へ出立する」

 

「ん、そうか。分かった」

 

結局、どこに疑問を覚えて何に納得したのか分からなかった。

まあ必要なら教えてくれるだろう。

 

そしてここまで、一言も喋ってないシャオ。

挨拶くらいはさせるべきだよな。

 

「姉さん。こちら孫尚香。孫策の妹だよ」

 

「む?おお、確かに孫策に似ているな。初めまして、だな。我が名は華雄。宜しく頼む!」

 

「…うん、よろしく」

 

普通にしてたら全く接点がなさそうな二人。

シャオは少しやり難そうだ。

ま、追々慣れるだろう。

 

白蓮と姉さんが久闊を叙すのを眺めながら、考えるのは試合のこと。

 

移動中、賊徒を潰した以外は基本的に軽い稽古しか出来なかった。

明朝には出立と言うことで、今日も残り半日しかないが、半日もあるとも言えよう。

半日あれば、それなりの稽古が出来るはず。

 

「よし姉さん。勝負だ!」

 

「流石は呂羽。話が分かるな!」

 

にぃっと笑みを浮かべる姉さんがとても懐かしい。

さらに細かいところは副長に丸投げだ。

おや、副長と言えば牛輔が居ないな。

 

まあ、今はいいか。

さあやるぞー。

 

 

* * *

 

 

「はあぁぁーーーっっ!!」

 

「ちぇすとぉーっ!」

 

相変わらずの斧捌き。

いや、記憶にあるものよりも格段にキレが増している。

 

きっと俺たちと別れてからも、呂布ちんや関羽などと稽古を重ねてきたのだろう。

 

横薙ぎからの打ち下ろしを避けつつ、カウンター気味に龍閃拳を放つも容易く払われる。

払われた先の一歩を利用して、雷神剛で踏み込むもバックステップで避けられた。

おおう、なかなか当たらんのう。

 

「相変わらず、やるな!」

 

お褒めに預かり恐悦至極。

とは言え、当たらなければどうと言うことがないのはお互い様。

攻撃は当てないと意味がない、こともないけども。

出来るだけ当てる様にしたいところ。

 

よって、避けられない状況を作り出すのが良いな。

 

「虎煌拳!」

 

「ふっ」

 

牽制で虎煌拳を打ち出す。

流石に姉さん、見慣れているので僅かに横へずれるだけで容易に避ける。

だがそこに虎脚を合わせ、接近。

 

さらに大きく一歩踏み込んで、懐に入る。

このまま攻撃に移っても良いのだが、せっかくなので姉さんの警戒スタイルを崩してみよう。

 

ぐっと襟元を掴んで手繰り寄せ、すぐに放して大きく振り払うように左手を動かす。

すると相手は軽く仰け反り、無防備な状態になると言う訳だ。

 

極限崩撃。

掴み技で崩し技と言う、使い所が難しいが強力な一手。

 

「とうりゃ!」

 

軽くよろめいた姉さんに対し、すかさず一歩踏み込みつつ振り下ろし中段。

極限流連極拳から虎咆までのワンセットを決めた。

 

連極拳の一部がスカったが、まあ綺麗に入ったと見ていいだろう。

 

 

「むう、今の連携は未見だな」

 

「ああ。初見では、中々だろ?」

 

とりあえずは俺の一本、かな。

終わったら検討して今後の糧とする。

俺が所属していた頃の旧華雄隊から続く伝統の流れ。

今では白馬義従を含む呂羽隊はもちろん、韓当隊でもやっている。

 

「リョウ、次は私と戦ってくれ!」

 

「ぶーぶー!つまんないー。遊びに行こうよぉ~」

 

その後は触発された白蓮が参加してきたり、シャオが不平を漏らしたりして騒がしく過ごした。

ぎゃあぎゃあ騒いだせいか、すっかりシャオも華雄隊に馴染んできたな。

俺の古巣であることも一因かも知れんが。

 

そして、一人実務で仲間外れ状態になってしまった由莉はご機嫌宜しからず。

已む無く夕食後は、ご機嫌取りに終始した。

 

 

* * *

 

 

ゆうべはおたのしみでしたね。

 

夜が明け、日が昇り切る前に軍勢は出立。

成都へ向けて移動を開始した。

 

「成都では、ちゃんとシャオが挨拶するんだぞ?」

 

「やだ」

 

ちょ、おまっ!

 

「シャオはお飾りの正使だもーん。リョウに任せちゃうよ!」

 

「いやいや、飾りじゃないし。完全にオマケは俺の方だろうが」

 

「孫尚香が口火を切って、残りを呂羽が話せばいいんじゃないか?」

 

「あ、そうだね。華雄の言う通りにしよ!」

 

「……まあ、いいけど」

 

なんて和気藹々と喋りながら、行軍し、ギリギリ日が沈む前には成都についた。

 

 

「では、しばし此処で待て」

 

「了解です」

 

ふと思い返すと、姉さんと合流する前も益州に入ってからは一度も賊と遭遇してない。

劉備ちゃんの善政が行き渡っているのかな。

 

そう考えると、孫呉の勢力圏で賊が出たことはちょっと問題だな。

いくら本拠の揚州でなく、荊州であるとしてもだ。

次の定時連絡に所見として乗せておこうか。

 

徐々に日が傾いて沈みそうになってきて、ようやく城内からお呼びが掛った。

数は少ないとは言え兵士は兵士。

彼らは外で待機させ、シャオと白蓮、由莉と連絡用の隊員数名だけで入城。

 

前を歩くのは華雄姉さん。

脳筋との呼び声高い姉さんだが、洛陽でも将軍として長くその地位にあった。

言っては何だが、劉備ちゃんや大部分の将兵らなんかよりも圧倒的にキビキビしている。

城内にあって違和感が全くない。

つまり、姉さんカッコイイ。

 

なんて諸々考え事をしてみるも、まだつかない。

ひょいと先を眺めるに、謁見の場まではまだありそうだ。

 

「最近は忙しいの?」

 

よって、軽く私語に興じる。

情報収集も兼ねて、ね。

 

「まあな。西が少しばかり騒がしい。北もちょっと、な」

 

準備も今しがた終わったところだ、なんて仰る。

ほほう。

中々忙しそうだな。

 

てことは、軍勢が全て居る訳じゃないのかな。

そんなところに姉さんが来てくれたのは僥倖だった。

俺が来るってことで、配慮してくれたんかもしれんが。

 

「ついたぞ」

 

姉さんが開ける、大きな扉の向こう側。

蜀での派遣業務は、無事に勤まるのか。

大部分は初見で決まる、かも。

 

おっと、孫策と周瑜から預かった手紙もちゃんと渡さないと。

昨日までは由莉に預かって貰っていたが、公式の場では正副使から渡さんといかんよなぁ。

 

カツカツと響かせて進む先には、蜀の首脳陣がずらり。

が、見知らぬ顔もある。

 

劉備ちゃん、関羽、諸葛孔明、鳳統。

あとは見知らぬ妙齢の女性、恐らく黄忠かな。

 

そして華雄姉さんが多分黄忠の隣に立ち、謁見が始まった。

 

 




3月になっちゃいましたねー。
やっべぇ。

75話あとがきの好感度一覧に呂蒙を追加しました。
何故忘れてたんだろう。

・極限崩撃
KOFタクマの掴み投げ崩し技。
裏雲隠しや屑風のような技だと思われます。

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