武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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75 飛燕疾風龍神脚

「じゃあ出立するわよ。リョウ、準備はいい?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

諸々の用件や調整等を済ませ、俺は韓当と周泰に別れを告げた。

ああっと、周泰は正使たるシャオと一緒に此処まで来ていたんだよ。

 

今回の派遣業務、同行しない周泰にも大きな役割が課せらている。

見張りと連絡が主なところだな。

 

蜀に向かう俺たち。

孫呉の前線拠点、寿春を守る韓当。

そして、それらと建業を繋ぐのが主な仕事だ。

 

大変なことだが、周泰が適任なのは間違いない。

シャオのお守は一旦預かるから、頑張って欲しいものである。

 

しかし孫策や周瑜も思い切ったことをする。

派遣する将に、王族の末姫を選ぶなんてね。

 

『呂羽が一緒なら大丈夫よね?』

 

なんて、信頼と脅迫が綯い交ぜにされた言葉を吐かれると参るぜ。

いや、別に裏切るつもりは毛頭ないよ。

客将として幕下に入ってから、何度も孫策と組手をした。

これだけでも大きな刺激になってるし、かなり良い立場に居るとも思うから。

 

だけども、俺の目的が間近に迫ればそちらを優先するとはちゃんと伝えた。

目的が何か、具体的には言ってない。

それでも結局は軽く了承されてしまい、引き受けざるを得なくなったのだが。

 

ちなみに孫権にはきつく睨まれた。

そして思い切り脅された。

愛されてるな、シャオ。

 

しかし中々、孫権とは仲良くなる切欠がないなぁ。

シャオや孫策とはすぐ打ち解けたのにね。

 

まあ、追々どうにかなるだろう。

 

 

* * *

 

 

道中、村々や街を見聞したり検分したりしながらまったり移動。

良い勉強になる。

 

そう、勉強と言えば。

本当は呂蒙が正使として赴く予定だったらしいのだ。

彼女、幹部候補生だからな。

 

だがそこにまず俺が放り込まれ、それを知ったシャオが諸手を上げて主張。

孫権と周瑜は当然反対したが、孫策が宥めて決定したらしい。

 

呂蒙は今頃、孫権と共に揚州南部の攻略で経験値を稼いでいることだろう。

俺と彼女に接点はあまりないが、咄嗟の仮名ながらも板についてしまった同じ呂姓として応援している。

機会があれば、度数の有った眼鏡をプレゼントしてみたいな。

 

「隊長」

 

「どうした?」

 

「斜め前方およそ七里先。賊の拠点があるようです」

 

ほう。

今は丁度、呉と蜀の中間地点辺り。

役人の目も届きにくく、緩衝地帯と考えれば軍も動かし難い微妙な場所。

故に賊が蔓延ることもある、か。

 

「よし、蹴散らそう」

 

「御意。とりあえず、白馬義従を迂回させています」

 

話が早くて良いな。

ちなみにシャオはどうした?

 

「孫尚香様なら、白馬に乗って向こう側へ……」

 

自由でお転婆だな!

知ってるけど。

 

まあ、さっさとぶっ飛ばして終わらせるか。

随身は呂羽隊だけじゃない。

シャオがいるんだから、当然孫呉の直臣も少なからず居る。

 

だから蹴散らした後のことはそっちに任せよう。

政治的なことは分からんからな。

 

 

 

「龍撃拳!」

 

両手で弾込めした気を蹴って打ち出すことで、幅だけでなく高さにも自由度が増す。

賊の腹、脛、足先、腕など自由自在に狙い撃ちだぜ。

 

「…器用ですね」

 

由莉が感心したように漏らすが、修行を重ねれば誰でも出来るはず。

とは言え、今のところ出来そうなのが由莉と凪しか居ない。

そして由莉はまだ暫く無理だろう。

徐々に伸びて来てはいるんだがなぁ。

 

「リョウ!」

 

「お?」

 

賊の後頭部を蹴りながら現れたのはシャオ。

白蓮と一緒に居たんじゃなかったのか。

 

「あっちは公孫賛だけで十分過ぎるもの。つまんないから、こっちに来てみたわ!」

 

相変わらず自由でいらっしゃる。

ま、白蓮が問題ないと分かっただけでも良いとするか。

っと!

 

「きゃ!」

 

シャオの腕を掴んで思い切り引き寄せる。

勢い余って抱き留める形になってしまったが、今はそれどころじゃない。

 

「チィッ」

 

シャオが元居た所に結わった縄が落ちており、その先に細身の賊が端を持って舌打ちしていた。

これは、存外手練れだな。

 

「副長、シャオを」

 

「はい」

 

シャオを守りながらだと、万が一の危険が及ぶ可能性もある。

よって、由莉に預けて一対一で向かい合う。

 

「孫家の姫がこんなとこに居るったぁ、俺様も運が良い。おいてめぇ、死にたくなかったら大人しくそこをどけ」

 

あ、三下だこれ。

まあ言動がモブでも弱いとは限らない。

それに、問答に意味が見出せる可能性はほぼゼロ。

 

よって、時間をかけるのは無駄。

最初からクライマックスだ!

 

「ハァァァーー……」

 

全身に気を循環。

次いで、足先に充足させる。

 

地面を蹴って、後方にジャンプ。

 

「飛燕疾風…」

 

一定の高さから、虚空を蹴って賊に向かって急降下!

 

「龍神脚!」

 

「舐めてんじゃねえぞ!俺様は袁家にその人ありと謳われた、張ぐべっ」

 

飛燕龍神脚と同様、足先で賊の鳩尾を抉り踏みつつ、そのまま地面に叩き伏せて慣性のままに引きずって滑走。

最後に気を爆発させて後方に飛び退く。

 

っしゃあ、どうだ!

土煙の向こうに、細身の賊は倒れ伏してピクリとも動かない。

うむ。

 

「うっわ~、えっぐぅ」

 

外野からドン引きしたような囁き声が聞こえてきた。

失敬だな。

ちゃんと生きてるわ!まだ。

 

「捕縛しろ」

 

「はっ」

 

コイツが親玉だったようで、他の有象無象は降伏した。

全力でやって正解だったな。

 

 

「リョウ、さっきは助けてくれてありがと」

 

袁家の残党から身をやつした賊を捕縛するのを眺めていると、シャオがすすっと近寄ってきて言う。

ま、無事で何よりだ。

 

「きょくげんりゅう?って凄いのね」

 

極限流な。

しかし先程、シャオがドン引きしてた奴も極限流の技の一つなんだぜ。

 

「それ、シャオにも教えてくれない?」

 

「断る」

 

「ちょっと、なんでよー!?」

 

反射的に断ったが後悔はしてない。

自由気ままな姫御に教え込む、なんて未来は気苦労が絶えないだろうからな。

興味が削がれれば、すぐに投げ出しそうだし。

 

それに、シャオは打撃が軽い。

磨けば鋭いものになるだろうが、極限流との相性はちょっとな…。

そもそも打撃に向いてない。

武器に気を乗せて、とかならいけるかも知れんが。

 

「勉強とか嫌いだろう?」

 

「うっ…」

 

そう言う事で、諦めてくれたまえ。

 

「うぅ…。うー!うーっ!!」

 

むくれたシャオが唸ってくるが、軽く往なしておく。

これはこれで可愛いな。

 

 

* * *

 

 

「隊長。まもなく指定された街に到着します」

 

ちょいと前に賊を蹴散らして以降、ここまで順当な道のりを歩んでこれた。

蜀の領地に入るにも特に苦労することはなく、出迎えの軍と合流する地点に到達。

 

劉備軍の拠点たる成都まで、あと少し。

 

 




誤字報告適用しました。
あと、一話からちょくちょく修正を進めております。
話の流れに変わりはありません。

・飛燕疾風龍神脚
KOFロバの超必殺技。だから、名前さぁ…。
追尾型龍神脚で踏み付け、引き摺った挙句に爆殺☆
いや爆発はともかく、爆炎ってどういうことなの。


揚州編終了記念!
孫呉の面子による主人公に対する現時点の好感度一覧。
尚、孫策を暗殺から救ったことで1ランクのプラス補正が付いています。

極大:韓当、孫尚香
高:孫策、孫静、周瑜、黄蓋
並:周泰、孫権、陸遜、呂蒙、甘寧
低:程普
極小:-

左程高く右程低い

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