武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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72 滅・龍虎乱舞

「こうもあっさり祭を退けるなんて…」

 

「やはり実力は本物、ということか」

 

いい感じに力を示せたかな。

てか実力は本物って…。

一応、二回ばかり孫策には打ち勝ってるのだが。

確かに、孫呉首脳陣の前で披露するのは初めてかも知れないけどさ。

 

「さて、次はどうする?」

 

孫策と対戦出来るのか、あるいはまた余人が挑んでくるのか。

黄蓋との一戦で、いい感じに身体が温まった。

何だったら、連続稽古でも構わないぜ!

 

「何言ってるの。私と勝負したいんでしょ?」

 

とも思ったが、孫策が乗り気だ。

 

おっとそうだな。

彼女と真剣勝負をするのが、此処まで来た大きな目的の一つ。

黄蓋との対戦が充足感に溢れてて、ついつい余所見してしまったぜ。

 

「そうだな、これも褒美の一環。じゃあ雪蓮、存分に相手して貰いなさい」

 

「……さあ冥琳の許可も出たことだし、思いっきりやるわよ!」

 

周瑜も快く許可を、と言うか煽ってる気もする。

カチンときたらしい孫策の目が、心成しか鋭さを増した。

あと、口の端が吊り上ってる。

 

…まあいいか。

 

「ならば、御手合せ願おう」

 

 

* * *

 

 

激烈なる回天、なんてフレーズが頭を過った。

時勢を覆す程じゃないが、かなり激しい攻防を繰り返している。

 

「ハァッ」

 

「シッ」

 

孫策が扱う剣は、見た感じ孫呉に伝わる宝刀・南海覇王。

いくら一番馴染むからって、そのまま試合で用いなくても。

それとも、それだけ意気込んで貰ってると光栄に思うべきか。

 

俺は普段通りの徒手空拳。

観客でも初めて見る奴は驚いてたようだが、大部分はもう気にしてない。

一部眉間に皺を寄せているのは、何に対してだろうね。

 

「虎煌拳!」

 

それでも気弾を放つと、目を瞠ってた。

ちょっと優越感。

改めて凪の特異性が浮き彫りにっ

 

「ほらほら!考え事してると、ちょん切っちゃうわよっ」

 

いつかの焼き直し。

何をちょん切ると言うのか、気になるけど聞けない。

対象が何であれ、ちょん切られるのは御免蒙る。

 

フォンッと横薙ぎに一閃。

 

上体を逸らすことで避けるが、その一瞬に腰を落として溜めを作る。

弾力性を生かしてカウンター飛び蹴りだ。

 

「飛燕疾風脚」

 

跳び足刀気味の爪先が孫策の懐に入った、と思ったが感触が弱い。

ギリギリで反らしたか。

勘の良いことで。

 

気にせず跳躍したまま横回し蹴りに繋ぐ。

肘でガードされたが構わない。

勢いを付けて放ったそれは、孫策の身体を僅かに浮かせた。

 

「クッ!?」

 

先に着地した俺は、彼女に向かって無数の拳を打ち込む。

 

「暫烈拳!」

 

ガガガガッと連続で撃ち続ける高速拳。

クリーンヒットにはなってないが、ガードの上からでも削りきってやる!

 

孫策が着地する前に、気を込めた右正拳突きで吹っ飛ばす。

 

「良しッ」

 

軽く残心。

すぐに構え直す。

 

砂埃を上げて吹っ飛んだ先には、片膝立ちで物凄い笑顔を見せる孫策の姿。

多少はダメージも入ってるだろうが、これで終わりじゃないだろう?

 

「おらおら!」

 

そんな気持ちも込めて、掛かって来いやァと挑発一本。

 

「ッ!」

 

あ。

笑顔の質が変化した。

そして微かに唇が動くのを確認。

距離と声量のせいか全く聞こえないが、簡単に分かってしまった。

 

モ ウ コ ロ ス

 

ぞわっ

 

背中を駆け上がる悪寒からして、なんとも濃密な殺気。

このままでは試合が死合いになってしまう。

 

ふと、手負いの虎と言う単語が浮かんできた。

 

うーむ。

虎、虎ねぇ…。

 

冷静に激昂状態となれば厳しい戦いになるは必定。

それはそれで楽しいかも知れんが、望みの戦いではなくなる可能性も。

 

ここらで締めと行こうか。

 

 

「しゃあーっ!」

 

孫策が飛びかかって来た。

野生の孫策が…っと、ふざけてる場合じゃないな。

 

キレが増した彼女の剣先。

ここで返り血なんぞ浴びさせたら、きっと取り返しがつかなくなる。

なればこそ、修行の成果を見せてやろう。

 

「ハァァ……」

 

気力充足、全力全開!

 

ではいくぞ。

体力ゲージの残量は十分か?

 

正面から打ち掛かってくる孫策に、むしろこっちからぶつかる勢いで前ダッシュ。

 

接近するや、まずは左ジャブで牽制。

ヒットを確認することもなく、続けて右ストレート。

右の足掛け蹴りから一旦腰を落としてのしゃがみアッパー。

続けて膝蹴りをお見舞いして、踵落としを決める。

先ほどの膝が入ったことが感触からして分かったが、気にせず再び左ジャブ。

次いで左アッパーからの右回し蹴りでふらつかせたところに左ジャブ、右ストレート、横蹴りと繋げていった。

 

最後にハイテンションキック風に後方回転飛びで距離を空け、両腕交差してからの腰元で気を溜める。

 

「覇王…」

 

俺の視線の先、孫策は若干ふらつきながらもまだ立っていた。

 

流石だな。

では、遠慮なくトドメだ!

 

「翔吼拳!!」

 

腰元に溜めた気を、五段分に積み重ねる。

次いでイメージする形を嵌め込んでいき、良い折りになったところで全力放射。

 

両掌から放たれたソレは、虎の姿を写し駆ける気弾。

孫策が目を見開いているのが見えた。

 

いかに彼女と言えど、これをまともに食らえばただでは済まないはず。

 

滅・龍虎乱舞。

 

以前に龍虎乱舞を食らわせた時は、こっちの修練不足もあり満足な結果が得られなかった。

今回披露したのは、そのリベンジでもある。

 

そして、中空を駆ける虎となった覇王翔吼拳が孫策に吸い込まれていった。

 

 

* * *

 

 

俺と孫策の試合は無事に終わり、今は請われて執務室。

 

滅・龍虎乱舞の締めに、虎の覇王翔吼拳を放って以来、皆の俺を見る目が変わった。

良いか悪いかは人其々だが、概ね良い方向と捉えていいんじゃないかと思ってる。

 

「ねえねえ。最後のあの虎、凄かったわね!」

 

ことに孫策は凄い。

まるでシャオのようだ。

やはり良く似てると再確認したのは良いが、つまり何だ。

シャオが成長したら孫策みたいになるのか。

そっかぁ…。

 

案に相違し、クリーンヒットした虎翔吼拳。

いや、ふらつきながらも立ってたし、避けると思ったんだよ。

掠り当りでも十分な結果が見込めると思ってたから、加減もしなかったしな。

 

結果、どっかんヒットして孫策は気絶。

何故か幸せそうな顔をしていたとか。

ちょっとだけ衣類が吹き飛んだようにも見えたが、多分気のせいだろう。

 

その際、誰とは言わないが一部の人間から殺意が示された。

うん、まあ、仕方ないね。

 

でも全力全開は必要なことだったんだよ。

理解して欲しいとは言わないけどさ。

 

そして意識を取り戻した孫策が開口一番、放ったのが先のそれ。

 

普段から割と軽い印象があったが、ちょっと異なる方向へずれたようだ。

好印象っぽいからいいんだけど、何やら凄く気に入られたというか。

変なことにならなければいいが…。

 

「ふむ。雪蓮を容易く降すとは、前の時もやはり…」

 

周瑜がぶつぶつ言ってる。

 

「ねえ呂羽。貴方、うちに仕えなさいよ。優遇するわよ?なんなら私が」

 

「ちょっと姉様!」

 

「……次は私と仕合ってもらおうか…ッ」

 

テラカオス。

 

 

 




・滅 龍虎乱舞
2002UMで裏ロバのMAX2超必殺技。
虎のエフェクトは凄いが、ガードも可能で使い道は趣味の範囲。
でも使います、だって趣味だもの。
突進中は無敵らしいので、躱しつつってことも不可能じゃない模様。
しかし技名、もうちょっと何かあるんじゃないかって思ったり。

孫策を倒しました。完。

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