武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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71 不動剛腕撃

曹操軍は、多大な損害を出しつつ撤退して行った。

国境近くでは寿春の抑えに回っていたはずの張遼が陣を構えており、已む無く孫策軍は追撃を諦めたらしい。

 

そして孫策たちは建業に戻ったのだが、膨大な残務にてんてこ舞いのようだ。

 

「張遼たちも軍を退き、寿春も今は静かなもんさ」

 

韓当からの使者を連れ、白蓮が合流。

向こうの状況については彼女から聞いた。

 

寿春防衛戦等で大きな功を立てた韓当。

アイツが今後、寿春の責任者として詰めることになったらしい。

大出世だな。

 

「と言うか、私が居ない間にそんなことが…。活躍の場が…」

 

「安心して下さい。隊長以外、呂羽隊としては何もしてません」

 

白蓮と由莉が愚痴を言い合ってる。

それはいいのだが。

 

「で。何故あんたが此処に居るんだ?」

 

仮にと与えられた呂羽隊の宿舎。

俺の執務室、のような会議室。

 

そこに孫静が居るのはおかしいよね。

 

「あら、つれないわね。一飯一宿を共にした仲じゃない」

 

微妙に違うと思う。

あと由莉、一々殺気立つな。

 

「いいから説明してくれ」

 

「んー。まあ簡単に言うと、隠居することにしたのよ」

 

あっけらかんと答えられた。

てーか、隠居だって?

 

「それで、功を立てた韓当を後任に推挙したって訳」

 

いやいや待て待て。

 

「何故急に隠居など」

 

「別に突然決めた訳じゃないわ。前々から考えていたの。偶々、今が良い折だっただけよ」

 

「孫策たちには?」

 

「通知はしたわ。返事は聞いてないけど」

 

ダメじゃねえか。

あと、隠居はともかく何故此処にいるのか!?

そっちの方が大事だろ!

 

「やあねぇ。アナタと私の仲じゃない」

 

どんな仲なのかと小一時間問い詰めたい。

だが、聞いた所で碌なことにならないことが目に見えているので止めておこう。

 

『リョウー、居るーっ!?』

 

扉の向こう側から聞き覚えのある大声。

シャオだ。

 

トタトタパタパタ…

どがーんっと扉が開け放たれる。

 

「リョウ!」

 

「ちょっと小蓮様、ダメですってばっ」

 

周泰も居た。

戻って来てたんだな。

相変わらずお守してんのか、超頑張れ!

 

「シャオ。もっと落ち着いて、ゆっくり歩きなさい」

 

カンカンと聞きなれない足音もあると思っていたら、シャオの姉・孫権が顔を出した。

個人(記憶)的に好みの子なんだが、シャオ絡みで怒られたせいかちょっと腰が引ける。

いや、何とかして柔らかい微笑みを向けて貰わねば…っ

 

「呂羽。邪魔するわよ」

 

「ああ!?」

 

硬い表情で訪問を告げる孫権に応えようとしたら、シャオの驚愕に遮られる。

どうした。

 

「な、なんで叔母様が此処に?」

 

「相変わらず元気ねぇ、シャオ。蓮華も、久しぶりー」

 

「叔母上!?」

 

シャオと孫権が孫静に気付いた。

 

そして混沌と化す会議室。

一族同士のアレコレには口を挟まないのが吉。

黙って眺めていた。

 

「呂羽さん」

 

すると、周泰から話しかけられた。

おお、なんだね?

 

「先日は、孫呉の為にありがとうございました」

 

追撃戦のことじゃないだろうから、刺客の話かな。

寿春防衛戦のことも、多少はあるかも。

 

「貴方のことを中々信用しきれてませんでしたが、考えを改めます」

 

「そうか。まあ疑義があっても気にしないが」

 

「……おかしな人ですね」

 

真顔で変って言われた。

せめて、くすっと笑みでも零してくれれば違うのだが…。

やはり俺では北郷君には成れないようだ。

主人公パネェ。

 

「コホン。ともかく今後、何かあればお申し付けください」

 

「ああ、ありがとう」

 

それでも、一定の評価は貰えたようだ。

 

そう言えば、今まで曹操軍でも董卓軍でも、そして劉備軍でも余り疑惑の目で見られたことは無かった。

状況や立場が違うとはいえ、孫策軍の反応が普通かも知れないな。

 

「それと、出来れば小蓮様のことをお頼みします」

 

「えっ?」

 

ビックリして周泰の方を見るが、既に立ち去った後だった。

どういう意味だ。

お守はもうしないとか、そういう……?

 

「呂羽!貴様、一体どういうつもりだっ」

 

沈思しようとしたら、怒った顔の孫権に遮られる。

いや、今度はどうしたよ。

 

「叔母上が、貴様の下に居るなど聞いてないぞ!」

 

「そうだよリョウ!シャオも一緒に居たいっ」

 

あ。

孫静のことで怒る孫権に、シャオが燃料を投下した。

こっちに矛先を向けないでくれ。

 

「モテモテだな」

 

白蓮、ぼそっと言っても聞こえてるからな。

そして由莉、殺気を仕舞え。

 

 

* * *

 

 

追撃戦が終わり、それらの残務の目途も立った頃。

俺は孫呉の首脳陣から呼び出された。

 

「呂羽。今回のこと、礼を言うわ」

 

そう言って頭を下げる孫策。

おや意外。

下げる頭なんて持ってないかと思っていたが。

いや、流石に思い込みが過ぎるな。

反省。

 

「礼には及ばない。偶然のことだしな」

 

とは言え、偶然の産物であることは間違いない。

だから別に礼も要らないんだけど。

 

「そう言う訳にも行かない。偶然だろうと、お前は孫呉の王を刺客から救ったのだから」

 

周瑜さんが怜悧に言ってくる。

まあ、確かにそうだよね。

だから礼だけは素直に受け取っておこう。

 

「言葉だけで済む話ではない。が、お前は孫呉の民や将ではないからな…」

 

「あれ、でも叔母様のとこで客将してたんでしょ?」

 

「…ふむ。呂羽、引き続き客将として。いや、正式に孫呉に仕える気はないか?」

 

「客将でお願いします」

 

あ、やべ。

勢いで答えちゃった。

 

「何か目的があるんだっけ?なら仕方ないか。お礼のことも含めて、色々便宜を図ってあげるわ」

 

そもそも孫策に仕えるつもりで来た訳じゃない。

状況確認と、なんなら戦うために来たんだけど……まあいいか。

 

「では一つ、良いだろうか?」

 

「あら、早速ね。何かしら」

 

「孫策と、全力での一騎打ちを所望する」

 

「……へぇ」

 

「ほお?」

 

「貴様っ」

 

俺の突飛な発言に対するのは三者三様。

上から孫策、周瑜、孫権。

 

 

「まあ待て若造。まずは儂が見定めてやろう」

 

そんなところに待ったを掛けて来たのは黄蓋か。

先代・孫堅の頃からの武将で、得物は弓がメインだった気がする。

 

まあ近接も問題ないんだろうし、相手にとって不足はない。

孫策たちもそこに異論はなさそうだし、早速試合と行こうか。

 

 

* * *

 

 

黄蓋が選択した武器は、弓ではなく剣だった。

俺が格闘家だってことを考慮してくれたのか。

 

しかし別段、弓でも問題なかったんだけどな。

夏侯淵で鍛えられた対応力は伊達じゃない!

 

とは言え、剣の方がやり易いのは確か。

ココは俺の力の一端を披露する場面と割り切って、思い切り挑むとしよう。

 

「ふっ」

 

タァン!と力強く踏み込む。

地面を足が叩き、勢いを駆った正拳突きを連続で放つ。

 

捻り避けからの、勢いのままに斬り付けてくる。

が、甘い。

軽く跳躍からの回し蹴り。

しかし剣の腹で受け流される。

 

うむ。

力量は流石と言える。

言うならば質実剛健、経験に裏付けされた実力ってとこかな。

 

「ツぁっ」

 

後ろ回し蹴りから、胴回し回転蹴りに繋ぐ。

これは避けられた。

上段から振り降ろされる剣を躱し、高めに跳躍。

 

「獲ったァ!」

 

裂帛の気合いと共に突き上げられる、黄蓋の鋭い刃。

おお、これは中々。

 

だが残念、誘いだぜ。

 

「不動剛腕撃!」

 

空中でしゃがむような動作をして、両手を合わせたところから思い切り広げる様に振り払う。

 

これで突き上げられた剣は、ガキンと音を立て中ほどから折れてしまった。

そしてカランカランと剣の欠片が地を滑る音が響く。

 

うむ、勝負あったな?

 

 




日常話。

・不動剛腕撃
KOF95タクマの空中吹っ飛ばし攻撃。
ほとんど使った記憶は有りません。

以上でKOF95までの必殺技・特殊技を網羅したと思います。
尚、ユリの特殊技は除きます。

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