武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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70 九頭龍閃

「曹操軍には、錚々たる面子が揃っている」

 

そうそうぐんにそうそうたるめんつ。

フフッ

 

「真面目に聞いてるのか!」

 

「お、おう」

 

怒られた。

 

 

曹操様が率いて来たのは、旗印と斥候の情報から分かるだけでも結構な数と質。

夏候姉妹を筆頭に、有名どころがぞろぞろと。

中には北郷君や凪たちも居るようだ。

 

正面から、思い切りぶつかってやろうという気概が伝わって来る。

これに対する孫呉の将兵も、数に差はあれどもビビってなんかいない。

 

ちなみに俺は、有無を言わさず城に連れて来られた。

 

別に曹操軍に付くつもりはなかったけど、だからって孫策軍に……ああ今更か。

孫静に協力して韓当とともに張遼と戦った時点で、ね。

 

いや、別に問題はない。

両雄激突の真ん中に、第三勢力がぽちっと入り込むのも面白そうではあったが。

流石にな、乱取り稽古にも程があるから。

 

だから孫策軍に与して戦うのは良い訳よ。

ただ、自己紹介も何もないのは流石にどうかと思うんだ。

いくら時間がないにしてもさー。

 

「大丈夫、リョウにはシャオがついてるよ!」

 

隣にシャオ。

背後に由莉。

反対側には孫策と孫権が陣取ってる。

 

つまり、良い感じに囲まれてる訳でして。

孫呉の諸将からの注目度が凄い。

悪い意味で。

 

無論、視線が突き刺さったりはしてない。

偉大な軍師さんが諸々説明してるとこだし。

気を逸らしたりしたら、さっきの俺みたいに怒られてしまう。

 

でもね、みんなの気配が完全に注視してんの。

おお怖い怖い。

 

あ、周瑜さんから睨まれた。

真面目に聞きます。

 

 

* * *

 

 

何か孫策が曹操様に会いに行くそうな。

 

今、会いにゆきます…。

 

そして何故か俺も。

 

「呂羽は証人よ」

 

現場に立ち会ったどころか、返り討ちにしたのが俺だもんね。

仕方ないね。

 

だったらシャオはー?

なんて口に出そうとしたら、孫権から凄まじいプレッシャーが放たれた。

 

その背後に居る、多分甘寧さん。

元々鋭い眼差しが厳しさを増して、まるで貴様を殺すと言われているよう。

 

此処は大人しく引き下がり、素直に従うのが得策だろう。

 

「リョウなら姉様の護衛としても、問題ないもんね!」

 

シャオよ。

敢えて引っ掻き回すような発言は慎んでくれないか。

 

「刺客の躯と、証拠品の矢や刃を持っていく。思春、供を」

 

「御意」

 

何時の間にか感情の抜け落ちた顔に戻ってる孫策が指示を出し、静かに、鋭く答える甘寧。

 

開戦前の舌戦と言うか、口上を述べに赴くのは別に珍しくない。

この場合、その内容は問い詰めとか糾弾になるのは間違いないだろう。

孫策の供に甘寧が指名されたのは、その力量に信頼を置かれているからだろうな。

 

そして、目で促された俺も後ろに続く。

由莉は供を申し出てくれたが、隊に隊長も副長も居ない状態にするのは些か不味い。

 

孫呉の将兵は当然、曹操軍を迎え撃つ。

でも呂羽隊の立場は少々微妙。

正式な立ち位置が定まってない。

 

巻き込まれただけとも言えるし、当事者とも言える。

俺が証人に指名されたのも大きい。

 

呂羽隊は孫策軍と一緒に戦うべきか、戦って良いのかどうか。

深く考える暇もなく、こんな状況に陥ってしまっている。

まあ、攻めてこられたら迎撃するしかないんだけど。

 

普通の流れであれば、舌戦というか口上を述べたら一旦陣に戻り、そこから開戦。

俺も隊に戻って適宜判断すればいいんだろうけど。

色々と間に合わない可能性もあるからねぇ。

 

そんな訳で、諸々の判断が出来る我が副長殿に隊を任せることにしたのさ。

 

 

* * *

 

 

孫策が軍勢の前に出て行き、曹操軍の鎧兜等を身に着けた暗殺者の死体を放り投げる。

ざわりと空気が動いた。

 

「曹操の兵が私を暗殺しに来たわ。これが、その証拠」

 

同時に毒が付着した矢なども指し示し、淡々と述べている。

曹操軍からは、驚愕や悲鳴にも似た気配が伝わってきた。

 

「──その場に同席した、この呂羽が証人よ」

 

ついでに、証人として俺を紹介する孫策。

凄い勢いで視線が集中する中、努めて無表情を保って軽く頷く。

 

何名かの将が、驚愕に満ちた視線を飛ばしてきている。

あ、更に一部の奴からは射殺す視線ががが。

こっち見んな!

 

「心底軽蔑するわ。…これ以上言うことはない。生きてこの地から出られると思わないことね」

 

おっと、視線に恐怖していたら口上が終わっていた。

最後にそう告げた孫策は、クルリと踵を返す。

 

何も言わずに陣に戻る孫策と甘寧。

その背中を眺めながら、視線を転じて曹操軍の様子を確認した。

 

 

おおう、凄い勢いで動揺が伝わってくる。

きっと陣中で曹操様が激怒しているのだろう。

 

夏侯淵や荀彧が確認を急ぎ、多分末端兵の暴走に気付く。

そしたら、どうなるかな?

 

如何に優れた将と言えども、何十万人と言う将兵を完全に管理することは不可能。

さらにその中の、極僅かな数名の行動を把握するのは無理だろう。

 

暗殺なんて指示してない。

そのようなことは知らない。

 

シラを切り通して戦闘を継続することも出来る。

でも、曹操様はそうしないんじゃなかろうか。

 

正々堂々を好む、誇り高き覇王たる曹操様なら。

 

だとすれば、曹操軍は撤退するのだろう。

現に、眼前では軍勢が揺れに揺れている。

進軍すると言う空気じゃない。

 

その様子を静かに眺めていると、見知った顔が歩いて来るのが見えた。

 

 

「久しいな、凪」

 

ただ一人、出て来たのは凪その人。

軍勢を連れていないから、恐らく本当の殿役は別に居るのだろう。

 

「私たちは撤退します。つきましては、追わないで頂けると助かるのですが…」

 

やはり撤退を選択したか。

しかし孫策の言い分からして、追撃しないことは有り得まい。

凪としても分かってはいるのだろうが。

 

「それは無理な相談だ」

 

「……」

 

言を左右にしても仕方がないので断じると、無言で構えを取った。

此処から先は進ませないとの意思表示か。

 

俺が追撃に参加する理由はない。

証人として孫策側に立ちはしたが、別に曹操軍を非難するつもりもないしな。

 

だが、凪と戦場で相対したからには。

況や構えを取られたからには、立ち会う他ないだろう。

 

どれだけ向上したのか、確認もしたい。

やはり俺は武将ではなく格闘家だな。

 

「行くぞ!」

 

 

* * *

 

 

「飛燕龍神脚!」

 

「龍斬翔ッ」

 

交差する俺と凪。

 

既に戦場は遠く、この場には俺と凪。

そして背後に呂羽隊が控えているのみだ。

 

俺と呂羽隊は追撃戦に参加しなかった。

凪は凪で、俺の抑えを主な目的としていたらしい。

 

結果、撤退する曹操軍と追いすがる孫策軍の戦場から離れた場所で遣り合い続けている。

 

俺としては凪を打ち倒すつもりはない。

凪としても、早めに切り上げて本隊に追いつきたいだろう。

落とし所を見つけないとなぁ。

 

 

凪は龍斬翔と幻影脚を完全にモノにしたようで、よく使ってくる。

龍撃閃もな。

 

ふむ。

時間もあまりないことだし、ここは一つ指南して終わりにするか。

 

「凪、構えろ」

 

言うと同時に懐へ踏み込む。

そして脇を締め、拳を腰の当たりに添えた龍斬翔のような上向き体捻りを繰り出した。

但し、跳躍しないで同じモーションを2回繰り返す。

 

今回は指南として警告を出しておいた。

しかし何も言わずに出したら、一度目と二度目の合間に動き出した相手にヒットすることが期待できる。

ま、連続技向きだな。

 

最後にもう一度更に強く踏み込んで、今度は蹴り上げにて締め。

その際、足先に気を込めて強く押し込めた。

そうすることで、ガードをしたまま押し込まれた凪に反撃の機会を与えずに済む。

 

「これが九頭龍閃。参考にしてくれ」

 

どの辺りが九頭龍なのかは知らんがな。

 

 




先週は繁忙+体調不良で色々吹っ飛びました。
さて、今後はどうなることやら…。

・九頭龍閃
KOF99以降とNBCロバートの超必殺技。
飛燕斬のような龍斬翔を繰り返し繰り出す技。
使い所は色々ありましたが、カス当たりすると悲惨なことに…。

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