武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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07 極限流連舞拳

「死ねぇーぃっ!」

 

ブオォォンッと大振りに刀を振り回す夏候惇。

いやいや待ちなさいよ、ちょっと打ち合うってレベルじゃないでしょ。

 

とは言え、こうなることは予想できた。

曹操様が何を求めてるかも、まあ分かる。

 

分かるんだけどさぁ……。

無茶振りが過ぎるんじゃないか。

いや、そういう世界だしそういう人たちってことも知ってるんだけど。

 

考えながら夏候惇の攻撃を凌ぐ。

ヒョイヒョイヒョイっとな。

 

流石、武力で突出した曹操軍随一の武将なだけはある。

おいそれと手を出すのは憚られる。

 

「貴様、避けるな!」

 

無茶言うなし。

おっと、ヒョヒョヒョイッと。

 

夏候惇の切り掛かるスピードが加速する。

比例して俺の見極め精度も向上していく。

ある種の稽古みたいで楽しいかも。

 

ブンブンひょいひょい。

と、避け続けて間を計っていると。

 

「実力を隠すつもりかしら……?」

 

ぞわり。

 

少し離れた所から曹操様の呟きが漏れ聞こえてきた。

同時におっかない悪寒が走る。

曹操様、ちょっとご機嫌斜め?

 

 

チラリと横目で盗み見る。

 

そっと前を向いて見なかったことにした。

 

 

「いい加減に、斬られろぉー!」

 

夏候惇も激昂状態だ。

思い切り振りかぶった一撃を放とうとしている。

 

よし、ナイスタイミング。

ボディがお留守だぜ……って、キャラ違うか。

 

スッと息を吐いて足に気を巡らせ、前ステップで夏候惇の懐に入り込む。

 

「極限流連舞拳」

 

着地と同時に足を踏みしめ左ボディブローを腹部へ。

ヒットを確認しながら右打ち下ろしフック。

そのまま左アッパーに繋ぐ。

 

うむ、いい流れで決まったな。

とは言っても、アッパーは一撃目をガードされて後はバックステップで避けられた。

全ヒットにならなかったのは、残念だが流石と言えよう。

 

随一の猛将は、やはり機を読むのにも長けているようだ。

いいねえ。

思わず熱くなっちまいそうだ。

 

後ろに退いた夏候惇は目を見開き俺を凝視している。

 

「なるほど、流石ねぇ」

 

そこへ、場の空気を断ち切るかのごとく曹操様が入ってきた。

どうやら終わりらしい。

纏っていた戦気を霧散させる。

 

曹操様の言葉を聞いた夏候惇が、そりゃあもう凄い形相で睨んでくる。

やっぱ仕官は無しかなぁ。

 

「文句なしね。秋蘭はどう?」

 

「姉者の攻撃を凌ぐのみならず、一撃をも入れるとは……。やはり並の者ではないようです」

 

「ええ、本当に。春蘭もお疲れさま」

 

「か、華琳様ぁ~」

 

何やら高評価を頂いてるご様子。

こうなってはもう、流れに身を任せても良いか。

 

「呂羽殿、凄いです!」

 

「ほわぁ、まさか夏候惇様に一歩も引かんなんて……」

 

「お兄さん、流石なの~!」

 

「ああ、うん。ありがとう」

 

楽進たちからも褒められた。

悪い気はしない。

そういえば、楽進に対しては気弾的な意味で大いに興味がある。

下心満載で申し訳ないが、仲良くしたいところだ。

 

キャッキャッとはしゃぐ三人に囲まれながら、曹操様の方を窺う。

北郷君も交えて何やら検討しているようだ。

 

何故か、そっと逃げ出したい誘惑に駆られたが、ここは我慢だ。

夏候惇との追いかけっこになる未来しか見えない。

 

おっと、どうやら話し合いが終わったようだな。

曹操様が俺の前にやってきた。

 

「改めて聞くわ。呂羽、私に仕えなさいな」

 

曹操様、それ尋ねてないです。

命令です。

ほら、北郷君も苦笑してるじゃん。

 

「呂羽殿……」

 

おっと楽進、そんな不安そうな顔しないでくれ。

俺が何か悪いことしてるみたいじゃないか。

 

あれ、何時の間にか楽進フラグ立ってた?

んなわけないか。

 

「その前に一つ。俺は格闘家であって武将じゃない。なので、期待には沿えないかも知れませんよ」

 

「いや呂羽。お前の武略は中々のものだと思うぞ?」

 

夏侯淵さん、それは気のせいです。

 

「それにお兄さんが作った堀と土塁、防衛戦でかなり役に立ったの!」

 

于禁は黙っていなさい。

 

「あと兄ちゃんが西門で活躍したのはホンマやし。特にあの覇お」

 

李典、曹操様の前でそれは禁句だ。

空気読んでくれ。

 

「そして俺は、いずれまた旅に出る予定です。それでもいいですか?」

 

李典の言葉尻に被せて続きを話す。

 

あと出来れば、客将じゃなくて一般兵士がいいなあ。

もしくは北郷君が隊長の警備隊の隊員とか。

言わないけどね。

 

「そうね、出来ればずっと仕えて欲しいけれど。まあ無理強いはしないわ」

 

「分かりました。では暫しの間、宜しくお願いします」

 

配属とか若干の不安は残るが、まずは良かった。

 

せっかくだし、この世界のことも少し勉強しないといかん。

今後の旅に欠かせない知識がある筈だ。

 

そして、楽進とは気弾について色々と話したい。

防衛戦を経て、彼女たちとはかなり打ち解けたハズだしきっと大丈夫だろう。

 

 

楽進や李典が率いた義勇軍はここで解散となった。

望む者は一緒に曹操軍に合流することになるが、それ以外は村に残るようだ。

 

そして俺たちは村長、村民たちに別れを告げて陳留に向かうことになった。

 

 

* * *

 

 

陳留へ向かう道すがら、三人組と防衛戦の話で盛り上がった。

特に、俺が西門を制する切欠となった覇王翔吼拳の話題で。

 

「なあなあ、最初に撃ったすんごいの、覇王なんちゃらって。あれ何なん?」

 

「覇王翔吼拳な。俺が扱う極限流の、超必殺技だ」

 

李典がやたら覇王翔吼拳に食いついてくる。

あと、覇王なんちゃらは止めてくれ。

 

「超、必殺技……、ですか」

 

「ああ。全身の気を丹念に練り上げ、一気に放出すると言う難易度の高い技だ」

 

よく分らないって顔してるな。

そういや、この中で実際に見たのは李典だけか。

 

「そう言われても良く分らないの!見せてほしいの~」

 

「まあ、機会があればなー」

 

そう、百聞は一見にしかず。

機会があれば皆にも披露したいところだが。

特に楽進には一度見て貰いたいが、おいそれと気軽に使える技じゃないからな。

 

ゲームの対戦でも、初代と外伝は特に扱いが難しかった。

作品によっては、段々軽くなって行ったが。

 

ふむ。

俺も、リアル覇王翔吼拳をもっと素早く、柔軟に使えるよう修行を重ねなきゃいかんな!

 

 

 




・極限流連舞拳
龍虎2でお目見え。
今回はKOF95バージョンを想像して書きました。

2016/11/13誤字修正(初段→一撃目、全段ヒット→全ヒット)

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