武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
韓当隊と合流して進軍すること暫し。
本当は呂羽隊だけで密かに接近したかったのだが、この人数じゃ流石に無理だ。
まあ優位性を保つと言う意味なら、このような威風堂々もありだろう。
将兵それぞれの士気を高める意味合いも持たせることが出来るし。
そんな訳で行進し続けて、そろそろ敵さんが見えるだろう頃だ。
「物見からの報告は?」
「まだありません」
ふーむ。
「ちゃんと戻って来てる?」
「はい。呂羽隊と白馬義従、韓当隊との連携も問題なく」
伏兵に潰されて、知らない間に引き込まれてたとかの可能性は低いか。
嫌な予感はあまりしないが、用心に越したことは無い。
「先行の人員を追加して、連絡を密に」
「…その必要はなさそうです」
む、横合いから斥候に出ていた隊員が顔を出した。
何か有益な情報を持ってきたか?
「報告します。目的の場所に敵影、ありません!」
え?
思わず隊員の顔を見て、続けて由莉の顔を見る。
由莉が頷く。
「代わりに、その……」
そのまま続けようとするが、言いよどむ隊員。
見兼ねたのか、由莉が後を引き継いだ。
「曹操軍の部隊はなく、代わりに孫の旗が翻っていたそうです」
「えっ?」
* * *
「師匠」
韓当と合流して、孫旗が翻るその場所へ向かう。
白蓮には、白馬義従を率いて周辺一帯への大規模物見を頼んでおいた。
何かあれば、由莉を経由してすぐに報せが入ることだろう。
「…間違いなく、孫の旗だな。しかも、見たことある奴」
前方には、確かに孫呉を示す旗が翻っていた。
あれって孫家一門しか使っちゃダメな奴だよな。
俺でも知ってる。
孫策と孫権は建業に居るはずだし、孫静は寿春の責任者。
寿春は孫尚香ことしょこたんも居るのだが。
考え得るのは二つ。
一つは孫権が援軍に来た場合。
だが城に直接来ず、ましてや敵軍が居たはずの場所に居座る意味が解らない。
もう一つは、しょこたんがやって来たって場合。
だが周泰が見張ってるはずだし、俺たちに気付かれず追い抜くことは出来ないはずだ。
「韓当、軍を展開。周囲を警戒させろ」
「分かった!」
さて、何が起こっても良いように準備は怠らないでおこう。
韓当隊を左右に広げ、呂羽隊を下から押し上げて凹字型になるように。
やがて見えてきたのは、孫旗を掲げた小部隊。
既視感。
割と最近見たし、見てる。
間違いない。
と言うか、小部隊故に将兵の姿も見えてるんだよ。
そして、向こうの将と目があった。
「あ、やっときた。もうっ、呂羽ったらおっそーい!」
しょこたんだった。
周囲を見回すが、周泰の姿はない。
「何故居る?」
「ん?呂羽を待ってたんだよっ」
「…周泰は?」
「多分、城に居るんじゃないかなー?」
んーっと人差し指を顎先に当てながら小首を傾げるしょこたん。
そんなことを言ってるんじゃないんだよー?
「ここには曹操軍が居たハズだが…」
「うん、そうだね」
あ、何かイラッとした。
「あ!でもね、シャオが来た時にはもう退いて行ってたんだよっ」
俺の顔から何かを見て取ったのか、孫尚香が慌てて言葉を紡ぐ。
「退いて行った?」
「うん。結構慌てた感じだったかな?一応斥候は出したから、そろそろ戻ってくるかも」
孫尚香……しょこたんの言葉を信じるなら、張遼たちは慌てて撤退したということか?
こっちは何もしてない。
他に何か要因があったのだろうが、分からないな。
「そうか。まあそちらは後で検討しよう」
斥候を出したとのことだし、白蓮もそのうち戻ってくるだろう。
それらをまとめたところで検討し、考えるとするか。
「さて、それよりもだ」
じっとしょこたんを見詰める。
「なあに?」
見詰められたしょこたんは、一見冷静に応えるが…。
額にうっすらと冷や汗をかいてるのがわかる。
「何故、俺たちより早く此処に着いた?」
そう。
俺たちは一直線とは言えないが、なるべく早いルートを通って来た。
注意しながらとは言え、小部隊に抜かれたらすぐに分かるはず。
それなのに、しょこたんの方が先に着けたのは何故だ。
「簡単だよ?シャオたちは、呂羽たちより先に出発したんだもん!」
…何だと?
「呂羽ってば、何か皆と話し込んでたからさー。だからその隙にささっと、ねっ」
てへっとばかりに舌を出す良い笑顔に、軽くイラッとする。
「…虎襲旋脚」
軽く後ろを向いて、軽く前傾姿勢になって、軽く跳ねながら、軽く後ろ回し蹴りを放つ。
「きゃあ!」
短く悲鳴を上げつつ、簡単に躱す孫呉の末姫様。
うむ、ある程度は問題なさそうだな。
「ちょっと呂羽!いきなり何すんのよっ」
「うむ。今後は遠慮しないことに決めた」
「え、何が?」
しょこたんの戦闘シーンは良く見てなかったが、そう言えば武器から考えて近距離も問題なさそうだ。
だったら大丈夫だ問題ない。
一国の姫君に対する行動ではないが、そこはそれ。
咎められても反論の余地はある。
無かったら逃げよう。
「さて。黙って出てきた姫は護送せねばな?」
「あ、待って待って!」
言いながら構えて見せると、慌てて懐から何かを取り出すしょこたん。
慌てる様子はなかなかぷりちー。
さてさて、何が出てくるのかな?
はいこれ、と差し出されたのは書簡。
ん?としょこたんを見ると、ん!と頷かれる。
意味が分からん。
が、とりあえず読んでみるとしよう。
* * *
斥候たちが持ち帰った情報を精査していると、白蓮も戻って来たので軍議を開く。
「…なんで孫尚香が居るんだ?」
「なによー、いいじゃない別に!」
良くはない。
よって白蓮の疑問はもっともなのだが、今は横に置いておこう。
色々と確認しないと行けないことが出来たんだ。
とりあえず白蓮と由莉が慌ててない状況から、差し迫った現状にはないことが窺える。
韓当もしょこたんが居ることに驚きはしたものの、特に何も言わなかった。
いや、お前は苦言を呈すべきだろ。
立場的に。
「ある意味何時ものことだし、師匠が認めたんなら大丈夫だ」
そんな信頼は要らないぜ。
さて、そろそろ真面目に始めるぞ。
何で俺が仕切ってるのか分からんが、良くあることなので気にしない。
「さて、まずは結論から言おう。曹操軍は国境まで退いたようだ」
寿春も国境沿いの街ではあるが、そこよりも更に…と言うことだ。
張遼たち別働隊がそこまで退いたと言う事実。
これは何を意味しているのか。
そして、今後何が起こるのだろうか。
明確にせねばならない。
・虎襲旋脚
餓狼WAのMr.KARATEが使う特殊技。
動作は本文中にある通りですが、使い道は余りなかった気がします。
そもそも家庭用だけな時点で、対戦もほとんどなかった訳で…。
エターなるフラグがソロリと這い寄った、初午の一日。
やっぱり二月も忙しい…。