武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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67 虎襲旋脚

韓当隊と合流して進軍すること暫し。

本当は呂羽隊だけで密かに接近したかったのだが、この人数じゃ流石に無理だ。

 

まあ優位性を保つと言う意味なら、このような威風堂々もありだろう。

将兵それぞれの士気を高める意味合いも持たせることが出来るし。

 

そんな訳で行進し続けて、そろそろ敵さんが見えるだろう頃だ。

 

「物見からの報告は?」

 

「まだありません」

 

ふーむ。

 

「ちゃんと戻って来てる?」

 

「はい。呂羽隊と白馬義従、韓当隊との連携も問題なく」

 

伏兵に潰されて、知らない間に引き込まれてたとかの可能性は低いか。

嫌な予感はあまりしないが、用心に越したことは無い。

 

「先行の人員を追加して、連絡を密に」

 

「…その必要はなさそうです」

 

む、横合いから斥候に出ていた隊員が顔を出した。

何か有益な情報を持ってきたか?

 

「報告します。目的の場所に敵影、ありません!」

 

え?

思わず隊員の顔を見て、続けて由莉の顔を見る。

由莉が頷く。

 

「代わりに、その……」

 

そのまま続けようとするが、言いよどむ隊員。

見兼ねたのか、由莉が後を引き継いだ。

 

「曹操軍の部隊はなく、代わりに孫の旗が翻っていたそうです」

 

「えっ?」

 

 

* * *

 

 

「師匠」

 

韓当と合流して、孫旗が翻るその場所へ向かう。

白蓮には、白馬義従を率いて周辺一帯への大規模物見を頼んでおいた。

何かあれば、由莉を経由してすぐに報せが入ることだろう。

 

「…間違いなく、孫の旗だな。しかも、見たことある奴」

 

前方には、確かに孫呉を示す旗が翻っていた。

あれって孫家一門しか使っちゃダメな奴だよな。

俺でも知ってる。

 

孫策と孫権は建業に居るはずだし、孫静は寿春の責任者。

寿春は孫尚香ことしょこたんも居るのだが。

 

考え得るのは二つ。

 

一つは孫権が援軍に来た場合。

だが城に直接来ず、ましてや敵軍が居たはずの場所に居座る意味が解らない。

 

もう一つは、しょこたんがやって来たって場合。

だが周泰が見張ってるはずだし、俺たちに気付かれず追い抜くことは出来ないはずだ。

 

「韓当、軍を展開。周囲を警戒させろ」

 

「分かった!」

 

さて、何が起こっても良いように準備は怠らないでおこう。

韓当隊を左右に広げ、呂羽隊を下から押し上げて凹字型になるように。

 

やがて見えてきたのは、孫旗を掲げた小部隊。

既視感。

割と最近見たし、見てる。

間違いない。

 

と言うか、小部隊故に将兵の姿も見えてるんだよ。

 

そして、向こうの将と目があった。

 

「あ、やっときた。もうっ、呂羽ったらおっそーい!」

 

しょこたんだった。

周囲を見回すが、周泰の姿はない。

 

「何故居る?」

 

「ん?呂羽を待ってたんだよっ」

 

「…周泰は?」

 

「多分、城に居るんじゃないかなー?」

 

んーっと人差し指を顎先に当てながら小首を傾げるしょこたん。

そんなことを言ってるんじゃないんだよー?

 

「ここには曹操軍が居たハズだが…」

 

「うん、そうだね」

 

あ、何かイラッとした。

 

「あ!でもね、シャオが来た時にはもう退いて行ってたんだよっ」

 

俺の顔から何かを見て取ったのか、孫尚香が慌てて言葉を紡ぐ。

 

「退いて行った?」

 

「うん。結構慌てた感じだったかな?一応斥候は出したから、そろそろ戻ってくるかも」

 

孫尚香……しょこたんの言葉を信じるなら、張遼たちは慌てて撤退したということか?

こっちは何もしてない。

他に何か要因があったのだろうが、分からないな。

 

「そうか。まあそちらは後で検討しよう」

 

斥候を出したとのことだし、白蓮もそのうち戻ってくるだろう。

それらをまとめたところで検討し、考えるとするか。

 

「さて、それよりもだ」

 

じっとしょこたんを見詰める。

 

「なあに?」

 

見詰められたしょこたんは、一見冷静に応えるが…。

額にうっすらと冷や汗をかいてるのがわかる。

 

「何故、俺たちより早く此処に着いた?」

 

そう。

俺たちは一直線とは言えないが、なるべく早いルートを通って来た。

注意しながらとは言え、小部隊に抜かれたらすぐに分かるはず。

それなのに、しょこたんの方が先に着けたのは何故だ。

 

「簡単だよ?シャオたちは、呂羽たちより先に出発したんだもん!」

 

…何だと?

 

「呂羽ってば、何か皆と話し込んでたからさー。だからその隙にささっと、ねっ」

 

てへっとばかりに舌を出す良い笑顔に、軽くイラッとする。

 

「…虎襲旋脚」

 

軽く後ろを向いて、軽く前傾姿勢になって、軽く跳ねながら、軽く後ろ回し蹴りを放つ。

 

「きゃあ!」

 

短く悲鳴を上げつつ、簡単に躱す孫呉の末姫様。

うむ、ある程度は問題なさそうだな。

 

「ちょっと呂羽!いきなり何すんのよっ」

 

「うむ。今後は遠慮しないことに決めた」

 

「え、何が?」

 

しょこたんの戦闘シーンは良く見てなかったが、そう言えば武器から考えて近距離も問題なさそうだ。

だったら大丈夫だ問題ない。

 

一国の姫君に対する行動ではないが、そこはそれ。

咎められても反論の余地はある。

 

無かったら逃げよう。

 

「さて。黙って出てきた姫は護送せねばな?」

 

「あ、待って待って!」

 

言いながら構えて見せると、慌てて懐から何かを取り出すしょこたん。

慌てる様子はなかなかぷりちー。

さてさて、何が出てくるのかな?

 

はいこれ、と差し出されたのは書簡。

 

ん?としょこたんを見ると、ん!と頷かれる。

 

意味が分からん。

が、とりあえず読んでみるとしよう。

 

 

* * *

 

 

斥候たちが持ち帰った情報を精査していると、白蓮も戻って来たので軍議を開く。

 

「…なんで孫尚香が居るんだ?」

 

「なによー、いいじゃない別に!」

 

良くはない。

よって白蓮の疑問はもっともなのだが、今は横に置いておこう。

色々と確認しないと行けないことが出来たんだ。

 

とりあえず白蓮と由莉が慌ててない状況から、差し迫った現状にはないことが窺える。

 

韓当もしょこたんが居ることに驚きはしたものの、特に何も言わなかった。

いや、お前は苦言を呈すべきだろ。

立場的に。

 

「ある意味何時ものことだし、師匠が認めたんなら大丈夫だ」

 

そんな信頼は要らないぜ。

 

さて、そろそろ真面目に始めるぞ。

何で俺が仕切ってるのか分からんが、良くあることなので気にしない。

 

「さて、まずは結論から言おう。曹操軍は国境まで退いたようだ」

 

寿春も国境沿いの街ではあるが、そこよりも更に…と言うことだ。

張遼たち別働隊がそこまで退いたと言う事実。

これは何を意味しているのか。

 

そして、今後何が起こるのだろうか。

明確にせねばならない。

 

 




・虎襲旋脚
餓狼WAのMr.KARATEが使う特殊技。
動作は本文中にある通りですが、使い道は余りなかった気がします。
そもそも家庭用だけな時点で、対戦もほとんどなかった訳で…。

エターなるフラグがソロリと這い寄った、初午の一日。
やっぱり二月も忙しい…。

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