武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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66 鬼ごろし

寿春攻防の初戦は、防衛側の勝利に終わった。

曹操軍別働隊は一時後退。

立て直しを図っている。

 

追撃すべきとの意見も出たが、こっちの被害も少なくない。

結局は慎重論が場を制した。

 

「流石師匠!かの張遼をたった一人で釘づけにして、撃退するなんて……くぅ、最高だぜっ」

 

そして今、ヒーローインタビューばりに注目されているのが俺。

 

ちょいと韓当さんや。

嬉しいのは分かったから、テンションマックスで捲し立てるのは止めてくれないか。

 

目立つのはあまり好きじゃないんだ。

戦場と日常は違うんだよ。

まだ日常じゃないけどさ。

 

「ねぇねぇ呂羽。シャオの専属にならない?」

 

しょこたん、そんな口説かれても困ります。

ほら、由莉とか周泰とかが睨んでるじゃない。

 

専属になるって幕下に入るってことだよな。

何となく華雄姉さんの時を思い出すが。

……陪臣?

 

と言うかさ、みんな浮かれすぎ。

まだ戦いは終わってないんだから。

 

確かに撃退はした。

 

俺も張遼に対し、武力乱舞を締めの覇王翔吼拳までしっかり決めてやった。

一瞬意識が飛んだように見えたが、すぐに復活して素早く後退。

引き際を弁えてるのが流石としか言いようがない。

 

華雄姉さんも弁えてはいるが、自分からは言いだせないタイプだからな。

プライドが高いと言うか何と言うか。

逆に、それでこそ補佐し甲斐があると一部で大人気だったのは当人には内緒だ。

 

「今回はウチの負けや。でも次は、絶対に仕留めたるから覚悟しときい!」

 

なんて捨て台詞を吐いて退いて行った張遼の姉御。

相変わらず熱くなったら止められないとか言いながら、実は冷静な部分を残している。

そんなんだから、思わず全力で相手したくなっちまうんだ。

 

ま、こちら側としても同じく次の機会を待つとしよう。

 

そんなことより。

ハイテンションに纏わりつく韓当やしょこたんを適当に往なしながら、現状と今後について考えてみる。

出来れば建業の方に行ってみたいが、まだちょいと厳しい気がするな。

 

孫静はどう考えてるんだ?

周泰の意見も気になる。

由莉や白蓮とも確認したい。

 

そのためにはチョロチョロ動く韓当としょこたんが邪魔だ。

適当にかわしても全くめげない。

よーし、そろそろ面倒になってきたぞ!

 

「韓当、いい加減に離せっ」

 

言いながら、鬼ごろしで吹っ飛ばす。

油断してたのか気を抜いていたのか、モロに食らった韓当は壁際まで美しい弧を描いて吹っ飛んで行った。

 

「わーお!」

 

しょこたんも思わず感心。

それほど綺麗な吹っ飛び具合だった。

 

さて、韓当としょこたんを振り払って軍議だ!

 

 

* * *

 

 

「そうねぇ。袁術の残党たちは一掃されたし、あとは別働隊を抑えるだけなんだけど」

 

「痛手を与えたとは言え、張遼や韓浩は優れた将です。油断は出来ません」

 

「追撃して、損害を強いるのどうだ?」

 

「迎撃されて、逆に被害を受けなければ良いのですが」

 

上から孫静、周泰、白蓮に由莉の順。

由莉は、袁術の残党退治に活躍した呂羽隊の参謀としての参加。

一気に知名度が上がったな。

隊長としても鼻が高いぜ。

 

軍議を開いてみると、吹っ飛ばされたはずの韓当としょこたんも普通に参加していた。

タフな奴め。

 

さて、寿春の役割は別働隊を引きつけておくことだ。

それと袁術派の豪族たちを一掃することだが、こちらは既に完了している。

 

可能なら別働隊を殲滅して、逆に侵攻すると言う手もなくはない。

でも流石に乱暴すぎるかな。

 

現状、概ねこちらに有利。

しかし痛打を与えたとは言え、張遼や韓浩ら優れた将は健在。

追撃したところで、逆襲される可能性は高いと言わざるを得ない。

つまり、現状維持が最良だと…。

 

「呂羽はどうなの?」

 

「む……」

 

話し合いを聞きながら現状について整理していると、唐突に振られる。

俺は張遼を撃退した功が高く評価され、他の将兵からの注目度も高い。

迂闊なことは言えないし出来ない。

 

囲われるのは避けたかったが、何時の間にやらこんなことに。

いやまあ、別に辞去することは簡単なのだ。

しかし韓当やしょこたんが引き止め、追い縋って来ることは容易に想像出来た。

 

「向こうの出方次第だが、少し突いてみても良いかも知れないな」

 

だから仕方なく、孫家側から見た普通の案を出してみた。

反董卓連合時の曹操様みたいに、張遼たちを捕えることが出来たら良いのだが。

兵力から考えて、難しいよな。

 

「じゃあじゃあ、シャオと呂羽でやろう!」

 

「な、何言ってるんですか小蓮様っ?ダメ、絶対ダメですよ!!」

 

俺の発言に、素早く食い付いたのはしょこたんだった。

続く周泰のセリフには全面的に同意する。

お前は何を言っているんだ。

そんな感じ。

 

「なんでよ明命。この呂羽なら、問題なくやってのけるわよ?」

 

「それは分かりますが、小蓮様が一緒に出る必要はないですよね!?」

 

しれっと俺がやることを確定させるようなことは言わないで頂きたい。

そして苦労人だな、周泰。

超頑張れ。

 

「ふむ、確か言い出しっぺの法則と言うものがあるとか…」

 

黙らっしゃい。

確かに自分なら出来るとは思っているが、そこまで背負わされるのもどうか。

 

「孫静様!俺も師匠と一緒に出ます。」

 

今まで黙ってた韓当が、ここぞとばかりに動き出す。

珍しくテンションは高くなさそうに見えるが、やる気に満ちているのは良く分かる。

 

「うーん。呂羽、任せていいかしら?」

 

「……ああ、分かった」

 

最早逃げ場はなかった。

 

仕方がない。

早々に切り替えて、前向きに考えよう。

 

由莉ー、白蓮ー。

ちょっと作戦会議だっ

 

 

* * *

 

 

「そろそろ次へ進もうと思うのだが、どうだ?」

 

「宜しいかと思います」

 

「任せる」

 

作戦会議は、開口一番反対意見も何もなく終了した。

 

「いやいや待て待て、何のことか分かってるのか?」

 

「ええ、概ね」

 

「詳細はともかく、大体の予想はついてる」

 

おお、なんて優秀な奴ら。

それとも俺が分かり易いのか?

まあいい。

 

「じゃあ、韓当をどうするかだが」

 

「捨てて行きましょう」

 

「途中で上手く撒けばいいだろ」

 

一緒に行くという選択肢はないのか。

ないんだろうな、特に由莉には。

 

相変わらず気に食わないのか、常にツンツンしてるからな。

果たしてデレる日は来るのだろうか?

 

まあ仲良くして欲しいとは思うものの、無理強いすることでもない。

放っておこう。

 

 

と言う訳で作戦会議は恙なく終わり、韓当隊と合流して追撃戦に出ることになった。

その先で、まさかアイツが待ち受けているなんて…。

 

この時、もう少し綿密に計算していればと後悔するも後の祭り。

俺の計画は軽く破綻し、再構築を余儀なくされるのだった。

 

 

 




65話誤字報告適用。なかなか消えない誤字脱字。誠に有り難いっす。

・鬼ごろし
KOFタクマの吹っ飛ばし攻撃。
左からかち上げ気味に拳を振り上げる。
出は遅くはないけどリーチもない、例によって置いておく感じでした。

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