武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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他者視点詰め合わせ


65 武力乱舞

久方ぶりに会うた呂羽は、以前と何も変わってへん。

いや、その武は益々研ぎ澄まされとった。

 

揚州出征と聞いて勇躍したけど、本隊やのうて別働隊を命じられた時はめっさ残念に思うた。

話を聞く限り、寿春の守将には武に長けた将の名がなかったから。

 

強い奴と戦いたいウチは駄々を捏ねたけど、華琳にまで窘められてしまってはしゃあない。

覆らない決定に渋々頷き、せめて抑えだけで済まさへんことを認めてもろうた。

 

別働隊は、華琳と孫策の決戦に横槍を入れさせへんための抑え役。

ウチはそれだけじゃ収まらん。

だから、攻めに攻めて拠点を落としてもええっちゅう許可を貰うておいた。

 

そいで切り替えて、別働隊を率いて揚州に入ったんやけど…。

揚州の前線拠点である寿春へ進んどると、ただならぬ雰囲気を感じた。

 

こっちはこっちで決戦になる。

 

特に根拠はないがそう思い、実際にそうなった。

我ながら現金なものだが、今は別働隊にウチを配置した華琳たちの采配に感謝したい。

 

 

「らぁっ」

 

相対するのは呂羽。

上段振り下ろしに、見事な対処をして見せる。

 

 

元々は洛陽で、華雄が副官として拾ってきた男。

ある程度頭が回り、学もあって武に優る。

 

手甲すら付けない、完全な徒手空拳で一廉の奴らと渡り合っとった。

始めて見る攻防の型。

何度も組手をして、刃が相手でなくとも楽しめる奴が居ると言うことを初めて知った。

 

特筆すべきは、気の運用の上手さ。

気弾なんて初めて見たし、それで敵の牙門旗を折るなんてことにも驚かされた。

 

気弾と言えば凪も扱うが、その凪が目標とする存在や言うねん。

これまでは月っちの下、華琳の下とそれぞれ同じ陣営でしか相対してへん。

組手や試合を多く出来て、それはそれで心躍るものがあった。

 

しかしやはり、敵として相対した方が本気度は高ぉなるというもの。

互いの全てを掛けた、ギリギリの勝負。

そうでないと熱くなれないっちゅーもんや。

 

 

「手加減無用やで。ほら、受けて立つからさっさと掛かってきぃ!」

 

「言われずとも、加減はしない。見事、受け切って見せろ!」

 

挑発にも動じず、それでいて熱く。

いやぁ、ええ男やなぁ。

 

「天地上下の構え!」

 

何やら珍妙な構えを取るが、あの呂羽が全力と言ったんや。

油断せず、愛刀を振りかぶる。

 

「武力乱舞……行くぞっ」

 

ウチの一撃を往なしつつ、呂羽が攻勢に出てくる。

気が籠った拳や蹴りは、徒手空拳とは思えないほどに重い。

時折混ぜて来る気弾にも気が抜けへん。

 

流石や呂羽!

ええでぇ、もっともっとウチを熱うさせえっ

 

放たれる左中段突きを柄で捌く。

後ろ回し蹴りは屈んで回避。

お返しにと繰り出した柄突きを、正拳突きで相殺するや逆の拳で突き返してきおった。

呂羽の突きが肩を掠めて重心がずれる。

クッ、それを見逃す奴じゃない!

 

右下段回し蹴りから上段回し蹴り。

回避が間に合わず、耐えるしかない。

連続して放たれる後ろ回し蹴りに見舞われ、思わず仰け反る。

 

「とどめだっ」

 

辛うじて片目を開けて見えた先には、両手を横脇に溜めている呂羽の姿。

洛陽攻防戦で何度か見た姿に、思わず戦慄する。

や…ばっ

 

「覇王翔吼拳ッ」

 

咄嗟に防御しようとするも上手く動かせず、そのまま大きな衝撃に飲み込まれた。

ははっ

ほんま、ええ男やな。

 

惚れ惚れするわぁ……

 

 

* * * *

 

 

「報告します!」

 

「はい。どうでしたか?」

 

寿春から少し離れた場所で、私は一人斥候に出した人の報告を聞く。

一緒に出てきた小蓮様は呂羽さんのところに置いてきた。

 

私が雪蓮様から命じられた役目は、袁術派の豪族を一掃すること。

そのために、寿春へ派遣される援軍の将に選ばれたのだ。

 

「──以上です」

 

「ご苦労様です。引き続き、何かあればお願いします」

 

「ハッ」

 

報告を終えて下がって行く兵の背中を見ながら、思わず溜息。

 

この役目に対してではない。

袁術派の豪族たちはびっくりするくらいに隙だらけで、どうとでもなる存在だった。

ただ数が多く、財もあるため今までは泳がせていただけ。

 

曹操が揚州へ討ち入ってくると言う報せが入った時、真っ先に今回の策が決まった。

何時でも良かったが、良い折なので一掃してしまおうと冥琳様が主導して。

 

そして、役目は既に八割方果たした。

あとは城内と城外を完全に分断して内部は討ち果たし、外部も敵勢として討ち取るだけだ。

 

それはいい。

問題と言うか、溜息の原因は二つある。

 

一つは小蓮様のこと。

 

雪蓮様に似て活発で勘が鋭く、将来が楽しみなお方だ。

そう、将来が、だ。

まだ何事にも経験不足で、実に危なっかしい。

 

それでいて当人は色んな事をやりたがる。

孫呉を愛し、現状を憂いていることは分かる。

分かるのだが、無茶が過ぎると言うか…。

 

今回のこともそう。

寿春は揚州の重要拠点。

だからこそ雪蓮様たちの叔母上様、孫静様が詰めておられる。

そこへ援軍を派遣することになった際、自分が率いると言って聞かなかった。

 

蓮華様は猛反対されたし、雪蓮様も良い顔はされなかったが…。

結局他に人が居ないことや、一門が援軍を率いると大きな効果が見込めると言う事実。

それらを踏まえて、小蓮様と私が赴くことになった。

 

まあ孫静様もその辺りは分かっているようで、小蓮様は城詰めとされたのだが。

小蓮様はそれが不満なのだ。

 

ここで、もう一つの懸念に繋がる。

 

何時の間にか寿春に居候していた、何かと噂の呂羽さん。

袁紹への援軍として赴いた折には、雪蓮様を半ば行動不能にまで追い詰めた武名高き将。

公孫賛さんが助けに入らなかったら危なかったかも知れない。

 

呂羽さんは、その公孫賛さんを降して配下にしていた。

そんな人が揚州に居て、雪蓮様を尋ねずに居たと言うこと。

 

不信感を抱かずにはおれなかった。

 

でも、一目見ただけで小蓮様は懐いてしまった。

そういえば雪蓮様も嫌悪感は抱いてなかったようだし、よく分からない。

 

孫静様の報告では、一応は防衛戦に加わって貰えると言う事だった。

だから疑念はさて置き、信頼できる上役を信じて動くことにした。

 

そう言えば、韓当さんが呂羽さんの弟子になったとか…。

政治向きには疎い人だけど、韓当さんもあれで人を見る目はあったはず。

…信用して、いいのかな?

 

 

「失礼します、周泰様ッ!」

 

「どうしました?」

 

沈思していると、影の一人が急報を携えて戻ってきた。

 

「はっ、敵影を確認!中に、張遼の旗が見えました!」

 

「ッ!?急ぎ戻ります。引き続き、情報網の維持に努めて下さい」

 

「御意!」

 

まさか、張遼なんて大物が来るなんて!?

こんなところでゆっくりしてる暇はない。

 

まずは小蓮様を回収して、それから呂羽さんに報告して…。

ああっ、韓当さんにも報告して戻らないとっ

 

途中で呂羽隊の副長さんに会った。

 

「周泰様。敵影が確認されましたが、ご存じ…のようですね」

 

「はい!急ぎ戻りますので、ついて来てください」

 

この時は気付かなかったけど、呂羽隊の情報収集力は凄まじい。

私が知ってから、そんなに時が経ってない。

少なくとも、こちらと同等の力は持っていると考えなければならないだろう。

 

くぅ、本当に信用していいんでしょうか!?

敵に回ると考えたら、相当怖いんですがッ

 

だからと言って見張りを付け続けることなんか出来ない。

小蓮様を回収して、韓当さんのとこに寄って城へ戻り急いで報告する。

 

やがて戦が始まり、韓当さんや呂羽さんが奮闘する様を目撃することとなる。

特に呂羽さん。

たった一人で張遼を受け持ち、足止めどころか最後には……。

 

信じられない。

 

「ほら明命。シャオが言った通りでしょ?」

 

呆然としていると、小蓮様が笑顔で仰る。

 

「そうですね…」

 

小蓮様を回収した時、呂羽なら大丈夫!と言っていた。

深くは考えずに聞き流していたが、これなら…。

 

「急ぎ、孫静様へ出撃を要請しましょう」

 

好機到来。

これなら、冥琳様が言ってた事が可能かもしれない。

 

今、唯一の気掛かりは小蓮様が前線に出たがること。

そこの判断はもう、孫静様に任せよう。

 

でもきっと大丈夫。

私はこれまで以上に、職務に邁進しよう。

 

全ては孫呉のために……。

 

 




・武力乱舞
元々は「武力」での龍虎乱舞をNBCで再現したもの。
天地上下の構えから目押し入力なのですが、これが非常に難しい。
途中で止めて連続技に繋げるなど、使いこなせたら強力なのですが。

因みに「武力」は地元では入荷すらしなかったので、終ぞ触れず仕舞でした。

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