武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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63 ハイテンションキック

「明命にはねー、袁術派の豪族を一掃する密命が下されてるんだよ!」

 

俺の質問に、元気よく答えてくれるしょこたん。

おい、色々大丈夫なのか。

 

「あとはただの視察。ほんとはシャオも出たかったんだけど、叔母様がダメって」

 

軍議の時も言ってたな。

まだ諦めてなかったのか。

 

勝手に抜け出してきたのなら、実力行使で捕まえて送還するところだ。

まあ周泰と一緒に来たということは、ガス抜きがてらと黙認されたのだろう。

 

「明命が戻ってきたら、一緒に城に戻るわ」

 

それがいい。

しかし何故俺に預けて行くのか?

迂闊な動きが出来ないではないか!

周泰ー、早く戻って来てくれー。

 

陣の中をウロウロするしょこたん。

韓当ではなく俺の方に置いて行ったってことは、やっぱ警戒されてるのか?

 

単純に地理的な問題かも知れんがね。

 

「陣からは出るなよ?」

 

「わかったー」

 

本当に分かってるのかは謎だが、まあ幾人か影がついてるみたいだし大丈夫だろう。

一応、こちらからも隊員を数名付けておく。

何かあれば、すぐに知らせてくれるはず。

 

孫呉の末姫様は、気紛れでいらっしゃる。

やっぱ、孫策に似てるっぽいな。

 

 

さて、周泰は袁術派の豪族を一掃する役目とのことだが。

戦いが始まるまでに一掃するのは無理だろう。

 

と言うことは、あぶり出すのがメインかな?

 

むぅ、なかなか孫静の目的が見えんなぁ。

穏当に、孫策に従ってるだけとは思えないのだが。

 

まあいいか。

孫策の指示かも知れないし。

 

とりあえず、今後の予定を改めて確認。

 

曹操軍別働隊が現れたら、身を隠したまま城を囲ませる。

そして陣を張ったところで打って出て、背後を脅かすのだ。

 

その際、覇王翔吼拳を撃たないように気を付けなければならない。

大軍がいるとつい撃ちたくなるんだよ。

牙門旗があると尚更。

留意せねば。

 

 

* * *

 

 

「只今戻りました!小蓮様、急いで城に戻りますよっ」

 

「あ、明命おかえりー」

 

しばらくウロウロしていたしょこたんだが、外に何かある訳ではない。

早々に飽きて戻って来ていた。

 

暇に飽かせて絡んできたので、ハイテンションキックを披露してやったら思いのほか好評だった。

孫呉の末姫様は剛毅やでぇっ

そんな感じに遊んでいると、息せき切って周泰が現れたのだ。

 

後ろに厳しい表情の由莉が続いている。

おっと、こりゃ間違いなく緊急事態だな。

 

「周泰様。隊長への報告はこちらから。急ぎ、お戻り下さい」

 

「っ!すみません、ではお言葉に甘えて。さあ、小蓮様!」

 

「う、うん。じゃあ呂羽、またねー」

 

周泰に引き摺られる様に去って行くしょこたん。

まるで潮が引いていくかのようだ。

 

さて、我が副長殿はどんな凶報を携えて来たのかな?

 

「隊長、曹操軍の別働隊が現れました。距離はまだありますが…」

 

ほほう、きやがりましたか。

 

「敵兵は?」

 

「旗と事前情報から察するに、まずは韓浩。そして、張遼殿です」

 

おうふ。

韓浩ってあれだよな、曹操様のとこで最後に手合せした中に居た子。

そっちはまあいい。

武官だが、韓当や白蓮でも問題ないレベルだったから。

 

しかし、張遼はちょっと…。

ヤバいな。

周泰があれだけ急いでたのは、ただ敵影を確認したからだけじゃないんだろう。

 

張遼が寿春に来る。

それは、別働隊がこっちの足止めでないことを意味している。

即ち、割と本気で寿春を落とすつもりだと言う事だ。

 

「参ったね」

 

「おや、隊長は喜ぶかと思いましたが」

 

いやいや由莉、確かに張遼との手合せは心躍るものがある。

それは認めるよ。

でも今回は、ちょっと間が悪いかなぁ。

 

「と言うと?」

 

「…ん、まあ。しゃーないか」

 

遂に、個人的な目論見を暴露する時が来たようだ。

達成できないことが分かった時点での暴露とか、誰得。

 

細かいことはさて置き、別働隊には大した将は来ないと思ってた。

韓浩がどうこうと言う事じゃなくて、抑えを主目的にするんじゃないかって意味で。

 

で、数を頼りに抑えの兵ってだけならどうとでもなる。

一撃痛打で離脱して、建業へ向かってひた走る。

そして、決戦の地・建業で孫策と曹操様の勝負に乱入すると言うものだ。

 

最早、絵に描いた餅でしかないが。

 

「かなり無茶を描いてたのですね」

 

「否定はしない」

 

別働隊は先遣隊の意味もあり、本隊よりも先に動く。

周囲を抑えたうえで、満を持して本隊が建業に迫って決戦を挑む。

そんな筋書を期待していた訳で、実際別働隊は先遣隊も兼ねてるのだろう。

本隊はまだ姿を現してない。

 

だから、時間差で頑張れば行けるかと思ったんだけどね。

流石に張遼が居る部隊を、一撃必倒ってのはちょいと厳しい。

そして、張遼を放置して建業に走るのもまた至難。

 

せっかく弄した策も、看破されてしまうかも。

 

「韓当へ伝令。張遼の危険性を伝えておいてくれ」

 

「御意」

 

韓当では、まだ張遼には敵わない。

次へと繋げるためには、俺が相手をしなくちゃならん。

 

ま、それも良いか。

まさか、揚州で張遼と本気で遣り合うことになるとは思わんかったが。

 

覇王翔吼拳は自重するつもりだったが、そうも言ってられんな。

神速の張遼が相手なら、使わざるを得ない!

 

曹操様に俺の存在が露見することにはなるだろうが、これも仕方がない。

まかり間違っても、孫策より俺を優先することはないだろうしな。

 

そうそう思惑通りにはならないかー。

やれやれ。

 

 

* * *

 

 

「敵兵、現れました!」

 

来たか。

敵さんが近付いてきた時点で、白蓮は白馬義従を率いて持ち場へついた。

呂羽隊とはまた別のところにな。

 

「旗は?」

 

「情報通り韓と張。あとは、えっ?…袁の旗。残党ですね」

 

袁術の残党まで顔を出して来たか。

ああ、これが周泰の働きの結果かな?

 

外患に際して内憂をも断ち切る。

過激だが、療法としてはなくもない。

信用できない味方なら、いっそ敵兵に加算した方がやり易い訳だ。

 

「しかし袁の牙門旗と張遼隊が並ぶとは、不思議なもんだな」

 

袁紹と袁術と言う違いはあるにしてもだ。

当人も複雑なんじゃないだろうか。

まあ、彼女なら過去は過去と割り切ってるかも知れないけど。

 

「それで隊長。袁の旗がありますが、如何致しますか?」

 

由莉が不思議なことを聞いて来る。

何言ってんだ。

そんなの、聞くまでもないだろ。

 

「愚問だな」

 

敵対勢力に袁の旗があったなら、覇王翔吼拳で折らざるを得ない。

 

初心忘るべからず。

韓当との連携も大事だが、俺の衝動も抑える気はない。

由莉の言葉から分かるように、袁家に対するスタンスは呂羽隊共通のものだ。

 

とは言え、無暗矢鱈に突入すると味方への損害も大きくなる。

韓当や周泰にも迷惑はかけられない。

機を見計らってから動かないとな。

 

当初の予定通り、敵さんがある程度城を囲む位置まで進んでからだな。

 

まず、開幕ぶっぱで袁の旗を撃ち抜く。

そして残党たちを蹴散らしつつ、張遼の下へ全力前進だ。

 

ひょっとしたら舌戦があるかもだが、その時はその時。

何とかなるさ。

 

さあ、祭りの時間だ。

総員戦闘準備ぃー!

 

 




・ハイテンションキック
この世界風に言うと、高揚蹴とか有頂天脚とかでしょうか。
言わずと知れた、KOFロバートの空中吹っ飛ばし攻撃です。
見た目も名前もハイテンション。
百聞は一見にしかず、ですよ。

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