武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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62 側肘打ち

曹操軍に南下の動きあり。

目標は、揚州建業と思われる。

また、その先遣隊が別働隊として寿春に迫っている。

 

報告を受けた孫呉の王・孫策はすぐさま重臣らと対応を協議。

寿春に幾許かの援軍を送り、曹操率いる本隊を建業で迎え撃つことにした。

 

そして寿春の主将である孫静は、籠城して別働隊を釘付けにする役割を担う。

もっとも…。

 

「籠城とか言いながら、俺と師匠を出撃させるあたり、計略かも知れないがなー」

 

韓当と共に城から出撃しつつ、これまでの流れを簡単に確認する。

事前に由莉から聞いていた情報と、何ら齟齬がないことに喜べばいいのか驚けばいいのか。

優秀な副長殿は、もう絶対に手放せないと再確認した次第。

元々手放す気もないけどな。

 

その由莉は、斜め後ろに控えて殺気立っている。

理由は、例によって韓当が俺のことを師匠と呼ぶから。

 

「それで師匠。接敵するまでは自由裁量なんだが、どうする?」

 

接敵してからも自由行動の予定なのはともかく。

色々あって、結局俺は韓当を弟子として認めることにした。

 

根負けしたのもあったが、逸材を惜しく思ったのもまた事実。

ちょっとした課題を出してみたところ、見事にクリアされちゃってはね。

 

由莉も俺が認めるならばと、渋々ながら折れてくれた。

ご機嫌斜めで、今みたいに殺気立つことも多いがな。

 

大丈夫、一番弟子は由莉で変わらないから!

俺が言い出したことじゃないけど。

 

でも実は、師匠と呼ばれるのは未だに面映ゆい。

ただ、隊員の中には既にそう呼んで来る奴もいるし、そろそろ諦め時かなと。

 

ちなみに俺の弟子となった韓当だが、気弾を放つことは出来なかった。

気の扱いは、半ば無意識にでも十分やれてるようだけどな。

攻守が噛み合うだけに、残念だぜ。

 

先々は分からんが、今のところ凪のようなスタイルが取れる奴は居ない。

やっぱり凪は特別なんだなぁ。

 

 

「しかし、自由裁量ねぇ…」

 

さて、今回の戦いのことだ。

 

俺の立場は韓当隊の与力。

預かりみたいなもんだが、独立した立場は守り抜いた。

 

韓当との個人的な繋がりは大きいが、将として考えると当たり前に立場が違う。

適当な対応は出来ないため、寿春の頂点たる孫静からもぎ取った事実だ。

 

「横合いを突くのが順当だとは思いますが、問題は場所ですね」

 

「上手く騎馬隊を運用出来れば、良い感じに行けると思うが」

 

由莉と白蓮が意見を述べる。

曹操軍別働隊が接近する前に周囲に陣取り、城を囲んだ時点で後背を突く。

実に真っ当な戦略だと思う。

 

「師匠はどう思う?」

 

師匠は止め……まあいい。

 

「基本的にはそういう方向になるだろうが、それだけじゃ面白くないよな?」

 

由莉と白蓮は怪訝そうだが、韓当の表情は輝いている。

どっちが呂羽隊だと思わんばかりの有様。

そういう意味でも、韓当は逸材なのかも知れないと思うんだ。

 

 

* * *

 

 

「それじゃ、そっちは任せたぜ!」

 

大まかな打ち合わせの後、韓当隊と別れる。

 

作戦の骨子は、敵の背中を襲って混乱させること。

当たり前だが韓当隊の方が人数も多いし、規模大きい。

よって、迎撃役。

俺たちは追い立て役な。

 

簡単に言うと、籠城を囮に野戦というか奇襲をしようってことだ。

 

「そんなに上手く行くのか?」

 

白蓮が疑問を呈する。

 

敵軍の規模によっては、逆に囲まれ潰され兼ねないって懸念だな。

分かってる。

 

でもそんなの関係ねえ!

最近あまり乱取り稽古してなかったからさー。

 

なんて、本音で言うと多分怒られる。

だから建前じゃないけど、真っ当な側の理由を口にしよう。

 

「上手く行く工夫はするさ。むしろ、白蓮にかかってるんだぜ」

 

「騎馬隊ですね」

 

そう、白蓮自慢の白馬義従。

弓の名手も揃ってるし、正真正銘の精鋭だ。

以前には、孫策を救うと言う手柄も立ててるし。

 

俺と敵対した時だからか、言うと萎れるから口にはしない。

 

でも間違いなく精鋭。

呂羽隊の叩き上げともちゃんと連携をとれるし、使い所は多いはずだ。

 

「そうか。分かった、頑張るとしよう」

 

「頼りにしてるぜっ」

 

「ああ!」

 

煌めく笑顔が清々しい。

白蓮の晴れやかな顔は、やはり良いものだ。

 

ドスッと脇腹にめり込む由莉の肘。

側肘打ちか、やるな。

ところでメリコンドルって言うとヘルコンドルみたいで格好良いよね。

 

「どうかしたか?」

 

「なんでもありません」

 

嫉妬ですね分かります。

最近、何やら由莉がとても嫉妬深い気がする。

 

韓当の存在が気になるのかな。

良いところは各々違って、それぞれ良いと思うのだが。

 

まあいいか。

とりあえず話を進めよう。

 

「敵勢を撃滅しない程度に迎撃する。ここまではいいな?」

 

「良くありません」

 

「聞いてないぞ、そんな話」

 

そりゃ言ってないからな。

おっと落ち着け、ちゃんと話すから。

 

あれだ。

俺の目論見。

 

そもそも、俺が揚州を目指したのは孫呉の興隆を見るためと言う事は周知の事実。

しかしその他に、孫策と再戦したいと言う理由もあるのだ。

 

普通に考えて、現時点での孫呉が曹操軍に勝てる見込みは薄い。

何かしらの発奮材料や、曹操様が退くような要素がない限り。

 

だから順当に進めば、孫策との再戦が叶わない可能性もある。

色んな意味で。

 

よって、このまま曹操様と孫策がぶつかるのを黙って見ておくのは宜しくない。

 

「つまり、俺も混ぜろーって話だな」

 

シーンと静まり返る我が隊の陣。

 

韓当なら、きっと目を輝かせてくれるだろうになぁ。

悲しいなぁ。

 

「分かりました。つまり隊長は暴れたいわけですね?」

 

お、流石は由莉。

良く分かってるじゃないか!

 

「何時もの事だな。それで、どう繋がるんだ?」

 

理知的だな、白蓮。

呆れた風だが、まあいい。

説明するとしよう。

 

 

* * *

 

 

俺の目論見を隊員たちにも分かるよう簡潔に説明し終えた辺りで、幾つか知らせが入ってきた。

 

「韓当様より伝令!部隊の配置は順調とのことです」

 

「孫静様より伝令です。この混乱に乗じ、袁術派の豪族に不穏な動きがあるので確認を進めています」

 

ア、ハイ。

 

韓当よりの伝令は普通の兵士で普通の内容。

問題ない。

 

孫静よりの伝令は、何故か周泰が来てて不穏な情報。

袁術派の残党は見付け次第蹴散らそう。

 

しかし何故、わざわざ周泰が?

こんなとこまで来て、しょこたんは大丈夫なのか。

だが、その心配は杞憂であるのだった。

 

「やっほー、呂羽!シャオと会えなくて、寂しくなかった?」

 

だってここに居るのだから。

いや、何故連れて来たし。

 

「それでは小蓮様。呂羽さんの側を離れないようお願いします」

 

「はーい。明命、いってらっしゃい!」

 

「では呂羽さん。暫しの間、小蓮様をお願いします」

 

え、どういうこと?

 

 

 




特殊技の全てを網羅する予定はありません。

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