武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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61 翔激掌

「貴方が呂羽さんですね?お久しぶりです」

 

「お、おう」

 

軍議だと呼ばれ、向かった先は会議室。

油断してた訳じゃないが、何時もある気配とはちょっと違うなぁとしか思わなかった。

 

そして訪れる出会い頭の衝撃。

思わずどもってしまったのは、忍び娘こと周泰が居たからだ。

 

確かに初めましてじゃないから久しぶりであってる。

でも前回は戦場で、一瞬だけの邂逅だったのに良く分かったな。

ああ、見てたのか。

それなら納得。

 

「貴方と揃って戦う日が来るとは、分からないものですね」

 

「そ、そうだな…」

 

こちらの衝撃を無視し、淡々と被せてくる周泰さん。

と言うか、互いに見知ってはいるけど自己紹介はしてない。

 

「雪蓮様を退けるその力。頼りにさせて頂きます」

 

「あ、ああ。がんばるよ」

 

なんだろう。

ひょっとして、警戒されてるのか?

 

「ほら、その辺にしときなさい。呂羽、この子らは建業からの援軍よ」

 

孫静が間に入って取り成してくれた。

周泰は口を閉ざしたが、相変わらずじっと凝視されている。

 

間違いなく警戒されているよなぁ。

 

ま、こっちには何も後ろ暗いことはない。

そのうち納得してくれるだろう。

 

 

さて、周泰の方は良いとしてだ。

問題はもう一人。

 

「ふぅーん……」

 

さっきから、俺の周りをクルクルと動き回っている少女。

眺めていると……お、目が合った。

 

「あっ」

 

瞬間、にぱっと笑顔満開。

 

「初めましてお兄さん!私は孫尚香、よろしくね!」

 

しょこたんキター!

 

じゃなくて。

まさか孫尚香がこっち戦線に出て来るとは。

思わず孫静の方を見るが、微笑を湛えて無言のまま。

何か言えよ。

 

おっと、とりあえず挨拶か。

 

「俺は呂羽。宜しく頼む」

 

「うん!…へぇ~…」

 

じっくりじろじろ見詰めてくる少女こと孫尚香。

周泰とは違った意味で見られている気がする。

具体的には、興味津々?

 

彼女はしばらくの間、こちらをじっくりと観察した後で言い放った。

 

「じゃあ、一緒に行ってもいい?」

 

少し首を傾けながら。

その目は絶対一緒に行くと断言していたが、どこに行くと言うのだろう。

あと、何がじゃあなのか。

 

後ろで周泰が焦りながら諌めてるのが見えた。

周泰がお付の将、と言うことなのか。

大変だね。

 

「どこへ行くんだ?」

 

「…あれ、叔母様に聞いてないの?」

 

聞いてない。

孫静に目を向けると、苦笑。

 

「駄目よ、呂羽は韓当と前に出るの。アナタは城に詰めてって言ったでしょ?」

 

「えぇーっ」

 

孫静の言葉に、ぷっくり頬を膨らませる。

不満を全身で表すとは、やるではないか。

実に微笑ましい。

 

と言うか、韓当と出る奴のことか。

そりゃ彼女に付いて来られてるのは困る。

 

弓腰姫と渾名される孫尚香だが、弓隊は白馬義従で足りている。

……うん?

ちょっと待てよ。

 

この渾名、恋姫では関係なかったような気もするが……どうだったっけ。

いや、それはともかく。

 

「悪いが、韓当と思い切り蹴散らす役目なんだ。孫静の言う通り、君は後ろでな」

 

「ぶーっ!シャオだって、この月華美人で蹴散らしてみせるよっ」

 

どこからともなく、妙な形の円月輪のような武器を取り出しながら言う。

不満気なのを隠そうともしないが……。

 

それより武器、弓じゃなかったね。

思いの外、あっさり無知を晒しかけた。

危ない危ない。

 

いずれにしろ、連携もろくに取れない奴を共に連れては行けないよ。

その点、韓当ならば問題ない。

 

「小蓮様、ダメですよっ」

 

「なんでよ明命!?」

 

そんな彼女は、周泰と言い争っている。

頑張れ周泰。

負けるな周泰。

孫呉の未来は君にかかってる、かも知れない。

 

その周泰だが、主筋に対して中々強く出られないのか、焦りが感じられる。

 

まあ、言い含めても勝手に付いてきそうではあるがな。

仮に見付けてしまったその時は、実力行使も辞さない。

それが俺の為でもあり、彼女の為でもある。

 

と言うか孫静、あんたも強く止めろよ。

 

 

若干グダグダしたが、軍議は恙なく終わりを迎える。

俺は韓当と共に場を辞去し、隊の連携を確認すべく打ち合わせを行った。

 

 

* * *

 

 

「呂羽さん」

 

韓当との打ち合わせが終わり、一旦隊員たちの下へ戻ろうとしていたところ。

スィッと柱の影から周泰登場。

 

しょこたんはもういいのか?

 

なんて聞けるはずもなく、どうかしたかと無難に返す。

気配に気付けてた風を装ったが、実は気付いてなかった。

彼女が忍びっ子なのは知ってたから、動揺しなかっただけでな。

 

「……」

 

「……?」

 

じっと見詰められたので、不思議そうに見返す。

これが北郷君なら、ポッと赤らんで目を逸らされるんだろうなぁ。

 

残念ながら脈どころか、未だ警戒されてる俺では嫌われる要素しかない。

 

「正直、私は貴方のことを信用していません」

 

ほらね!

 

「しかし、雪蓮様や小蓮様の人を見る目は信用しています」

 

おお?

 

「よって、今は棚上げとします。方々のお気持ちを、裏切ってくれないことを願います」

 

「ああ、勿論だ」

 

孫策も孫尚香も、野生の勘みたいなのが鋭いイメージがある。

孫策とは二回ほど戦っただけだが、何やら評価して貰ったようだ。

ありがたく思ってこう。

 

ちなみに孫権は真面目な優等生で、勘より手堅い方を選ぶ印象。

そんな彼女がデレる姿をこの目で見たい。

俺の野望に一つ、付け加えられた瞬間だった。

 

俺の欲望もとい目標はともかく、周泰が敵対的じゃなくなるのは有り難い。

忍び的な意味で。

 

「では、情報操作の方はお任せください」

 

そう言ってシュタッと消える忍び娘。

 

「……よろしく頼んだ」

 

多分もう聞こえてないだろうけど、感謝の念を乗せて呟いておいた。

 

 

呂羽隊が集合している場所へ戻り、隊をまとめている由莉を呼ぶ。

 

「おーい、副長。打ち合わせするからちょっと来てくれ」

 

呼ばれた由莉は、こちらへ向かって小走りで近寄ってくる。

…そして、少し速度を上げた。

 

ん?

 

速度を上げた由莉は、足に気を纏い、一歩強く踏み込むと大きく跳ねた。

上空でクルリと一回転しつつこちらに向かってくる。

 

んん?

 

俺の眼前には由莉の踵が迫っていた。

 

「ぬぉぉぉーーっ!?」

 

咄嗟に左上体を反らすことで踵を避ける。

胸そらしから、左腕を下から掬い上げる形で伸ばして左裏拳気味にカウンター。

 

翔激掌。

カウンターとは言え、気も込めず牽制に近いためヒットした由莉にもダメージはない。

ひゅんと後ろ回転で体勢を立て直し、傍らに着地する。

 

「いきなり何をする」

 

「邪念を感じたもので」

 

問い質したら、冷静に返された。

何か俺が悪いことしたみたいだな。

深く突っ込むと藪蛇になり兼ねない。

 

こういう場合は、そうかと流すに限る!

 

「相変わらずだな、お前たちは」

 

後ろから白蓮が声をかけてきた。

実は会議から打ち合わせから、ずっと一緒に居たのだ。

影が薄いと言うか、その普通さは時に貴重でもある。

 

「リョウ、何か変なこと考えてないか?」

 

「いやいやいや。何でもないぞ!」

 

朱に交われば赤くなる。

かなり呂羽隊に影響されてきた白蓮だが、この辺はそのままで居て欲しいものだ。

 

「さ、本題に入るぞ。まもなく出撃となる。そこで……」

 

益体もないことを考えつつ、動く時が近いと言う説明をば。

一応、孫尚香に関する危惧のことも伝えておいた方がいいかなぁ。

 

 

 




時間が全く取れなかったり、唐突に詰まってしまったり。
ただの繋ぎの話なのに、随分と時間がかかってしまいました。

60話の誤字報告適用ですた。

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