武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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60 背牙龍

曹操様が攻めて来る。

そんな情報に接した時、俺はどうすればいいのだろうか。

 

答え。

 

「普段通りで良いと思いますよ」

 

我が頼れる副長、由莉からのお墨付き。

思うがままに動けば良いとのことだった。

 

よっしゃー、そうと決まれば早速談判だ。

 

「孫静、居るかー?」

 

「あら、何かしら」

 

長らく逗留してきたが、そろそろ旅に戻りたい。

その旨、伝えてみようじゃないか。

 

曹操様が動く。

俺たちが掴んでるくらいだから、孫静も当然のように知ってるだろう。

 

そこかしこで孫策とは異なる動きを見せている孫静だが、どう絡むのか。

更に俺たちが旅に出ると主張したら、どうなるのか。

興味深い。

 

「そろそろ旅に出ようと思うんだ」

 

「あら、急ね」

 

「何やかんやで随分と長居してしまったからな。そろそろ、と」

 

「ふむ……」

 

伝えると、何かを考える素振りを見せる孫静。

やがて、真面目な表情で切り出した。

 

「実はね、曹操が揚州に攻め入ろうとしているらしいの」

 

「ほう……」

 

「ここは最前線に近い。貴方にも、力を借りたいところだけど…」

 

「ふむ、韓当のこともそれで?」

 

「ええ、そうよ」

 

しれっと答えるが、本当かねぇ。

まあそこはいいか。

しかしまさか、直球で依頼してくるとは。

意外だったわ。

 

ここ最近、師弟関係にはなってないが韓当と修練を重ねている。

攻防が噛み合う相手がいると、やはり違うのか。

会った当初に比べ、その技能がメキメキと上達しているのが分かる。

 

毎度嫌がる素振りを魅せる由莉にとっても、良い刺激になってるのは間違いなかった。

むしろ、分かってるから嫌がってるのかも知れないな。

 

とは言えな。

 

「しかし、こちらにも目的がある。孫呉に与した訳でもない俺たちが……」

 

その目的が孫呉にあることは当然伏せておく。

交渉とかは得手じゃないが、やらなきゃ行かん時は頑張るさ。

だって隊長だもの。

 

「そこを何とか。曲げて貰えないかしら」

 

変わらず真剣な眼差しで訴えかけてくる。

 

「亡き姉が築き上げた、この孫呉の地を、再び失う訳にはいかないの!」

 

……おおぅ。

思い切り吐露するように鋭く叫ぶ孫静。

真剣な表情はそのままに、剣呑な空気が突き刺さる。

 

前に自分は行政官で、武才は無いと言っていたがどうしてどうして。

なかなかの戦気じゃないか。

 

こりゃ勝てないな。

交渉術の一環だとしても、真贋の見極めは無理。

由莉なら或いは、分かるのかも知れない。

だが残念、今はいない。

 

「承知した」

 

息を吐きながら、承諾の意を零す。

別に何かと勝負してた訳じゃないが、負けた気分。

まあ、実際負けたんだろうけど。

 

「本当?ありがとうっ」

 

そう言うと、ぱぁっと顔を明るくする。

笑顔になると孫策の叔母とは思えない程、若々しく見えるな。

 

「……」

 

笑顔のまま、無言で威圧してくる孫静。

いかん。

年齢はタブーだったか。

口には出してないが、そこはそれ。

お約束と言うものだろう。

 

 

「ともかく、ありがたいわ。それじゃあ…」

 

「あーっと、一つ条件いいか?」

 

後で皆に話した時、一連の決断が間違っていたなら謝ろう。

その場合は全力で軌道修正を図らねばならない。

備えの為、まずは一手を打つ。

 

「…ええ。曲げて受けてくれたのだもの。可能な限り聞くわ」

 

「軍権についてだ」

 

「……私の指揮下には入らない、と言うこと?」

 

「概ねその通りだが、戦時の指示には従おう。だが…」

 

孫静軍に組み込まれるのは頂けない。

基本的に、俺たちは独自の考えで自由に動けるようにしておきたい。

その旨、伝えると難しい顔になった。

 

まあ、使い辛い部隊になっちまうからな。

悩ましく思うのは仕方がない。

 

「差し当たり、韓当の与力となろう。それでどうだ?」

 

「韓当の?…そうね、それなら。うん、そうしましょう」

 

アイツは孫静の派閥に入ってないから、間に挟むには丁度良い。

師匠になる気は今のところないが、共に戦うことに異論はないのだ。

由莉あたり、気にしそうではあるが…。

 

白蓮の白馬義従も上手く使えば、曹操様本隊でなければ上手く躱せると思うんだよね。

本隊でなければ。

これ大事。

 

まあ、多分だけど。

曹操様は、孫策との直接対決を望むんじゃないかな。

英雄との正々堂々とした戦いを欲してる人だった気がするし。

 

だったら寿春は別働隊か何かで抑えて、建業を目指すだろう。

その場合は、どうとでもなるさ。

別働隊に夏候惇や夏侯淵が居なければな。

 

…あー、俺が此処に居るって知れたら誰か張り付く可能性あるよな。

 

「孫静。済まないが、もう一つ頼みがある」

 

「頼み?」

 

「俺の存在を、可能な限り隠してくれ」

 

そう言うと、目を丸くして驚いた。

かと思えば大爆笑。

何が琴線に触れたんだか。

 

「あはははっ、くふっ…ふふふ。ご、ごめんなさい……っ」

 

腹を抑えて過呼吸気味に。

今日は孫静の意外な一面を、色々と見る日だな。

 

油断ならんと改めて思う。

それだけ今まで隠してたってことだから。

俺が単純に気にしてなかっただけって可能性も、まああるにはあるが。

 

「ともかく、大丈夫か?」

 

「っ、だ、大丈夫よ。ええ。元々そのつもりだったし」

 

おや、そうなのか。

用兵や戦略上の問題かな。

 

まあそれならいいや。

孫静に礼を言って退出し、修練してる韓当の下へ。

 

「韓当!」

 

「あ、師匠!」

 

師匠は止めろ!

 

「次の戦のことだ。追って孫静から指示があると思うが……」

 

先程のやり取りを大まかに伝える。

流石、真っ当な孫呉の武官。

公私の切り替えはちゃんとしてるな。

 

「そんな訳だ。とりあえず、動き出すまでは修練を続けるぞ!」

 

「押忍!」

 

弟子として指導はしてないのに、吸収力が半端ない。

由莉や隊員たちに指導するのを見て、覚えて、自分の物にしている。

逸材、だな。

 

 

* * *

 

 

余りに急成長するもんだから、手加減無用とばかりに試合を繰り返す。

これもまた、成長の糧になってるんだろうなぁ。

 

「せりゃ、せいっ、とぁーっ」

 

連撃を繰り出す韓当。

元々近接戦をメインとする武人が、見取や修練で一撃の重みやキレが増している。

厄介この上ない。

 

最後の正拳突きを後ろ捻りで躱しつつ、裏拳を放つ。

 

「背牙龍!」

 

だからこそ、楽しいと思ってしまう。

 

裏拳は韓当の額に当たり、そのまま腰を落として屈みつつ右アッパーを放つ。

その際、足に気を込めてバネの様に跳ね上がる。

回転しながらの龍牙を決めて、フィニッシュ!

 

良い感じにヒットしたと思うが、韓当は起き上がって来た。

タフさも上昇しているのか。

 

いよいよもって、逸材だよな……。

本気になってしまいそうだ。

 

 

曹操様と揚州でぶつかる時が近い。

自分や韓当を含め、皆の技量を向上させなければならない。

 

そこに、孫静の思惑がどう絡んでいようとも。

迫りくる脅威は、全て払い除けてやるさ!

 

 

 




・背牙龍
KOFロバートが使う超必殺技。
裏拳から神龍拳。
高い位置に放つ裏拳ですが、しゃがんでる相手にもあたる優れもの。
普通に対空や連続技に組み込んで使える技だと思います。

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