武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
西門で覇王翔吼拳を放った感想を少し。
やっぱかっけぇぇーーーーっっ!!
予想通り、殺傷力は低かった。
それでも初代をイメージしたため、威力は中々のものだったと自負している。
初代覇王翔吼拳。
発射までは遅いが、ガードをしても吹っ飛ばされ気絶値が高く威力も特大。
但し、角度を上手く当てれば飛び蹴り等で打ち消すことが出来る。
まあゲーム上の設定だけど。
初っ端と言うことで、全力で溜めてみたんだ。
威力を含め、改善の余地はあるな。
ともあれ、覇王翔吼拳の直射上の賊たちはみんな吹っ飛んだ。
土塁の上から撃ったから、遮蔽物に当たることなく飛んで行ったのが良かったようだ。
戦闘開始の合図になってしまった為、じっくり眺めてる余裕はなかったが。
俺は最前線に赴き、虎煌撃で牽制しながら乱闘していた。
そして気付けば賊たちは壊乱し、逃走を開始。
可能な限り追撃したが、深追いは危険と思い切り上げた。
李典に兵を任せ、俺はそのまま南門へ回り込んだのだ。
そしたら前線でドッカンドッカンいっててなぁ。
恐らく楽進が頑張っているんだろうと当たりを付けて、突入してみた。
飛燕疾風脚で。
予想は正解で、楽進がいたので変則的ながら岩暫脚を決めて隣に降り立った。
あとは同じく乱闘だよね。
無双は出来なかったけど、途中で銅鑼の音が響き、賊たちが動揺したのに付け込んで追い散らした。
後から聞いたところ、銅鑼の音は曹操様の本隊のものだったらしい。
俺個人としてはまだ頑張れたけど、兵士の皆さんや楽進のことを考えれば良い頃合いだったと思う。
こうして防衛戦は俺たちの勝利で終わり、俺は夏候惇に大振りの刀を突き付けられている訳だ。
……えっ?
* * *
「見事耐えきったわね。よくやったわ」
事の起こりは、防衛隊と曹操様の本隊が合流した時の話。
曹操様は、到着するや簡易ながら村外に陣地を作り、炊き出しなどを開始した。
また、周囲へ兵を派遣して賊の掃討も行ってくれている。
そして、村を守り切った配下の夏侯淵と許緒を呼び出し労った。
そこには俺と義勇軍の三人も招かれた。
曹操様の隣には夏候惇とイケメン男子。
おや、北郷君ではないですか?
爆発しろ。
かなりキラキラした服装ではあるが、知ってる身から言うと違和感があるようでほとんど無いな。
ジーっと見ていると気付いた北郷君が、軽く目礼してくれた。
流石に失礼だったな。
こちらも目礼を返し、改めて曹操様に目を向ける。
「さて、呂羽に楽進、それに李典と于禁だったわね。よく村を守ってくれたわ、感謝するわ」
おお、生曹操様や。
パッキンくるくるミニマムぼでぃや。
立派な方が袁紹さんだったな。
何がとは言わんが。
脇に逸れた思考を余所に、慇懃に礼を返す。
なおも曹操様のお話は続く。
「どうかしら。貴方たち、うちに来ない?」
「えっ?」
「う、ウチらもですか!?」
「わわわ、すごいの!」
おー、三人とも驚愕しとんなあ。
やはり義勇軍の三人が曹操様と邂逅するシーンだったな。
うむ、眼福なり!
「呂羽、あなたはどうなの?」
「ん?」
あれ、俺も?
ってそうか、いつの間にか義勇防衛隊の代表みたいになってたな。
「お言葉は有り難いのですが、俺は」
「貴様!華琳様のお誘いを断るとは不届き千万、そこに直れ!」
断りを入れようとすると、夏候惇が被せてきた。
おお、まさに曹操様命の猪さん。
それすらも感動だ。
誘いを断って怒ってるけど、承諾しても多分嫌がるよね。
彼女、男嫌いのはずだし。
ちなみに咄嗟に断りを入れようとしたけど、仕官も有りかなって思ったりしている。
今更ながら気付いたが、俺はこの世界の金を持ってない。
断って旅を続けるにしても路銀は必要なのだから。
でも、今のところ本格的に曹操様に仕える気はないんだよな。
理由は北郷君。
彼が曹操様に仕えてると言うことは、いわゆる魏ルートなんだろう。
詳しくは知らないが、彼が力を尽くすことで魏が天下を統一する。
その結果、北郷君は世界に修正され消えてしまう。
作品としてはそれで上手く完結しているのだろうが、俺としてはその結論は認めがたい。
どうせなら皆笑顔で暮らしてる世界が良いと思うんだ。
派生作品で良くあるような奴な。
つまるところ、北郷君が消えるようなエンディングは迎えたくない訳だ。
だから短絡的に、魏に天下を取らせなければ良いと思ったんだ。
その為には魏を邪魔するところに身を置くべきかなって。
だけど、前も言ったが俺は格闘家であって武将じゃないし軍師でもない。
下手の考え休むに似たり。
どうなるか分らんし、深く考えない方が良いかも知れない。
だから路銀稼ぎがてら、ひとまず曹操軍に身を寄せてみても良いかなとね。
「落ち着け姉者。すまんな呂羽。少し聞きたいのだが、良いだろうか」
「え、はい。どうぞ?」
ツラツラと考え事をしていると、夏候惇を夏侯淵が止めてくれた。
こうして見るとあんま似てないなこの姉妹。
で、何を聞きたいのかね。
「西門で何があったのか、詳しく教えてくれ」
「……えーと」
「あ、それならウチがお教えしますよ!兄ちゃんのこと、後ろからよく見てたんで」
「そうか、ならば頼む」
止める間も無く始まる李典のお喋り劇場。
大分、過剰というか盛ってるな。
……。
「そいで、覇王なんちゃらって技で……」
「……へえ……」
あ。
李典が覇王翔吼拳のことを言った瞬間、覇王に反応したのか曹操様の目がスッと細まった。
そういや覇道を推進してるんだったね、曹操様。
李典の話を聞いている様子だけど、曹操様からのプレッシャーが半端ない。
夏候惇と夏侯淵の姉妹からもプレッシャーが。
北郷君もこっち見てるし。
おぅふ。
嫌な予感。
* * *
李典が話を盛りに盛った挙句、されど結果は間違ってない為に否定も出来ず。
話し終えてドヤ顔してる李典を尻目に、曹操軍の皆さんの目が怖い。
「その武才、気になるわね。ちょっとそこで春蘭と打ち合ってみてくれない?」
曹操様。
お願いの体になってますけど、空気的に命令形ですね。
しかも割と無茶振りだ。
「呂羽殿、頑張ってください!」
楽進、応援してくれるのは嬉しいけどね?
俺はまだ承諾してないんだぜ。
だが、夏候惇は既に殺る気満々で大振りの刀をこちらに突き付けている。
「では、はじめ!」
こうして俺と夏候惇との、仁義なき戦い(笑)が始まってしまった。
・岩暫脚
飛燕疾風脚の派生技で、打ち下ろして相手を地面に叩きつける。
KOFMIシリーズに登場。