武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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06 岩暫脚

西門で覇王翔吼拳を放った感想を少し。

 

やっぱかっけぇぇーーーーっっ!!

 

予想通り、殺傷力は低かった。

それでも初代をイメージしたため、威力は中々のものだったと自負している。

 

初代覇王翔吼拳。

発射までは遅いが、ガードをしても吹っ飛ばされ気絶値が高く威力も特大。

但し、角度を上手く当てれば飛び蹴り等で打ち消すことが出来る。

まあゲーム上の設定だけど。

 

初っ端と言うことで、全力で溜めてみたんだ。

威力を含め、改善の余地はあるな。

 

 

ともあれ、覇王翔吼拳の直射上の賊たちはみんな吹っ飛んだ。

土塁の上から撃ったから、遮蔽物に当たることなく飛んで行ったのが良かったようだ。

 

戦闘開始の合図になってしまった為、じっくり眺めてる余裕はなかったが。

 

俺は最前線に赴き、虎煌撃で牽制しながら乱闘していた。

そして気付けば賊たちは壊乱し、逃走を開始。

可能な限り追撃したが、深追いは危険と思い切り上げた。

 

李典に兵を任せ、俺はそのまま南門へ回り込んだのだ。

そしたら前線でドッカンドッカンいっててなぁ。

 

恐らく楽進が頑張っているんだろうと当たりを付けて、突入してみた。

飛燕疾風脚で。

予想は正解で、楽進がいたので変則的ながら岩暫脚を決めて隣に降り立った。

 

あとは同じく乱闘だよね。

無双は出来なかったけど、途中で銅鑼の音が響き、賊たちが動揺したのに付け込んで追い散らした。

 

後から聞いたところ、銅鑼の音は曹操様の本隊のものだったらしい。

俺個人としてはまだ頑張れたけど、兵士の皆さんや楽進のことを考えれば良い頃合いだったと思う。

 

こうして防衛戦は俺たちの勝利で終わり、俺は夏候惇に大振りの刀を突き付けられている訳だ。

 

……えっ?

 

 

* * *

 

 

「見事耐えきったわね。よくやったわ」

 

事の起こりは、防衛隊と曹操様の本隊が合流した時の話。

 

曹操様は、到着するや簡易ながら村外に陣地を作り、炊き出しなどを開始した。

また、周囲へ兵を派遣して賊の掃討も行ってくれている。

 

そして、村を守り切った配下の夏侯淵と許緒を呼び出し労った。

そこには俺と義勇軍の三人も招かれた。

 

曹操様の隣には夏候惇とイケメン男子。

おや、北郷君ではないですか?

爆発しろ。

 

かなりキラキラした服装ではあるが、知ってる身から言うと違和感があるようでほとんど無いな。

 

ジーっと見ていると気付いた北郷君が、軽く目礼してくれた。

流石に失礼だったな。

こちらも目礼を返し、改めて曹操様に目を向ける。

 

「さて、呂羽に楽進、それに李典と于禁だったわね。よく村を守ってくれたわ、感謝するわ」

 

おお、生曹操様や。

パッキンくるくるミニマムぼでぃや。

立派な方が袁紹さんだったな。

何がとは言わんが。

 

脇に逸れた思考を余所に、慇懃に礼を返す。

なおも曹操様のお話は続く。

 

「どうかしら。貴方たち、うちに来ない?」

 

「えっ?」

 

「う、ウチらもですか!?」

 

「わわわ、すごいの!」

 

おー、三人とも驚愕しとんなあ。

やはり義勇軍の三人が曹操様と邂逅するシーンだったな。

うむ、眼福なり!

 

「呂羽、あなたはどうなの?」

 

「ん?」

 

あれ、俺も?

ってそうか、いつの間にか義勇防衛隊の代表みたいになってたな。

 

「お言葉は有り難いのですが、俺は」

 

「貴様!華琳様のお誘いを断るとは不届き千万、そこに直れ!」

 

断りを入れようとすると、夏候惇が被せてきた。

おお、まさに曹操様命の猪さん。

それすらも感動だ。

 

誘いを断って怒ってるけど、承諾しても多分嫌がるよね。

彼女、男嫌いのはずだし。

 

ちなみに咄嗟に断りを入れようとしたけど、仕官も有りかなって思ったりしている。

今更ながら気付いたが、俺はこの世界の金を持ってない。

断って旅を続けるにしても路銀は必要なのだから。

 

でも、今のところ本格的に曹操様に仕える気はないんだよな。

理由は北郷君。

 

彼が曹操様に仕えてると言うことは、いわゆる魏ルートなんだろう。

詳しくは知らないが、彼が力を尽くすことで魏が天下を統一する。

その結果、北郷君は世界に修正され消えてしまう。

 

作品としてはそれで上手く完結しているのだろうが、俺としてはその結論は認めがたい。

どうせなら皆笑顔で暮らしてる世界が良いと思うんだ。

派生作品で良くあるような奴な。

 

つまるところ、北郷君が消えるようなエンディングは迎えたくない訳だ。

だから短絡的に、魏に天下を取らせなければ良いと思ったんだ。

その為には魏を邪魔するところに身を置くべきかなって。

 

だけど、前も言ったが俺は格闘家であって武将じゃないし軍師でもない。

下手の考え休むに似たり。

どうなるか分らんし、深く考えない方が良いかも知れない。

 

だから路銀稼ぎがてら、ひとまず曹操軍に身を寄せてみても良いかなとね。

 

「落ち着け姉者。すまんな呂羽。少し聞きたいのだが、良いだろうか」

 

「え、はい。どうぞ?」

 

ツラツラと考え事をしていると、夏候惇を夏侯淵が止めてくれた。

こうして見るとあんま似てないなこの姉妹。

で、何を聞きたいのかね。

 

「西門で何があったのか、詳しく教えてくれ」

 

「……えーと」

 

「あ、それならウチがお教えしますよ!兄ちゃんのこと、後ろからよく見てたんで」

 

「そうか、ならば頼む」

 

止める間も無く始まる李典のお喋り劇場。

大分、過剰というか盛ってるな。

 

……。

 

「そいで、覇王なんちゃらって技で……」

 

「……へえ……」

 

あ。

李典が覇王翔吼拳のことを言った瞬間、覇王に反応したのか曹操様の目がスッと細まった。

そういや覇道を推進してるんだったね、曹操様。

 

李典の話を聞いている様子だけど、曹操様からのプレッシャーが半端ない。

夏候惇と夏侯淵の姉妹からもプレッシャーが。

北郷君もこっち見てるし。

 

おぅふ。

嫌な予感。

 

 

* * *

 

 

李典が話を盛りに盛った挙句、されど結果は間違ってない為に否定も出来ず。

話し終えてドヤ顔してる李典を尻目に、曹操軍の皆さんの目が怖い。

 

「その武才、気になるわね。ちょっとそこで春蘭と打ち合ってみてくれない?」

 

曹操様。

お願いの体になってますけど、空気的に命令形ですね。

しかも割と無茶振りだ。

 

「呂羽殿、頑張ってください!」

 

楽進、応援してくれるのは嬉しいけどね?

俺はまだ承諾してないんだぜ。

だが、夏候惇は既に殺る気満々で大振りの刀をこちらに突き付けている。

 

 

「では、はじめ!」

 

こうして俺と夏候惇との、仁義なき戦い(笑)が始まってしまった。

 

 

 




・岩暫脚
飛燕疾風脚の派生技で、打ち下ろして相手を地面に叩きつける。
KOFMIシリーズに登場。

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