武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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59 猛虎竜巻斬り

表向きは平穏な日々。

だが裏側では、様々な画策が進行していた。

 

「師匠!俺に稽古をつけてくれっ」

 

「誰が、誰の、師匠ですか。ほら、さっさと散りなさい」

 

「二人とも落ち着けって。な?ほら、リョウもさ…」

 

「俺に振るな」

 

どうだ、この平穏っぷり。

とても裏があるとは思えないだろう。

 

まあ、物事が動くのに表裏はつきものだよな。

どうも孫静は、孫策たちとは異なる派閥に属しているようだ。

その派閥を率いて孫策を裏切る、とかそういう感じは今のところはない。

 

そもそも、全てひっくるめて孫呉の策かも知れないし迂闊なことは言えん。

周瑜とかの軍師連中、あの辺なら余裕でやりかねない。

 

それよりも、問題は俺たちだ。

孫静は呂羽隊を囲っていて、孫策は連絡を受けていなかったらしい。

韓当から連絡した方が良いんじゃないかって指摘を受けて、ようやく連絡したとか。

 

それでいいんか。

怠惰な性格なのか、で終わればまだ良いのだ。

でもそんなタイプには見えない。

むしろ、正反対のような感じがしているからややこしい。

 

先程の問題に戻るが、一体全体どう考えたらよいのやら。

俺も白蓮もすぐには分からんかったんで、由莉に任せた。

いや、当人が任せてくれって言うからさ。

 

優秀な副官殿が居ると、ついつい甘えてしまう。

良くない傾向とは思うんだ。

俺もちゃんと勉強せねば……分かってはいるつもりでも、中々なぁ。

 

さて、問題の一つは韓当である。

 

孫呉の将であり、孫策の配下にある武人。

寿春には孫静の与力として派遣され、駐屯しているらしい。

 

孫静は行政方面に長けており、韓当は武の方に長けている。

そんなバランス感覚でもって派遣されてきたとか。

 

つまり、孫静の派閥には入って無いと言うことだ。

韓当自身は政治的な向きの少ない、戦いバカって感じ。

お、何か良い友達になれそうな響きだね。

 

それはともかく、孫静が直接指揮下にない韓当も近くに置いてる理由。

加えて、俺たちとも接しさせる理由。

 

想像を働かせてみよう。

 

もし仮に、孫静が孫策に思うところがあるとする。

何かしら裏で動いている場合、その動向は知られたくないはず。

疑いの目で見られると動き難くなるからな。

 

そこで、カモフラージュも兼ねて孫策配下の韓当を受け入れる。

アイツは実直でいい奴だ。

裏でコソコソやるようなタイプじゃない。

 

表では韓当と仲良くし、俺たちとも関係を持つ。

そんな韓当から言われて初めて、俺のことを孫策へ連絡した。

すると孫策はどう思う?

警戒するんじゃないだろうか。

 

……うん、やっぱダメだ。

考えを巡らしてみたものの、さっぱり分からん。

 

分からんもんをグダグダ考え続けても仕方がないよな。

後で、考えてみたことを由莉に伝えよう。

そしたら上手く、まとめてくれるかも!

 

ダメな隊長で済まない。

今度何か、埋め合わせするから。

 

 

「なあ、頼むよ師匠ッ」

 

「誰がッ、誰のッ、師匠、ですかッ?」

 

ふと気付けば、そこにあるカオス。

 

韓当と由莉の争いは熾烈を極め、延々とループを繰り返していた。

二人とも根気強いな。

 

「リョウ~」

 

俺が考え込んでる間、何とかしようとしてた白蓮もぐったりだ。

正直済まんかった。

 

「分かった分かった。韓当も我が副長殿も、ちょっと落ち着け」

 

「ですが隊長!」

 

「ちょっと白蓮、頼むよ」

 

「はいはいっと」

 

白蓮に由莉を引き剥がして貰う。

まずは、韓当をどうにかしないとなぁ。

 

「流石師匠っ」

 

「弟子にした覚えはないのだが?」

 

「そんなこと言わずに、頼む!」

 

そう言って頭を下げる、と見せかけて構えを取る韓当。

何のつもりだこの野郎。

 

「実戦に勝る訓練なし。いざ!」

 

ホントに戦いバカだな。

華雄姉さんと気が合うかも。

 

「仕方ない。軽くのしてやるか」

 

当然、俺とも。

 

 

* * *

 

 

「てりゃーーっ」

 

「ふっ」

 

前回の焼き直し。

当初はそうなるかと思っていたが、見取稽古とはやるじゃないか。

 

細かいとこはさて置き、基礎的な技の軸はしっかり押さえている。

中々のセンスだ。

本気で鍛えたら、あるいは凪にも届くかも知れない。

そう思えば、加減は無用かな。

 

「シィッ」

 

足払いを掛けてきたので、先読み気味に軽く跳ねて躱す。

せっかくなので、そのまま攻撃に移ろう。

 

空中で上体を軽く捻りながら、両腕を胸の前で合わせるように近付けて力を込める。

捻りを戻す遠心力に腕力を乗せて、逆ラリアット風に裏拳を放った。

 

「ハァ!」

 

猛虎竜巻斬り。

 

勢いある裏拳、ないし左腕に押されて吹っ飛ぶ韓当。

よし、まずまずの手応え。

 

「ちっ」

 

が、受け身を取ってすぐに向き直る。

少し息が上がっているな。

頃合いか。

 

「最後にオマケだ。韓当、構えろ」

 

「ッ!!」

 

上半身を左向きに捻りつつ軽く反らし、左足を一歩前に。

残った右足を軸として右腕を掲げ、脇の下に退いた左掌に気力を集中。

掲げた右腕を下げつつ、上体を逆捻りしながら気を詰めた左手を勢いよく前へ突き出す。

 

「虎煌拳ッ!」

 

気の質を調整し、遠当ての様に目には見えない気弾を発射。

あまり遠くまでは届かないが、このくらいなら問題ない。

 

「んなっ!?……くぅ……」

 

ズバァーンと響き渡る聞きなれた音。

虎煌拳や覇王翔吼拳が当たった時に、よく鳴るよね。

 

「どうだ?これが極限流だ!」

 

帯を締め直しながら、ドヤ顔で決める。

別に相手をノックアウトした訳じゃないけど。

 

「ってぇー…」

 

防御の構えから片膝をつき、痛そうに顔を顰める韓当。

勝負あったな。

 

因みに今回の見えないバージョンの虎煌拳。

ただの初見殺しで、多用は出来ない。

普通のと違って汎用性が低めだからな。

でもま、一度は使っておきたかったから一定の満足はしてる。

 

さて、韓当はどう出る?

 

立ち上がろうとしているが、少し厳しそうだ。

ぷるぷると足を震わせていたが、やがて諦めた。

 

由莉が失笑した様が目の端に映ったが、見なかったことにしよう。

 

そのまま顔を上げて、叫んだ。

 

「凄い!弟子にしてくれっ」

 

何も変わってねえっ

 

 

* * *

 

 

その夜、俺の部屋に由莉と白蓮が集まった。

 

「リョウ、動きがあったぞ」

 

白蓮が仕入れた情報は、俺たちの動きにも関係するものだった。

孫静は、孫策らと異なった動き方をしている。

 

「隊長の読みは、大筋で当たりのようです」

 

途中で諦めて丸投げしたんだけどな。

まあ、言わんでおこう。

 

「そして一番大きいのは……」

 

「ええ。北について、ですね」

 

そう。

孫静と孫策について探っていたのだが、図らずも別のことが知れた。

 

内憂外患となるか、全て掌中のことなのか。

俺たちはどう動くのか、むしろ動くことが出来るのか。

分からないことだらけだが、何かが変わることは間違いない。

 

「曹操軍が、揚州侵攻の準備を進めているみたいだな」

 

 




KOF2002版タクマの虎煌拳を描いてみました。
実際動きをなぞってみると判り易いのですが、文字に起こすのは難しいですね。
何でもそうですが。

・猛虎竜巻斬り
KOF95が初出の、空中吹っ飛ばし攻撃。
作品によっては異常に強かったりもします。

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