武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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58 龍連・幻影脚

由莉の連絡により、呂羽隊と白馬義従が揃って孫静の屋敷に逗留することになった。

孫静は孫策の叔母であり、寿春における責任者の一人ということらしい。

 

俺たちは孫静に持て成され、特に不自由なく過ごしている。

何でそこまでと訊ねたら、色々と理由があるようだった。

 

「まあ簡単に言うと、お礼かしら」

 

何の礼だ。

聞いてみると、洛陽で崩れた木材から救われたんだって。

もちろん救ったのは俺。

 

うーん。

そんなことがあったような、なかったような?

いやまあ、あったんだろうけどさ。

記憶にございません。

 

だから由莉、そんな睨まんと。

白蓮も関心なんかしてないで、ちょっと由莉を……いや何でもない。

 

しかし孫静はお礼としか言わんが、それだけじゃないんだろうなー。

 

穏やかでたおやか。

当初持った印象だが、加えて強かでもありそうだ。

 

仮にもあの孫策の叔母。

油断は出来ない。

 

先に持ちかけられた話もそうだ。

由莉が出て行って、二人になった途端の誘い。

速攻で断ったが、判断は間違ってないはず。

 

残念ね、なんてまるで残念そうでない表情で言うんだもん。

別にどっちでもよかったんだろう。

 

まあそれはいい。

気にはなるがどうしようもないし。

 

それよりも、次へ進めないのが問題だ。

逗留するのはいいんだが、留め置かれてると言う見方も出来る。

孫策からの指示なのかそうでないかは、まだ分からないが。

 

言葉では断ったものの、気付いたら取り込まれてた。

あるいは、周囲からはそう認識されて取り返しのつかない事になっていた。

なんてことにもなりかねない。

 

まだ孫策に組すると決めた訳でもないし、大きな問題はないようにも思える。

でも自由を侵害されるのは困るなぁ。

 

そこんとこ、さり気無く聞いても上手くはぐらかされるばかり。

困ったもんである。

 

…まあ、機が来れば事態も動くだろう。

それまでは大人しく、街中に繰り出したり鍛錬を続けたりしておこうか。

 

よし、由莉に白蓮。

隊の連中も一緒に、体力鍛錬の行だ!

 

 

* * *

 

 

「せやぁっ」

 

「ハァ!」

 

白蓮たちと組手をしていたはずが、いつの間にか見知らぬ武将と組手をしている。

何故かって、所望されたからだ。

名前は聞いてない。

 

相手は額に傷を持ち、切れ長の目。

刃物は持たず、手甲等を付けて近接格闘家っぽいな。

 

「はっはー!中々やるじゃんっ」

 

あと若い。

外見年齢、俺より少し下くらいだろうか?

 

中々の手練れ。

だが、まだまだ荒削りだな。

 

「龍蓮」

 

正拳突きを捌こうとした相手の手甲を膝蹴りで弾き上げて。

 

「幻影脚!」

 

よろめいたところに下段・中段・上段横蹴りを連続で叩き込み、回し蹴りでフィニッシュ。

然程気は込めなかったが、思わぬところで反撃を食らった形になったのだろう。

敢え無く吹っ飛んで行った。

 

「くぅ…」

 

タフさはあるようで、起き上がろうともがいているのが見える。

 

「ふう。まだまだだな」

 

そこでわざとらしく腕を組み、やれやれと頭を軽く振る。

尚も激昂して噛み付いてくるかとも思ったが……。

 

「くそう、負けたなぁー」

 

なんて、存外にあっさり負けを認めた。

おや、意外。

華雄姉さんを筆頭に、しぶとい奴ばかりだったから新鮮だ。

 

「中々の手捌きだった。腐らず修練すれば、もっと高みに辿り着けるだろう」

 

だからつい、偉そうに助言なんてしてしまった。

 

「そっかー…、かの呂羽将軍が言うなら間違いないんだろーなー」

 

色々待て。

 

「誰が将軍か?」

 

「改めて、俺の名は韓当。孫家に仕える武官だ!」

 

聞けよ。

と言うか、孫呉の将だったのか。

まあ裏側とは言え、孫静の屋敷に入ってこれるなら関係者なんだろうが。

 

「そんで、あんたの強さを見込んで頼みがある」

 

「…なんだ?」

 

「俺を、弟子にしてくれっ」

 

な、なんだってー!?

 

 

「却下です」

 

「ふぁっ!?」

 

「あん?誰だあんた。俺は呂羽将軍に頼んでるんだ!」

 

「呂羽隊副長にして隊長の一番弟子です。それに、孫家の武人が勝手するのはどうかと思いますよ」

 

「ぬぐっ」

 

何やら由莉と韓当の間でヒートアップしている。

由莉はいつも通り冷静な表情だけど、少しカーッとなってるな。

いやはや、付き合いも長いと分かるようになるもんだね。

 

とは言え弟子、弟子ねぇ。

先程の状況から見るに、韓当の武才は今のところは由莉以上凪未満と言った感じか。

鍛えれば光りそうな原石ではある。

 

由莉と韓当が言い合い、白蓮が仲裁に入ってるが収まる気配がない。

孫家の武人と争いが生じるのは良くないな。

 

「あら、面白そうなことになってるわね」

 

口を出そうとした矢先、横合いからスッと声がかかる。

この声は。

 

「孫静か」

 

「孫静様!?」

 

ふむ、韓当は孫静の下か。

孫家一門だから当然っちゃ当然だけど。

それでも直属の配下とは限らんしな。

 

「呂羽。韓当は筋の良い真っ当な武人よ。少しでいいから面倒見てくれないかしら?」

 

真っ当な武人ってどういう意味だろう。

それはともかく、何のかんので逗留先として世話になってる手前、断り辛い。

 

「分かった。韓当、何時までになるか分からんが、共に修練を積むとしようか」

 

「あ、ああ!よっしゃー!」

 

満面の笑みを浮かべる韓当。

静かに微笑む孫静。

 

若干不機嫌になった由莉と、苦笑を浮かべる白蓮。

対比が凄い。

 

韓当については問題ない。

やはり問題は、孫静の思惑だな。

 

意図的に、俺たちをここに留まらせようとしている気がする。

取り込もうとしてるとも、思えるなぁ。

 

孫静の屋敷に世話になって少し経つが、孫策からの接触が皆無なのも気になる。

俺たちのことは全て任せてあるのかも知れないが…。

 

少し、探りを入れてみようか。

 

「白蓮、ちょっといいか」

 

「ん、なんだ?」

 

 

* * *

 

 

コンコンッとドアがノックされる。

夜、宛がわれている宿舎の一室でのこと。

 

「どうぞ」

 

「失礼する」

 

入って来たのは白蓮。

由莉には周囲の警戒を頼んである。

 

「どうだった?」

 

白蓮には、数名選抜して周囲の状況を確認してもらっていた。

周囲ってのは寿春の外も含む。

 

「まだ全ては集まってないが、中々怪しい箇所が多そうだな」

 

報告する白蓮は渋い顔。

あらら、嫌な予感が当たりそうな気がするな。

 

「そっか。まあ身の安全を最優先に頼むぜ。」

 

「分かってる。では中間報告になるが、具体的には……」

 

復興に湧く孫呉にも、色々あるんだな。

ま、当然か。

重要なのは、その中で俺たちが進むべき道がどれかと言うこと…。

 

白蓮からの報告を聞き、今後に思いを馳せながら夜は更けて行った。

 

 

 




これでKOF12までの極限流の必殺技は、どうにか消化出来ましたかね。

実際に触ってみない事には、技の感覚とかを捉え切れません。
しかしゲーム機を所持しておらず、時間的余裕もそんなに。
そういった訳で、13と14は無理かも知れません。

57話誤字報告適用。常から有難し。

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