武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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54 氷柱割り

曹操様たちが街へ凱旋してきた。

北郷君が出迎えに向かい、俺は白蓮と共に謁見の間で待っている。

 

「白蓮、大丈夫か?」

 

「あ、ああ。だ、だ大丈夫だっ」

 

全然大丈夫じゃない。

やたら緊張してる。

 

降伏後に曹操様に会うのは初めてだから解らんではないが、少し落ち着け。

俺だって居るんだから大丈夫だよ。

 

「そ、そうだな。リョウがいるんだ、うん。…ふぅ。よし、落ち着いた」

 

早いな!

いやまあ、落ち着いてくれたなら良かったよ。

 

 

そうこうしてるうちに、曹操様が北郷君たちと一緒にやって来た。

 

「呂羽、良くやったわ」

 

「どう致しまして」

 

公孫賛が降伏したお陰で、仕上げの戦いが楽になったと言う事らしい。

他の袁紹軍残党はまだ完全には片付いてないらしいし、比較されて殊更好印象になった模様。

 

「公孫賛。貴女の降伏を正式に認めましょう」

 

「感謝する」

 

曹操様は大層満足げなご様子。

ふう、どうやら問題なかったようだな。

胸を撫で下ろす。

 

「それで、貴女の処遇だけれど…」

 

「済まない。ちょっと、いいか?」

 

「あら、何かしら?」

 

処遇の話になった途端、白蓮が遮って発言を求めた。

なんだろうね。

安心したので、ぼんやり聞いていると。

 

「私はリョウに降ったんだ。今後は、リョウと行動を共にする」

 

白蓮の口から、そんな宣言が飛び出したことに反応出来なかった。

曹操様はもちろん、他の諸将たちの表情もピクリと動く。

慌てて声をかけるが。

 

「ちょ、白蓮……」

 

途端、場の視線を一身に集めてしまう俺。

わぁ、恥かしい。

…じゃなくて、今度は何だ一体!

 

「リョウ、私は事実を言ったまでだぞ。お前も認めてくれたじゃないか」

 

え、そう…だったっけ…?

 

「へえ……、そう言う事。随分と手が早いじゃない?」

 

ニヤリとしながら仰る曹操様。

お顔に浮き出た、そのおこ印は無視して良いですか?

 

それよりも、異議あり!

手が早いとか、そういう表現は被告の人間性を著しく損耗…

あ、凪までそんなジト目でっ

 

「相変わらずやってくれるな、呂羽」

 

夏侯淵さん、久しぶりに激おこ状態ですかね。

クールビューティがただの冷気になってますよ。

 

「まあ呂羽の件は置いておいて、話を進めましょうか」

 

永遠に忘れていて欲しい。

言ったら火に油だろうから黙っておこう。

 

「公孫賛。呂羽の下に付くと言うことは、太守には戻れないわよ」

 

それでもいいのかと厳しい目付きで問い掛ける曹操様。

対して白蓮も、一国を差配した経験者らしく堂々と答えた。

 

「構わない。既に決めたことだ。何より…」

 

「何?」

 

「少しの間だったが…、この街や、周辺を見て回った」

 

白蓮はそう言い、北郷君たちの方を見ながら続ける。

 

北郷君が隊長を務める警備隊などのお陰で、治安は素晴らしい。

曹操様たちに任せれば、自分の居ない幽州も良い土地になるだろう、と。

 

そして、だからこそ自分の地位や、太守にはもう拘らないのだと締め括った。

 

……凄いな。

ここまで、白蓮の人間性が大きく見えたことはない。

一皮剥けた、っていうのかな。

それが敗戦の後だって言うのが少し残念ではあるが。

 

曹操様は白蓮を真剣な眼差しで鋭く見詰め、やがてふっと表情を緩めた。

それに合わせて、緊張していた場の空気も弛緩した。

 

「いいでしょう。覚悟を持つ者を、私は支持するわ。但し!」

 

そう言いながら何故か俺を睨む曹操様。

なんでしょうか。

 

「ガッカリさせないでよね?」

 

あ、はい。

 

「当たり前だ!」

 

あ、白蓮が答えるんだ。

 

何か知らんが、ホント強くなったな。

ほどほどの侠気と勇気を持ち合わせるって言われてたのが嘘みたいだ。

めっちゃ勇気あるやん。

 

俺にその勇気を分けてくれ!

 

袁紹が倒れた今、俺は当初の予定通り曹操陣営を離れようと思う。

それを今、ここで宣言しよう。

 

 

* * *

 

 

「じゃあ、まずは季衣からね」

 

ここは練兵場。

周囲には曹操軍の人員が勢揃い。

 

曹操様の下を辞去する旨、宣言したところ。

全員と戦って勝てば許す。

そんなことを言われた。

 

なぁに、ただのお別れ会ですよ。

 

但し、全ての将と一対一で戦い続けて全てに勝たねばならない。

しかも今日は張遼と李典が居ないので、複数日に渡って開催される。

 

これってイジメ?

それともご褒美?

 

どっちも有り得るから困る。

 

「リョウ。頑張れ!」

 

「隊長、良いモノ魅せて下さい」

 

白蓮と由莉が応援してくれている。

あ、由莉ってのは韓忠の真名な。

 

真名は交換したが、人前では呼んでほしくないそうで。

よって、基本的に二人の時とモノローグ以外は副長と呼ぶことにした。

由莉も俺のことは隊長と呼ぶ訳だし、丁度いいかなと。

 

 

そんな訳で二人の応援を受けて、次々と将を撃破。

許緒から始まり、夏候惇、夏侯淵、典韋。

別の日に張遼と李典、そして于禁。

 

他にも曹仁や徐晃、韓浩などともやったが連戦連勝だぜ!

まあ、本気の本気だったのは許緒と夏候惇、張遼くらいだったからな。

 

そして今、俺は北郷君と対峙している。

 

「なんで俺まで!?」

 

「北郷君、君がいけないんだよ。君が……まあいいか、さあ構えろ!」

 

「特に理由ないじゃないですかーっ」

 

何故ばれたし。

 

まあまあ、いいじゃないか。

最近は、避ける技術も中々に向上してると思うぞ。

 

そして北郷君が上手く避けるのを良いことに、徐々に難易度を上げて行った。

 

「氷柱割りィ……ハァッ」

 

北郷君は木刀で受け止めようとするが、それは悪手だぜ。

ガションと木刀を圧し折り、そのまま唖然としてる北郷君にメリッと当たる。

安心せよ、みねうちじゃ。

 

倒れ伏す北郷君に、李典と于禁及び典韋が介抱に向かうまでがワンセット。

よし、ノルマ達成。

押ォ忍!

 

 

そんで次はー……あぁ、凪か。

 

「宜しくお願いします」

 

声は静かだが、並々ならぬ覚悟が宿っているのが知れる。

曹操様よりトリを任されたらしく、今日までじっと我慢していたようだ。

 

何を?

激情を。

 

それを今、俺にぶつけようとしているのだった。

激情の中身?

多分、真名に関係することじゃないかな。

 

「私は特別ではなかったのですか……」

 

なんて恨み事を、直接は言われてないが伝え聞いた。

真名という括りでの特別ではなかったのだが、言葉を尽くすにはもう遅い。

落ち着かせるために、まずは全力で組み伏せるしかない。

 

 

「そんな精神では、何度戦っても負けるのがオチだぜ!」

 

やはり凪の強さとは、真摯に向かい合うことにあると思うのだ。

激情に突き動かされていては、勝てるものも勝てなくなる。

 

俺は今、まさに凪を組み伏した状態にある。

むぅーっと睨まれているが、激情は霧散したようだ。

 

代わりに後方、具体的には由莉から殺気が集中している。

…まあ、そっちは後で考えよう。

 

「凪が特別なのは変わらないぞ。真名の交換は、それとは別のことだ」

 

確りと目を見て、フォローと弁解を試みる。

間違ってたら赤っ恥だが、多分大丈夫だろう。

 

すると、ボンッと凪が真っ赤になった。

あれ、前も似たようなことがあったような。

 

「ちょっと呂羽。衆人環視の中でなんて、凪が可愛そうでしょ?」

 

そんなところに曹操様登場。

止めてくれるのは有り難いが、何か言い方が……。

 

周囲の視線も冷たいし。

特に夏侯淵と典韋、そして程昱の冷たさが酷い。

程昱はいつも寝てる癖に、何で今だけ起きてるのか。

 

なんて思いつつ、凪の手を取って起こしてやる。

 

「大丈夫か?」

 

「はいぃ…」

 

あ、凄く女の子っぽい。

リョウさんがイイネと言っています!

 

「よし呂羽、もう一勝負と行こうか。但し、貴様は動くな」

 

断じて断る。

 

「さて、呂羽。見事に勝利してのけたわね」

 

ええ、まあ。

実は大トリに曹操様、とか予想してるんだけど。

 

「最後に私と踊って貰おうかしら」

 

やっぱりかぁーーーっ!!

 

 

* * *

 

 

後日、俺たちは曹操様の下を辞して旅立った。

 

曹操様との戦いの結果?

…あれは、ダンスだ。

いいね?

 

「隊長。目的地は、揚州で良いのですか?」

 

「涼州や益州と言う案もあったようだが」

 

連れ立つのは、由莉が率いる呂羽隊。

そして白蓮が率いる白馬義従だ。

 

「よし、じゃあ向かう先は──」

 

 

 




53話誤字報告適用しました。年の瀬までありがとうございます。

長くなりましたが、今回で「放浪編」は終了です。
次回から「  編」が始まります。

なお、年末から明けて一月も忙しくなる見込みです。
よって、次回の更新は2017年1月中の予定とさせて頂きます。

それでは皆様、良いお年を!


ところで、袁と哀って似てますよね。

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