武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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53 虎仙蹴

曹操様に公孫賛の降伏と保護を伝えると、使者が戻ってきて言われた。

とりあえず街に戻っておけと。

 

伝令に従い街へ戻ると、北郷君と典韋、それに見知らぬ女性…少女?に出迎えられた。

 

「呂羽さん、お帰りなさい!」

 

北郷君と典韋は笑顔で迎えてくれた。

一方で、見知らぬ少女にはじぃーっと見詰められている。

 

まあ知ってはいるんだよ、実際に会うのは初めてだけど。

今まで余り気にしてなかったけど、曹操軍だから居ておかしくないよな。

なんで会わなかったんだろ。

 

「ただいま。ところで、そっちの人は?」

 

「どーもー。風は、程昱と申します~」

 

「別働隊を退けるのに協力して貰ったんだ。本当はもう一人いるんですけど」

 

「そうなのかー。初めまして、俺は呂羽と言う。宜しくな!」

 

ちょっとフレンドリーに話しかけてみた。

再びじぃーっと見詰められる。

常からジト目っぽい感じで居るみたいだし、まあ何考えてるか解らんな。

 

と、やおら目を閉じて…

 

「……ぐぅ」

 

ね、寝たぁーー!?

 

「わわ、風さん。起きて下さい!」

 

典韋が慌てて起こしにかかる。

おお、どこか懐かしくも新鮮な遣り取り。

 

この不思議少女が軍師・程昱なのは良く分かった。

なので、職責を果たすとしよう。

 

「それで北郷君。こちら、降伏した公孫賛」

 

「公孫賛だ。リョウに降伏したので、宜しく頼む」

 

「あ、どうも。北郷です」

 

「とりあえず、俺が預かってていいんだよな?」

 

「はい、お願いします」

 

曹操様たちが帰ってきて、正確な処置が決まるまでは呂羽隊で預かることになっている。

それは白蓮も了解してくれた。

 

ちなみに、白蓮は戦場に連れて来た兵のうち、精鋭の白馬隊だけを連れて来た。

他は曹操軍に組み込まれたり、事後処理のために一旦幽州に戻ったりしてるらしい。

その辺り、細かいことは打ち合わせも含めて全部韓忠がやってくれた。

ホント、偉大な副長殿には助けられてるよ。

 

その韓忠だが、何となく機嫌が悪い。

仕事はちゃんとしてくれるし、白蓮たちとも普通に喋ってるんだが。

 

白蓮が降伏したのは、韓忠が言ってくれたのだから問題ないはず。

でも、街への帰路では既にご機嫌斜めになっていた。

 

その間にあったのは、白連と真名を交換してドヤ顔したくらいだ。

ドヤ顔がうざかったのかとも思ったが、別に初めてする訳でもない。

 

と、いうことは……。

白蓮と真名を交換したのが気に食わない、とか?

それはないと思うのだが。

 

と言う訳で直接聞いてみた。

そしたら何故か、韓忠と試合することになったよ!

なんでやねーん。

 

 

* * *

 

 

部隊の奴らには休息を取らせることにして、練兵場にやって来た。

白蓮に北郷君、典韋と程昱も一緒だ。

そこに、もう一人。

 

「郭嘉と申します。呂羽殿の噂はかねがね…」

 

鼻血ぶーの人だ。

おっと失敬。

 

ふむ、この軍師二人はこの辺で加入するのだったか。

道理で見かけ無い訳だよ、なるほどねぇ。

 

それより、どんな噂か凄く気になる。

 

「噂の内容ですか?そうですね、気功の達人にして徒手空拳で戦場を駆け回り…」

 

あれこれと教えてくれたが、総括すると妖怪・旗折りみたいな感じだった。

間違っちゃいないが、第三者から言われるとちょっと…。

 

あと、横で聞いてて思い切り噴出した北郷君は後で実践組手な。

 

「では隊長。宜しいでしょうか」

 

「ああ、悪いな。それじゃあ始めよう」

 

 

 

「虎仙蹴!」

 

踏み込んで、炎のように見える気を纏った膝蹴りを繰り出す。

次いで上段回し蹴りに繋ぐ。

 

対して韓忠は、

 

「烈風脚ッ」

 

中段前蹴りと上段蹴りを繰り返したのち、上段回し蹴りに繋げて相殺。

鋭さは中々のものだが、上半身を使えてないのはマイナスポイントだな。

せっかくの得物である鉈が全く活きてないぞ!

 

しかしそれでも、その向上心には目を瞠るものがある。

竜巻蹴りに毒撃蹴、今回の烈風脚など独自の技を開発しているのだ。

 

「はあっ」

 

鉈と蹴りの連携も悪くはないが、もっと工夫の余地はあるだろう。

どこかの世界には、空手とブーメランが同居する流派もあることだし。

いや、あれと一緒にしちゃいかんか…。

 

振り下ろされる鉈を防ぎながら、色々と考える。

凪もそうだが、噛み合う攻防ってのは楽しいもんだ。

華雄姉さんや夏候惇と言った、当たれば痛いじゃすまないような対戦も心躍るがな。

 

ふと、力の夏候惇と技の夏侯淵と言うフレーズが頭を過った。

いつかこっそり北郷君に伝えてみよう。

以外とウケるかも知れない。

 

「隊長」

 

「ん?」

 

「今、余計なこと考えましたね?」

 

な!?

ば、ばれてる…だと…っ

 

「謝罪と賠償を要求します」

 

「す、すまない」

 

何故ばれたのかはともかく、まずは謝る。

考えてたのは事実だし、失礼なことでもあるからな。

 

「はい。後は賠償ですね」

 

え、そっちも?

と言うか本気かよ。

 

「もちろんです。まあ、過度な要求はしません。ただ……」

 

ごくり。

 

「ただ、真名を交換して下されば結構です」

 

心なしか小声でそうのたまう韓忠さん。

 

……ああーっ、なるほどね!

頭の中で何かが繋がった。

 

ご機嫌斜めだったのはコレか。

いや、無意識的に恋姫キャラ以外で真名のことを考えてなかった。

真に失礼仕った。

 

「そうだな、今まで苦労かけてるし…。よし、俺はリョウ。預かってくれ!」

 

「…はい。…私の真名は…──です」

 

どこか噛み締める様に、そして辛うじて俺だけに聞こえるようにポソリと言う。

うん、ちゃんと伝わったよ。

 

「これからも宜しくな!」

 

「はい」

 

あくまで冷静なのは変わらず。

だがそれでも、どこか晴れやかな表情をしているように見えた。

 

「さて、止めと参りましょう」

 

「え、まだやるの?」

 

何だか良い空気になったじゃない?

このまま解散しても良いと思うんだ。

 

「それでは観客の皆様に失礼ですよ」

 

…まあ確かに、途中から二人でゴニョゴニョしてただけだからな。

スッキリしたのは俺たちだけか。

 

「じゃあ、最後に大技と行こう。見事、受け切って見せろ!」

 

「御意!」

 

今まで彼女には虎煌拳など、通常必殺技しか撃ってこなかった。

普段は凪もそうだが、レベルの問題でな。

修行段階で行うには段階が至って無いと判断していたのだ。

 

だが今回は、敢えて使うとしよう。

新規二名へのお披露目も兼ねて、尚且つ成長著しい我が副長殿への敬意を込めて。

 

「いくぞ!」

 

ここは俺も初心に帰り、丁寧に気を練るとするか。

 

相手は鉈と言う武器を持っている。

武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない!

 

 

一旦静止し、軽く息を吐いて全身を弛緩させる。

気の流れを意図して両腕に集めつつ眼前で交差させ、軽く拳を握って深く溜める。

大きく息を吸いながら左右それぞれ脇の下に引き絞り、掌に集積して……。

 

右足を一歩踏み込みながら、両手を前に突出し解き放つ!

 

「覇王翔吼拳!!」

 

身の丈を越える巨大な気弾が前方へ撃ち出された。

さあ、どうする!?

 

我が副長殿は、避ける素振りも見せずに受ける構えを取った。

 

「無茶だ!」

 

北郷君や白蓮が声を上げるが、それでこそだ。

やがてオレンジ色の巨大な塊が彼女に迫り、着弾。

 

ズバァーンッと。

土煙が派手に舞い上がり、カランと鉈が落ちた音がした。

 

どうかな?

 

土煙の向こうには、防御の姿勢で固まる姿。

ふむ、概ね耐え切ったが流石に無事とはいかなかったか。

 

気の流れは乱れ、ガス欠の様相。

全力で防御に費やしたんだな。

今は、それで正解だ。

 

「…流石です、隊長…」

 

一言告げると、膝から崩れ落ちた。

ああ、勢い余って上着が弾き飛んでしまってる。

 

「そっちもよく耐えたな。見事だったぜ」

 

意識を失った副長に上着を掛けてやりながら、労った。

何かと得るモノの多い試合だった。

 

 

ところで北郷君。

彼女の下着を見たのかね?

宜しい、ならば裏庭だ。

 

 




終わりませんでした!
いや、つい幕間的なものがエキサイトしちゃいまして。

今回で通常の必殺技は、大体全部出し終えたと思います。
百列びんた以外。
残りは超必殺技と特殊技、連携技あたりでしょうか。

密かに韓忠さん、一人称初登場。
あと真名を交換しました。やったね!

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