武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
曹操様に公孫賛の降伏と保護を伝えると、使者が戻ってきて言われた。
とりあえず街に戻っておけと。
伝令に従い街へ戻ると、北郷君と典韋、それに見知らぬ女性…少女?に出迎えられた。
「呂羽さん、お帰りなさい!」
北郷君と典韋は笑顔で迎えてくれた。
一方で、見知らぬ少女にはじぃーっと見詰められている。
まあ知ってはいるんだよ、実際に会うのは初めてだけど。
今まで余り気にしてなかったけど、曹操軍だから居ておかしくないよな。
なんで会わなかったんだろ。
「ただいま。ところで、そっちの人は?」
「どーもー。風は、程昱と申します~」
「別働隊を退けるのに協力して貰ったんだ。本当はもう一人いるんですけど」
「そうなのかー。初めまして、俺は呂羽と言う。宜しくな!」
ちょっとフレンドリーに話しかけてみた。
再びじぃーっと見詰められる。
常からジト目っぽい感じで居るみたいだし、まあ何考えてるか解らんな。
と、やおら目を閉じて…
「……ぐぅ」
ね、寝たぁーー!?
「わわ、風さん。起きて下さい!」
典韋が慌てて起こしにかかる。
おお、どこか懐かしくも新鮮な遣り取り。
この不思議少女が軍師・程昱なのは良く分かった。
なので、職責を果たすとしよう。
「それで北郷君。こちら、降伏した公孫賛」
「公孫賛だ。リョウに降伏したので、宜しく頼む」
「あ、どうも。北郷です」
「とりあえず、俺が預かってていいんだよな?」
「はい、お願いします」
曹操様たちが帰ってきて、正確な処置が決まるまでは呂羽隊で預かることになっている。
それは白蓮も了解してくれた。
ちなみに、白蓮は戦場に連れて来た兵のうち、精鋭の白馬隊だけを連れて来た。
他は曹操軍に組み込まれたり、事後処理のために一旦幽州に戻ったりしてるらしい。
その辺り、細かいことは打ち合わせも含めて全部韓忠がやってくれた。
ホント、偉大な副長殿には助けられてるよ。
その韓忠だが、何となく機嫌が悪い。
仕事はちゃんとしてくれるし、白蓮たちとも普通に喋ってるんだが。
白蓮が降伏したのは、韓忠が言ってくれたのだから問題ないはず。
でも、街への帰路では既にご機嫌斜めになっていた。
その間にあったのは、白連と真名を交換してドヤ顔したくらいだ。
ドヤ顔がうざかったのかとも思ったが、別に初めてする訳でもない。
と、いうことは……。
白蓮と真名を交換したのが気に食わない、とか?
それはないと思うのだが。
と言う訳で直接聞いてみた。
そしたら何故か、韓忠と試合することになったよ!
なんでやねーん。
* * *
部隊の奴らには休息を取らせることにして、練兵場にやって来た。
白蓮に北郷君、典韋と程昱も一緒だ。
そこに、もう一人。
「郭嘉と申します。呂羽殿の噂はかねがね…」
鼻血ぶーの人だ。
おっと失敬。
ふむ、この軍師二人はこの辺で加入するのだったか。
道理で見かけ無い訳だよ、なるほどねぇ。
それより、どんな噂か凄く気になる。
「噂の内容ですか?そうですね、気功の達人にして徒手空拳で戦場を駆け回り…」
あれこれと教えてくれたが、総括すると妖怪・旗折りみたいな感じだった。
間違っちゃいないが、第三者から言われるとちょっと…。
あと、横で聞いてて思い切り噴出した北郷君は後で実践組手な。
「では隊長。宜しいでしょうか」
「ああ、悪いな。それじゃあ始めよう」
「虎仙蹴!」
踏み込んで、炎のように見える気を纏った膝蹴りを繰り出す。
次いで上段回し蹴りに繋ぐ。
対して韓忠は、
「烈風脚ッ」
中段前蹴りと上段蹴りを繰り返したのち、上段回し蹴りに繋げて相殺。
鋭さは中々のものだが、上半身を使えてないのはマイナスポイントだな。
せっかくの得物である鉈が全く活きてないぞ!
しかしそれでも、その向上心には目を瞠るものがある。
竜巻蹴りに毒撃蹴、今回の烈風脚など独自の技を開発しているのだ。
「はあっ」
鉈と蹴りの連携も悪くはないが、もっと工夫の余地はあるだろう。
どこかの世界には、空手とブーメランが同居する流派もあることだし。
いや、あれと一緒にしちゃいかんか…。
振り下ろされる鉈を防ぎながら、色々と考える。
凪もそうだが、噛み合う攻防ってのは楽しいもんだ。
華雄姉さんや夏候惇と言った、当たれば痛いじゃすまないような対戦も心躍るがな。
ふと、力の夏候惇と技の夏侯淵と言うフレーズが頭を過った。
いつかこっそり北郷君に伝えてみよう。
以外とウケるかも知れない。
「隊長」
「ん?」
「今、余計なこと考えましたね?」
な!?
ば、ばれてる…だと…っ
「謝罪と賠償を要求します」
「す、すまない」
何故ばれたのかはともかく、まずは謝る。
考えてたのは事実だし、失礼なことでもあるからな。
「はい。後は賠償ですね」
え、そっちも?
と言うか本気かよ。
「もちろんです。まあ、過度な要求はしません。ただ……」
ごくり。
「ただ、真名を交換して下されば結構です」
心なしか小声でそうのたまう韓忠さん。
……ああーっ、なるほどね!
頭の中で何かが繋がった。
ご機嫌斜めだったのはコレか。
いや、無意識的に恋姫キャラ以外で真名のことを考えてなかった。
真に失礼仕った。
「そうだな、今まで苦労かけてるし…。よし、俺はリョウ。預かってくれ!」
「…はい。…私の真名は…──です」
どこか噛み締める様に、そして辛うじて俺だけに聞こえるようにポソリと言う。
うん、ちゃんと伝わったよ。
「これからも宜しくな!」
「はい」
あくまで冷静なのは変わらず。
だがそれでも、どこか晴れやかな表情をしているように見えた。
「さて、止めと参りましょう」
「え、まだやるの?」
何だか良い空気になったじゃない?
このまま解散しても良いと思うんだ。
「それでは観客の皆様に失礼ですよ」
…まあ確かに、途中から二人でゴニョゴニョしてただけだからな。
スッキリしたのは俺たちだけか。
「じゃあ、最後に大技と行こう。見事、受け切って見せろ!」
「御意!」
今まで彼女には虎煌拳など、通常必殺技しか撃ってこなかった。
普段は凪もそうだが、レベルの問題でな。
修行段階で行うには段階が至って無いと判断していたのだ。
だが今回は、敢えて使うとしよう。
新規二名へのお披露目も兼ねて、尚且つ成長著しい我が副長殿への敬意を込めて。
「いくぞ!」
ここは俺も初心に帰り、丁寧に気を練るとするか。
相手は鉈と言う武器を持っている。
武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない!
一旦静止し、軽く息を吐いて全身を弛緩させる。
気の流れを意図して両腕に集めつつ眼前で交差させ、軽く拳を握って深く溜める。
大きく息を吸いながら左右それぞれ脇の下に引き絞り、掌に集積して……。
右足を一歩踏み込みながら、両手を前に突出し解き放つ!
「覇王翔吼拳!!」
身の丈を越える巨大な気弾が前方へ撃ち出された。
さあ、どうする!?
我が副長殿は、避ける素振りも見せずに受ける構えを取った。
「無茶だ!」
北郷君や白蓮が声を上げるが、それでこそだ。
やがてオレンジ色の巨大な塊が彼女に迫り、着弾。
ズバァーンッと。
土煙が派手に舞い上がり、カランと鉈が落ちた音がした。
どうかな?
土煙の向こうには、防御の姿勢で固まる姿。
ふむ、概ね耐え切ったが流石に無事とはいかなかったか。
気の流れは乱れ、ガス欠の様相。
全力で防御に費やしたんだな。
今は、それで正解だ。
「…流石です、隊長…」
一言告げると、膝から崩れ落ちた。
ああ、勢い余って上着が弾き飛んでしまってる。
「そっちもよく耐えたな。見事だったぜ」
意識を失った副長に上着を掛けてやりながら、労った。
何かと得るモノの多い試合だった。
ところで北郷君。
彼女の下着を見たのかね?
宜しい、ならば裏庭だ。
終わりませんでした!
いや、つい幕間的なものがエキサイトしちゃいまして。
今回で通常の必殺技は、大体全部出し終えたと思います。
百列びんた以外。
残りは超必殺技と特殊技、連携技あたりでしょうか。
密かに韓忠さん、一人称初登場。
あと真名を交換しました。やったね!