武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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51 真・天地覇煌拳

「はぁぁぁっっ」

 

「おらぁっ!」

 

戦場に響く干戈を交える音。

そして雄叫び。

 

孫策が振り回す刃を、紙一重で避けて行く。

時々だが、薄皮一枚くらいが斬られている。

そして、少しだけ出血。

 

「あははははっ」

 

孫策さん、ハイテンション。

血を見せたのがいかんかったのか、何だか目がヤバい。

 

呉の人、この辺りに呉の人はいませんかー!?

 

「はあっ」

 

「せい!」

 

返り血を浴びさせてはいけない。

身体に巡らせる気を最充填。

 

ガキンッ

硬気功で刃を受け止める!

腕から、まるで硬いものを斬ろうとしたかのような音がした。

 

「なっ!?」

 

目を真ん丸にして驚く孫策さん。

ふはははは。

初見では驚くだろう。

その表情、実にいいですね。

 

「極限流は常に死闘をくぐり抜けて鍛えられた技。負けはしない!」

 

刃にだって負けはしない!

気が昂って、つい煽ってしまった。

 

い、いや。

このくらいなら煽りに入らないハズ…。

 

「あはははは!いいわねぇ。ええ、実にいいわ!」

 

あ、何かスイッチ入った?

 

「何が何でも、貴方を降して連れ帰りたくなっちゃった」

 

「出来るもんならやってみろ!」

 

「ええ、行くわよっ」

 

売り言葉に買い言葉じゃないが、ついつい出ちゃうんだ。

仕方ないんだ。

だって戦闘中だもの。

 

「虎煌撃!」

 

「なんの!」

 

足元の土を散らすが、気にせず迫って来る孫策さん。

脇目も振らず攻め込んでくるから隙が出来そうなもんだが、なかなかどうして。

その辺はしっかり冷静なのか、あんまり隙が見えてこない。

流石だな。

 

それでもゼロではない。

時折、足掛け蹴りなどで牽制してる。

 

「前の時みたいには行かないんだからねっ」

 

そう言いながら横一線に薙いで来る。

ヒュオーンと良い音させながら。

 

避けるために仰け反りつつ、反撃。

 

「虎咆疾風拳ッ」

 

「せいっ」

 

俺の拳と孫策の刃がランデブー。

普通ならば、当たり前だが血の花が咲く。

しかしそこは極限流。

 

受け止めた腕と同様、気を纏った俺の拳は並みの刃にも勝るのだ。

 

ギャィンッと刃同士がぶつかったような音。

流石にもう孫策は驚かない。

むしろ良い笑顔だ。

 

孫策さんが楽しそうで何よりです。

俺も結構楽しい。

戦場でなけりゃ、もっと良かったんだが。

 

負けるつもりはないし、引き分けに持ち込む努力も違う気がする。

よって、全力で勝ちに行こう。

 

龍虎乱舞のリベンジでもいいが、せっかくだから一撃で決めたい。

 

そう思い定めて、一歩下がってフッと息を吐く。

 

「ッ?させないわよ!」

 

何かを狙っていると思われたのか、より激しくなる攻撃。

正解です。

でも、連合の時とは違うよ。

 

孫策の連撃を捌きつつ、時折横蹴りで牽制も放つ。

 

同時に上半身に気を集約。

さらに殊更ゆっくりと、右腕を腰元に引きつけて…。

 

「はあっ!!」

 

孫策が放った上段打ち下ろしを、見切った上で左腕で受け止める。

……今!

 

真・天地覇煌拳

 

「一撃、必さぁぁーーっっつ!!!」

 

思い切り気を乗せた右拳を、思い切り引き絞ったところから。

しかも思い切り、右足を一歩踏み込んで繰り出した。

 

「っ!?」

 

流石は孫策。

一瞬で脅威を悟り、全力で後ろに跳んだ。

が、少し遅い。

 

気を乗せたお陰で、力学なんて無視したスピードを出せる正拳突き。

まあ細かいことは気にしないでいいだろ。

とにかく、凄い突きが出て孫策を吹っ飛ばしたと言う事実があるのみだ。

何かをぶち抜いたような爽快感もある。

 

突き出した右腕を戻し、若干の残心。

うむ、いい技だった。

 

さて、孫策に通ったダメージは……。

 

「…くっ…ぅ…」

 

うむ、まあまあかな。

膝立ちだが、すぐに立ち上がることは出来なさそうだ。

 

前回はここで煽って踵を返したのだが、今回はどうするかな。

孫策を仕留めても意味はないので、無視してもいいのだが。

 

とりあえず、虎煌拳の構えをとっておく。

 

「させません!」

 

忍んで窺う気配があったので、誘ってみたら乗ってくれた。

確か周泰だったかな。

 

言いながら棒手裏剣のようなものを投げ付けられた。

予想していたので、簡単に構えを解いて弾いておく。

 

「み、みんめい…?」

 

「雪蓮様、ここは退きましょう!」

 

俺に向かって剣を構えて立ちはだかり、孫策に撤退を促す周泰。

図らずも良い頃合いだった。

 

……あ。

俺が孫策を倒しちゃったら、彼女の名声に傷がついたりするのかな?

呉のみなさんから恨まれる可能性もあったり?

 

周泰をじっと見詰めながら色々考えていると、ついっと冷や汗を流すのが見えた。

こっちも冷や汗を流してるよ、心の中で。

 

ふと、徐々に騎馬隊が近付いて来る音が聞こえてきた。

音のする方を見てみると、白い集団。

公孫賛?

 

「孫策、退け!」

 

「…雪蓮様!」

 

「ちっ、…ここは退くわ。貴方、この借りは必ず返すわよ…」

 

あれよあれよと言う間に、公孫賛が率いる白馬の群れに取り囲まれる。

正面には公孫賛。

その向こう側で、周泰に支えられた孫策が退いてくのが見えた。

去り際の孫策さんにめっちゃ睨まれた。

 

おお、いい感じに分断されてしまったなー。

 

それより公孫賛、さっき誰かに追い散らされてたような気がしたが。

気のせいだったのか?

 

「久しぶりだな。元気そうで何よりだ」

 

何はともあれご挨拶。

今は敵味方とは言え、何も含むものはない。

まあ基本、袁紹以外にはほとんどないんだけど。

 

「っ!」

 

え、挨拶したら辛そうな顔されたぞ。

 

ああ。

ひょっとして、まだ引きずってるのかね。

公孫賛に迷惑かけないためと称して、俺たちが抜けたこと。

 

相変わらず人が好いな。

 

「さて。思うところは色々あるが、ここは戦場。俺たちは敵味方だ」

 

「……ま、待ってくれ!」

 

それはそれ、と気持ちを切り替えて構えを取る。

が、慌てたように止められた。

何ぞ?

 

「実は、お前に謝りたくて…」

 

…公孫賛さんが良い人なのは分かったから!

でも、ここ戦場なのよ。

しかも袁紹と曹操様が戦う激戦地。

そう言うのは、戦後でもいいんじゃないかなぁ?

 

「今じゃないとダメなのか?」

 

「す、すぐ済むから!」

 

意外と押しが強いな。

まあ、すぐ済むならいいか。

 

「手早くな」

 

「ああ。……その、済まなかった」

 

……はい。

なるほど、すぐ済んだな。

 

「謝罪を受け取ろう。…で、もういいのか?」

 

「いや、違うんだ!本当はもっとこう、色んなことを……だな」

 

「おいおい、それじゃすぐには済まないだろうに」

 

苦笑しながら言うと、言葉に詰まって項垂れてしまう。

いやはや全く、なんだか調子が狂うな。

 

「それより、さっき誰かに追われてなかったか?」

 

「(ぶつぶつ)え?あ、あー…。いや、特には」

 

「む?何か急いで走り去ったのが見えたんだが」

 

「ああ。麗羽の隊を立て直すため、全力で走らせてはいたな」

 

ありゃ、本当に勘違いだったか。

しっかし袁紹のために頑張るなんて、流石としか言いようがない。

 

って、俺もこんなのほほんと喋ってる暇はないよな。

 

「ともかくだ、戦場で敵味方が出会ったならば、やることは一つ。違うか?」

 

「そう、だな。……仕方がない。それよりも、騎馬隊に単身で勝てるとでも?」

 

普通なら無理だな。

だが、極限流に不可能はない。

 

武器を持った騎馬隊が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない!

 

 




激戦の後、倒れ伏した孫策。
止めだ!虎煌…
「やめて、お兄ちゃん!」
そこへ現れたのは周泰。
「その人は、その人は私たちの……」

なんて茶番が思い浮かびましたが、全体的にオカシイので投げ捨てました。
疲れてる時は危険がイッパイデス。

主人公と対戦するたびに吹っ飛ばされる孫策さん。
でも前回は龍虎乱舞、今回は真・天地覇煌拳。
初出の超必で敬意を表しているのですよ。

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