武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
戦場にやって来た。
正面にあるのは袁紹軍の本隊。
右隣に公孫賛軍。
その反対側に袁紹軍の分隊と、袁術からの援軍が布陣している。
袁術軍の中には孫策隊も居るみたいだ。
「おぉ、壮観やなぁ」
「いっぱいなの~!」
「真桜、沙和!ここは戦場だぞ、もっと緊張感を持たないか!」
相変わらず三人は仲が良い。
どこか緊張感のない李典と于禁も、それを怒る凪も含めてワンセットと言った感じだ。
さて、俺たちが受け持つのは袁紹軍の正面右半分。
その隣の公孫賛軍もだな。
残りは張遼や夏候惇が攻める布陣だ。
曹操様と夏侯淵は本隊として俺たちの後ろに詰める。
許緒や典韋などもそこに居る筈。
「とは言え、開幕前に舌戦か……」
「華琳様と袁紹殿は、何やら因縁があるようですので」
俺たちも向こうも布陣は終わって久しい。
だが先程から曹操様が前線に来て、袁紹と舌戦をしているらしいのだ。
本当はそんなの無視して開幕ぶっぱと行きたかったが、流石に自重した。
やらない方がいいと、北郷君から忠告されたしな。
それと俺も前線に居る以上、ある程度話の中身は聞こえて来るんだが…。
大半が袁紹の高笑いと言う時点でお察し。
あまり意味はないだろうと思い、軽く聞き流している。
「おっと、やっと終わったか」
暫くすると話が終わったようで、それぞれ大将が本陣に戻って行く。
いや、袁紹は周りに引きずられる形で戻って行った。
相変わらずですな。
さて、今日で袁紹の牙門旗も見納めか。
チラリと本陣を見る。
曹操様が夏侯淵を脇に従え、仁王立ちしている。
「皆、敵は数が頼りの烏合の衆よ。各々、武威を示しなさい!」
「「「応ッッ!!」」」
曹操様の激に応え、曹操軍が動き出す。
夏候惇や張遼は我先にと動き出しているが、俺たちも負けてはいられない。
「よし、夏候惇や張遼に負けずに進むぞ!」
「おう!」
「はいなの!」
「はい!」
三人に声をかけて、俺も始める。
「じゃあ副長」
「はい、ご武運を」
何時も通り、呂羽隊を韓忠に預けて一人先行する。
小言や溜息もなく送り出されるのは、何だか新鮮だ。
華雄姉さんも居ないし。
ちょっと物足りなく思うのは、多分贅沢って奴なんだろうなぁ。
さて、ダッシュはダッシュでいいのだが。
夏候惇と張遼が先を争うように、袁紹軍と孫策隊に突入している。
一番槍を得るのは、もう無理だ。
李典と凪も袁紹軍に接敵してるし、于禁も公孫賛軍と交戦し始めた。
揺れる旗は目の前。
ならば、やることは一つだ。
旗を持った袁紹軍が相手なら、覇王至高拳で粉砕せざるを得ない。
今回は袁紹軍も全力のようで、旗も大きなものが複数ある。
全て、粉砕してくれよう。
「ぬぅぅぁぁーーーーっっ」
気力充填!
今の俺なら出来るっ。
超ッ
覇王至高拳!!
「せりゃっ、せりゃっ、せりゃぁぁぁーーーっっ!!」
両手眼前交差からの腰溜めで一瞬停止。
そこから一気に三連発。
通常の覇王至高拳よりも多めに気を込めた。
濃縮激発バージョンで、狙うは旗柱の中段あたり。
「んなっ?」
遠くで誰かの声が聞こえた気がした。
気にすることなく、砲台としての役割を遂行する。
いやまあ、この役割は今思いついただけで、尚且つ自称なんだけど。
ともあれ袁紹軍本隊に乱立していた旗は、見渡す限り消失。
スッキリして見栄えも良くなったんじゃないか?
はっはっは!
よし、続けて行くぜ!
気を溜めようとしたところ
「また貴様かぁぁぁーーーーぶべっ!」
ブォンっと大鉈を振り回す髭が現れたが、金色だったので容赦なく蹴り倒す。
飛燕足刀は避けつつ攻撃出来て便利だな。
おっと、他の金色が来る前に掃除をしてしまおう。
足に気を溜め爆発させるように放出し、大きく跳躍。
その際、あらかじめ両腕に気力充足させておく。
「空中、覇王翔吼拳ッ!」
滞空したまま覇王翔吼拳で、残りの袁紹軍旗を撃ち抜く。
まだ、空中で覇王至高拳は無理だな。
どうも勝手が違う。
覇王翔吼拳で十分なんだがそれはそれ、修行は続けねば。
いや、それよりもだ。
超覇王至高拳に空中覇王翔吼拳。
これらを放って尚、意気軒昂。
仮想気力ゲージにはまだ余裕がある。
これぞ、修行の成果だな。
よーし、まだまだ行くぞぉー!
「飛燕疾風脚!」
* * *
戦況は乱戦。
俺はひとまず呂羽隊と合流し、主に金色を粉砕し続けている。
袁紹軍は、金色で目立つから旗が無くても余裕だな。
一方で公孫賛軍も、精鋭は白馬だから良く分かる。
袁術軍は金色モドキで、孫策隊は何となく南国っぽい気配があったりなかったり。
乱戦は乱戦だが、曹操軍に不利な気配はない。
金色はそこかしこで砕かれてるし、白馬は追い散らされてる有様。
誰に追い散らされてるんだろ。
ちょっと様子を見に行こうか、なっとぉ!?
ビュォオンッなんて凄い風切り音を鳴らしながら刃が通り過ぎた。
「ちっ、やっぱり避けるのね」
そこには、どこかで見たようなお姉さんが立っていた。
いつの間にか、金色は金色モドキへと変化していたらしい。
俺はそんな左方向へは動いてないから、金色モドキが動いてきたんだろう。
「ちょっと、聞いてるの?」
聞いてます。
「孫策か、久しぶりだな」
「ええ、お久しぶりね」
そう言うとジッと見てくる孫策さん。
おお、ないすばでぇ。
「何か用か?」
「……そうね。ねえあなた、私に仕えない?」
な、なんだってー!?
まさかのナンパ?
違うか。
しかし随分と唐突だな。
普通にリベンジかけてくるもんだと思ってたが。
とは言え、如何ともし難い。
「仮にも、曹操軍に所属する奴に言うことじゃないな」
行ってみたいし勧誘は嬉しいけど、ここで頷いたら曹操様にちょんぱされてしまう。
何を?
首だったらマシなんじゃないかな。
「そう、残念ね」
「ああ、残念だ」
この戦いが終わったら、とか言いたい。
でも、どこでだれが聞いてるか解らないから言えない。
壁に耳あり障子にメアリー。
ここ戦場だから壁なんてないし、日本じゃないから障子もないけどね!
ともかく、残念ながら断るしかなかった。
そうすると、彼女と俺はただの敵味方でしかない。
「無理矢理にでも、連れて行こうかしら?」
ググッと力を込める孫策さん。
まあ、こうなるよね。
俺としても手合せは願ってもない。
が、ここが戦場であることを忘れてはならない。
「韓忠。隊を率いて張遼のとこへ!」
孫策さんと戦うと、色んなものが巻き添えになっちまう。
ちょっと先で、張遼が金色モドキを粉砕してるのが見えた。
呂羽隊の安全策も兼ねて、ここらで点数稼ぎでもしておこう。
「へえ、いい覚悟ね」
どう致しまして。
ただ、言いながらペロリと舌なめずりするのは止めて頂きたい。
「さあ、かかって来い!」
「言われずとも!」
・超覇王至高拳
使用者はタクマ、と言うかMr.カラテ。
覇王至高拳を三連続で撃ち出す大技。
元々はMAX版龍虎乱舞の締めで使われていました。
もう50話ですって!
本当は48話で放浪編(仮)を終えたかったのですが、間に合いませんでした。
放浪編が終わる辺りで、年内の更新を締められればいいなと思っています。