武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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他者視点詰め合わせ


49 匂龍降脚蹴り

まったく、袁術ちゃんにも困ったもんだわ!

 

せっかく名声を稼いでも、動けなければ意味がない。

最初に袁紹が動いたときに援軍を出してくれてれば、決定的な隙になってたのに。

そうなってれば、もっと早く呉を再建できたはず。

 

それは冥林も穏も太鼓判を押してくれた。

でも、結局動かなかった。

 

もー、まだ袁術ちゃんの為に働かないといけないなんて。

今すぐ八つ裂きにしたくなっちゃう!

 

「姉様、落ち着いて……」

 

まあ、今は蓮華も戻って来て皆が揃ってるから良しとしましょう。

 

母様の遺志は必ず果たす。

そして、蓮華に継いで貰うの。

 

「それより雪蓮。これからが始まりだぞ」

 

冥林が言う。

そうよね、今回こそ袁術ちゃんも動くのだし。

 

「それでも、私が援軍に出向かないといけないのは嫌だわぁー」

 

「策殿。権殿が残って動いて下されば、問題なかろう?」

 

私の愚痴に、祭が窘めるよう応える。

それはそうなんだけど…。

まあ、母様の代からの宿将に窘められちゃ仕方ないわね。

 

「それに~、確か曹操さんのところには、あの人が居るんじゃないですかね~?」

 

穏がのんびりと言う。

あの人って……ああ、あの男。

確か、呂羽ね!

 

「ああ、雪蓮が打ち負かされたと言う男か」

 

「ちょっと冥林、私は打ち負かされてなんていないわ!」

 

ちょっと……そう、ちょっとだけ油断して逃がしちゃっただけよ!

 

でもそうね。

最初は曹操との戦いは周囲に任せて、袁術ちゃんの勢力を削ぐことのみ注力しようと思ってたけど。

 

アイツが居るなら、少しくらいは楽しんでも良いかしら。

次は本気で打ち破ってみせるわ。

 

あ、でもあの武才は中々のものだった。

跪かせて、孫呉のために使わせると言うのもありね!

ふふふ、楽しみ。

 

「姉様。あまり無茶はなさらないで下さい」

 

「もー、分かってるって!」

 

蓮華は心配性ねー。

でもそこが可愛いとこでもあるんだけど。

 

 

さて、遂に孫呉が再び世に出る時が来た。

ここから再び羽ばたくのよ。

 

「勇敢なる孫呉の精鋭よ。いざ、故国を取り戻す戦いへ参らん!」

 

出陣する兵たちを鼓舞し、鬨の声を上げる。

 

待ってなさい袁術ちゃん。

すぐに、その首刎ねてあげるから……。

 

 

* * * *

 

 

「桃香様。先程の使者が言う通りに城門が開きました!」

 

徐州を離れて、曹操さんの許可を貰って領内を通って益州へ。

みんなで力を合わせて向かったけれど、呂羽さんだけが居ない。

元々客将だったけど、曹操さんに引き留められちゃったの。

 

呂羽さんは大丈夫だって言ってたけど、やっぱり心配だよ…。

 

「呂羽なら問題ない。それより、益州を切り取る方に注力するべきだ」

 

そんな時、呂羽さんと長く共に行動してた華雄さんが言ってくれた。

呂羽さんなら、絶対そう言うからって。

別れても尚信頼出来る関係、かぁ。

 

でも…うん、そうだよね。

曹操さんに宣言した通り、私には私の夢がある。

絶対、ぜーったい、成し遂げてみせるんだから!

 

そのためには、後ろを振り向いてなんかいられないよね。

 

「既に益州では、太守の劉璋さんから民の心は離れているようです」

 

「各支城の将たちも、新しい保護者を求めています」

 

「桃香さまの持つ仁徳を慕いこそすれ、敵対することはほぼないと思います!」

 

朱里ちゃんや雛里ちゃんの言葉に背中を押され、益州の隅っこでまず地盤を確保。

ここから少しずつ、勢力を広げて行く予定にしてる。

 

愛紗ちゃんも鈴々ちゃんも頑張ってくれてるし、私が足を引っ張る訳には行かないよね!

 

「桃香様。この書簡の確認をお願いします」

 

……うぅ、それでもやっぱりお仕事量が多いよぅ。

 

「お茶をどうぞ」

 

「あ、ありがとう月ちゃん!」

 

「いえ…」

 

熱いお茶を出してくれる月ちゃん。

洛陽から名前を捨ててまで付いて来てくれる彼女たちのためにも、そして…

 

「何か手伝えること、ある?」

 

「詠ちゃん!お願いしていいの?」

 

「まあ、元がつくけど文官だったし。大事な時に倒れられても困るからね」

 

プイッと顔を背けて、それでも手伝ってくれる詠ちゃん。

月ちゃんと一緒に笑みを向けて、

 

「うん、ありがとう!」

 

一緒に頑張ろう!

 

 

* * * *

 

 

呂羽たちと別れて董卓様…もとい、月様たちと共に益州へ来た。

アイツが居なくなっても問題ないと思っていたが、重大な問題が発生した。

 

組手の相手が居ない。

 

今までは専らアイツや韓忠と行っていた。

これは由々しき事態だ。

 

呂布はあまりやる気がないし、関羽は何かと忙しそうだ。

張飛は劉備と一緒に居ることが多く、趙雲もあちこち動いている。

基本的に拠点を守る役割の私とは合わないことが多い。

 

結果として、対戦相手は副長に抜擢した牛輔となる。

 

「将軍、どうしたんすか?」

 

コイツも弱くはないのだが、何かこう…少し物足りないのだ。

気弾と言ったか。

あれを駆使してくる呂羽や、その薫陶を受けた韓忠とはやはり違う。

 

「牛輔。韓忠のようには出来ないのか?」

 

「ぬぁ!?人が気にしてることを容赦なく突いてくるとはっ」

 

呂羽が言っていたが、元々は韓忠より牛輔の方が上手だったらしい。

月様の護衛で離れていた期間で、抜かされてしまったそうなのだ。

今では結構な差がついてるとか?

徐州で合流した時鍛えなおしてたのだし、すぐに戻ったんじゃないのか。

 

「くっ…、そうであれば良いんですがね!」

 

「まあいい。組手をするぞ!」

 

 

牛輔は二刀を得物としつつ、呂羽に教わった蹴り技を交えて繰り出してくる。

 

「しゃああぁぁぁーーーッッ」

 

「はぁぁぁぁーーー!!」

 

一発の大きさなら呂布、手数の多さなら関羽か張遼。

牛輔にはどれも足りてない。

気合は十分なのだがな。

 

「匂龍降脚蹴り!」

 

「む!」

 

咄嗟に出した蹴り技は、中々に重い。

 

「これは、呂羽の?」

 

「ちぃ、受けられましたか!…ええ、幾つか教わりまして」

 

ほほう。

ならば、他にもあると言うことか。

 

「よし、貴様が持つ武を全て出し切るまで続けるぞ!」

 

「望むところだぁー!」

 

ふふふ、流石は呂羽。

この場に居なくとも楽しませてくれる。

 

よし、修行を重ねてもっともっと強くなるぞ。

次会った時は、韓忠もろとも吹き飛ばしてくれよう!

 

 




三人分でした。
やはり華雄姉さんは書きやすいですね。

・匂龍降脚蹴り
ロバート使用の特殊技です。
前方にちょんと跳ねて回し蹴りを放つ技。
キャンセル龍神脚で着地とかやってました。

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