武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
まったく、袁術ちゃんにも困ったもんだわ!
せっかく名声を稼いでも、動けなければ意味がない。
最初に袁紹が動いたときに援軍を出してくれてれば、決定的な隙になってたのに。
そうなってれば、もっと早く呉を再建できたはず。
それは冥林も穏も太鼓判を押してくれた。
でも、結局動かなかった。
もー、まだ袁術ちゃんの為に働かないといけないなんて。
今すぐ八つ裂きにしたくなっちゃう!
「姉様、落ち着いて……」
まあ、今は蓮華も戻って来て皆が揃ってるから良しとしましょう。
母様の遺志は必ず果たす。
そして、蓮華に継いで貰うの。
「それより雪蓮。これからが始まりだぞ」
冥林が言う。
そうよね、今回こそ袁術ちゃんも動くのだし。
「それでも、私が援軍に出向かないといけないのは嫌だわぁー」
「策殿。権殿が残って動いて下されば、問題なかろう?」
私の愚痴に、祭が窘めるよう応える。
それはそうなんだけど…。
まあ、母様の代からの宿将に窘められちゃ仕方ないわね。
「それに~、確か曹操さんのところには、あの人が居るんじゃないですかね~?」
穏がのんびりと言う。
あの人って……ああ、あの男。
確か、呂羽ね!
「ああ、雪蓮が打ち負かされたと言う男か」
「ちょっと冥林、私は打ち負かされてなんていないわ!」
ちょっと……そう、ちょっとだけ油断して逃がしちゃっただけよ!
でもそうね。
最初は曹操との戦いは周囲に任せて、袁術ちゃんの勢力を削ぐことのみ注力しようと思ってたけど。
アイツが居るなら、少しくらいは楽しんでも良いかしら。
次は本気で打ち破ってみせるわ。
あ、でもあの武才は中々のものだった。
跪かせて、孫呉のために使わせると言うのもありね!
ふふふ、楽しみ。
「姉様。あまり無茶はなさらないで下さい」
「もー、分かってるって!」
蓮華は心配性ねー。
でもそこが可愛いとこでもあるんだけど。
さて、遂に孫呉が再び世に出る時が来た。
ここから再び羽ばたくのよ。
「勇敢なる孫呉の精鋭よ。いざ、故国を取り戻す戦いへ参らん!」
出陣する兵たちを鼓舞し、鬨の声を上げる。
待ってなさい袁術ちゃん。
すぐに、その首刎ねてあげるから……。
* * * *
「桃香様。先程の使者が言う通りに城門が開きました!」
徐州を離れて、曹操さんの許可を貰って領内を通って益州へ。
みんなで力を合わせて向かったけれど、呂羽さんだけが居ない。
元々客将だったけど、曹操さんに引き留められちゃったの。
呂羽さんは大丈夫だって言ってたけど、やっぱり心配だよ…。
「呂羽なら問題ない。それより、益州を切り取る方に注力するべきだ」
そんな時、呂羽さんと長く共に行動してた華雄さんが言ってくれた。
呂羽さんなら、絶対そう言うからって。
別れても尚信頼出来る関係、かぁ。
でも…うん、そうだよね。
曹操さんに宣言した通り、私には私の夢がある。
絶対、ぜーったい、成し遂げてみせるんだから!
そのためには、後ろを振り向いてなんかいられないよね。
「既に益州では、太守の劉璋さんから民の心は離れているようです」
「各支城の将たちも、新しい保護者を求めています」
「桃香さまの持つ仁徳を慕いこそすれ、敵対することはほぼないと思います!」
朱里ちゃんや雛里ちゃんの言葉に背中を押され、益州の隅っこでまず地盤を確保。
ここから少しずつ、勢力を広げて行く予定にしてる。
愛紗ちゃんも鈴々ちゃんも頑張ってくれてるし、私が足を引っ張る訳には行かないよね!
「桃香様。この書簡の確認をお願いします」
……うぅ、それでもやっぱりお仕事量が多いよぅ。
「お茶をどうぞ」
「あ、ありがとう月ちゃん!」
「いえ…」
熱いお茶を出してくれる月ちゃん。
洛陽から名前を捨ててまで付いて来てくれる彼女たちのためにも、そして…
「何か手伝えること、ある?」
「詠ちゃん!お願いしていいの?」
「まあ、元がつくけど文官だったし。大事な時に倒れられても困るからね」
プイッと顔を背けて、それでも手伝ってくれる詠ちゃん。
月ちゃんと一緒に笑みを向けて、
「うん、ありがとう!」
一緒に頑張ろう!
* * * *
呂羽たちと別れて董卓様…もとい、月様たちと共に益州へ来た。
アイツが居なくなっても問題ないと思っていたが、重大な問題が発生した。
組手の相手が居ない。
今までは専らアイツや韓忠と行っていた。
これは由々しき事態だ。
呂布はあまりやる気がないし、関羽は何かと忙しそうだ。
張飛は劉備と一緒に居ることが多く、趙雲もあちこち動いている。
基本的に拠点を守る役割の私とは合わないことが多い。
結果として、対戦相手は副長に抜擢した牛輔となる。
「将軍、どうしたんすか?」
コイツも弱くはないのだが、何かこう…少し物足りないのだ。
気弾と言ったか。
あれを駆使してくる呂羽や、その薫陶を受けた韓忠とはやはり違う。
「牛輔。韓忠のようには出来ないのか?」
「ぬぁ!?人が気にしてることを容赦なく突いてくるとはっ」
呂羽が言っていたが、元々は韓忠より牛輔の方が上手だったらしい。
月様の護衛で離れていた期間で、抜かされてしまったそうなのだ。
今では結構な差がついてるとか?
徐州で合流した時鍛えなおしてたのだし、すぐに戻ったんじゃないのか。
「くっ…、そうであれば良いんですがね!」
「まあいい。組手をするぞ!」
牛輔は二刀を得物としつつ、呂羽に教わった蹴り技を交えて繰り出してくる。
「しゃああぁぁぁーーーッッ」
「はぁぁぁぁーーー!!」
一発の大きさなら呂布、手数の多さなら関羽か張遼。
牛輔にはどれも足りてない。
気合は十分なのだがな。
「匂龍降脚蹴り!」
「む!」
咄嗟に出した蹴り技は、中々に重い。
「これは、呂羽の?」
「ちぃ、受けられましたか!…ええ、幾つか教わりまして」
ほほう。
ならば、他にもあると言うことか。
「よし、貴様が持つ武を全て出し切るまで続けるぞ!」
「望むところだぁー!」
ふふふ、流石は呂羽。
この場に居なくとも楽しませてくれる。
よし、修行を重ねてもっともっと強くなるぞ。
次会った時は、韓忠もろとも吹き飛ばしてくれよう!
三人分でした。
やはり華雄姉さんは書きやすいですね。
・匂龍降脚蹴り
ロバート使用の特殊技です。
前方にちょんと跳ねて回し蹴りを放つ技。
キャンセル龍神脚で着地とかやってました。