武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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48 燕舞脚

凪と李典に白い目で見られてから数日後、俺は改めて凪と対峙していた。

 

あの時は結局、韓忠を介抱することで終わってしまった。

気を使い果たすと、通常行動にも支障を来してしまうからな。

まあ仕方ない。

以前、凪の時もお姫様抱っこで役得したことだし。

 

ともあれ凪には再戦を約し、今に至る。

 

「さて、修行の成果を見せて貰おうか」

 

「…行きます…っ」

 

何やら弟子みたいに扱ってる気もするが、やむを得ない。

覇王翔吼拳を伝授すると言った手前、抜かりがあってはいかんからな。

凪はその習得に難儀している。

そこで、弱点を洗い出して重点的に鍛えているのだ。

 

助言と自主練を経て、この対戦へと繋がった。

勿論、俺も修行は重ねている。

お互い得るものは多いだろう。

 

 

「シッ!」

 

「はあっ」

 

拳と拳がぶつかり合う。

前に助言したのは、なるべく拳を使えということ。

凪は足技が得意であるし、これを伸ばすのは当然のことだ。

だが覇王翔吼拳を使う以上、上半身を鍛えねばならない。

気力充填は問題なさそうだったから、あとは薄く硬く伸ばしていけば……。

 

「やあーっ!」

 

「っとぉ」

 

なんて考えていると、左正拳から踏みつけ蹴り、そして突き上げアッパーに円振蹴りの四連撃が来た。

拳中心だったところに織り交ぜるのは、実に効果的だ。

龍虎乱舞でも基本は同じな訳だし。

 

正拳を捌き、蹴りを躱してアッパーと蹴りはそれぞれ打ち合い相殺。

バックステップで一旦距離を取ると、追っては来なかった。

 

「燕舞脚か」

 

「はい。どうでしたか?」

 

「悪くない。いや、中々の鋭さだったぜ」

 

そう言うと、僅かに表情が綻ぶ。

凪は基本的に真面目なんだが、その中でちょこちょこ見せる、こういった姿が魅力的なんだよな。

うむうむ、眼福なり。

 

「気の巡らせ具合も良い感じだ。このまま続けて行けば…」

 

「はい、分っています」

 

袁紹が動くのが近いと分かった今、凪の仕上げは急務だ。

しかし、覇王翔吼拳の完成は間に合わないだろう。

 

「よし、続けるぞ!」

 

「はい!」

 

よって、少しでも近付けるように全力でフォローせねばなるまい。

最後には、自力で辿り着いて貰うことになるだろうからな。

 

 

* * *

 

 

その後も凪の修行を中心として、夏侯淵の手伝いに出かけたり李典と一緒にDIYに勤しんだり。

北郷君に相談したりされたり、夏候惇や張遼、時には許緒とも試合を行ったり。

息抜きと称した曹操様に絡まれたり、北郷君と街の警邏に繰り出したり。

荀彧に遠くから睨まれたり典韋に怒られたり、于禁と一緒に新兵調練を行ったり。

韓忠含む呂羽隊に稽古を付けたりして過ごした。

 

そして、遂に…。

 

 

「袁紹が動いたわ」

 

軍議が開かれ、その事実が報知される。

いよいよか!

 

「敵は袁紹だが、袁術からも援軍が来る。それと、公孫賛もだな」

 

夏侯淵がチラリと俺を見て、公孫賛の情報を付け加えた。

そういや、袁紹・公孫賛連合は継続してたんだった。

余りにも勢力に差があるから忘れそうになってしま…いや、すまん公孫賛。

 

「単純な兵力なら、向こうが圧倒的に上か…」

 

北郷君が呟くが、確かにそうだな。

袁紹、袁術、公孫賛がまとめて掛ってくるとなると、結構な物量になる。

袁術軍には孫策がいるのだろうし。

 

孫策は、この戦いを利用して独立するんだったっけ?

良く覚えてないな。

まあ、未だ独立を果たしてないなら恐らくそうなんだろう。

 

となると、世の中が大きく動く場面か。

孫策を助けて袁術軍を攻めまくり、呉へ恩を売る言う道もある。

 

袁術と言えば、徐州に侵攻して劉備ちゃんが逃げ出さざるを得なかった一因だし。

まあ劉備は益州、蜀にあってこそ。

なんて考えるとそれほどでもないか?

 

とは言え、その道は選べないな。

いや、孫策に恩を売ると言うのは可能ならやりたいところだが。

 

何にせよ袁紹、そして公孫賛。

こちらが優先なのは間違いない。

 

「確かに兵力では劣る。だが我ら精兵は奴らに勝る。そうでしょう?」

 

「「「はいっ!!!」」」

 

方針は徹底迎撃。

何なら追撃。

 

他にもネコ耳軍師が色々言ってたが、正直聞き流してた。

俺にとって大事なのは、持ち場がどこで何を求められているかだけだからな。

あとは何をしていいのか、ダメなのか。

 

他に必要なことがあれば教えてくれるだろう。

副長あたりが。

 

そんなこんなで軍議は終わり、出陣前の準備に掛ることになる、が。

その前に夏侯淵に呼び止められた。

 

「ちょっと呂羽は残れ。一刀と凪もだ」

 

あ、はい。

 

「分かった」

 

直立し、無言で頷く凪。

 

 

「さて、呂羽には確認しておかねばならないことがある」

 

人数が捌けてから夏侯淵が言う。

なんでしょうか。

 

「最初に言ったことに変わりはないのか?」

 

客将になった時、曹操様たちを怒らせたことかな。

再度旅に出るタイミングの話。

 

「ああ、袁紹を倒したらまた旅に出ようと思う」

 

「…そうか」

 

「ええっ!?」

 

北郷君が超ビックリしてる。

前の時も似たような反応だったなぁ。

そんな、懐かしい気持ちになった。

 

「あー……いや、そうですよね。客将ですもんねぇ」

 

うわぁ、そんな残念そうな顔しないでくれぇ。

流石は三国一男女に持てる男、光るものg

 

「一刀、気持ちは解るがあまり言ってやるな。呂羽が困ってるぞ?」

 

そんなニヤニヤしながら言わんで下さい。

 

「そんなことよりだ。凪への手当はどうなってる?」

 

何に対する手当が明言してくれませんかねぇっ

せめて、ニヤニヤしたまま言わないで下さい。

 

「口頭伝承や座学は粗方終わったが、完成には至らない。済まないが、後は…」

 

「はい……。秋蘭様、申し訳ありません」

 

「そうか。いや、伝えてくれただけでも有り難い」

 

三者三様、残念な空気が漂う。

まあ、決めてないけど袁紹を駆逐してすぐ消える訳じゃない。

時間や機会はまだあるはずだ。

ギリギリまで過ごすことは出来るはず。

 

「あ、そういえば呂羽さん。あのことは……うぼぁっ」

 

唐突に北郷君が要らんこと言いかけたので、ドムッと腹に一撃。

少なくとも、凪が居る前で言うなし。

チラチラ視線を投げかけながら言うから、何かあるようにしか見えんだろうが。

 

「あの、隊長?…それに呂羽殿、あの事と言うのは…?」

 

「ゲホッ。な、何でもないぞ凪!」

 

「ああ、大したことじゃないさ」

 

「……そうですか」

 

納得いかないのだろう、首を傾げながらも引き下がる凪。

良い子だ。

 

あとで北郷君とはじっくり話し合う必要があるな。

 

夏侯淵さんは知ってるからか、ニヤニヤと生温い目で見守ってくれていた。

そんな目で見るな、と言いたいが実際には助かっている。

ここはグッと我慢だ…。

 

 

後日、曹操軍は出陣。

俺は前線にあって凪、李典、于禁の三人と同道する。

……何か懐かしいな。

 

 

 




必殺技名が尽きて来たので、特殊技も入れて行こうと思います。

活動報告に「備忘録Ⅰ」を載せてみました。
ほぼ自分用ですが、興味ある方はどうぞ。

放浪編(仮)は今回で終わりです。
次回からは漂流編が始まります。嘘です。

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