武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない 作:桜井信親
曹操様について行った先には、李典が待っていた。
正直、この時点で嫌な予感はしていたよ。
「呂羽」
「なんでしょう?」
周囲に人気はない。
此処に居るのは曹操様、夏候惇、李典と俺だけだ。
そんなところで曹操様は俺に向き直り、言い放った。
「凪に手を出すのなら、イロイロ覚悟しないとダメよ?」
……うん。
イロイロ待って欲しい。
まあ何となく、そういう方向かなとは思ってた。
でも当たって欲しくはなかったなぁ。
「何!?呂羽、貴様。凪に手を出したのかっ」
「落ち着きなさい春蘭。まだ出してないわ」
まだって言うな。
「たはは。やっぱ兄ちゃん、やるなぁ~」
李典は黙ってなさい。
「…話はそれだけですか?」
やや憮然として話を打ち切りにかかる。
こういう時は、強気に出た方が良いのだ。
「このくらいで怒らないの。……麗羽が動いたわ」
「袁紹が?」
「ええ。この前、秋蘭と真桜と一緒に出て貰ったでしょ?」
ああ、あの時の。
詳しく話を聞くところ、袁紹が袁術と共に大攻勢をかける動きがあるとのことだ。
ちなみに俺たちが行ったところは、袁術の支配下にあった。
俺は知らんかったが、夏侯淵辺りがちゃんと動いてたんだろうな。
李典もちょくちょく補足を入れてきた。
マジか。
「…なんやの?兄ちゃん、変な顔して」
「いや、李典ってちゃんと仕事出来るんだな」
つい、まじまじと李典の顔を凝視してしまった。
よほど不思議そうな顔をしてたんだろう。
微妙そうな顔をしている。
「んなっ?それは失礼やで!」
「ああ、すまん。しかし普段からはとても…」
戦闘時はともかく、それ以外で真面目に仕事をしているという印象が全くない。
これは基本的に于禁も同じだが、あいつは新兵調練とかしてるからな。
確かに失礼な反応だったが、普段が普段なのだから許して欲しい。
ギャーギャーと非難してくる李典を宥めつつ、曹操様の話を聞く。
「貴方は、麗羽に何か思うところがあるのでしょう?」
「ええ、まあ」
旗を折りたい。
「そして、あの子を撃破したら再び旅に出るのだと」
「そのつもりです」
全ては我が野望のため。
野望と書いて我欲と読む。
似たようなもんだ。
「貴方が叶えたい、その目的って何なの?」
そういや聞かれて無かったな。
北郷君のことは口が裂けても言えない。
どうしようか。
「それは言えない」
呉に行ってみたいとか、そういうのは言える気もする。
が、それ自体が目的じゃないしなぁ。
ちょっと悩んだ挙句、内緒にすることにした。
「そう」
案外あっさり引いてくれて助かった。
まあ、以前にも軽く問答したことだしな。
俺より強い奴に会いに行く!
とか答えても良かったが、呂布ちんとはもう会ってるし。
夏候惇が超怒りそうだから止めておいた。
ああ、強い奴と言えば。
孫策と再戦はしたいな。
龍虎乱舞をヒットさせながら、KO出来なかったのは至極残念だ。
次こそKOしてみせる!
「まあいいわ。私が言いたいことは、戦いは近いと言うことよ」
だから、ちゃんと備えておくように。
そう通告して、曹操様は夏候惇を連れて去って行った。
「つまり、ちゃんと凪の面倒みろてゆーことみたいやでー」
李典は残った。
うん、まあ分かってるよ。
「さ、凪んとこ行こか」
「ああ。…李典も来るのか?」
「ん。華琳様に頼まれてん。イロイロとな!」
にひひと笑う李典は、実に楽しそうだ。
変わらず嫌な予感はするが、断る理由もないし連れ立って修練場へと向かった。
しかし、そうか。
袁紹との激突が近いと言うことは、修行の質を上げないといけない。
自分、凪、韓忠ほか呂羽隊一式。
それぞれ、一段から二段階向上させよう。
次の戦いでは、凪にも袁紹軍旗を折って欲しいものだ。
* * *
修練場に近付くと、大きな音が聞こえてきた。
ちなみにこの修練場は、俺や呂羽隊が宿を取ってる場所の裏手にある。
常に練兵場を占有するのも心苦しいからな。
今日は呂羽隊は非番のはず。
誰か自主練でもしてるのか。
そんな軽い考えでチラッと覗く。
「シィッ。飛燕、…疾風拳!」
「はぁぁぁーーー、龍斬翔ッ」
修練場に居たのは見慣れた二人。
対戦中の様だ。
今までとは違い、サラシを緩めたのか胸のたわみが気になる男装の麗人・韓忠。
そして、気弾を扱う武人・凪。
韓忠は、先日教えた飛燕疾風拳を放ったところだった。
鉈を持ち替え、身体を捻ってからの踏み込み正拳突きのようなもので突進する。
わざわざ鉈を持ち替えるのには、当然理由がある。
極限流には武器がないため、扱うことにより軸がずれてしまうためだ。
慣れてしまえばどうにかなるだろうが、今の段階では無理は出来ないだろう。
対して凪は、韓忠が放った飛燕疾風拳を踏み込むことで避けて見せた。
そこから蹴り上げの龍斬翔。
韓忠も咄嗟に避ける動作は見せたが、こと格闘技に置いては凪に一日の長がある。
ゴリンと痛そうな音を響かせ、韓忠は吹っ飛んだ。
図らずも、極限流同士の戦いを見てしまった。
まさかこんなものを目にする日が来ようとは…。
何だか感慨深いものがあるな。
おっと、戦いは継続の見通しだ。
韓忠は素早く起き上がり、鉈を構えている。
凪も気を溜めており、今にも気弾を発射させようと言う感じ。
「兄ちゃん、止めた方がええんとちゃう?」
そういや一緒に来てた李典が、心配してかそう言う。
だが俺としては、韓忠の成長ぶりを見ていたい。
「もうちょっと…」
だから少しの間李典を留め、観戦を続ける。
すると凪が気弾を放ち、韓忠に向かった。
韓忠はどうするかな?
「はぁぁぁぁぁ……毒撃蹴!」
シュバン!
そんな音がして、凪の気弾が掻き消えた。
「なっ!?」
弱いとは言え、得意の気弾を打ち消された凪も驚いているが、その瞬間を見てた俺も驚いた。
韓忠は、気力を拡充させた上段回し蹴りを放って気弾を散らしたのだ。
それだけでも驚きなのだが、更にそこから少なからず気が放出されていたのに驚いた。
あいつは気の放出は出来なかったと思っていたが…。
「兄ちゃん!」
おっと、驚きのまま考察に入ってしまってた。
気弾を散らしたとは言え、無理をした韓忠はもう動けない。
そこに凪は容赦なく追撃を仕掛けようとしていた。
「そこまで!」
俺の声に反応し、凪の踵落としは一瞬ズレて韓忠の真横に落ちた。
…あれ、俺が止めてなかったら直撃コースだったのか?
「リョウ殿!?」
「…隊長」
フラリと倒れそうになる韓忠を支える。
俺の腕の中、疲労のためかもたれ掛る韓忠を観察。
ふむ、気の使い過ぎだな。
あんな無理するくらいなら、避けるべきだった。
その辺りはまだまだ経験不足か。
「凪も韓忠も、良い戦いだった。俺も負けてはいられんな!」
俺も触発されて止まない。
韓忠の介抱が終わったら、凪との戦いに入るとしようか。
…ん?
凪がジトーッと冷たい目で見ている。
李典も、何故か似たような目だ。
韓忠は腕の中。
「な、何だ?」
応えてくれる奴は、居なかった。
ギリギリ間に合いました。
・飛燕疾風拳
ユリ、ちょーナッコォ!
腕を振り回す素振りは入れてません。
後半またそっち系に行ってしまいましたが、袁紹との戦いが近いです。