武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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47 飛燕疾風拳

曹操様について行った先には、李典が待っていた。

正直、この時点で嫌な予感はしていたよ。

 

「呂羽」

 

「なんでしょう?」

 

周囲に人気はない。

此処に居るのは曹操様、夏候惇、李典と俺だけだ。

 

そんなところで曹操様は俺に向き直り、言い放った。

 

「凪に手を出すのなら、イロイロ覚悟しないとダメよ?」

 

……うん。

イロイロ待って欲しい。

 

まあ何となく、そういう方向かなとは思ってた。

でも当たって欲しくはなかったなぁ。

 

「何!?呂羽、貴様。凪に手を出したのかっ」

 

「落ち着きなさい春蘭。まだ出してないわ」

 

まだって言うな。

 

「たはは。やっぱ兄ちゃん、やるなぁ~」

 

李典は黙ってなさい。

 

「…話はそれだけですか?」

 

やや憮然として話を打ち切りにかかる。

こういう時は、強気に出た方が良いのだ。

 

「このくらいで怒らないの。……麗羽が動いたわ」

 

「袁紹が?」

 

「ええ。この前、秋蘭と真桜と一緒に出て貰ったでしょ?」

 

ああ、あの時の。

 

詳しく話を聞くところ、袁紹が袁術と共に大攻勢をかける動きがあるとのことだ。

ちなみに俺たちが行ったところは、袁術の支配下にあった。

俺は知らんかったが、夏侯淵辺りがちゃんと動いてたんだろうな。

 

李典もちょくちょく補足を入れてきた。

マジか。

 

「…なんやの?兄ちゃん、変な顔して」

 

「いや、李典ってちゃんと仕事出来るんだな」

 

つい、まじまじと李典の顔を凝視してしまった。

よほど不思議そうな顔をしてたんだろう。

微妙そうな顔をしている。

 

「んなっ?それは失礼やで!」

 

「ああ、すまん。しかし普段からはとても…」

 

戦闘時はともかく、それ以外で真面目に仕事をしているという印象が全くない。

これは基本的に于禁も同じだが、あいつは新兵調練とかしてるからな。

 

確かに失礼な反応だったが、普段が普段なのだから許して欲しい。

ギャーギャーと非難してくる李典を宥めつつ、曹操様の話を聞く。

 

「貴方は、麗羽に何か思うところがあるのでしょう?」

 

「ええ、まあ」

 

旗を折りたい。

 

「そして、あの子を撃破したら再び旅に出るのだと」

 

「そのつもりです」

 

全ては我が野望のため。

野望と書いて我欲と読む。

似たようなもんだ。

 

「貴方が叶えたい、その目的って何なの?」

 

そういや聞かれて無かったな。

北郷君のことは口が裂けても言えない。

どうしようか。

 

「それは言えない」

 

呉に行ってみたいとか、そういうのは言える気もする。

が、それ自体が目的じゃないしなぁ。

ちょっと悩んだ挙句、内緒にすることにした。

 

「そう」

 

案外あっさり引いてくれて助かった。

まあ、以前にも軽く問答したことだしな。

 

俺より強い奴に会いに行く!

とか答えても良かったが、呂布ちんとはもう会ってるし。

夏候惇が超怒りそうだから止めておいた。

 

ああ、強い奴と言えば。

孫策と再戦はしたいな。

 

龍虎乱舞をヒットさせながら、KO出来なかったのは至極残念だ。

次こそKOしてみせる!

 

「まあいいわ。私が言いたいことは、戦いは近いと言うことよ」

 

だから、ちゃんと備えておくように。

そう通告して、曹操様は夏候惇を連れて去って行った。

 

「つまり、ちゃんと凪の面倒みろてゆーことみたいやでー」

 

李典は残った。

うん、まあ分かってるよ。

 

「さ、凪んとこ行こか」

 

「ああ。…李典も来るのか?」

 

「ん。華琳様に頼まれてん。イロイロとな!」

 

にひひと笑う李典は、実に楽しそうだ。

変わらず嫌な予感はするが、断る理由もないし連れ立って修練場へと向かった。

 

しかし、そうか。

袁紹との激突が近いと言うことは、修行の質を上げないといけない。

自分、凪、韓忠ほか呂羽隊一式。

それぞれ、一段から二段階向上させよう。

 

次の戦いでは、凪にも袁紹軍旗を折って欲しいものだ。

 

 

* * *

 

 

修練場に近付くと、大きな音が聞こえてきた。

 

ちなみにこの修練場は、俺や呂羽隊が宿を取ってる場所の裏手にある。

常に練兵場を占有するのも心苦しいからな。

 

今日は呂羽隊は非番のはず。

誰か自主練でもしてるのか。

 

そんな軽い考えでチラッと覗く。

 

 

「シィッ。飛燕、…疾風拳!」

 

「はぁぁぁーーー、龍斬翔ッ」

 

修練場に居たのは見慣れた二人。

対戦中の様だ。

 

今までとは違い、サラシを緩めたのか胸のたわみが気になる男装の麗人・韓忠。

そして、気弾を扱う武人・凪。

 

韓忠は、先日教えた飛燕疾風拳を放ったところだった。

鉈を持ち替え、身体を捻ってからの踏み込み正拳突きのようなもので突進する。

 

わざわざ鉈を持ち替えるのには、当然理由がある。

極限流には武器がないため、扱うことにより軸がずれてしまうためだ。

慣れてしまえばどうにかなるだろうが、今の段階では無理は出来ないだろう。

 

対して凪は、韓忠が放った飛燕疾風拳を踏み込むことで避けて見せた。

そこから蹴り上げの龍斬翔。

 

韓忠も咄嗟に避ける動作は見せたが、こと格闘技に置いては凪に一日の長がある。

ゴリンと痛そうな音を響かせ、韓忠は吹っ飛んだ。

 

図らずも、極限流同士の戦いを見てしまった。

まさかこんなものを目にする日が来ようとは…。

何だか感慨深いものがあるな。

 

おっと、戦いは継続の見通しだ。

韓忠は素早く起き上がり、鉈を構えている。

凪も気を溜めており、今にも気弾を発射させようと言う感じ。

 

「兄ちゃん、止めた方がええんとちゃう?」

 

そういや一緒に来てた李典が、心配してかそう言う。

だが俺としては、韓忠の成長ぶりを見ていたい。

 

「もうちょっと…」

 

だから少しの間李典を留め、観戦を続ける。

すると凪が気弾を放ち、韓忠に向かった。

韓忠はどうするかな?

 

 

「はぁぁぁぁぁ……毒撃蹴!」

 

シュバン!

そんな音がして、凪の気弾が掻き消えた。

 

「なっ!?」

 

弱いとは言え、得意の気弾を打ち消された凪も驚いているが、その瞬間を見てた俺も驚いた。

 

韓忠は、気力を拡充させた上段回し蹴りを放って気弾を散らしたのだ。

それだけでも驚きなのだが、更にそこから少なからず気が放出されていたのに驚いた。

あいつは気の放出は出来なかったと思っていたが…。

 

「兄ちゃん!」

 

おっと、驚きのまま考察に入ってしまってた。

気弾を散らしたとは言え、無理をした韓忠はもう動けない。

そこに凪は容赦なく追撃を仕掛けようとしていた。

 

「そこまで!」

 

俺の声に反応し、凪の踵落としは一瞬ズレて韓忠の真横に落ちた。

…あれ、俺が止めてなかったら直撃コースだったのか?

 

「リョウ殿!?」

 

「…隊長」

 

フラリと倒れそうになる韓忠を支える。

俺の腕の中、疲労のためかもたれ掛る韓忠を観察。

 

ふむ、気の使い過ぎだな。

あんな無理するくらいなら、避けるべきだった。

その辺りはまだまだ経験不足か。

 

「凪も韓忠も、良い戦いだった。俺も負けてはいられんな!」

 

俺も触発されて止まない。

韓忠の介抱が終わったら、凪との戦いに入るとしようか。

 

…ん?

 

凪がジトーッと冷たい目で見ている。

李典も、何故か似たような目だ。

韓忠は腕の中。

 

「な、何だ?」

 

応えてくれる奴は、居なかった。

 

 

 




ギリギリ間に合いました。

・飛燕疾風拳
ユリ、ちょーナッコォ!
腕を振り回す素振りは入れてません。

後半またそっち系に行ってしまいましたが、袁紹との戦いが近いです。

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