武器を持った奴が相手なら、覇王翔吼拳を使わざるを得ない   作:桜井信親

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46 龍仙拳

凪に覇王翔吼拳の伝授を開始したが、会得するのはまだまだ先になるだろう。

そう夏侯淵に報告すると、満足そうに頷いてくれた。

 

おや、以前のトゲトゲしい雰囲気がウソのように穏やかだ。

怒りは鎮まったのか?

 

「弟子でもないのに伝授させるなどと、無理を言って済まなかったな」

 

などと謝られる始末。

あれー?

 

「いや、別に問題ないが…」

 

思わず語尾が濁ってしまうのも仕方ないよな。

でもこれじゃ、何かあるって言ってるようなもんだ。

 

「どうした?」

 

その姿はまさにクールビューティ夏侯淵さん。

指示が通ったから、だけでこんなにはなるまい。

 

「その、もう怒って無いのか?」

 

ええい、ままよ!

正直に聞いてしまえ!

 

そう尋ねると、一瞬キョトンとした表情をした後に薄く笑った。

笑い方だけでもう怒って無いのが解るよ。

 

「ふふ、大丈夫だ。もう怒って無い。と、言うよりも…」

 

チラリと流し見て、含み笑い。

そんな姿も魅力的です。

 

「途中からは芝居だったのだ」

 

な、なんだってーっ?

 

「華琳様がな、お前はそういうのに弱そうだからと…」

 

見透かされてたーっ

くぅ、騙された…。

 

「はじめに怒ったのは事実だ。しかし、あれも戦場のことだからな」

 

怒りを引きずる程のことはない、とのことだった。

そして、駆け引きのために引きずってるように見せかけていたと。

 

ぬぅ、やはりそっち方面ではこの陣営は強いな。

敵う気がしない。

 

「お陰で優位に進められたようだ。気に障ったか?」

 

「完全に騙されたよ。もう怒って無いなら、それでいい」

 

いやはや、参ったね。

でも言葉通り、もう怒って無いと言うことの方が大事。

一安心と言える。

 

「ところで」

 

ん?

 

「凪を嫁にするのか?」

 

(゚д゚)

 

「…なんだって?」

 

「一刀が言ってたらしいぞ。お前が凪に求婚紛いのことをした、とな」

 

北郷君ーーーっっ!?

 

「ああ、一刀を責めないでくれ。華琳様に隠し事など、有り得ないと言うだけだからな」

 

ふふっと悪い笑みを見せる夏侯淵さん。

…北郷君、なんかゴメン。

でも許さない。

覚えとけ。

 

「求婚、と言う訳では…」

 

「なに、気にすることは無い。これを機に、此処に根を下ろしたらどうだ?」

 

なんか勧誘されてますが…。

むしろ俺が、凪を連れて行く可能性は考えないんですかねぇ。

 

いや、当然に許さないだろうし、凪を出すつもりもないだろう。

その辺り、曹操様は徹底してる気がする。

靡かない俺を客将で許したのも、そういうところがあるからだろう。

 

「それは流石に飛躍しすぎだぞ」

 

「ふふ、そうだな」

 

聞く気ねぇ…。

ニヤニヤを止めない夏侯淵から逃げるように辞去した。

 

北郷君はどこだぁぁぁぁーーーっっ

 

 

* * *

 

 

「あの、呂羽さん。何で俺と対峙してるんですか?」

 

ここは練兵場。

あの後、夏候惇と一緒に居た北郷君を発見。

二人を誘ってやって来た。

 

「いやなに、ちょっと北郷君に稽古をつけてやろうと思ってな」

 

紛うこと無き八つ当たりですが。

 

「ちょ、死んじゃう!」

 

大丈夫、先っちょだけだから。

 

「呂羽、北郷などでなく私と戦え!」

 

「北郷君との試合が終わってからな」

 

「今、試合って言ったぁ!?」

 

ん?間違ったかな?

大丈夫、大体合ってる。

 

「さあ行くぞ!」

 

「北郷!無様な真似は許さんぞっ」

 

「春蘭…。くっ、来い!」

 

では遠慮なく。

 

 

「龍仙拳!」

 

ちぇいやぁーっと夏候惇に撃ち込む、気を纏った俺の右正拳が唸る。

ガキンッと柄で受けられた。

どっちにしても、そんな音は普通しないよな。

 

 

北郷君?

そこで大の字になって伸びてるよ。

前回より持たなかったのは、俺の拳に雑念があったからだろう。

 

先っちょだけとの言葉通り、先端だけ何回か当てに行ったからな。

直接的に気を叩き込むのは避けたが、流石に厳しかったようだ。

 

あっという間に追い詰められて、吹っ飛ぶ北郷君。

手加減はしたけど、ちょっと篭っちゃったかも。

ごめんよ。

 

そして、続けて夏候惇との手合せに移行した訳だ。

 

何合か打ち合い、攻防を重ねたがやはり強い。

魏武の大剣を称すだけのことは有る。

 

ところでそのアホ毛。

もう一つの武器になりそうだよな。

とても鋭く見える。

 

「どこを見ている!」

 

貴女のアホ毛です。

 

大振り上段打ち下ろしは、華雄姉さんでも見慣れていた。

しかし、その速さ鋭さなどが全く違う。

余所見してたら一瞬でズンバラリンだな。

 

張遼や呂布ちんもそうだが、人それぞれ動きに特色が出てる。

レベル的には格下になってしまうが、韓忠も蹴りを絡めての鉈攻撃は中々侮れない。

 

「ずぇいぁーっ」

 

夏候惇がぶおーんと振り回す刀を、気を込めて受けて取る。

真剣白羽取り、もどき!

 

「んなっ?」

 

驚く夏候惇を尻目に、ギリギリと力を込めて…込めて……。

 

「そこまで!」

 

曹操様に止められた。

何時の間に来てたんですか。

 

「春蘭、それに呂羽。相変わらずいい試合だったわ」

 

「ありがとうございますっ!」

 

パッと起立して喜ぶ夏候惇。

その忠犬ぶりが素晴らしいね。

 

ふと見ると、同じくいつの間にか来てた于禁が北郷君を膝枕してる。

甲斐甲斐しくアプローチを掛ける姿、眼福なり。

 

いやー……。

見るのはいいが、されるのは戸惑うよね。

先日の韓忠を思い出した。

 

北郷君、凄いね。

 

「呂羽」

 

なんでしょう。

 

「ちょっと話があるの。ついて来なさい」

 

そう言って、返事も待たずに踵を返す曹操様。

夏候惇も続く。

 

厳しい表情じゃなかったから、そんなに悪い話じゃないと思うんだが。

でも此処じゃダメな理由があるんだよな。

なんだろうか。

 

そういえば今日は韓忠が来なかったな。

先日以来、隙を窺う姿勢を隠しもしないアイツの姿が散見されている。

余りにも狙われてる気がしたもんで、気を張り続けていたのだが。

 

いや、もう弟子とか否定する気はないよ。

今までも普通に稽古をつけて来たし、技を教えたり指導したりもしていた。

飲み込みが良いから、ついつい続けて今に至るんだ。

 

凪と違って放出系が強くないから、別の角度からメニューを考えてやるべきか。

鉈の扱いは極限流にないが、アイツに合った格闘術に進化させてやるのも良いだろう。

 

そんなことを考えながら、曹操様たちについて行った。

 

 

 




時間がありませんので、感想返しは後日とさせて頂きます。
また、明日の更新は厳しいかも知れません。

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